正義を語るうえで避けては通れぬ議題として『悪とは何か?』というものがある。
“悪”という不確定な概念は、物語において極めて重要な働きを持つ。主人公に敵対してその貫通行動を阻害する障害こそが悪の存在意義であるが、だからこそストーリーの面白さを左右する重大で魅力的な役割をも彼らは担っている。悪は正義と同じく、ヒューマニズムを顕現させる一側面なのである。
なかでも“小悪党”は人の心の弱さ、醜さ、卑劣さを象徴し、彼の犠牲の上で、主人公と悪の対立軸で導く行動と思想の偉大さは美しく花開かせてきた。
Aperture Science社が自社研究施設に設置した研究所管理AIとそのAIが制御する装置群の名称。GlaDOSの正式名称は『Genetic Lifeform and Disk Operating System』で、
同研究施設内に保持されている生命体、つまり人間を使った各種パズル的な実験の管理者としてそれらのデータ収集を主な役割とし、施設内に監禁されている主人公に対してもAIらしい無慈悲な女性アナウンスを使ってナビゲートをおこない実験への参加を強制してくる。
研究所内にチェンバーと呼ばれるパズルめいたステージを設計することができ、管理プログラムを中心に「善意」「怒り」などの複数の人格AIを併用した集合体である。
厳密にはそれはキャラクターではないわけだが、本作をプレイした者が最も魅力溢れるキャラを問われた時の十中八九でGlaDOSを挙げる。
それは彼女の冷静な台詞に時折見るユーモア、主人公をモルモット以下に捉える適度に狂った残忍さ、なぜかやたらとケーキで釣ろうとする母性、時々致命的なトラブルを踏むドジっ子などの多面的な魅力と、
主人公と相対そして敵対する関係の中で本作で主人公に関わってくれる存在が彼女しかいないこと。GlaDOSという悪から導き出される感情、これは“萌え”なのか……。
見滝原市に出現した、一見するとマスコットのような不思議な生物。愛らしい声で喋り、人間の思考をテレパシーとして送受信と中継ができる。
また、魔法少女となって魔女と戦うという“契約”を結ぶことで、ソウルジェムという宝石を作って願いを1つかなえる奇跡を発現する能力を持ち、同作でも数名の少女と契約を交して彼女らを魔法少女化してきた。
魔法少女モノのお約束として登場し、同作が魔法少女モノから大きく乖離することになった主な原因とされている。
宇宙のエントロピー増大を防ぐため、効率的なエネルギー回収方法として“少女の希望が絶望に変わる時の相転移”に着目、少女を魔法少女にし、戦いの果てに絶望して魔女へ堕ちてもらうことが本来の目的である。
このことについて、キュゥべえ自体には悪意や害意はなく、単に“家畜に餌を与えて収穫している”ような共存共栄の関係として人間と接しているつもりらしいが、自身の命や個体への価値観が違うために理解されない。
中でも素養の高い主人公に特に積極的に契約するようアプローチするため、視聴者からは“悪辣な営業マン”のイメージで捉えられる傾向にあり、壮大な商材を扱うわりに彼に関する悪評の多くにはそれとない小者臭さが漂っている。
宇宙から来たトランスフォーマーの1人。宇宙制覇を狙うデストロン軍団のNo.2、指導者メガトロンの片腕として控える航空参謀。
トランスフォーマーの特性として彼もF-15ジェット戦闘機に変形する能力を持つ。航空参謀の役職どおり、デストロン軍団の主力航空戦力『ジェットロン部隊』を率いる。
加えて兵器技術の専門家だった知識を活かし、軍用車を改造したトランスフォーマー『コンバットロン部隊』の開発にも成功している。
元々は科学者だったが、戦争のスリルを好んで武闘派だったデストロンに加わるという経緯どおり、軍団内でも随一の野心家。ことあるごとに指導者であるメガトロンに反旗を翻し、
自らがデストロンのニューリーダーに成り代わろうと企む。その一方で自尊心の高さと、自分の利益ばかりを求める利己主義、卑屈な性格と部下への責任転換などから軍内では部下の信頼すら低い。
彼のそうした一挙手一投足と失態ぶり、それに対するメガトロンの「この愚か者め」に代表される毎度お馴染みといった夫婦漫才ぶりは、本作に登場するトランスフォーマーたちがただの無味乾燥なロボットではなく
“超生命体”であるという、本作品の根底のテーマを見事に小悪党の形で表現しているのだ。
死神のノート『デスノート』を拾った青年、そのノートの力を使って犯罪者を裁き正義と秩序の新世界をもたらす存在“キラ”として暗躍。
不可解な連続殺人事件の解明に乗り出した謎の探偵Lや、その後継者であるニア、メロなどと対峙し、様々な策謀を巡らせる。
眉目秀麗、頭脳明晰、スポーツも得意という完璧な優等生で、女性の扱いを含めて交渉術全般にも長ける。名前を記した人物を殺すデスノートの力とルールを駆使し、犯罪者の裁きを進め、
キラとしての疑惑がかかるたびに策略を巡らせて撹乱、追求を逃れた。
一見すると完璧な人格者風の彼だが、退屈な世の中を変えたいという気持ちだけで大量虐殺に臨む倫理意識の希薄さ、自分が正義にして神と標榜する強い独善性と選民意識、
探偵Lの挑戦を真っ向から返さずにはいられない幼稚な自己顕示欲と、思い通りにならない時に怒りを露わにする自己中心的な価値観が、その内面では錯綜する。
特に作品終盤の彼のドヤ顔とそこからの転落は、週刊少年ジャンプ史上類を見ない重力加速度を記録、主人公&犯罪者&クールのイメージでファンを掴んだ彼の実績に勝るとも劣らない
残念イケメンを定着させ、偉大な功労として今日にも伝えられている。
稲羽署に勤務する若い刑事で、町で発生する連続殺人捜査に参加するも捜査は進展せず、うっかり者のお調子者として時折、主人公の前に現れては事件情報を漏らしたりする
悪癖を持っていて、先輩の古参刑事に怒鳴られることも多い。キャベツ料理が好きという以外に印象が薄いが、その正体は事件加担者で、連続殺人事件のうちの最初の2件に加担し、
それ以降については自ら直接は手を下さずに、他の容疑者を誘導したり、主人公への誤情報を与えながら、事件がより一層“面白くなる”ように引っ掻き回す黒幕として暗躍していた。
ペルソナ『マガツイザナギ』と、拳銃、テレビ落とし、そして署内きっての頭脳派と称する狡猾さが武器。しかし実際には、慌てるとボロが出る、すぐキレやすい、
後先考えず行き当たりばったりなど、頭脳派というには短絡的なやり口とミスが目立ち、事件の動機も、ちょっと腹が立ってキレただけ、以降の連続殺人も面白そうだから
やってみただけという意志薄弱さに裏打ちされた理由が並ぶ。しかし、その一部始終は現実社会への失望という視聴者の共感を得られるテーマを体現するものであり、
声優の名演とあいまって愛すべき「頭脳派(笑)」の小者として、その地位を確立している。
奇跡の魔女ベルンカステルの支配によって、嵐の六軒島に奇跡的に漂流した少女にして真実の魔女。主の命により六軒島に起こる魔女伝説殺人事件の解明に迫る探偵役の駒。
淑女然とした優雅な振る舞い、明晰な頭脳と高い論理的思考、ウィットとユーモアに富んだ会話力によって他の者から一目置かれている。
一方で、自らを知的強姦者と称し、秘匿すべき真相を一々暴き立てて、悪意ある推論により事実を歪曲し、子供の抱く夢を踏み砕くことに歓びを見出す、探偵という存在の持つ負の面を表現したような下衆(褒め言葉)である。
武器は青き真実の力を顕在化させた大鎌、そして正確な観察情報や現場検証や証言聴取を強制実行できる探偵権限。
六軒島事件の貧相な正体を暴いて主に勝利をささげるべく奔走、その結果、嵐の夜に人様の屋敷の外壁に水着でよじ登り窓にガムテープを貼り、一晩隣の部屋の音に聞き耳を立て、箸に欲情、
ゴミ袋を被って女子供を殺して回る奇行が際立つ変態で、主の強い影響から酷い顔芸が頻発する。
自らが悪役であることを自負する節があり、最期まで真実の残酷なあり方というアンチテーゼを主張することで、本作のミステリーと愛のテーマを浮き彫りにすることに徹した名悪役である。
塩屋虻コロニーの奏上役を務め、同コロニーの取りまとめと、人間側との交渉を担当するバケネズミ。人語を解する者が少ないバケネズミの中で、流暢な人語を話すことができる。
知能が高く、狡猾を絵に描いた性格。軍事手腕と政治手腕、外交手腕とすべてに長け、自分のコロニーの発展と、バケネズミという種族自体の地位向上のために抜本的な改革を施す革命家である。
主人公らとは子供の頃から大人時代まで様々な部分で接点を持ち、人間とバケネズミを描く本作では“バケネズミ側の主人公”と称することもできる存在である。
政治、外交、軍事の各分野で優れた手腕を持ち、内政改革と銃や兵器開発に力を注ぐことで台頭、切札を入手した後は人間に反旗を翻すにまで至る。
一方で元支配者であった女王を拘束しロボトミー化したり、自爆のための生物兵器を開発するなど、勝利のためにどんな非道な政策、軍略も実行する現実主義的な革命指導者で、
主人公ら人間に壊滅的な危機をもたらす。革命失敗後も最期まで自身のあり方を貫く様子は多くの読者に謎の共感を与え、処刑後に主人公が独白で和解するシーンはある種の感動を
与えるあたり、この顔にしてこれまでに類のない小悪党のあり方を示した人物である。
米国CIA中米支局長。スキンヘッドの後頭部にコヨーテの刺青を刺している独特のファッションセンスを持つ人物。
元々は本国のCIA中央のエリートであったが米ソ間のデタント外交の煽りを受けて左遷された。改めて自信の中央への返り咲きを目論み、“AIによる完全に自動化された核抑止による平和”という
コンセプトの下で、ピースウォーカーに代表される核武装を想定した各種AI兵器の開発、ならびに『平和歩行計画』を立案し、コスタリカを中心とした中南米に、
彼の言うところの人類最後の核攻撃を実行しようと計画していた。
ピースウォーカーの自動報復を証明するためだけに核攻撃を実行し、さらには核の冬で農作物を壊滅させたうえで農業従事者を人足に雇用するなど悪辣にして冷徹な野心家であるが、
一方で拳銃を突きつけられただけで命乞いをする程度には小者で、特にヒロインを凌辱したらしい情報から多くのプレイヤーから容貌を含めて毛嫌いされている。
最終的に“制御された自動報復下では人類は核を使用できない”とする彼の構想は裏切られ核抑止が幻想と明らかになるわけだが、本作の核抑止のテーマにアンチテーゼを身を張って
主張し続けたのは彼だけであることを忘れてはならないだろう。
碧空高校の校長を務める老人。作中では主人公の容貌に関する誤解が引き金となるケースが多い中、最大級の誤解者と目される人物。
成績優秀で性格良好という主人公の転入を受け入れるも、初対面からその主人公の鬼気迫る容貌に錯乱状態になり、以後は主人公を大悪人の悪魔であると決めつけ、
何かと策を弄しては彼を退学に追い込もうと目論む。その軽挙妄動ぶりについてはたびたび傍らにいる担任教員に突っ込まれるが、そこは年長者の威厳をたたえて
若さゆえの思慮不足を諭して否定し、事態の悪化を確実なものとする。
主人公につっかかる他の悪役と異なり、この人物は徹底して黒幕を貫き、自らが主人公の前に立つことなく策略をもって事に当たる(当人の言では直接見ただけで心臓が止まるため)。
特に教育委員会にかけあって派遣させた『影の七人』と呼ばれる不良更生のエキスパートを重用するが、基本的に派遣されたエージェントのやりたいようにやらせるだけで、
自分から何かをけしかけることは少なく、校長にまで上り詰めた世渡り上手な老獪さが見て取れる。学び舎の平和と秩序を守る聖職者たらんため、ありもしない悪魔に突っかかるその
様子は、さながら現代のドンキホーテと呼ぶべきか。
風華学園中等部の3年生(3-G組)、普段は猫かぶりの女子中学生を演じつつ、夜な夜な都心の街角に立って男を誘惑しては、力を使って金銭を巻き上げる不良少女。
主人公たちと同じく超常能力を覚醒した『HiME』の1人だが、他のHiMEのようにその能力を学園内に出現するオーファンという怪物の迎撃に役立てることを良しとせず、
チームに所属せず刹那的な欲望で能力をふるう危険人物。誠実な主人公とは当初から性格が合わず敵対することが多いが、野生児っぽい主人公の相棒とはウマが合うらしく友人と認めている節がある。
能力は爪とワイヤー、蜘蛛型のチャイルド『ジュリア』、そしてメールの早打ちが特技。
幼少の頃に強盗に逢い、意識不明の母が残され、世間から冷淡な扱いを受け続けた経緯から人間不信で、ワイヤー拘束も含め振る舞いが物語を引っ掻き回す憎まれ役。
後半のバトルロイヤルで片目を負傷して以降、傷つけた相手への報復に身を投じ、なぜか結果的に圧倒的実力差のある別のHiMEと対立、2回の交戦で無様に敗退を繰り返し、
唯一の肉親である母すら失い再起不能となる。哀れな顛末と、作中で奔放に生き(かつマゾヒズムを刺激される)唯一の人物とのギャップが大いに評価される。