獣魔術の歴史U Chronicle of Beast Magic


 魔術体系の開発、それは魔術師であれば誰もが志すであろう究極の分野である。最初にその世界の創造主が、偉大な力を以って世界に秩序をもたらしたものこそが最初の魔術であると考えるなら、 魔術体系の創造とはすなわち、その奇跡に倣い、世界の内に自ら新たな創造者としての秩序を加えるという神聖にして、倫理観によっては禁忌とされる領域である。
 本項では、漫画『3×3EYES』に登場した大魔術師ベナレスが生み出した魔術体系『獣魔術』の構造をから、如何なる背景性と意図が魔術開発に関わってきたのかを考察する。

※本書は、原作『3×3EYES』の40冊の文献と、筆者独自の考察から書かれています
※獣魔術のご利用には、精の用法用量を守って正しくお使いください

各魔術の検証@

 獣魔術はその術式の特性から、行使する獣魔によってその効能が異なるように設計されている。現存するそのほとんどの獣魔の開発は大魔術師ベナレス様の手によっておこなわれており、それは即ち彼自身の魔術に求める方向性、役割などがこの開発された獣魔の仕様から明らかになると考えられる。 そうした観点から、ここでは各獣魔がもつ特性を分析、検証するものである。なお、本項で検証されていく獣魔術の並び方は作中登場順に準拠する(当ページでは1〜14巻)。

・土爪(トウチャオ)

 1巻から登場。最初に出た獣魔術。黄さんの背中や金庫を引き裂くに始まり、主人公が秘術商人から得た魔獣の卵から修得して後は終盤まで活躍しつづけた。三本の巨大爪を背中に引きずって保護色のまま走る獣魔で、その爪によって通過した対象をずたずたに切り裂く。 初心者向けで、一説では“下等獣魔”。手を地面にかざして発現させるのが通常手順だが、熟練した術者なら手と言わず足と言わず召喚し、効果範囲や破壊力もピンポイントにコントロール可能。 使い勝手の良い獣魔の1つだが、速度と射程距に関しては心許なく、そのために走行中に豪腕で叩き潰されたり、氷漬けにされたり、石化光線を浴びせられたり、火幻術や城の松明で燃やされたりと比較的対処されやすい獣魔術業界の一服の清涼剤である。

・火爪(ホウオチャオ)

 5巻から登場。恐らく獣魔術。呪鬼軍に所属するの名前もない雑魚の牛人間みたいな妖魔が使用していた、本作2匹目として目撃された獣魔術。読者の誰も覚えてないだろうが……。 命中地点で爆発するために何が爪なのかも分からないというあらゆる意味で謎めいた獣魔。 どう考えてもたいしたことない雑魚と思われる牛人間が使える程度なので、獣魔術でもかなり精の消費が押さえられているとみて良いだろう。実際、作中では威力において土爪にも劣ることを証明している。 その牛が使っていた時以外には登場していない。火爪が初心者向けなので中盤以降相手が強くなってきて使うような奴がいなかったのか、それとも実は術の開発にも余年が無い知性派の牛人間が新しく開発した獣魔術の1つなのかもしれない。

・光牙(コアンヤア)

 5巻から登場。最初期はベナレス様が撃っていた光術系の獣魔術。後に秘術商人が入手したヒマラヤ山中の獣魔の卵から主人公も修得し、以降は主人公の獣魔術でも土爪と並んで主力として用いられている。 ベナレス様が三只眼一族と相対した際に、彼らが用いていた光術から学びとって開発したものと思われる。破壊衝撃と熱量を伴った光の龍を放つもので、通過線上の対象をそのまま貫く。光である性質から、鏡や水、埃の多い地域、光術系を反射する鏡蟲などの獣魔で減衰したり反射される性質をもつ模様。 本来はまっすぐ一直線のみの射程であったが、術者がコントロールする技術を身に付けることで途中で屈折させたり、曲線にしたり、拡散させたり、複数発射するなども可能であることが確認されている。

・鏡蟲(チンクウ)

 5巻から登場。土爪同様に、初期の主人公が秘術商人から融通してもらった獣魔の1つ。光輝く円盤状の甲羅を持つ蟲。自らの戦力不足に思い悩む主人公が、修得するものをまったく選んでなかったことを象徴するように、光術を反射する働きしか持たない。 開発者のベナレス様がいかに光術嫌いだったかの傍証でもあろう。光牙の回避技術を持たなかった主人公が当初は光術に対して用いたが、師匠から「光牙くらいかわしかわされが基本じゃ」と叱責を受けて以降は使わなくなってしまう。 このことに鏡蟲は存在意義の喪失を恐れてか、後に糸を吐き出す謎の追加能力を得て、ワイヤーや拘束具として用いられるようになり、結果的にガントレット型のワイヤーアンカーの出番を半分喰う形になった。

・縛妖蜘蛛(フーヤオチチウ)

 5巻から登場。“不死者を討つ力”としてベナレス様を含め多くの者が対不死者獣魔に用いた。大蜘蛛を召喚して投擲、捕縛した相手の力を奪いながら体で包み込んで繭のような形状に変化、繭の周囲に魔法陣を刻んで対象を呪的に封印する効果を持つ。 作中には何度か出てくるものの、効果を発揮したのは後にも先にもアマラの1度きり(主人公にも2度命中したが封印までの時間がかかりすぎて防がれた。また、爆炎龍の繭の封印分は回数に換算しない)。 使われた回数を考えると20%以下とかなりの命中率の悪さを誇る。ただし大蜘蛛自体はかなり頑健らしく、アマラのように一定の場所に留まって弾幕を構築するような戦術を取った場合には弱い弾幕は相殺しながら進むため、比較的命中させやすいかもしれない。

・走鱗(ツォウリン)

 8巻から登場。秘術商人が主人公に光牙と共に与えたもう1匹の獣魔術。作中おそらく最も不遇の獣魔。保護色をもつ板状の獣魔でその俊敏な体にスケートボードのように乗って用いる。開発者であるベナレス様の若い頃のセンスが冴えている。 契約の時にいきなり光牙が暴発したのに巻き込まれて、契約者の力と関係ないところで気絶している間に契約され、初回使用から4人も抱えて水上を走れなどと無理難題まで押し付けられ、挙句に馬力不足などといわれる始末。 以降はその用途が移動用と限定的なことから出番もほぼ無くなり、フェイント用にガルガに放り投げるなどゴミのような扱いを受け、挙句に主人公が呪操球で呼び出せるグライダー形状の化物や、翼になったりする假肢蟲にまで場面を喰われる。

・炸裂虫(チアリェチョン)

 10巻から登場。片手に収まる程度の丸い形状で、投擲物として用いる獣魔術。その形状が手榴弾に似ているように、命中したポイントの一定周囲に小規模の爆発と閃光を放つ効果。パールバティー3世の不死者エル・マドゥライが大好きだったらしく、この獣魔を多用していることが報告されている。 その性質とコンパクトさを鑑みるに、精の消費量が少なく牽制のために用いていたものと思われる。しかし圧倒的な威力の少なさから雑魚兵士を吹き飛ばす程度の成果しかあげておらず、マドゥライ以外のにこの獣魔の使用者は見られない。 同氏の不死者としての力量の底とかそういった大事なものが知れてしまう端緒であるとする見方が強い(スカニヤー氏の言うように“まぬけた无”であった可能性も高い)。

・雷蛇(レイシオ)

 10巻から登場。特に旧鬼眼王に従う不死者ガネーシャが用いていたが、終盤になったところで思い出したようにベナレス様も、反射される光牙の代用品としてこの雷蛇を用いるようになった。指先から蛇のような形をした稲妻を放つことで、通過線上の対象を貫き電撃を浴びせる。 光牙に比べると、対象の四肢を吹き飛ばすなどの絶大な効果は得られないものの、命中した対象を麻痺させられたり、搭乗物である妖魔に命中させることでその搭乗員全員を感電に巻き込むなどといった、電撃らしい副次的な要素がある点が特徴。 光牙に比べて攻撃速度が遅い分、蛇行させるような軌道制御が用意であること、また光術に分類されないために鏡蟲などの光術反射効果を持つ獣魔術によって防御されない点が嬉しい。

・火礫甲虫(ホウリィチィアチョン)

 10巻から登場。旧鬼眼王に従う不死者ガネーシャのみが用いた非常に珍しい獣魔術。体から全周囲に対して火を纏った蟲達を無数に放つことで、広範に渡って攻撃するという効果を持っている。広い攻撃範囲に加えて貫通性が高く、対軍用としてはかなりの性能と威力を誇っている。 当時の三只眼世界の支配者である旧鬼眼王の権威と、その側近としての実力を迫力ある映像でお届けする形で反乱勢力の反攻の出鼻をくじいた。 しかしその見た目の派手さに対して、実際にこの獣魔によって殺されているのは騎獣と赤谷の長老だけ。誰だよ赤谷の長老。おそらく攻撃対象を選択することはできずにとりあえずばら撒くといったものと推測されるため“1対軍”という希少な戦局でなければあまり高い効果は望めない。

・火猿猴爪(ホウユァンホウチャオ)

 10巻から登場。ガネーシャと化蛇が好んで用いている獣魔。爪先に強力な炎を一定時間だけ付与し、爪に触れた者を全て引き裂くという近距離格戦用の獣魔術。 格闘戦用というあまり類を見ない獣魔術だが、威力的にはかなり高いものらしく、非力な者が装甲を貫くためのパワーを補う形でも利用できる。 ガネーシャは持ち前の俊敏さと格闘能力、そして肉体を自分の手で引き裂くという残忍な手口から、娯楽の一環としてこの獣魔術を好んで処刑用に用いているようである。 格闘能力の高いベナレス様も使えるようであるが、元々の力が強いためにあまり使っていないようである。術者自身の格闘技術が必要となるためか、化蛇の火猿猴爪は一度として命中しておらず、脅迫以上の効果は発揮されていない。

・地精集気蟲(テイチンチィチィチョン)

 11巻から登場。一抱えある大きな蜘蛛の形をしており、取り付いた相手に対して大地の精を注入して、術を使うだけの精神力を回復させる作用を持った獣魔術。相手の肉体の負傷を治癒させる忌息とは性質が異なる。 後日、精不足で困っていたベナレス様の背中に張り付いて、その精を補っていた謎のトンボ型獣魔とは性質的にかなり似ているようだが、形状についてはそれなりに異なっているため、亜種かリニューアル版である可能性が高い。 どうして似たような効果を持つ獣魔を新しく作っているのか理由は不明。この地精集気蟲が妖魔に対しては効果がないという可能性もあるにはあるが、これまでの獣魔術開発の経緯からすればベナレス様が自分に効力のない術を開発している可能性は極めて低いだろう。

・四天聖精奉還(スティエンシォンチンフォンホァン)

 11巻から登場。ベナレス様が復活後に新開発した獣魔術の1つ。自慢のため主人公らの前に挨拶がてら現れ一芸披露した。4匹の獣魔を呼び出して、光術や魔現封神といったエネルギー作用の働く一切の呪的影響を無効化する三角錐の結界を張る。 ど派手な登場で主人公達ならびに読者への印象付けに大成功したのだが、実際にこの獣魔術の効力が成功したのは初回と、化蛇が使った計2回のみ。結界を形成する獣魔自体が脆弱で、呪縛蛇といった下級呪文や乱れ撃った獣魔の体当たり程度の物理攻撃で簡単にこの結界は解除可能。 ベナレス様の手に握られていた主人公の命も何気にヒロインの“手加減せずに吹き飛ばしてくれる光術”から救うといういかした活躍も残している(おそらく劇中最大級の危機だった)。

・???

 14巻から登場。卵守の一族にして“聖櫃ドロボー”、サルラーマ・グルミットが契約している、左手に寄生している獣魔術。伸縮自在の棒のような形状で、棒先は頭部と思われる鉤状になっている。 獣魔術の従来のような契約方法ではなく、卵の状態から術者の体に埋め込むことで共生関係を築いておくという変わった方法で修得しているが、サルラーマ自身は普通人であるため使用時の精の大量消費には追いつかず体が爛れていくらしい。 意のままに伸縮する性質とその鉤の形状からワイヤーアンカーかマジックハンドのように用いるくらいで、あまり多用はされず名前も出てこなかった。後述の憑蟲を握っていた、憑蟲を念力のようなもので呼び寄せた、といった経緯から憑蟲とワンセットなのかもしれない。

・精吸牙(チンシーヤア)

 14巻から登場。卵守の一族にして“聖櫃ドロボー”、サルラーマ・グルミットが契約している、右手に寄生している獣魔術。左手側のそれと同じく、やはり卵の状態から術者の体に埋め込む事で共生関係を築いておく方法で修得しているようである。 伸縮自在の棒のような形状で、棒先は頭部と思われる吸盤状をしている(トイレのアレである)。生命体に接触させると対象の持つ精を吸収する働きを持つ。吸収量は対象の精の総量に比例するだけで制限はないが、術者自身が吸収しきれない過剰な精が流れ込むことがある。 精不足に難儀するベナレス様すらこの獣魔を使用していないこと、義手義足になる獣魔を多く保有する傾向がグルミット家にあったことから推測するに、おそらくグルミット家のオリジナル。

・憑蟲(ピンクウ)

 14巻から登場。卵守の一族にして“聖櫃ドロボー”、サルラーマ・グルミットが所有する獣魔術。片手に収まる程度の半透明なボール状の形をしている。グルミット家の秘中の秘とされる逸品り、高等生物間の合身融合を媒介する能力を有する。 起動呪文で覚醒後、それから合身する者の額に埋め込み、両者の接触時に融合呪文を唱えることで機能。融合呪文を唱える前なら「サウラ・マイア」という呪文で分離も可能。 術者の死によって合身した両者がどうなるか不明、合身後の意識は『クシャスタリ×カルキ』という次元が違う両者のカップリングだと強い側しか残らない可能性が高いなど問題が多い。 ベナレス様は似たような効力を持つ穿靈菱を所持しているので、おそらくグルミット家のオリジナル。