魔法の実践理論 Logic of MagusT


 『魔法』という言葉とイメージこそ周知されているものの、実際に魔法とはどのような力がどう作用したものであるのかについては諸説が存在しているのが現状である。 なぜなら魔法とは世界の存在性と別ちがたい関係にあり、世界によってどのような法則下にあるかで、魔法の作用と理論は異なるためである。 本書では魔法の持つ理論と作用の傾向についてどのような系統が存在するかを幾多の事例に基づいて分析していくものである。

※本書は魔法が必ず機能することを保証しません。世界や時代が違えば方法論もおのずと異なるでしょう。
※本書どおりにやった場合の損失、壁にめりこんだ、厨二病発症などに関し筆者は責任を負いません。

魔法の力源

 魔法の多くは現実に対して、物理法則とは異なる形で何らかの不可思議な作用を発生させる。よって魔法の発現に力場となるための、通常の方法では観測されない物質とその運動があるものと考えられる傾向が強い。 ここでは、様々な世界における魔法の力場とその作用の理論、ならびにその事例を挙げながら、各々の特性について分析をおこなっていく。

・マナ理論 (第一質量理論)

 あらゆる物質と運動の根源である唯一の質量が存在し、それが従来の物理学で用いられる原子に挿げ代わるように、世界万物を形作って運動しているとする理論。 学派により『第一質料』『オーラ』『気(フォース)』『バイオプラズマ』など様々な学説や呼び方があるが、昨今では「マナ」と呼ぶケースが多い。以下、この物質は便宜的にマナと記述する。
 マナは世界にあるあらゆる物の構成要素である。よってマナの構成と運動量を思うままに操る事が出来れば、様々な結果を世界にもたらす事ができるということになる。 そしてその操作は術者の精神力や意思力の影響を受けるというきわめて特異な性質をもつ(この影響の波動を「魔力」と呼ぶような場合もあるが、魔法の実体化それ自体はマナの作用であると考えたほうが理論的には整合性が取れる)。 例えば、火球の魔法を行使している間は、術者の脳裏には“火球が飛んでいく”というイメージでいっぱいになり、その精神集中がマナの運動に作用、世界に影響として現れるわけである。 術者の心の力による制御であることから、意識の座標に影響を受けやすく、同過程から同結果が生まれるとは限らないものとなってしまう。よって術者は自分に対してある種の暗示をかける為に詠唱呪文や呪具や動作を用意するケースが多い。

・エレメント理論 (四元素理論)

 世界を構成しているという物質が上述のような単一のマナからではなく、地、水、火、風の4種類の『エレメント』に挿げ替わった理論である。あるいは“マナにエレメントを加えて、それを行使する”というマナ理論との複合によるプロセスを提示する世界も存在する。 なお、エレメントの種類が上記の4種類ではなく5種類(木+火+土+金+水)や、6種類(地+水+火+風+光+闇)などのように加減している場合などもあるが、本書では便宜上、四大元素を例として以下に説明をおこなっていく。 エレメントの理論では世界の全物質はこれらエレメントの配分によって構成されると考えられており、物質や魔法の多様性に対する法則性が存在することを提示している。 加えて、単一のエレメントの生命体である『ノーム(地の精霊)』『ウンディーネ(水の精霊)』『サラマンダー(火の精霊)』『シルフ(風の精霊)』などがいると考えられることも多く、こうした精霊の存在とも併せて適用されることが多い点もエレメント理論の特徴である。
 エレメント理論は、エレメント同士の優劣関係をともなうことも多い(これは陰陽術の述べる五行相克、五行相生の着想が応用されている)。 エレメント同士の優劣関係には大別して2種類の系統があり、“火⇔水、地⇔風”とする2つの対立軸となっているものと、“地⇒水⇒火⇒風⇒地”とエレメント同士の優劣関係を1巡させたものとが存在する。 また、エレメント理論を適用した魔法系統の中には2種類以上の属性を複合させることを前提とした技術の存在も確認されている。

・物理複合理論

 これまでの理論はすべて“科学とは別体系の法則”として成立している。つまりは科学でおこなえない別個の法則として魔法という分野が発展したという考え方に基づくということである。逆に、この理論ではあくまで世界観として物理法則が支配するものという前提にある。 この理論下では「科学」と「魔法」という2種類は、1種類の法則に対して異なるアプローチをおこなったものという形で解釈されている。世界は分子や原子とその運動エネルギーから構築され、魔法もまた科学と同様、これを精神力によって制御し操作する技術体系とされている。 よって魔法の発現もいわゆる物理法則のルールに基づき動く。例えば火球の魔法は原子を球状に加速させて熱量を発生するなどの方法で実行されているのである。
 この理論はこれまでの理論に比して強いメリットを持っている。それは魔法の体系を科学に組み込んだ、独自の技術体系を確立できる点にある。元々魔法を使用するために特別な素養や先天的特性を要する傾向が強いが、この理論に基づけば、科学的手法を応用することで“誰でも魔法使用できる”ようになるための体系を確立できるようになる。
1つは『儀式』である。儀式とは魔法を発現させるためのプロセスや手順を固定化させるという手法であり、魔法の威力や発現するための精度を高めるための方法論である。魔法にはすでに儀式的手順が存在するが、物理性質に確定するこの理論下では特に有効になる。 もう1つには『魔導機械』がある。この技術に関する名称は様々であるが、ここでは便宜的に魔導機械と呼称する。魔法の実行を機械仕掛けの仕組みによって代行し、魔法をより汎用的な利用方法まで昇華したものである。魔導機械を開発できる世界では魔法技術の恩恵が一般生活へ普及する一方、兵器転用もされていることが多い。

・多世界解釈理論

 様々な因子と選択によって分裂並存しているという無数の可能性世界から、任意の世界の可能性を導き出して現実化するのがこの理論である。 物理運動は逆二乗の法則に従って、力の中心から遠ざかれば遠ざかるほどその力は弱まるものであるが、この理論下では魔法がもつ距離や時間の制約を受けずに影響を及ぼすことができるという現象についての解決を見る。 一説では人間の思考や意識の中には距離ならびに時間という概念が存在しないことから、熟達した者の精神集中といった特異な認識行為こそが魔法の根源的な技法ではないかといわれている。魔眼の能力はその代表といえるだろう。
 フランスの神秘主義者フレティーニによれば、物質の人生とは一本の複雑に曲がった曲線で、人の意識はこの線上を片側(誕生)よりもう片側(死)へと向かっていると考えられている。そしてあらゆる物質は時間の中で曲線を描き、光は直線を描いているとしている。 この線は互いに他の線と交わっており、時間全体を見る事ができるならそれは宇宙の中心から広がる蜘蛛の巣状であるらしい。 この理論では、世界線とよばれるこの蜘蛛糸を媒介として術者の魔法の作用を伝播させ、並行している世界から術者の望む可能性を現実世界へと導き出すものである。例えば火球を飛ばす魔法を発現させる場合、どこかの時間のどこかの世界で作られた、または作られるかもしれない火球の可能性を、自分の手元に映しこむという手順を踏む。 魔法対象との物理的あるいは時間的距離が遠いとしてもこの蜘蛛糸を伝播して即座に伝達することができる点から、予知や瞬間転移や呪詛や不死の秘法、魔力探査や永久に効力を残存する魔法の武器など、時間や空間に関する干渉をおこなうような効果において特に強い影響力を持つのが、この多世界解釈理論における特徴といえるだろう。