『魔法』という言葉とイメージこそ周知されているものの、実際に魔法とはどのような力がどう作用したものであるのかについては諸説が存在しているのが現状である。
なぜなら魔法とは世界の存在性と別ちがたい関係にあり、世界によってどのような法則下にあるかで、魔法の作用と理論は異なるためである。
本書では魔法の持つ理論と作用の傾向についてどのような系統が存在するかを幾多の事例に基づいて分析していくものである。
魔法の発生プロセスには多様な形態が存在する。呪文詠唱、印をきるなど一定動作、結界を描いたり、札を描くなどの記述発生、前述のような一定順序の儀式や魔導機械によるものなどもある。 ここでは、魔法を発生させるうえで必要となる理論や技法にどのようなパターンがあり、それぞれがどのような性質を持つかについて列挙していくものである。
術者が意識(魔力)を集中することで魔法を発生させるパターン。その魔法の力源がマナであるにせよエレメントであるにせよ、多くの魔法は術者の強い精神力によって魔法という力場を発生させることができるとされている。 集中パターンから魔法を使う場合、重視されるのは術者自身の『意識許容量(キャパシティ)』とされることが多い。意識許容量とは何なのかについては諸説があるが大別して、雑多な外部情報を遮断する集中力の深さ、魔法行使に必要なイメージの精密さ、自己意識を統御する自我の強さなどが挙げられる。 筆者はこの3軸による立体性をもった評価であると考える。
ある種の物質を触媒とした魔法発生のパターンである。魔法使いの杖などの俗に“発動体”と呼ばれる種類の呪具もあれば、儀式などで魔力を安定して伝達するためのいくつかの物質(例えばそれは相手の髪の毛とか生贄とか)などが挙げられる。
触媒を用いるこの手法は、物質が魔法の力(マナやエレメントや世界線など)と結びついているという法則を応用したパターンである。複数の触媒を使用する魔法の場合、各触媒にはその目的に応じていくつかのタイプが存在する。
・A:魔法力(マナや元素)を移動させる際に不純物の介入を見張り、止めるための物質
・B:魔法の成否に伴うバックファイアや副作用を抑えるための物質
・C:魔法力の移動(すなわち魔法の発現)を安定して行うための物質
・D:使用できる魔法力そのものを増やすための物質
意識の影響範囲が距離によって限定されているという仮説に基づけば、対象との距離が近ければ近いほど自分の意識が安定して対象に流れる状態ということになる。 視界範囲に限定するような魔法や、直接触れなければかからない魔法などが代表的。他にも自己を対象に限定した魔法なども、こうした距離パターン理論に基づく応用結果であると考えられる。
魔法を発生させる最も一般的な手法の1つが、詠唱パターンである。本論で述べる詠唱パターンには呪文などの他にも、歌唱や音楽演奏など音響関連の手法は全てこのパターンに含むものである。 詠唱パターンの基盤にある理論にはいくつかあり、“魔法の相(アスペクト)を自然界に派生させるうえで、音声という情報は意識の具象化に適している”とするケースと、“術者の意識を集中させ、脳内に具体化するための手段”とするケースがある。 概ね前者で用いるなら特定の詠唱が必要だが、後者として用いるのであれば訓練さえ積めばどのような呪文を創作してもかまわないことになる。
図形パターンは特定の図形を描くことによって魔法を発現させるという手法である。様々な魔法陣やルーン文字、特別な文字を記した呪符などがこの図形パターンによる魔法の代表例といえるだろう。
図形パターンを用いる目的には“刻んでいる図形そのものが力を持っている”場合と、“刻んでいる図形によってマナやエレメント等のエネルギー循環”場合とがある。
前者は術謝以外に特別な図形という形によって魔法の効果を増幅する意義を持つ一方で、後者においては魔法のともすれば暴走しかねない作用を制御、固定化し安定させる狙いが強く、同じ図形パターンでも性格は大きく異なる。
以下には代表的な図形パターンの手法である“魔法陣”の分類や、その図形の持つ意義と性質についての解説をおこなう。
・A:真円形…円形は調律と安定をもたらすもので、円形内の魔法の力場循環を安定させる
・B:三角形…秩序の最小単位である3要素を意味し、上向きの角により最も能動的な力を発揮する
・C:四角形…4つの角は世界の方位を示し、構成する直線は物的な硬質性をもたらす
・D:五芒星…最多素数の5つの星角や、黄金比を内包するきわめて高い創造性を持つ。上下かで性質が大きく異なる
・E:六芒星…最小にして最多の素数を含む6つの星角、上下2種の三角形で最も安定した力場を構築する
発現させる魔法と類似した行動や状況を構築することで魔法力の影響を安定させるのが擬似パターンである。特に精霊信仰の深い民族集団における重要な儀式祭典には、擬似パターンを採用した魔法を採用しているケースが多く見られる。 例えば日本では厄払い魔法の節分(鬼に模倣した者を祭司の手により追い払う一連の儀式)や、アフリカでも仮面をつけた邪悪な精霊役の者を良き守護霊を持つ祭司が倒すというような形式の儀式魔法が行われる。 擬似パターンは、物体と別の物体との間にある“共時性(シンクロニティ)”や“万物照応”の因果的性質を利用した手法であることから、マナやエレメントの地域的濃度、距離や時間といった外的環境の要因にとらわれない安定した魔法を発現する上で有効である。
位置パターンはある既定された位置と距離と方角、そして移動軌跡を図形を媒介にして魔法の相(アスペクト)の浸透をおこなう手法である。(他のパターンに比べて目立たないことや、文章や映像では表現しにくいことから)位置パターンを用いる魔法を採用することは稀である。 位置パターンをメインとして用いる魔法の代表例は方相学や風水学、陰陽術での四方位や五行思想などであり、具体的には呪歩、反閇、禹歩、奇門遁甲を用いた縮地、尸解などといった術者自身の移動に関するものが多い。 それ自体には汎用性のない位置パターンであるが、他パターンと併用されることは多い。魔法陣の描き方や、魔法に守護天使を用いる場合には方位が重視されるし、対象との歩数を数秘術に変換する場合もある。