アルスマグナの後継者T Successor of Ars Magna


 『王者の技(アルス・マグナ)』とは、エメラルド板に記されていた錬金術の頂点となる知識、創造主によってかつておこなわれた天地創造を再現することができる技術である。 多くの錬金術師はエメラルド板に記されていた王者の技の解読と再現に挑戦し、ある者は成功したといわれ、またほとんどの者が失敗しあるいは挫折していった。そして、その全ての者のアルスマグナへの試みは後の時代の技術を切り開く貴重な礎となっていったのである。 本書は偉大なる技に挑み、あるいは再現に成功した錬金術師とその秘蹟を紹介する。

※1作品中に数多くの錬金術師たちがいる場合、1名を代表として本書では挙げます
※いわゆる金融系に携わる“現代の錬金術”としての成功者は本書では割愛します

パラケルススの弟子 (メルクリウスプリティDC版)

「……」

 筆者が最初に遭遇した錬金術、それがPC-9801版のメルクリウスプリティであった点からまずこの人物を紹介するべきであろう(しかしPC-9801には絵がないため、紹介はドリームキャスト版の彼に準じる)。 錬金術師パラケルススの愛弟子とされる錬金術師。育成ゲームでの“育成者”にあたり名前は劇中で語られない。突然死去したパラケルススに代わって遺された生命の種を元にホムンクルスを孵化に成功。 しかし、ホムンクルス育成と関わりの強い『ヴァーチャクリスタル』の向こう側にあった幻想世界の探求に没頭した結果、自我を持ったホムンクルスに創造者を裏切らせることになり、 “人の被造物に宿った魂は邪悪になった、それは人の魂が邪悪であるがためである”という事実を立証してしまう。それがために創造主の裁きが開始され、一度は世界を滅ぼしかける。
 得意分野はホムンクルス育成のみ。とはいえ育成したホムンクルスには精霊召喚やクンスト(貴金属を生成する力)などの力があり、将来的には妖精の女王から魔神や死神、星を導くものなど多様な可能性へ成長する。 いうなれば“魔術師とは本人が強者である必要はなく、その業で最強のモノを作ればよい”という人形使いの論を地でいく人物といえる。

アウレオルス・イザード (とある魔術の禁書目録)

「弾丸は魔弾。用途は射出。数は一つで十二分」

 著名な錬金術師パラケルススの末裔、チューリッヒ学派の錬金術師。かつてはローマ正教に所属していた錬金術師で隠秘記録官の役職にあったが、現在は野に下って『禁書目録』という少女の救済法を模索している。 白スーツ姿で髪をオールバックに整えた端正な風貌。必然、蓋然、偶然、凝然といった言葉を文頭に付けて、韻を踏む喋り方を好んで用いる。
 得意技はグレゴリオ聖歌隊の技術を応用し、生徒2000名を人質とした偽聖歌隊によって半日で完成させた『黄金練成(アルス・マグナ)』。錬金術の到達点、世界の完全なシミュレーションを頭の中に構築するだけで脳内で描かれた事象を現実に転写する強力な秘蹟。 アウレオルスはイメージを固定化のために、言葉を発してイメージを統一、針で首筋を打って痛覚で不安を消すなど、大仰でデリケートな制御をする。そのために秘蹟発現までのタイムラグが5秒以上ある点、発現効果が予め宣言されるため対応されやすい点、 術者の想像できない事象が発現せず、想像してしまえば勝手に発現してしまう点など術者自身の修行不足からくる欠陥も多い。主人公にもそうした欠陥につけこまれる余地を与えて、勝てないという自分の強迫観念を発現させてしまい、敗北を喫する。

シェール・ドゥグレ (WOLF'S RAIN)

「楽園と呼べるものは1つしかない…。1つしかあっちゃいけないのよ…」

 その地のドームを治めるオーカム卿の研究施設で働く女性錬金術師。貴族と呼ばれる支配階級から提供される錬金術を、電気やコンピュータなど失われた科学技術の代用に転用することを目的とした研究期間の一員である。 スーツに白衣姿のバリバリのキャリアウーマンであるが、世渡りには疎く、自分の仕事にのみ打ち込む典型的技術者タイプ。 シェールは『月の花』から錬金術によって生み出された花の少女チェザと、彼女が導くという“楽園”の研究を担当し、その分析のために貸与されたものなのか『月の書』という童話を所持する。
 得意分野は『飲酒(かなり強いらしい)』と『花の少女”の追跡』であり、そのために花の少女探知のための精度の高いレーダーと、携帯レーダーを所持している。もっぱら花の少女についての芳しくない研究を進めながら、少女の生体維持に仕事時間のほとんどを割いており、研究熱心ながらもその成果が見出せないことに苛立ちと疑念を秘めている。 あまりに仕事一途なために家庭内では夫とのすれ違いが多かったらしく、子供がいないこともあって現在は離婚中である。失敗の多い一般的な錬金術師が持つような、疲弊し磨耗した私生活ビジョンをそのまま体現した人物と言えるだろう。

ユーダイクス・トロイデ (レンタルマギカ)

「今のが奥の手なら聊か冴えぬな、ソロモンの末裔。まだ手札は遺っているか?」

 主人公が社長業を営んでいる会社の創業者メンバーの1人で元取締役(現在は一線を退き、2割の経営権保有者)。赤髪に2メートル近い魔術師らしからぬ武骨な巨体、彫りの深い顔立ちと純白のインバネスコート、傍らに自作ホムンクルスである少女を連れ歩いているのが特色。 会社資産一式を手に入れるために主人公およびその社の幹部である魔術師と対峙して、劇中の特色である『フェーデ』と呼ばれる3回戦式の魔術決闘を申し込んでくる。
 得意分野はエレメンタリーという人工精霊の作成やホムンクルス作成、五感を奪い取る邪眼、重力レンズの原理を応用し月と星の座標計算によって大量の呪力流をピンポイントに落とす『トートの槍』。そして自身も人間ではなくオートマータ(自動機械)であることによる高機動の格闘戦闘などである。 ユーダイクス自身がオートマータである自らの特性から“人間への拘束力となる”フェーデの無効化を宣言してしまうちゃちいインチキをめぐらすなど豪胆な戦略眼、自作ホムンクルスに「兄さん」呼びさせる嗜好などの特徴的な要素を備えていたが、 やや年齢が高いことと序盤以外の登場シーンがないこと、性格的に際立った部分がないことから本作品においては日陰者である。

マルローネ (マリーのアトリエ ザールブルグの錬金術師)

「たる。」

 ゲーム分野において錬金術の知名度を飛躍的に高め、以降のゲームにおける錬金術的役割やイメージを確定付けたという点でも偉大な業績を残した人物。が、当人はがさつで大雑把、そそっかしい性格からザールブルグの王立魔術学校で史上最悪の成績を残し続ける半人前の錬金術師に過ぎない。 アカデミーの成績や素行の悪さからこのままだと卒業できない彼女への救済課題として錬金術の店経営を委託され、実学を通して課題研究に勤しみ、ザールブルグ各地を渡り歩きながら冒険者まがいの依頼をこなしつつ錬金術に邁進している。
 主体となっている技術は物質合成。様々な素材を掛け合わせてさらに高位の物質へと変換する、錬金術の基礎的な技術体系をひととおり押さえており、 きわまれば「賢者の石」なども生成する。加えて攻撃魔術にも素養を持ち(アカデミーでの前提科目なのか)、素材集めの過程でそこらへんにいる野犬やモンスターはもちろんのこと、成長していくうちに歴戦の戦士や火竜といった強力な魔物すらも天衣無縫にボコボコに倒していく。 この実力の素養があってのことか、彼女はアカデミー卒業後も冒険者に身を投じ、その名声は錬金術師よりも冒険者の成果としての評価だという見方もある。

レザード・ヴァレス (ヴァルキリープロファイル)

「仲間への守護方陣を使わなければ、さらに威力を高められるのですが…」

 ナルシストでフェミニストでエゴイストだという狂気の錬金術師。かつてはフレンスブルグ魔術学院においてもトップクラスの学歴の保有者で、学院長ロレンタから目をかけられていた逸材。 しかし禁則事項に触れて追放処分。野に下るや死霊術と錬金術師の二足の草鞋をはき、ロストミスティックと呼ばれるルーン魔術のいくつかを復活させたり、賢者の石を手に入れたりといった偉業を残している。 戦乙女に熱烈偏愛中で、神族の彼女を受肉させる禁忌のホムンクルス製造に手を染め、戦乙女を呼び出すためだけに師と家族を殺すなど悪行非道を重ねる。こうしたモラル欠如に加えて性的嗜好も変態気質なことからドン引きされている残念イケメンである。
 移送方陣(テレポート)などのロストミスティック、ホムンクルス作成、賢者の石の錬成、グングニルの槍の入手、天地創造などといった様々な分野で傑出した成績を残している。『メテオスォーム』という隕石落としの大魔法を好んでよく用いる一方で、援護魔法などを唱える時はあまり気の入ったボイスではないため、派手な攻撃魔法を好む傾向があるようだ。 錬金術師としては初のラスボスの座を獲得した功績は錬金術史的にも大きいものとして高評価を受けている。

セラード・クェーツ (バッカーノ)

「そうか、貴様らが、貴様らが飲んだんだな!!」

 不老不死の研究をその他大勢の魔術師仲間とともに進め、1711年にアドウェナ・アウィス号で悪魔との集団取引に応じて不死者となった錬金術師。老人としての傲慢さと、欲望への忠実さを併せ持ち、錬金術師仲間の中でもとりわけ不老不死の知識の獲得に対して執念深い。 結果としてその知識獲得のために仲間である錬金術師12名を殺害(捕食)して失踪、後にバーンズという薬剤師を雇用して“完全な不老不死の酒”の製造に成功する。  劇中に登場する人物中では唯一、不老不死の酒の製造法について独力で到達できたという点は驚嘆に値すると言えるだろう。部下には調合師のバーンズ、人造人間のエニスという“不完全な不死”を与えた眷族を率いている。 セラード自身が不死であることに加えて、他者を“不完全な不死”にすることや、自分の知識を分け与える、あるいは捕食して知識を奪うことができるなど、アドウェナ・アウィス号にいた面子の中では自分の能力開花に対して最もそれを使いこなしている人物であると言えるだろう。 ストーリーでは終始憎まれ役であるが、とりわけ知識を求めることへの貪欲さ、それを行使することの直向な姿勢に関しては、錬金術師としての正しいあり方だったものと筆者は評したい。

ダンテ (鋼の錬金術師)

「あるいは代価が足りなかったのかしら?いつだって代価は少し足りないもの……」

 アメストリス国(当劇中でその名前が出ることはなかったが)の一地方に隠遁する、「フラメルの十字架」を掲げることを許されている卓越した錬金術師。 元々は別世界であるところのヨーロッパ地方出身の神秘主義者の1人にすぎなかったが、賢者の石の錬成に立ち会う機会を得て、崇敬する錬金術師ホーエンハイムのために賢者の石を利己的に利用、2人で不死を獲得する。 以降不仲になったのか袂を別ち、長きに渡り森深くに隠遁していた。
 隠遁生活の中でも弟子となる優れた錬金術師を数多く輩出したり、新たな賢者の石を求めてホムンクルスを作るなど、術師として。ままならない紆余曲折はあったものの主人公の1名を賢者の石にすることに成功した功績は錬金術師として大きい。 またホムンクルス生成に関しては劇中この人物のみの技術で(育成方針にはやや難があったが)、彼女はさらに“人間と同じく老化する”特性を持ったホムンクルス製造にも成功し、ホムンクルス分野の発展に寄与。 加えて『真理の扉』という異空間の研究も進めており赤ん坊を介することで代価を払わずに扉まで人を送ることに成功している。私利私欲に走りまくった研究の割に、フラメルの十字架に恥じない非常に多くの実績を残している。

ベアトリーチェ (うみねこのなく頃に)

「そうはさせませぇ〜ん!!」

 南海にある孤島『六軒島』」に封印されていたという齢1000年を生きる大魔女。肩書きには“黄金の魔女”、“無限の魔女”、“右代宮家の顧問錬金術師”など多彩に持っている。 自身の完全復活による『黄金郷』の完成のため、六軒島に残虐な殺人事件を引き起こす。しかし魔女の存在を認めない主人公のせいで復活が不完全で、主人公を論破し魔女の存在を認めさせるために不可能殺人を延々と繰り返して、主人公に屈服を要求している。
 黄金の魔女の肩書きに恥じず、容易に黄金10トン分を作る力を持つ錬金術師としての力を持つ。他にも瞬間移動や双肩の戦塔など多彩な魔法に加え、地獄の七杭、大悪魔の執事などを手下に従えている。 特に彼女がそう宣言するだけでそのとおりの事実が成立する『赤き真実』は主人公の主張を徹底的に叩きのめし、幾度にもわたって辛酸をなめさせた。 1000歳以上の割には性格は我侭で高圧的で気まぐれ、命の価値を理解できないため残虐行為を無邪気に楽しむモラル破綻者の面がある。下品な笑い方や男言葉で喜び、正論を言われるとすぐキレるほど感情面が豊か。時に肥大化する尊大さが仇となって主人公に逆転されるなど、錬金術師としては性格面に強い欠陥がある。

カルヴァドス (グリムグリモア)

「…聞きたまえ、…諸君の弔いの鐘だ」

 劇中でも最も著名とされている3名の魔術師の1人。大魔法使いガンメル・ドラスクや大魔女ルジェ・ペシェとともにあらゆる願いをかなえるという賢者の石の錬成に成功する。 その後にカルヴァドスは賢者の石の力に魅入られ、大悪魔ギムレットと契約して石を独占。王国に反旗を翻して“魔王”を僭称するも、かつての盟友2人に野望を阻まれカルヴァドス自身が封印されてしまう。 以後、亡霊として自らの居城で復活を待ち続けているようである。
カルヴァドスが錬金術師であるかは異論が残るが、作中では精霊魔法、交霊術、悪魔術、錬金術の4大系統が存在し、賢者の石はその頂点にあたる魔法と位置づけられている。 賢者の石錬成の協力者であるガンメルが精霊魔法、ルジェが交霊術に長じていることから、カルヴァドスが錬金術と悪魔術に精通していた可能性は高い。 前述のようにカルヴァドスの魔王任期は短いために彼の錬金術師として残した業績は賢者の石くらいしかないわけだが、その石の力を使ってなのか『銀の星体の塔』と呼ばれるバベル形状の螺旋塔を自らの居城として建造しており、これは彼の封印後はガンメルの魔法学校として継承され、国内の錬金術を含む魔法教育機関としての高い役割を果たしている。