戦略面での魔法V Strategic Magic


 「魔法」は偉大な力である。ケースによっては魔法技術の発達によって科学技術が進展しない(時には衰退してしまう)という事例も存在することから、魔法はそれ自体が科学に取って代わりうるだけの多様な側面を備えた文明体系として捉えることもできるだろう。
 ところが科学技術の戦争にもたらしてきた多様性に対し、魔法技術を戦力として捉える場合は単純火力として用いている場合がほとんどのようである。本書では、魔法の影響を単純火力や戦術面に限定せず、より大規模な戦略面での運用を考察し、既存の一般的ファンタジー世界では魔法がどのように戦争と結びつけ得るのかを仮定して論じてみるものである。

※本書の魔法分類には「スペルコレクション(富士見書房)」「GURPS MAGIC(富士見書房)」を参照とします
※TRPG内でこれらの運用を試みてこれらが適正に効果を発揮することは保証されません

精神操作系魔法

 魔法とその使用者が社会的に畏怖される存在となっている一因として、魔法の働きが何者かの精神にすら影響を及ぼしうるという点が挙げられる。中世における「魂(意思)の絶対性」を崩すことができる力の働きは、人間の存在性を揺るがすものとして当時の価値観への危険意識をもたらしたのである。 よって精神操作系はその使用においても他の魔法以上に十二分な注意を払わなくてはならないだろう。 とは言え、この系統の魔法が便利であることに間違いはない。スペルコレクションでは「催眠系」、GURPS MAGICでは「精神操作系」がこの精神操作系の分野に分類されている。

・スリープ(眠り)

 精神操作系のメジャーな魔法の1つ。対象者の精神に強制的に睡魔を植え付け、睡眠状態に陥らせるものである。複数対象に影響を及ぼしたり、睡魔をもたらすガスを発生させるなどバリエーションも豊富。 局地的戦術面では戦闘回避の手段として好まれて用いられているわけだが、残念なことに戦略面での影響力においての価値は攻撃性のある魔法同様、著しく低い。この魔法は対象に呪文をかけねばならず、なおかつその範囲は戦略的視野としてはさして広くはない。軍勢の一端にかけたところで後方から押し寄せる軍勢に蹴られればすぐにでも目もさめ、戦線に復帰してしまうだろう。
精神操作系の魔法全般に言えることであるが、スリープの魔法の用途は外交面における活用が占めることになる。例えば複数国家間での重要会議上において、敵国使節の代表者などにこのスリープをかけてしまえば笑いものとなるであろう。それは考えれば考えるほど喜劇的であるのだろうが、かけられる側にとって冗談に済まされないに違いない。
»参照魔法
 ・『スリープ』(D&D)
 ・『スリープクラウド』『スリープ』(ソードワールドRPG)
 ・『誘眠』『集団誘眠』『安眠』(GURPS MAGIC)

・フィアー(恐怖)

 対象の精神に恐怖心をよび起こす魔法。対象が単体であることもあって戦術的に利用されることも少ない。フィアーという魔法は実際には“対象を武装解除する”という一点で考えればスリープのほうが有効である場合が多い。
 フィアーの魔法の最適な活用方法としては外国との交渉の折、相手に高圧的に迫るときに使用することであろう。フィアーはスリープと異なって他者ならびに対象者自身ですら魔法がかけられたのが分からないのが利点である。外交の場において相手の冷静な判断力を奪い、自国の我を通しきり、また他国から見て交渉が自国の主導で進められているように見せかけるのである。 こうした異常を解除するためのリムーブフィアも併用することで、あたかも対象のそうした精神の動きが自らの意思であるかのように錯覚させることも忘れてはならない。 交渉における虚実や真偽の使い分けと同様、こうした魔法はそれとわからぬうちに効力を発揮させ、それとわからぬうちに効力を消すことが肝要である。
»参照魔法
 ・『フィアー』(D&D)
 ・『フィアー』(ソードワールドRPG)
 ・『恐怖』『パニック』『恐慌』『狂気』(GURPS MAGIC)

・チャーム(魅了)

 対象の敵意や判断力を奪い、自分を忠誠の対象や親友のごとく惑わす魔法である。古来より魔女が最も得意としている魔法だが、対象との緊張関係を多少緩和する程度のものから、隷従を強要するものまで様々な規模がある。チャームは使い方次第では相手を思うがままに操る魔法で、精神操作系でも究極の位置に属する高度な魔法とされる。
 チャームがカースなどといった強制命令する魔法に比した利点、それは対象が望んで行うということと、意識自体は残されていることにある。対象が魔法にかかった自覚性なく唯々諾々と命令をこなすために第三者からはその効果はわかりにくく、個人の意識が残ったままであるためロボットのように適宜に細かく命令を下す必要はないのである。 他の操作系魔法同様に、チャームもまた外交の公式の場において使節などに対して使用したり、また戦時に捕獲した敵将に一時的にせよこの魔法の影響下において忠誠を誓わせて、それを盾に戦後に継続した従属を誓わせることも有効だろう。
»参照魔法
 ・『チャーム・パーソン』(D&D)
 ・『チャーム』(ソードワールドRPG)
 ・『眩惑』『集団眩惑』『忠実』『魅了』『奴隷』『ささやき』『集団ささやき』(GURPS MAGIC)

・コンフュージョン(混乱)

 対象の意識に干渉して、判断能力を鈍化させる働きをもつ魔法。中には敵味方を完全に誤認してしまうもの、はては常識や理性というものが完全に欠落して狂気ともいうべき状態に陥らせるものまで様々なレベルでの働きがある。
 戦略面におけるコンフュージョンは大きな効力をもつ魔法である。外交を含めたあらゆる戦略とは時間に伴い流動的に変わる状況を逐次分析し、それに対して適切な形で関与することで大きな効力をあげる手法である。 コンフュージョンで判断力を鈍化した相手は戦略判断を失ったに等しく、何一つとして正確性を持った決断を下すことはできない。決断が二者択一なら正答率は50%となるが、これがより複雑な要素をからめる内容になれば判断を先送りにせざるをえないだろう。そしてその先送りこそが戦略における最も致命的な問題を招かせるのである。そしてこの魔法の最も恐るべき効能とは、その効力が魔法のものであると判断できず、対象の無能さとしてしか第三者には見えず、対応が難しい点である。
»参照魔法
 ・『コンフュージョン』(D&D)
 ・『コンフュージョン』(ソードワールドRPG)
 ・『間抜け』『酩酊』『眩惑』『集団眩惑』『心神喪失』『ささやき』『集団ささやき』(GURPS MAGIC)

召喚魔法

 異なる世界の住人や、影響の及ばない遠方の場所から何か大掛かりな物質や生命を転送してくる働きを持つ魔法。大概の場合は召喚魔法とは儀式魔法の一環で、様々な手順を踏んである種の陣形の内部に対象を瞬間転送する場合もあれば、あるいは遠方からテレポートによらず自力で来てもらうなどするケースも確認されている。 移送魔法の一種に過ぎないとも考えられるが、対象や場所について特定する事柄、また転送対象のレベルから従来の移送魔法とは次元が異なるため、ここに分類されている。スペルコレクション、GURPS MAGICとも「召喚系」がこの召喚魔法に分類されている。

・コールアニマル(獣寄せ)

 召喚魔法の中でも最も基礎的な魔法。術者は何らかのテレパシーの一種で大多数を対象に呼びかけ、応じたものが術者の場に向かって合流する働きを持っている。主に鳥、小動物、魚や昆虫などといった特定の動物をこの魔法の対象とすることが多い。 また、対象1匹と継続的な効果を維持して使い魔とする契約魔法もコールに分類するものとする。
 コールの魔法は戦術的にはあまり用途を見出されないマイナーな魔法であるが、召喚した一定数の動物群を制御できることは戦略的には大きなメリットへと転換ができる。 例えば森や沼地から一斉に鳥の群れを飛び立たせることで敵軍に対して伏兵の存在を誤認させたり、松明を結わえ付けた動物群で敵陣に対して逆落としをおこなうなどの活用方法、 動物との対話ができる場合は周囲に放つことで、複雑な情報は難しいが、人間を発見したら戻るように伝えるだけで、敵軍の伏兵位置や進軍方角などといったシンプルな情報を取得するためのレーダーとしての役割を担うこともできるだろう。
»参照魔法
 ・------(D&D)
 ・『サモン・スモールアニマル』『ファミリア』『サモン・サーバンツ』(ソードワールドRPG)
 ・『動物召喚』(GURPS MAGIC)

・サモンエレメンタル(精霊召喚)

 世界観で大きく異なるケースも存在するが、概ね召喚陣の中に火、水、土、風の四大精霊の中から1体の精霊を召喚する魔法。簡易に呼び出すことができるものもあれば、儀式を用いて魔法陣の中に呼び出すもの、さらには契約と呼ばれるある種の魔法的接触を予め伴わなければならないといったものまで、その形態については様々なものがある。
 大規模なサモンエレメンタルには純粋な戦力補充として利用されることがあり、ロードス島では炎の部族が魔神イフリートを戦略に組み込んで戦線を展開している事例が存在する。このように大規模な形でなくても、サモンエレメンタルで召喚される精霊はその独自の移動法で、遠隔地の情報獲得としての活用が可能である。 森の伏兵を警戒するには森や土の精霊を用いて案内させ、飛行する風の精霊を用いれば、城内の大まかな兵士の配置についても判断が可能かもしれない。勿論これらの働きは、精霊自身の理解力、判断力がどの程度のものかを十分踏まえて用いることが肝要ではある。
»参照魔法
 ・『サモン・エレメンタル』(D&D)
 ・『コントロール・スピリット』(ソードワールドRPG)
 ・『精霊召喚』『精霊支配』『精霊作成』(GURPS MAGIC)

・ゲート(門)

 高次元の存在である神々や魔王を呼び出す魔法。召喚魔法中、最上級の秘儀とされるのがこのゲートである。ゲートが他の召喚魔法と異なる点は、術者とは桁違いの対象を召喚することと、対象を使役する強制力が働かない点である。
 戦力補充の面では、サモンエレメンタルにより召喚した精霊よりもはるかに大きな効力をもち、およそ全能に近い力を発揮できる存在の働きは戦略要素を最初から覆すことも可能とするだろう。宗教国家はむしろ軍事的最終目標が、自らの信仰する神をゲートによって召喚するとするケースも少なくない。 欠点としては、対象を使役できない点。対象を術者の意に沿うように力を発揮させるには、対象の特性や性格を理解したうえで、術者の高い交渉力が求められる。 ゲートを戦略に組み込むことは博打に過ぎない。戦争という外交の過渡的プロセスにおいて必要なのは“自軍勝利の周知”であって、ゲートで召喚した存在の振るう力がもたらす“敵軍敗北の周知”では戦争目的の完全な達成を見ない点は留意したい。
»参照魔法
 ・『ゲート』(D&D)
 ・『サモン・ゴッド』(ソードワールドRPG)
 ・『悪魔召喚』『異次元召喚』(GURPS MAGIC)

・メテオスウォーム(隕石召喚)

 宇宙の星の運行に影響を及ぼし、その1つ(または複数)を指定場所に落下させる魔法。隕石の巨大質量、落下速度に伴う質量増加、命中地点からの衝撃波と熱波の破壊力を発揮する。数ある攻撃魔法でも最上位とされる攻撃力である。
 メテオスウォームを戦略利用した例は多くないが、ロードス島では灰色の魔女カーラのカノン王国進行時に首都が一夜にして滅亡。賢者ウォートも戦略的運用にまで実戦力に捉えているケースが確認されている。 メテオスウォームの効用は、破壊力だけでなくそのビジュアルの強さにある。中世期の迷妄色濃く残る一般人にはメテオスウォームは“天の災厄”とも受け取られ、その超破壊力とあわせて民兵を恐慌状態に陥れる。敵軍戦線を威力面と士気面の双方から崩壊に追い込むことが戦略的に大きな効力として期待されるだろう。 注意すべき点は、影響範囲の広さから乱戦時どころか戦線展開時には既に使用できないこと、その破壊力から占領地攻略や進軍先のルートには用いることができないことなどがある。
»参照魔法
 ・『メテオスウォーム』(D&D)
 ・『メテオストライク』(ソードワールドRPG)
 ・------(GURPS MAGIC)