「魔法」は偉大な力である。ケースによっては魔法技術の発達によって科学技術が進展しない(時には衰退してしまう)という事例も存在することから、魔法はそれ自体が科学に取って代わりうるだけの多様な側面を備えた文明体系として捉えることもできるだろう。
ところが科学技術の戦争にもたらしてきた多様性に対し、魔法技術を戦力として捉える場合は単純火力として用いている場合がほとんどのようである。本書では、魔法の影響を単純火力や戦術面に限定せず、より大規模な戦略面での運用を考察し、既存の一般的ファンタジー世界では魔法がどのように戦争と結びつけ得るのかを仮定して論じてみるものである。
本来なら術者が知覚することができないを情報を感知することができる魔法体系である。未来や過去の事象、あるいははるか遠方や誰かの心の中の思考などを取得できる魔法などが含まれる。 魔法によってその影響範囲は異なるが、大まかに分けて2系統。対象1名における特定情報を感知することができる場合のものと、術者の設定した範囲内において設定した条件を満たすものの数や位置などを感知するレーダーのようなものが存在する。 スペルコレクションでは「探知・伝達系」、GURPS MAGICでは「情報伝達系」と「防御/警戒系」の一部がここでいう探知系魔法に分類される。
魔法の範囲内に存在する、特定の生物や物質の位置や個数を知覚する魔法。探査できるものには人間や術者自身の所有物、あるいは敵意を持った存在など無数の事例が存在しており、用途に応じた様々なディテクトが開発されてきた。
戦略面において探知系魔法の多くは非常に高い効果を発揮するが、中でもディテクトは戦略における最も基本とされる魔法と言えるだろう。人間や敵を探知するディテクトは森の中の伏兵や、内部に潜む裏切りの一団、あるいは夜襲のために潜伏侵攻してくる敵軍などを察知することができる。
これらの警戒魔法は定期的に用いるためにも、数人の担当術者を軍に常駐させるほうが効果的だろう。また、水源や食料を探知できるディテクトは、敵国内の詳細な地図が分からない状態でも進軍に必要な水準の地理を獲得するのに役立つ。
ディテクトの魔法とそこから得られる情報をどのような形で活用できるか次第で、その魔術師の戦略家としての手腕の高さが大きく問われることになるのは間違いないだろう。
»参照魔法
・『ディテクト・イービル』『ディテクト・マジック』『ロケート・オブジェクト』(D&D)
・『センス・マジック』『センス・イービル』『センス・オーラ』『センス・エネミィ』(ソードワールドRPG)
・『生命感知』『敵感知』『感情感知』『鉱物探知』『水探知』『食料探知』『追跡』(GURPS MAGIC)
通常の人間の視覚では感知することのできない場所の光景を知覚することができるようになる魔法。単純に視力を増大させる魔法から、はるか遠方の光景を映し出す魔法、壁の向こうなど遮蔽された先の空間まで透視できる魔法、自分の視覚を空中に飛ばして自在に操作できる魔法など、数種類の魔法系統がこのテレスコープには含まれている。
テレスコープもまた探知系魔法の中でも、高い戦略的効果を見込むことができる体系と言える。敵陣の様子を高精度で視認することができるようであれば、読唇術を併用することで敵の情報をそのまま得られる。また敵が軍形を大きく動かすのであれば、どうしても柔軟な伝達ができる伝令兵を用いることになるだろうが
これらの伝令兵の状況を把握しておけば、敵軍の攻勢タイミングを利用して柔軟な防御と反撃タイミングで受け流して戦局のイニシアティブを得られるだろう。ディテクトと異なり、テレスコープはその魔法が持続する限りに継続して情報取得するメリットを活かしたい。
»参照魔法
・『ウィザード・アイ』『クレアボヤンス』(D&D)
・『ビジョン』(ソードワールドRPG)
・『視覚強化』『赤外線視覚』『暗視』『闇視』『魔法の目』『透明な目』『透明壁』(GURPS MAGIC)
アイデンティファイは未知の魔法の品や仕掛けなどを鑑定してその性質を分析することができる魔法である。アイテムに限らず魔法が施されている仕掛け全般を分析できる汎用性の高いアイデンティファイも存在するようである。
アイデンティファイは直接戦況に影響を及ぼすことが皆無とされる魔法である。この魔法から戦略的価値を見出すことができるのは、戦後処理の局面である。いずれの魔法世界でも、魔法の品とはその性質と希少性、ならびに美術的価値に基づいて貴重品として扱われる。
そのため、戦争の功労者、中でも騎士以上の貴族階級に対しては財貨よりも名誉と格式から、領土あるいは魔法の品を恩賞とするケースが存在する。
アイデンティファイは魔法の品の魔法的意義を画一的な経済価値へ位置づける、およそ唯一の手法と考えてよい。それは即ち恩賞の多寡を定める役割とも換言できる。ゆえに優れたアイデンティファイの鑑定者とその口添えがあることは、戦後処理としての褒賞分配に多大な働きをもたらすだろう。
»参照魔法
・『アイデンティファイ』『アナライズ』『ロア』(D&D)
・『アナライズエンチャントメント』(ソードワールドRPG)
・『魔法感知』『呪文感知』『魔法分析』『測定』『歴史』『古代史』(GURPS MAGIC)
リーディングは対象から情報を強制的に読み取る魔法である。大別してリーディングには対象の精神を探査して情報を読み取れるものと、対象に記されている文字情報を解読することができるもの、この2種類の系統が存在するだろう。
リーディングの有用性もまた、精神探査か文字解読で大きく異なる。まず前者については捕虜から自白に頼らずに情報を入手できる、降伏した将校の考えていることを読み取ることができる、外交の場で相手の思考を把握すれば大きなアドヴァンテージを得ることに繋がるだろう。また配下の将校を掌握し適切な管理をすることも重要な戦略意義を持つ。
一方、文字解読リーディングは、暗号解読に大きな意味を持つ。記録文字情報の暗号は、遠方の軍や他国家との連携行動などに活用されるが、暗号解読に成功すれば各個撃破のタイミングを図ることも可能。また逆用してリーディングを持つ者同士でしか通用しない適当な言語を造りこれを安全性の高いブックトゥブック暗号に用いるのも良いだろう。
»参照魔法
・『ESP』『リード・ランゲージ』(D&D)
・『センス・ライ』『トランスレイト』『タング』(ソードワールドRPG)
・『感情感知』『嘘発見』『自白』『読心』『精神探査』『言語理解』『文字理解』(GURPS MAGIC)
神々と交信し、その情報を分け与えてもらう魔法。知識や情報が明確な映像や解答で返ることもあれば、あやふやな直感や記憶の断片の場合もある。高次元知性から伝達される意思や情報の理解、及び解釈は相当困難で、したがってディビネーションにおける効果は極めて不安定、不安定要素をそもそも戦略に組み込もうとすること自体も難しい。
反面、限定状況での行動選択ではディビネーションは有効となるケースがある。この魔法からもたらされる情報と判断は、高次元知性以外の何者にもその判断と決定を予想できないためである。これはすなわち敵に高度な戦略判断ができる者がいても、ディビネーションで判断された決定は予測することができず、その判断情報を術者が漏らさない限りにおいて情報撹乱や漏洩が発生しないなどの利点に直結する。
優れただけの戦略は同レベルの理論で看破される。時に戦略とはこのディビネーションのようなようなブラックボックスでの直感、流動で構築することが重要な局面もあるのである。
»参照魔法
・『ディビネーション』『オーグリィ』(D&D)
・『ディビネーション』『コールゴッド』(ソードワールドRPG)
・『神託』(GURPS MAGIC)
ある意識を別の人物や場所に伝達することができる魔法体系である。テレパシーのような自分の思考を別の誰かに伝達するための魔法や、あるいは他者の肉体の主導権を自分で操作する魔法といったものもここに含まれる。 伝達系魔法の多くは術者の持つ情報を他者に伝達する魔法である。そのために伝達系は術者が取得している情報量と精度が大きく関わり、探知系魔法で得られる情報を併用して用いるべく、両分野を併せて精通する魔術師は多い。 スペルコレクションでは「探知・伝達系」、GURPS MAGICでは「情報伝達系」と「防御/警戒系」の一部がここでいう探知系魔法に分類される。
テレパシーは自分の思考していることを対象に転送する魔法である。テレパシーを送信できる距離については様々な魔法が存在するが、最短で視覚範囲内、最長では1つの惑星内であれば有効とする射程が確認されている。対象が特定できる1名の場合もあれば、レーダー波のように全周囲に飛ばして不特定多数を対象と設定する場合もあるようである。
テレパシーの戦略活用において優れているのは、精度、秘匿性ならびに伝達速度である。言語を介さずに思考をそのまま伝達できるために他者に盗聴されてしまうことがなく、誤謬を発生させることがなく、敵陣布陣の形状や侵攻経路といった言語では伝えにくい情報も映像として伝えられる点が優れた情報精度へと繋がる。
さらに伝達速度は一瞬であり、細かく指示を出す必要がある別働部隊のような作戦行動に当たっては軍の機動力それ自体の向上にも繋がるだろう。
欠点は受信者から返信できない一方向性。手紙や信号通信と同様、過剰に伝達性能を信じてはいけないだろう。
»参照魔法
・------(D&D)
・------(ソードワールドRPG)
・『思考転送』『精神感応』(GURPS MAGIC)
術者が所有している技術やノウハウを他者に伝達、あるいは対象から術者に向けて伝達し、一時的に知らないはずの技術を使用できるようにする魔法。
基本的には術者や対象の技量を下回る形でしか獲得ができないことが多く、魔法やサイキックなどといった超常的な能力、あるいは肉体特性などの先天的な能力についても獲得できない場合がある。
コピースキルの有効な活用手法としては、人手を必要とする作業について従事者を大量生産するというものである。前線の戦闘兵よりも、後方での治療活動に従事する部隊へコピースキルによって医療技術を修得している人員を作業者として割り当てたり、
あるいは爆発物処理などの専門知識を習得させることで、工兵部隊として広範な範囲の地雷撤去作業において短時間で作戦を完了させるなどがある。
コピースキル修得者は、どれだけ広範な技術を獲得するかが重要で、このことに特化した技術者を養成、部隊に派遣することによって隊内の人員活用効率は飛躍的な増加を見込めるだろう。
»参照魔法
・------(D&D)
・------(ソードワールドRPG)
・『技能賦与』『技能取得』『言語賦与』『言語取得』(GURPS MAGIC)
対象の肉体を支配し、自分の意のままに操作することができる魔法である。術者の意識自体が1つであるという人間的特性上からか、術者自身の肉体か対象の肉体の片方側しか制御できず、もう片方の肉体は仮死状態になるのが通例である。
マジックジャーは非常に高度な魔法である上に、大量の魔力を消費することが多く、さらに対象者はこの魔法への抵抗の成否に関わらず魔法的に憑依されたことを知覚することができるため、用途はかなり限られたものとなる。
マジックジャーを使用した多くの魔術師の事例に則れば、敵対国の指導者に憑依してその国自体を併呑するというのが最も多いが、指導者を制御下に置くだけで完全に併呑するということは難しい上、その間の自国と自身の肉体の管理体制が憂慮される。
よってこの魔法の効率的な利用方法はいささか地味だが、(憑依解除できる魔法だという前提で)味方配下の数名と憑依契約を結び、彼らの中から適当な対象に一時的に憑依して、自軍内の統括状況の監査をおこなうことであろう。
»参照魔法
・『マジックジャー』(D&D)
・------(ソードワールドRPG)
・『肉体支配』『肉体交換』『憑依』『完全憑依』(GURPS MAGIC)