夏草一葉    14

 翌朝から学園では全生徒の外出が禁じられた。

休み時間に外へ出る事も制限されたが、詳しい説明が無いままで、生徒達は暇な時間を
推理などでのんびりと費やしていた。

 しかし、午後になって、学園は全体がより緊迫した状況となった。学園内に敵の一群
が侵入している事が、全体の動きや指示で、段々に肌にびりびりと感じとれるくらいに
現実味を増してくる。

 教員と六年生は臨戦態勢に入り、五年生は下級生の援護に付く。三、四年生は教員の
指示でまとまって出入り口などの見張りに付く事になった。
 ある程度実技を兼ねて実戦を経験している生徒達であるが、これ程慎重な作戦は初め
てだった。

 いままで生徒達が体験していた実戦は、本当に危険と判断されると教員が後始末を引
き受けて、生徒達は作戦から離されていた。今回は始めから生徒達は表には出されない
それだけ敵が手ごわいという事なのだろう。

 太陽が沈み、段々に闇が濃くなってくると、敵の動きはよりあからさまになった。い
くつもの篝火が焚かれる。
 ドオン!
ビリビリと見張り台が揺れた。敵の攻撃かと思われたが、埋め火に誰かがかかったらし
い。場所もそう遠くない。かなり内部にまで敵に侵入されているらしい。教師達が冷静
な事が、却って不気味だった


 「一体敵はどのくらいいるんだろう・・・学園がこんな事になるなんて・・・」
見張り台に配された乱太郎達は組は、各方向に睨みをきかせていた。
 「ま、俺たちは俺たちにできる事をするまでだ」

 「それはそうだけど・・」
隣にいるきり丸の大人びた目に、乱太郎は気持ちが揺れる。 同じ時を過ごしてきた
はずなのに、どんどん道が離れていくような気分にさせられる。

 学園の事も、敵の事も、・・・きり丸の事も・・・分からない。きり丸の事だけは、
何でも分かっているつもりだった。
 違う、今でも分かっているのだ。ただ・・・それを自分が認めたくないだけで・・・・


 「あ・・乱太郎、あれ!」
団蔵の指さす方向の林の中を、僅かにちらりと人影が走った。
 すぐに決められた合図を鐘で知らせる。
 「あ!あっちにも!」

が、それは直ぐに教員達が対応し、敵は罠のある地へと追い込まれる。時々火薬の激し
い爆発音や、肉を斬る鈍い音が響き、嫌な匂いが、鼻についた。
 敵はじわじわと後退しているらしく、戦いは一進一退といったところの様だった。

 明け方近くになって、一線で戦っていた教員の交替があった。乱太郎達も高い階の下
級生の教室で、下級生を補助しながら、交替で見張りをする事になった。

 教室から、緑と青の忍びが倉庫の屋根の上で休んでいるのが見えた。その明るい色の
装束は遠目にもとても目立っていて、敵の注意をわざわざ受ける為の物のようだった。

 ところどころに以前には無かった黒っぽい染みが見える。 あれは・・・・
乱太郎が、それをぽつりと呟くと、きり丸は真剣な目でその二人の忍びを見つめ続けて
いた。




 「まったくあんな簡単な罠にひっかかるなんて、せせりは下忍の教育がなっていな
いね」

ささらが面白そうにくすくすと嗤った。
 「これ以上無駄な犠牲を増やす事なんかない。もうこんな作戦は止めよう、ささら」
 「新人の篩に丁度いいじゃないか。ここで消えるようなら戦でだって役に立たない
人数が揃ってればいいってもんじゃない。忍びは質が全てだよ」

 「ささら・・・」
せせりはささらと同じ端麗な顔を少し曇らせた。

 せせりがささらと出会ったのは、せせりがまだ子供と言える頃だった。まだせせりな
んて名前でも無かった。本当の名は忘れてしまった。

 ささらは初めて出会った時から、ずっと今と同じ姿だった。何も変わらない。どころ
か、戦で火傷を負って醜く歪んだせせりの顔を、自分と同じ、美しいものに代えてくれ
た。「せせり」という名前も与えてくれた。せせりの人生はそれからずっとささらの為
にある。

 戦地ばかりを追って生きてきた。使う下忍は次々と変わっていったから、せせりが友
とする者もささらしかいなかった。

 けれど數虎公に仕えて正式な主人を得たせせりは、ささらへの傾倒が少し緩やかにな
れた気がする。だから今している戦いも主人數虎公の御為でなければならない。

 「さて、約束の一日だ。半助もそろそろここに居ずらくなって来た頃だろうし、迎
えに行ってあげなくちゃね」
ささらがその名を口にする度に、せせりは足元に深い暗闇を感じていた。




 昼過ぎに、また生徒の配置換えがあった。別棟になっている上級生の教室に三年生が
配される。組毎にまとまって、移動を行う。は組には山田伝蔵、土井半助、大木雅之助
が付き添って移動していた。

 澄んだ鳥の声が木々を渡り、日差しも明るくて移動にはさして不安は感じられなかっ
たが・・・
 「!」
ざっと伝蔵達が生徒達を庇うように態勢を変える。

 「さあ、一緒に来る気になってくれたよね。可愛い生徒達に犠牲は出したくないだ
ろう?」
ささらがまるで幻を見るように伝蔵達の眼前に現れた。どこでこれ程の術を身につけた
のかは知れないが、その実力は計り知れないものがあった。
 生徒達を背に守って身構える半助にゆるゆるとささらが
近づく。
 「お前は・・・・」
瞬間、刀を抜き去ったささらが土井半助に躍りかかった。
 ギ!!
刀を受けたのは、しかし土井半助ではなく、青い装束で顔を隠した忍びだった。

 「ふん・・・そういう事か・・」
そのまま刀を引く気配は無く、ささらは青の忍びと対峙する。

 ばっと背後から斬りかかってきたのは緑の装束の忍びだった。それを横薙ぎに払おう
とするが、上手く避けられる。大きく脇が空いた所に飛び道具と青の忍びの刀が振り下
ろされて、ささらは流石に少し離れた場所に足場を移した。 目の前の緊迫した戦いに
“は組”の面々は息を飲んだが、更に新手が現れて、その場は乱戦となりかけた。

 山田伝蔵の指示のもと、教室に向かって走る生徒達。それを追う敵の忍びの一群は、
しかし
 「!!!」
酷く派手な爆発音と共に、その場で吹き飛ばされた。

 「半助の奴・・・ちょっと派手に仕掛けすぎじゃぞ」
半助考案の時限式の埋め火が、絶妙な時機で爆発を起こした。身動きのできなくなった
敵を雅之助達が確実に沈めて

ゆく。援護に数人の六年生が到着して、は組の安全が確保された。怪我をした右腕を布
でつったままの、土井半助もは組の護衛に付き添っていた。

 一カ所に集められ、待機を命じられたは組だが、再び目の当たりにする事になった敵
・・・ささらの姿に、きり丸には押さえられない怒りが沸き上がっていた。
 脳裏に、溢れる血に染まりながら自分に微笑みかける半助の顔が浮かぶ。

 今この時に、力になれないのなら・・・!

 「乱太郎・・・悪ィ・・俺抜けるから」
 「!駄目だよ!きり丸!」
 「今じゃなきゃ駄目なんだ!これから先どんなに強くなっ たって、今じゃなきゃ!」

乱太郎の制止も聞かず、きり丸はささら達が戦っているだろう林へ向かって走り出した

 「大丈夫、私が連れ戻す」
土井半助がきり丸を追う。

 残されたは組の生徒達が、戦いの場に戻ろうと決断するのに、そんなに時間はかから
なかった。一人だけ危険な思
いはさせない。妙な団結力はずっと健在だ。

 学園の中の森で、派手な爆発が続いた。半助が念入りに罠を張っておいた場所に、さ
さらは誘い込まれていた。

 「土井先生の罠にひっかかるなよ、きり丸」
 「先輩・・・ありがとうございます」
走るきり丸に併走して、鉢屋三郎はいくつかある武器の隠し場所から、適当な獲物を揃
えていた。姿は土井半助のままだ。

 その土井半助を追って、せせりが背後に迫っていた。あのままではは組が再びせせり
の襲撃に巻き込まれる事になっていただろうから、きり丸の突発的な行動で、鉢屋三郎
の「土井半助」が、あの場所から離れられたのは結果的に良かった。

 「止まるなよ、止まると追いつかれる」
 「?・・・あ!はい」
きり丸達は全力で、戦いの中心へと向かって走り続けた。

 

 「右が使えないくせに結構やるじゃないか」
ささらは二人懸かりでも容易には弱みを見せなかった。

 それどころかまだまだ余裕があるようだ。
人数を頼みにしても駄目だ。青の忍びが神経を集中させようとした矢先、
 「!!」
ささらが今までに無く大きく動いた。

 「速い!!」
ぎりぎりの間合いでかわしたつもりだったが、その間合いさえ読まれていた。
 ばらり、と、青と緑の忍びの覆面が斬り払われた。

 「ほうら、山田利吉と土井半助だ。ふうん、こうして揃っ ていると、何だかいい光
景だね。やっぱり山田利吉も殿 にお願いして譲っていただこうかな」
青い装束の土井半助と、緑の装束の山田利吉は、ささらの強さに舌を巻いた。

 しかし、まともにやり合うのは忍びの本業ではない。ささらは大きな罠の中心にもう
少しで填まってくれる。あと少し。

 やっと半助達の姿を遠くに確認して、きり丸達は、火縄銃を抱えて地に伏せた。それ
を追って来たせせりは、ささらの前にいるもう一人の土井半助に気づいた。

 「お前みたいな奇麗な人間を手元に置いておきたいんだ。
 利吉も一緒に可愛がってあげてもいい」
 「私は別に奇麗な人間なんかじゃない」

 「でもこんなに欲しいと思ったのはお前が初めてだった んだ」
身を潜ませながら、せせりはそんなささらの言葉を遠くに聞いていた。
 「お前に出会ってから、酷く自分が飢えていると知って しまったよ。出会わなけれ
ば、今だってもっと違う喜び で満足していられたはずなのに」

 「・・・・」
 「お前が望むなら、もうお前以外・・・いらないから」
 「!!ささらぁ!」
 「!せせり?!」

突然に斬りかかってきたせせりを、ささらが避ける、その一瞬、地面が低く唸って陥没
する。
 かかった!

半助が放った手裏剣を足場の無いささらが刀ではじき返そうとした瞬間、飛び降りざま
に、利吉がささらを袈裟懸けにした。

 「ささら!」
せせりにはもう何が何だか分からない。無我夢中で半助に斬りかかろうとして、

 ぱーん!
 「うあああっ」

肩をきり丸の火縄銃で射貫かれた。致命傷では無い。
ささらもまだ息はあったが・・・荒い息をして、呆然とせせりを見ていた。

 「何で・・・お前が裏切るんだせせり・・・何もかも与 えてやったのはオレ・・だ
った・のに・・・」

 「・・・ささらが・・・」
自分以外の人間を・・欲しがるから・・・こんなに自分がささらの事を必要としている
のに、ささらが必要な人間は・・・・

 「馬鹿だ・・な・・・」
ささらがせせりに小さく、逃げろと告げる。
ちり・・・と硝煙の匂い。半助の物とは違う。

 「伏せろ利吉くん!」


 




大きな爆発と、肉の焼ける匂いが陰惨だった。



 せせりはささらの最後の命令を忠実に守ったらしい。せせりの死体が無い所を見ると
ささらと共に逝くより、逃げる事を選んだのだろう。



 「土井先生ーー」
 「きり丸ーー」
全てが済んだ頃、は組が揃って援護に駆けつけた。いわゆる命令違反だが、半助も伝蔵
も、仕方ないな、と今は笑うばかりだ。
 「ど、土井先生が二人いる・・・」
驚く生徒達に、鉢屋三郎は変装を解いて見せた。と言っても素顔ではなく、別の人物に
なっただけなのだが、それは鉢屋三郎のお馴染みの顔だ。

 「じゃあ、青と緑の忍者は、土井先生と利吉さんだったんですね」
 「まあ、敵を騙すにはまず味方からってね。とにかく敵の動きを客観的に把握する
必要もあったし」

 「じゃあ、僕たちずっと、鉢屋先輩の土井先生と一緒だったんだ・・・」
何となく項垂れるは組の生徒達。

 「時々は私と入れ替わっていたんだぞ」
半助は気づかないお前達が悪い、といった感じで、あまり悪びれない。
 「きり丸は分かってたの?」

 「ああ・・俺は知らされていたから・・」
色々と話しを聞いていくうちに、段々に謎も解けてくる。きり丸が必死で強くなろうと
していた訳も、土井先生が怪我をしていた訳も・・・
 「でもみんな終わったんですよね」
 「まあ、ここでする事は大体な」
 「じゃあまた、土井先生の授業受けられるんですよね」

今回はまた手玉に取られてしまったけれど、土井先生はいつも一生懸命に心から自分達
に接してくれていたのは、は組の生徒なら誰だって分かっている。やっぱりあの笑顔が
無いのは、何か物足りない気がしてしまうのだ。知らなければ必要が無いのに、知って
しまっているから。この世界にはあんな笑顔もあるのだという事を。

 「残念だけれど、もう私は教師じゃないんだ」
 「!ええっ?!」

半助の言葉に、は組の生徒達はただただ驚愕した。
 「葉月城の忍びに狙われている身なのは変わらないからね、その命令を下している
城主小次郎數虎を討つ為に、利吉くんと葉月城下に潜伏する。その後もここには戻ら
 ないと思う。大木先生に担任を代わっていただいた時点で、学園には辞職願いを出
してしまってるしね」

 「そんな・・・」
 「お前達の事は忘れない・・・私の大事な生徒達だ」
半助は手負いのせせりが潜む茂みを確認しながら、一人一人の生徒達の頭を撫でて、長
い別れの言葉を告げた。

 乱太郎は、きり丸を見ていた。

きり丸は・・・このまま土井先生に置いていかれてしまうのだろうか。
 「きり丸・・・」
とうとう半助がきり丸に声をかけて、きり丸はびくりと肩を震わせた。決定的な別れの
言葉なんか、欲しくなかった。

 「腕を上げておけよ、きり丸 」
 「・・・先生・・」

 「卒業の日に迎えに来てやる。腕が良かったら一緒に仕 事をしてもいい。お前が決
める事だがな」
 「!先生・・・」

そう言ってから、半助は利吉に事後承諾の瞳を向ける。将来手強い好敵手になりそうな
相手が仲間に・・・というのは、避けられない運命なのかも知れない。しかし半助が必
要とするなら、利吉は受け入れるばかりだ。

 利吉があきらめの溜め息をついて見せると、半助がいた
ずらっぽくクスリと笑った。そんな顔がまた可愛くて、利吉はまた惚れ直してしまう。

 別れを惜しむ声を後に、半助達は直ぐに葉月城へと旅立った。

 せせりはその前に、領地へと引き返している。土井半助と山田利吉が城主を暗殺しよ
うとするのを阻止せねばならないからだ。
 しかし、戻ってみると、学園に手勢を取られている間に忍び込んだ各忍者隊に、大事
な人質をごっそり奪い返された後であった。

 味方の被害も大きく、立て直すのにかなりの時間がかかりそうな上、新しい忍びを雇
うにも、それが城主を狙う者であるかもしれないとの疑いが深い。

 それは仲間内にも広がって、葉月城は疑心暗鬼の巣と化してしまった。
 そうこうするうち、人質となっていた若者を無事に取り戻せなかった城との間で戦が
はじまり、せせりは土井半助どころではなくなった。

 その土井半助と山田利吉であるのだが・・・・

 実は葉月城へは向かわず、利吉が以前借り受けた田舎家
で、ほとぼりが冷めるまでおとなしく身を潜めていたのだった。

 「敵を欺くにはまず味方からってね・・・」
 「忍者の悲しい性ですねえ」
そう言う利吉は、半助との再びの蜜月に、すっかり満足気だった。半助の方は面白くな
い。何せ、何だかんだあって、何故か半助が女装して利吉と夫婦として暮らす事になっ
てしまったからだ。

 「兄弟って事でも良かったのに・・・」
 「夫婦の方が自然ですし、村は人の口がけっこうありますから・・いいかげんあき
らめてください半子さん」

 「その呼び方は止めてくれ・・・」
田舎女房にしては艶やかな装束で足を大きく投げ出した半助は、どんな恰好をしていて
も、やはり土井半助だ。

 これからの事はまだ決めていない。けれど、頭が切れ、腕も一流、人からも愛される
二人だから、生きていくのには十分過ぎるほどだった。






 学園ではそれから、相変わらず妙な事件に巻き込まれたり、変な来客で一騒動あった
りしたけれど、相変わらず平和な毎日が続いた。
 落ちこぼれと言われていた忍者のたまご達も、今では学園で一目置かれる実力のある
集団に育ちつつある。

 長期の休みには、きり丸は乱太郎の家に身を寄せる事が多かった。
 緑豊かな山間に広がる田畑に囲まれた田舎家は、心地よい生活の匂いが適度に満ちて
いる。

 あんまりに田舎過ぎて、バイトに通うのが大変だ、とぼやきながら、それでも乱太郎
といるきり丸はやっぱり楽しそうだった。
 土井先生の事はなるべく話しに出さないように乱太郎は気を使っていたのだけれど、
きり丸からその後の二人が無事な事を内緒だぜ、と教えられた。

 なあんだ・・・と思うと同時に、やっぱりそんな秘密をきり丸だけが教えられている
のに、何だか思いは複雑だった。
 晩夏の丘に立つきり丸と乱太郎は、色付き始めた空をぼんやりと眺めていた。

 なだらかな山並みが陰を濃くし、雲間から漏れる橙色の光が村の何もかもを同じ色に
染め始める。
 眩しそうにその光景を見つめるきり丸の瞳を、乱太郎はとても奇麗だと感じる。

 いつか・・・
あの二人が迎えにやってくる。自分達の憧れそのままで手の届かない存在の二人は、そ
の存在にあまり現実味が無い。 きり丸もいつか、そんな夢のような人間の仲間に入っ
ていってしまうのだろうか。

 「ねえ、きり丸は将来はやっぱり利吉さんみたいな忍者を目指しているの?」
 「はぁ?将来・・・?将来ねぇ・・・そんな先の事なんて今は分かんないよ」
 「でも・・・夢とかあるでしょう?」

 「んー、夢ねえ。とりあえず今月の稼ぎで授業料払える事かなあ。今は今でいっぱ
いいっぱいだからさ」
 「・・・そっか、今が精一杯なんだ」
何となく乱太郎は胸が一杯になる。

 「俺はケチだからね、あんまり先を見過ぎて、足元の小銭を取り逃すなんて勿体な
い事なんかしないんだ」
いいモノはいつも足元に転がってるからね、と、きり丸は乱太郎にいたずらっぽく笑っ
てみせる。

 そんな笑顔に照れた乱太郎が、足元に目を向けると



小金色に照り輝く小さな花が、夕暮れの風にふんわりと揺れていた。





夏草一葉    了


夏草一葉1

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