● ● ●





ゾロは豆空島を出る決意をした。
生来悩み事の出来ない性質であるため、そうと決めたらあとはもう迷いは無かった。下界の家は住みづらいだろうが、洞窟でも森でも、どこででも寝ればいい。
サンジにそう告げると、
「へー、動物みてえだな」
と、にこにこしていた。ゾロが一緒に来ると言った途端、この暢気さだ。仕方のない、馬鹿なアヒルだ。
二人は連れ立って豆の木を下りた。そろりそろり、そろりそろり、そろりそろりと下りるうちに、みるみる豆空島は遠くなった。下方に地面が見えてくる。森や山や、サンジがジジイと暮らしている家が見えてきた。
ところが不思議なことが起きた。
そろりと豆の木を下りるごとに、ゾロの体がじわりじわり、そろりとまた下りれば、またじわりと、小さく縮み出した。まるで空気が抜けるような有様だった。これまでやたらと巨大で、サンジから見れば現実感の無いサイズだったゾロが、少しずつ、少しずつ、この世の者と同じであるかのように、当たり前の大きさの肉体の器に納まっていく。
そして地上に足が着く頃には、すっかりサンジと同じほどの背丈の青年になっていた。
「ゾロ……」
今や目と目が合うほどの大きさになったゾロを見て、ああ、こんな顔をした男だったのか、こんな姿をした男だったのか、と急に実感してサンジは震える手で触れた。
ゾロは何とも言えず、ただ黙って立っていた。地上に降りたことなど無いので、こんなことになるとは想像したことがなかった。
「ゾロ、良かった」
サンジはゾロにしがみ付き、額をゾロの肩へ摺り寄せて溜め息を吐いて、言った。

「よかった……、これでゾロとえっちできる!」

妙に力強い言い切りぶりだった。
ゾロは何とも言えず、ただ黙って立っていた。
サンジにとって主な懸案はそこの辺りだったらしい。
折りしもまだ夜明け前の時刻。ジジイへのゾロの紹介は、夜が明けてからにするとして、サンジはひとまずゾロを自分の部屋へ誘った。
サンジがゾロをジジイにお披露目することになり、ジジイがかんかんになるのは、翌日の昼過ぎの出来事の予定。




1 2 3 4 5 6