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ティランジア・イオナンタ (00' Apr. 日本ブロメリア協会会報 第5号掲載 : 04' May.改稿)


序.更新情報(2004年5月)
 本稿は、筆者が2000年度の日本ブロメリア協会会報第5号の為に書いた原稿を、現在(2004年5月)の情報に合わせて更新、改稿したものです。内容は原則的に変わっていませんが、当時の筆者の誤った知識の修正や、新変種マキシマの登場など、幾つかの変更が必要となったため、部分的に書き直してあります。最初は元原稿のまま掲載しようかなぁ?と思ったのですが、鮮度が落ちたままの情報をインターネット上で公開するのも如何なモノか、と言う部分もありまして、とりあえず改稿することにしましたです。
・・・しかし、今更ですが、文章ヘタですね、ワタシ。読み直してみてガックリきてる次第であります・・・。

<以下本文>

 ここ何年かの間に、街で一般に「エアプランツ」として販売されているティランジア属(Tillandsia )の仲間も随分とバラエティーに富んできており、僅か5〜6年前までは考えられもしなかった、インペリアリス(T.imperialis )やグランディス(T.grandis )のような貴重で珍しい種までが店頭並ぶ時代となりました。しかし、だからといってイオナンタ(T.ionantha )やブルボーサ(T.bulbosa )など、昔から愛されてきた普及種に鑑賞価値か無くなってしまった訳ではなく、未だに日本中の街の店先で、何時も変わらぬ魅力を振りまき続けています。
  この特集ではそれら普及種の中で最も人気があり、しかも初心者から経験豊かなベテラン愛好家にまで幅広く愛されている、強健で育てやすい小型種、ティランジア・イオナンタ(Tillansia ionantha )をご紹介することにいたしましょう。

1.イオナンタの種類
 さて、この植物の種小名である「イオナンタ」とは、ラテン語で「スミレ色の花」、と言う意味であり、まさにその名の通り、この植物は実に美しい、紫色の筒状花を咲かせます。また、イオナンタの仲間の殆どは、開花の際にその全身を鮮やかな紅色に染め上げることでも有名で、その素晴らしい開花時の色合い故に、手練れのティランジア愛好家の間でも非常に根強い人気があります。しかし、この仲間の魅力はただ単に、花や姿が美しいだけにとどまらず、その育つ地域によって驚くほどの表情の違いを見せる、バラエティーに富んだ変異の数々にあることも異論のないところでしょう。
 それではここで、それらの数あるイオナンタの変異の中から代表的な品種や園芸品種を取り上げてみましょう。

イオナンタの基本(基準)種(Tillandsia ionantha var.ionantha )
「基本種」(正確には「基本変種」)と言いますが、あくまでも分類上の「基本」とされているだけで 、やはり、その産地によって大きな姿形の違いを表します。現在、盛んに市場に流通しているイオナンタも、そのほとんど全てが、いわゆる「イオナンタ基本種」ではあるのですが、ご存じの通り、細い葉が銀色の鱗片で厚く覆われているものから、やや大型で短く厚い葉を密生させ、まるで緑色の手榴弾のように見えるものまで、まさに千差万別、驚くほど多様な姿を見せてくれます。

変種ストリクタ(Tillandsia ionantha var.stricta Hort. ex Koide)
イオナンタ・ロシータ(T.ionantha 'Rosita')として販売されていることもあり、開花時にその全身を鮮紅色に染め上げることで有名なイオナンタです。外観は基本種よりもやや細めの葉を密に広げた可愛らしい姿をしており、良く陽光に当たった株は、開花前ですら、淡く美しい赤色を呈します。イオナンタ栽培のコツについては後述しますが、やや暑がることを除けば、性質もいたって丈夫で育てやすいイオナンタです。

変種ストリクタ品種ファスティギアータ(T.ionantha var.stricta forma fastigiata Koide)
学名を記すと何やら難しそうなのですが、実は、これが以前から「イオナンタ・ピーナッツ」の名で親しまれてきたイオナンタの正式な名称です。親戚であるストリクタよりもさらに一回り小型で、まさに「ピーナッツ」のような、水滴状の愛くるしい姿をしており、やはり開花時には非常に鮮やかな紅色に全身が染まります。また花が咲かなくてもどんどん殖えて群生株を作っていく性質を持つため、国内でもなかなか高い人気を誇っています。ただし、変種ストリクタ自体がメキシコの、やや標高の高い地域に原産する植物でもあり、熱帯並の高温多湿となる日本の夏には、やや弱い面もあります。

変種バンハイニンギー(T.ionantha var.vanhyningii M.B.Foster)
一般的なイオナンタとは異なり、茎を伸ばして長く成長していく変わり種です。 しかし花や赤く染まった葉の美しさは他と比べて何の遜色もなく、イオナンタ好きの栽培棚に、必ず1株は転がっている植物でしょう。特に、上手く群生株に仕立てた場合など、息を呑むほどの美しさを誇ります。性質も非常に丈夫で、厳しい夏の暑さをものともしません。

変種マキシマ(T.ionantha var. maxima Ehlers)
本変種は2000年に新しい変種として記載されました。以前は「イオナンタ’ウアメルラ’(T.ionantha 'Huamelula')」という名で呼ばれていた、皆さんお馴染みのメキシコ産地域変異です。基本種よりもかなり大型で、しかも肉厚の葉に銀白色の鱗片を厚く纏った、なかなか素晴らしいイオナンタです。性質も基本種同様、非常に丈夫です。個人的な話題で恐縮ですが、数あるイオナンタの中で、私が特に好んで可愛がっているのがこの植物でもあります。また、滝沢会長に伺ったところ、本変種は原産地では岩生種として暮らしており、一般の栽培条件下(棚に転がしておくだけ・・・。)では、さほど大きくはなりません。大きく育てたい方には用土に植え込んでの栽培がお勧め、とのことです。
(※筆者註:本原稿の初出時には地域変異の一つとして扱われていましたが、その後、新しい変種として記載されました。)

イオナンタ園芸品種 ’フエゴ’(T.ionantha 'Fuego')
このイオナンタは近年、ガテマラのマングローブ林の中で発見されたもので、普段の姿は一般的なイオナンタとさほど変わりません。しかし、ひとたび開花を迎えようものなら、そのフエゴ(スペイン語で炎の意)という呼び名が示すとおり、まさに、燃え上がる火炎のような強烈な紅色に、株の中心部を染め上げます。そのドラマチックなまでの発色は他の追随を許しません。

イオナンタ園芸品種 ’ドゥルイド’(T.ionantha 'Druid')
これまで幾つかのイオナンタを紹介してきましたが、このドゥルイドは、それらとは大きく異なった魅力を秘めています。普段の見た目こそ、ちょっと小振りの一般的なイオナンタなのですが、なんと、その殆どが開花時に紅色に発色するイオナンタにあって、僅かにこのドゥルイドだけが葉を鮮黄色に染める上、さらには深紫色ではなく純白の美しい花を咲かせます。他のイオナンタに混じっても際だって目を引くその素晴らしさには、正に文句の付けようがありません。性質も他に劣らず、非常に丈夫です。

 以上、イオナンタの主な仲間について簡単にご紹介してきましたが、この他にもイオナンタには興味深い種類が数多く存在しています。この場は紙数が限られていることもあり、それらについての紹介はまた次の機会に譲ることとして、次に、イオナンタの一般的な栽培方法について説明していくことにしましょう。

2.栽培について
 冒頭でも少し触れましたが、イオナンタは全ティランジア中でも屈指の強健種ですから、ちょっとしたコツさえつかめば、どなたでも元気に絶やすことなく、栽培し続けることが可能です。しかし、最初にティランジアが世に出て宣伝された際の、「水をやらなくても育つ」という紹介が、あまりにもこの仲間の実情とかけ離れたものであったため、特に初心者の方などは、未だにそのような誤解に基づく失敗をしてしまう場合も多いように見受けられます。そもそも、イオナンタは他の多くのティランジアと比較しても、確かに乾燥にはかなり強い種類です。しかし、当たり前の話ではありますが、どれほど厳しい環境に生きる植物であっても、最低限、生きていくのに必要な水分を得る手段はもっているわけで、イオナンタを始めとする銀葉ティランジアの仲間もまた、その例外ではありません。彼等は原産地においては、苛酷な環境が和らぐ夜間に、葉の表面から霧や夜露などの水分を十分に取り入れることによって生活していますから、ただでさえ乾燥しやすい現代の一般家屋内で「水やりを一切せずに、」栽培を試みても、残念ながら、上手くいくはずもありません。
  それでは次に、一般家庭で調子よくイオナンタを栽培しようとする場合に、重要と思われるポイントを上げてみることにしましょう。

屋内での栽培場所
 イオナンタは基本的に通風と強めの日照を好みます。ただし、高温にはかなり弱い植物ですので、室温が極端に上がりやすい夏場には、特に注意が必要です。また、例え強い日差しが当たらない栽培場所であっても、長時間、真夏の締め切った部屋にイオナンタを閉じ込めてしまった場合、結局は日中の強烈な室温の上昇によって、やはり致命的なダメージを受けてしまいます。そのような事故を避けるには、夏場だけでも、北側の完全に日の当たらない涼しい部屋の窓辺に避難させるか、または、(詳しくは後述しますが、)ベランダなどの風通しの良い屋外に栽培場所を求めるのが無難です。

春〜秋季の屋外栽培
 イオナンタは一部の高地性のものを除き、「風通し」さえ良ければ、余程のことがない限り、屋外栽培で蒸れて枯死することはありません。さらには、ある程度の遮光下であれば、例え無風状態で真夏の強烈な日照に長時間晒されたとしても、余裕を持って、それに耐えることができます。もし夏場に、室内で蒸らして失敗してしまい勝ちな場合には、屋外栽培を選択肢の一つに加えても良いのではないでしょうか。
 ご参考までに、私個人のイオナンタ栽培環境を紹介しますと、(私は東京都在住です。)終日、日当たりと風通しの良いベランダに30%の遮光下で、4月から12月まで、雨ざらして過ごさせているだけで、他にこれといった工夫はしていません。基本的に、やや雨の当たり難い場所に栽培スペースを取ってある以外は、ほぼ完全に放置栽培なのですが、一部の高地性イオナンタを除いては何の障害も出さず、いたって元気に成長しています。またストリクタ・ファスティギアータなどの準高地性イオナンタの場合も、盛夏の時期だけ、北側の風通しの良い、日の当たらない場所に避難させれば、大抵の場合は安全に夏を越させることが可能です。

水やり
 イオナンタが他のティランジアと較べて、かなり乾燥に強い種であることは間違いないところです。実際に室内で栽培していく場合でも、一年を通して、4〜5日に一度、頭からジャブジャブ水をかけてやるだけで、水やりは充分に事足りていまいますし、成長を促進したい時は、この水にごく薄めた液肥を投入するだけで大いに効果が上がります。ただし、水やりの直後には必ず風通しの良い場所に置いて、水分の蒸散を促すのが肝要です。場合によっては、乾燥しきらずに株に滞留してしまった水分によって、蒸れによる酷いダメージを受けてしまう事があります。次に冬場の水やりに関してですが、流石のイオナンタも通常通りの水やりだけでは、真冬の日本の乾燥しきった室内では「株全体が痩せてくる」、「下葉が枯れ落ちてしまう」、などの乾燥障害を起こし易くなってしまいます。ただし、栽培場所のすぐ側に加湿器を置くだけで、これらの障害は殆ど防げますし、上手く環境が整った場合など、その加湿器による湿度のみで、それこそ直接的な水やり無しでも充分、健康に過ごさせることが可能です。イオナンタは冬に成長、開花を迎えることの多いティランジアですから、冬場の水やり管理には、良好なコンディションを維持できるよう、加湿器の使用を考えても良いかもしれません。

3.最後に
 さて、以上、イオナンタについて色々と書き連ねてきましたが、今もこの原稿を書いている私の机の回りには、様々なイオナンタが、あるものは花を付け、またあるものはコルクの樹皮の上でせっせと群生株を形作り、思い思いの姿で暮らしています。おそらく、我が家で一番多くの株数を占めているのも、この植物でしょう。私は国内のブロメリア商業農場の関係者である以上、一般の愛好家の方々よりも、遙かに莫大な量の、ティランジア属を始めとしたパイナップル科植物に触れる機会を持っているわけですが、これら3亜科56属、2千数百種に及ぶ大家族の中でも、私が最も興味を持って育て続けている種の一つが、実はこの場で扱ってきたイオナンタでもあります。 果たしてこの可憐な植物の魅力が、私の拙文で皆さんに伝わったかどうか・・・。
  筆者たる私にとっては、ひたすらこの項が、今まで、イオナンタを始めとしたティランジア属の植物に触れたことの無かった方々にとって、新たに、この素晴らしい世界に足を踏み入れるきっかけとなれば、と祈るのみです。また、既にティランジアを手掛けている愛好家の方々にも、これを機に、普段見過ごしてしまいがちな普及種の魅力に、再度目を向けて頂けたら、それに優る喜びもまた、ありません。

<了>

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