――光の庭 02
午後になって、いつも間近に居る筈の【相方】が見当たらないので、バルトフェルドは広くも雑多な格納庫内をぐるりと見まわした。
昨日、資料室に、嘗てプラントでは最新の技術でもって製作された、地球連合軍から奪取してきたモビルスーツが4体あった。
そのうちの1体、今は特殊任務遂行部隊隊長であるイザーク・ジュールが嘗て搭乗していたデュエルのパーソナルデーターを借りて来いとラウに告げ、言われた通りにデュエルのデーターが収められたディスクを持ち出して来てから、ラウは様子が可変しい。
もともと気まぐれで、その時によって良くしゃべったり、そうかと想えば黙り込んでぼんやりしているときもある彼だが、そうした気分のムラではなく、上の空であるように見えていた。
「バルトフェルド主任、どうしたんですか?ぼんやりして」
居ないその姿を探し、格納庫を見まわした後に、整備途中のゲイツを見上げて居ると、技士の一人にそう声をかけられた。
「いやなに、…相棒が居ないと落ちつかなくてね」
冗談めかして肩を竦めるが、密かに技士の間では【おしどり夫婦】の異名を欲しいままにしているバルトフェルドとラウだ。尋ねた技士には余り冗談ぽくは聞こえず、彼は『ああ、やっぱり俺も恋人作ろう…』なんて想ったわけである。
しかし、とバルトフェルドは溜息をつく。
(様子が可笑しいのはともかく……―――)
バルトフェルドは己の上着のポケットの中に突っ込んでおいた掌サイズの青いケースを取り出す。
ケースの真ん中辺りにまで満たされている青いカプセルを見遣って溜息をついた。
これが無ければラウは生きていけない。
このカプセルを作り出したのが何処の誰かは知らないが、薬の成分を研究し、効き目を延ばす事や強化する事が出来た。
それゆえに、以前ほど頻繁に飲まずとも済むが…それを置いたまま姿が見えない事が、何故か妙に気に掛かった。
最高評議会議長の執務室には、以前も足を運んだ事があった。薄暗い、まるで深海魚の水槽に囲まれているかのように感じられる執務室。広く冷たい、無機質な部屋だった。案内の兵士に連れられて、久し振りに通されたその部屋は、あの頃よりも明度はあったが、矢張り広くて冷たい部屋だった。
ほぼ2年ぶりになろう。この部屋へと入るのは。一歩部屋の中へ入り、けれど、ラウはすぐに足を止めた。この部屋に入る事を心が拒否するのは、嘗てこの部屋の主であったパトリック・ザラのせいだ。
扉から数歩離れただけのところで足を止めていると、執務机に座していたデュランダルが、意味ありげな笑みを漏らし、椅子から立ちあがった。
「来たな。……まぁそこに掛けてくれ」
デュランダルは片手でソファを示す。以前は無かった応接セットがそこにあり、柔らかなソファと、優美な曲線を描くテーブルが置かれていた。
それを見ても、心はまったく動かない。この部屋で幾度嫌な思いをした事か。それを思い出すと、尚更にこの場から逃げ出したいような気持ちになり、ラウはただ蒼い瞳を細め、無感動にその応接セットを眺めやった。
しかし、いかほどに拒否を感じようとも、ここから逃げ出すなど出来ない。己が逃げ出せば、必ずバルトフェルドを脅かす事になってしまう。
それだけは―――。
己を死と絶望の淵から掬い上げた男。とてもとても大きくて、深くて、優しい、【キレイ】な男だ。
失いたくないと想う。
「どうした?……クルーゼ…」
「……別に…」
執務机を離れ、応接用のソファへと足を向けていたデュランダルが不思議そうな様子で首を傾げる。それに素っ気無く答え、ラウは真っ直ぐにソファへと向かい、腰を下ろした。
ラウがソファに腰を下ろすのを見届けると、デュランダルは手ずから紅茶を煎れてくれた。嘗てのこの部屋の主であったならば有り得なかった事だが。けれど、出された紅茶にも、すぐに手をつける気にはなれずに、ただ眺めていると、その向かいへ腰を下ろしたデュランダルが小さく笑った。
「まさか、こんな再会があろうとはな…」
旧友にでも語りかけるかのような口調。ラウは僅かに視線を伏せるまま、伺うようにデュランダルを見遣った。
それからおもむろに胸元のポケットから細い銀鎖を引っ張り出す。双眸を細めて見遣るデュランダルへ向け、ラウは手にした銀鎖を投げつけてやった。光を微かに弾いて飛んだそれを、デュランダルは迷いも無く受け取り、掌の上へと広げて見る。
細い銀鎖。その先に角の丸い銀色のプレートがあった。彫り込まれた文字を目で追い、デュランダルは思わず笑みをもらす。
「どういうつもりだ、これは」
「わたしが、…わたしであるという証拠だ。一応、な…」
投げられたそれは、銀色に輝くドックタグだった。軍人であれば、誰もが首からかけている。それは、モビルスーツに搭乗して戦場に出ていたラウも同じ事だろう。タグの面に刻まれた文字を確認するように撫で、なるほど、とデュランダルは肩を竦めた。
「それで、どうして君はここにいる?」
「……」
僅か身を乗り出すようにして、デュランダルはラウの顔をまじまじと見る。以前であれば、仮面に隠されていた素顔。晒されているその面が興味でも引くのか…ラウは少しだけ双眸を細めて溜息をついた。紅茶に手を伸ばしかけて、その前にある器に目が止まる。
「正直なところ、わたしにも説明は出来ない…あの戦争の後、2ヶ月近く眠ったままだったのでね…」
器には、些かこの部屋の主には不似合いにも想える柔らかい色合いの包み紙に包まれたキャンディーが盛られていた。仲間の整備士にも飴玉が好きな少年がおり、新作が出たと言ってはわけてくれることをぼんやりと思い出しながら見ていると、そこへデュランダルの手が静かに伸びた。
盛られたキャンディーを一つ取り、ラウへ差し出してくる。
「わたしを助けたのは、バルトフェルドらしいが…」
差し出されたキャンディーを受け取り、包み紙を剥がして口の中へ入れる。広がるのは甘いミルク味。美味いな、と想いながら舌の上でキャンディーを転がしていると、デュランダルが微かに笑みを漏らすのがわかった。ちらりと視線をやれば、デュランダルの黒い瞳は、ただ静かにラウを見つめている。
「暫くはバルトフェルドとオーブに居たが…おまえも知っての通り…バルトフェルドへプラント帰国の要請があり、わたしは身元を偽ってついてきた…それだけだ」
事の顛末を簡潔に語ろうとすればそういう事になる。眠っていた間に保護してくれていた少女のことや、オーブに身を寄せるに至る経緯など、語るべき事ならば他にもあるが、それを細かくデュランダルに語ってやろうとは想わない。最も、彼が望むのは、その細かい部分であるのやも知れないが。
それだけ、と、言葉を括り、ラウはデュランダルを見遣る。もう行っても良いか、と尋ねるが如くの視線をやり首を傾げると、デュランダルは矢張り小さく、双眸を細めて微笑んだ。
「先日の様子であると、…アスランとイザークも君の存在を知っているわけか…」
「………」
デュランダルは確認するかのように問いかけ、先ほどラウが投げたタグを指先で弄ぶ。ラウは、そのデュランダルへタグを返せと手を差し出した。一応の証拠の品だ。相手の手にあるままにはしておけない。
だが、差し出された手を見つめ、デュランダルは悪戯に首を傾げた。
「どうした?」
「…それを返せ」
言われて、デュランダルは手元へと視線を流す。指先で銀鎖を弄りながら、こちらへおいで、と笑うと、ラウは露骨に表情を顰めた。それでも、ラウに選択の余地は無い。ここへ、タグを残して出て行くような真似は出来まい。案の定、ラウは立ちあがるとテーブルを迂回して、デュランダルの座るソファの横に佇んだ。
「わたしは、おまえが望んだ通りに話をした……もし、おまえがバルトフェルドに何かしたら…」
「するはずがない」
蒼い双眸は、真っ直ぐにデュランダルを睨んでいた。
タグを返せと伸びる白い手は、以前ならば白い手袋に包まれていた。
あの頃垣間見る事の出来なかった白く細い指は、現在は技士をしているせいだろう、その白さも細さも変わってはいないのだろうがどこか荒れてかさついているようであり、細かい傷がちらほらと目に入る。デュランダルは自然、眉を潜めた。
バルトフェルドを気遣い言い募るラウの声を、些かきつい調子で遮り否定を返し、デュランダルは一息に伸ばされたラウの手を、強引に己の方へと引き寄せていた。
「な、っ!?」
「どちらにしても、バルトフェルド主任には興味がないのでね」
想わぬ事に、ラウの身体は大きく揺らぎ、あっさりとデュランダルの腕の中へと倒れ込む。即座に両足を抱え上げられ、背がソファのスプリングを軋ませて、柔らかなクッションに沈むのがわかった。
その瞬間、ラウは突然に引き倒されたせいではない、視界の揺らぎを覚え、数度瞬きをした。目の前に微笑んでいるデュランダルが居る。その声音が酷く曖昧に甘く、遠く聞こえ、ラウは思わず首を横に振った。かぁ、と全身が熱い。
「あぁ、もう効いてきたのか」
「なに?」
怪訝そうな顔をするラウの目の前に、デュランダルの手がちらつく。その手の中にあるものを見て、ラウは途端に蒼い双眸を怒りに染めた。その手の中にある包みは、淡い色合いの包み紙。その中身が先ほど食べたのと同じキャンディーであるのは一目瞭然だった。
「貴様、…ッ…」
睨みつけるその蒼い双眸の鋭さに、手負いの獣のような印象を与えられ、一瞬手を触れることが躊躇われる。けれど、その瞳もまるで誘うように艶めいて濡れていれば、躊躇いもすぐに深い笑みに変わる。
「そんな顔をして……誘っているようにしか見えない」
「…な、にを…ッ…く、わたしに触るな!」
顎を捕らえ上げたデュランダルの腕を払い退けようと、ラウは腕を上げるが、払い退けるよりも先に、力なく震えソファの上に落ちる。先ほど、フイ打ちで飲ませた薬が相当効いていると見え、デュランダルは笑みを深めた。
最近、年若い整備士達が、スティックのついた飴玉を咥えている姿を見る事があった。あるいは使えるかと思い、飴玉を差し出してみればこれだ。嘗て、あれほど用心深かった仮面の策士も、環境が変われば、こうも変わるものなのか。
瞳と同じように蒼い整備服の襟元を開くと、既に中のアンダーシャツの生地を押し上げるようにして、胸の先は固く尖っていた。顔を近づけてその耳元へ囁きかけ、片手を胸元へと滑らせる。
「捕まえたものの言う事を、なんでも聞くのだろう?」
胸元へ振れる手の感触に、ラウはぞくりと背筋を震えさせてデュランダルを見た。蒼い双眸は、恐ろしいなにかを見るかのように驚愕に満ちる。言われている意味がわからないわけではないようだ、と、意味ありげに笑みを深めてやると、ラウは首を横に振った。
どの道初めてなどではあるまい。曲りなりにもバルトフェルドとは恋人同士という間柄で2年過ごしているようでもあるし、それ以前とて、数度パトリックの執務室や私室を出入りする姿を見ている。今更どうということもあるまいと横に振られた首には見向きもせずに、アンダーシャツの中へ、片手を忍びこませた。
「や、…っ……め…」
恐怖にか、拒絶にか。固く強張る身を解かせようとは思わない。すでに熱の上がった肌は熱く、柔らかな肌触りを感じさせる。
一頻り、肌のその熱を楽しむように胸元や鎖骨、首筋を撫でた後、徐に胸の先へと指先を触れさせた。手を押しのけようとする手首を片方、ソファへと縫い止めるように押し付け、逆の指先で痛いくらい強く、胸の先に爪を立てる。
固く立ちあがる先に爪を擦りつけると、痛みに甘い悲鳴めいた声が上がった。
「ぁ、っ…いっ…痛…っ…やめ、ろ…っ」
「却下だな。こんな機会、2度となかろう…」
爪を立てた先端を、今度は宥めるように指の腹で柔らかく愛撫する。
ぴくんと固く指を押し上げる先端の感触に笑みを漏らし、抗議の声を封じるように、デュランダルはラウの唇へ、己の唇を重ねた。
噛みついて、くるだろうかと少し考えて見るが、思考に反して口付けに答えるラウの仕草は、与えられる痛みに近い感覚を宥めようとするかのようで、ぎゅ、と蒼い双眸はきつく閉ざした瞼に覆われ、自らねだるように押しつけられる口付けは予想以上に甘い。
それでも、こんな反応が2度とないだろうことは、己でも述べる通りわかっていることだ。
バルトフェルドの地位と、ラウの現状。それをもう一度脅し文句にでもしない限りは。
2度と手には入らない、2度と手にすることは叶わぬ、この熱。
一時の事であろうとも、自分のものになるのだろう身体が、どうしてか、デュランダルには酷く愛しい――。
自覚は無かった。
ラウ・ル・クルーゼ。孤高の策士の背に見る憧憬?あるいは劣情か。ただ、己の手の内で歪む端正な表情は酷く美しい。
パトリック・ザラが…他幾多の男たちが、この存在に溺れた理由も理解出来る。
バルトフェルドも、そのうちの一人なのだろうか?そして、己も?
段々と抵抗も弱まり、身も背も無く喘ぐラウの姿を目にしながら自問自答する。だが、答えは無い。
快感を欲して、柔らかく立ちあがる胸の先端に舌先を絡め、吸い上げると震えていた身体は一層大きく震えて跳ねた。びくびくと背筋を逸らして身を揺らす仕草に、胸への刺激だけで達してしまった事を知り、デュランダルは漸く胸元から顔をあげた。
苦しげに吐息を吐き出して胸を喘がせるラウの表情に魅入り、笑みを漏らす。
「これくらいでイかれてしまうと、些かつまらなくもあるな…」
「ひぁ…っ…は、ぁ…」
一人ごちながら、今だ刺激を欲しがるように充血する胸の先を指で弾いて笑う。
びくん、とまた震える身体を満足そうに見下ろし、焦らすように今だ衣服の上から下肢に触れてみれば、濡れた感触は布越しにも当たり前のように伝わってきた。ふるふると、横に振られる首、揺れる金髪を眺めては、デュランダルは幾度と無く、ラウの瞼や頬、唇にキスを落とす。
確かに濡れている事を知らしめるように衣服の上から指を擦りつけ、もう片方の指で再度胸の先端を摘み上げながら、その耳元へ吐息を吹きかけてやると涙に潤む蒼い瞳が、縋るようにデュランダルを見た。濡れる蒼に、ぞくりとさせられる。無意識に乾いた唇を舐め、デュランダルは下肢に触れていた手を離し、直接衣服の中へ潜り込ませていく。
「ぁ、あ…んぅ…ふぁ…ぁ…っ…や、…ぁぁ…っ」
途切れる事なく漏れる嬌声に瞑目し、しとどに濡れた下肢の先から蜜を拭い取るように指を動かせば、甘い声と共に更に蜜が溢れて行く。くつりと喉を鳴らし、何時の間にか縋るように伸ばされ、デュランダルの首筋に巻きついていたラウの両腕に笑みが漏れた。
「まったく…こんなにして……」
ぬるりと濡れた感触を残すようにして、下肢からデュランダルの指が離れると、ラウの身体はびくりと震えた。
濡れた指を見せ付けるようにして、ラウの眼前へと揺らして差し出し、その指で唇をなぞる。羞恥に頬を染め、顔を背けるラウの仕草に笑みを見せ、やんわりと焦らしながら、下半身から衣服を奪いとって行く。
脱がしながらゆったりと太ももを撫ぜ、下腹部をくすぐるように触れる。デュランダルの指先の動き一つで様々な反応を返す身は、最早デュランダルの支配下にあった。
華奢な腰を抱え上げ、体勢をうつ伏せにさせて腰だけを高く上げる格好にさせる。デュランダルの目の前に晒される事となった後口へ、そのまま蜜に濡れた指を押し込んで行こうとすれば、きつい抵抗にあった。
「痛っ…や、…いや、だ…ッ…」
快感と痛みが交互にくるせいか、ラウの理性は正気と快感の合間を常に漂い、堪らない羞恥を感じさせる。己の現状を自覚するたびに、悔しさに涙が落ち、すぐさま震える程の快感を感じた。
指を締め付ける抵抗も意に介さず、デュランダルは内を探るように指を動かす。深く差し込んで奥を刺激すると、抵抗が少しだけ緩む。逆に指を引こうとすると、まるで引き抜かれることを嫌がるみたいにきつく締めつけた。
腰を支える腿が細かく震える様を見遣り、戯れに内腿を撫で下ろす。すぐさまびくりと腰が跳ね、奥にあるデュランダルの指を締めつけ、下肢の先からは蜜がぱたぱたとソファの上へ滴り落ちた。
いかに、飴玉ひとつで薬を盛ったとはいえ、別段強い薬というわけでもない。敏感過ぎる反応に、想わず漏れる笑みは堪えようが無く、荒い吐息を漏らすラウの様子を眺め見ながら、ゆっくりと指を引き抜いて行く。きつく締め付ける感触も無視をして指を引き抜くと、後口は物欲しげにひくりと震える。
口を焦らして突つき、デュランダルはその耳元へ甘く囁きを落とした。
「どうして欲しい?」
「んぅ…っ…は、ぁ…ぁ…ん、ぁ…も……っ、と…」
「もっと?」
求める意味はわかっているが、わざとわからないという様子で首を傾げ、デュランダルは入り口の所で指を遊ばせる。淡く充血したそこを指の腹でなぞり、軽く押してみる。すると、ひくん、とそこは緩み、腰が震えた。
「ぁぁっ…ん、…く…んぅ…も、っと……、…お、…く…」
羞恥に頬を染め、強請る事が屈辱なのか…唇を噛み締めながら、ラウが途切れ途切れに口にする言葉に、デュランダルは笑みを浮かべた。
もっと、貶めてやりたいという欲求を堪えられそうも無い。
奥、という要求にずるりと一本指を沈めてやり、感じるだろう場所からは微妙にはずれた場所を指の腹で刺激する。
最早ここまでくれば、指くらいの刺激では物足りないだろうことがわかる。
中途半端な刺激を与えて指を引き抜き、その反応を伺えば、きつく双眸を閉ざし涙に濡れた頬が見えた。
「ん、ぁ…ぁ…は、ぁ…」
「どうした…なにが欲しいか言ってくれないと……わからんな…」
意地悪く囁いて耳朶を噛む。なにか、ラウが小さく声を漏らすのが聞こえるが、わざと聞こえない振りをしながら、デュランダルは自身の衣服の襟元をのんびりと解き始め、腰を持ち上げた格好のまま、苦しげに息を吐き出すラウの様子を眺める。
羞恥に頬を染め、涙に潤む蒼い双眸がデュランダルを見つめ、なにかを言いかけて口が開かれたが、すぐに閉ざされる。
こくん、と吐息を飲み込む仕草までもが、デュランダルを煽り、上に着ていた衣服を脱ぎ落とし、軽く寛げると、ラウの身体を腕の中へ引き寄せた。
まだ、熱い身体が心地良い。再び向き合うような格好にさせ、両足を大きく開かせる。核心を避けるようにして肌のラインを辿り、胸元から腹部へかけてをゆったりと指でなぞると、ラウは息を詰めた。
理性はそろそろ、如何ほども残ってはいまい。
もう一度、耳元へ囁きを落とす。
「どうした。なにが欲しい?」
甘く優しく誘うように囁きかけると、ラウの唇がその誘惑と刺激に堪えかねて震えて開かれる。
屈辱にか、双眸からぽろぽろと涙が落ちるのに瞳を細め、デュランダルが指先を伸ばして涙を拭うと、一度息を呑んだ後、ラウは震えて声を発した。
「いれ、て…くれ…」
「なにを?」
「……ん、っ……」
羞恥と屈辱に耐えて口にしても、更に言葉は重ねられる。これ以上、なにを口にしろというのかと、ラウの蒼い瞳は呆然とデュランダルの悪魔のような微笑を見つめて震えた。
だが、逃れようもない疼きは身体の奥底から熱く身を苛む。
「議…長の……っ…お、…ん…ん…」
「聞こえんな。もっと大きな声で言ってくれ…」
聞こえていなかったはずは無いだろうに。無情にも返す声音は楽しげで、そして冷たい。ぶる、と大きく震えたラウの身を引き寄せるように抱きしめて、デュランダルはその唇を指先でなぞる。
今にも噛み切らんばかりの力で唇を噛み締めるので、赤く充血してしまった唇を撫ぜ、再び誘うように柔らかく身体を、今度は視線で辿っていく。
ただ一言いえば楽になれるとわかるが、はっきりと口にするのが苦痛で。その苦痛はデュランダルもわかっているだろうに、その一言を待って、デュランダルはそれ以上動こうとはしない。
「ぁ、…っ…んぅ……」
「言わないなら、ここで終わりにしても構わないが…それでは辛いのは君だな…」
まるで人事のように言いながら、デュランダルの指先が後口へと触れる。
もう、ほんの些細な刺激にも、びくびくと腰が跳ねて震え、堪え難い快感を生み起こす。それに堪えかねて、ラウはきつく双眸を閉ざし、噛み締めていた唇を解放した。
「は、ぁ…ん…っ…いれて…議長の、……お…んん…っ…」
「…良い子だ…」
囁くように耳元で告げ、望まれるままに指先を触れさせていたそこへ、指の変わりに大きく成長した楔を押し込む。締めつけるような抵抗に合うが、それを無視して深く繋がりあえば、甘えるような鳴き声があがり、後は深い快感と熱だけがそこに存在していた。
想像していた以上に快楽に弱く、けれど、どこか不慣れな感覚。そのアンバランスさが酷く欲情を煽る。けれど、理性を手放すラウの、無意識の声は、酷く、高揚とした気分を裏切るものだった。
「あ、…ぁあん…うぁ…いや、…だ…ぁ…助け、…バルト、フェル、ド…」
デュランダルに縋りつき、与えられる快楽に翻弄されながら、それでも求めるものはたった一人でしかない。
それを酷く、想い知らされたようで―――。
「バルトフェルド!貴様!聞いているのか?!」
大声で怒鳴られて、バルトフェルドは初めて目の前のコンピューターが延々とエラー音を発している事に気がついた。
目の前にあるゲイツの開かれたままのコックピットから、白い軍服に身を包んだイザークが、バルトフェルドを射殺しそうな形相で睨みつけている。
「あ、あぁ、すまん……接続の続きか?」
「……あぁ!もう良い!貴様、あっち行ってろ!…レイ・ザ・バレル!変われ!」
後にも先にも、開発責任者に、あっち行ってろ!などと怒鳴るのはイザーク・ジュールくらいだろう。コックピットから飛び出して接続コンピューターの前からバルトフェルドを追い払い、変わりに部下のひとりをゲイツのコックピットへ押し込んだイザークは手早くキィボードを操作して、プログラムのチェックを進めて行く。
その合間、矢張りどこかぼんやりとしているバルトフェルドを睨みつけ、イザークは盛大なため息をついた。
「おまえ、…ク…じゃなかった…ルーチェを探して来い!ったく…うっとおしい…!!」
「え?」
探して来い、といわれて、バルトフェルドはぐるりと格納庫を見まわした。
矢張り、まだ、ラウは戻っていない。自分は、彼がいない事が、それほど…そう、仕事に身が入らなくなるほどに気になっていたのかと、改めて知る。
ぽかんとした後に、イザークを見遣る。
どこかイライラとした様子のまま、乱暴にキィを操作しているが、その指さばきは明瞭だ。
それに合わせるようにして、ゲイツのメインプログラムの調整をする、イザークの部下…ラウと同じ金色の髪の少年の手際も素晴らしかった。
ちら、とレイの視線がバルトフェルドに向く。すぐにその蒼い視線は伏せられたが、イザーク同様、探しにでも行けと言っているようだった。
「…………………あー……すまんね。…ちょっと、出掛けてくる」
「見つけるまで帰ってこなくて良いからな。でなくば邪魔なだけだ」
申し訳なさでいっぱいになりながら遠慮がちに告げるバルトフェルドに向けられるイザークの返事は、酷く辛辣だった。
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