Back←     →Next

トラジロウ Torajiro

 いらない子として育ったトラジロウは
いらない子として捨てられた。

 大きな体に恐い顔のトラジロウ。
 生きるため、弱くてもろい自分をその後ろに隠し
 だれにも頼らず生きてきた。
 
 悪ガキたちに、荷造りヒモで
お腹をくくられた時も負けなかったが、
それを一生懸命に解いてくれる
若い夫婦を見て少し気を許した トラジロウは
一晩だけ新しい家族の腕の中で眠った。
 
 次の日からトラジロウは
新居中にオシッコをふりまいた。
 抱こうとした家族の腕は
数え切れないほどキズだらけになった。
トラジロウの喧嘩の仲裁をした家族は
腕を五針も縫った。
 トラジロウは年をとっても
抱かれる事を許さなかった。
 
 病気で死ぬ前の日
トラジロウは抱こうとする家族の腕にツメを立てず
うなりをあげていた喉をゴロゴロ鳴らした。
 
 トラジロウは知っていた。
 大きな体と恐い顔の後ろに隠れた
小さなトラジロウを家族はちゃんと見ていたこと。
 色々な事があっても家族は
トラジロウが居るだけで嬉しそうだったこと。

 トラジロウは死んだ。
 家族の腕の中で眠るように死んだ。

 トラジロウがお気に入りでかぶっていた
帽子の中に、穏やかで幸せそうなトラジロウの
写真が一枚入っていた。

NEXT