スプリング ナンバー ワン
第9話 朝






そんなこんなであまり眠れなかったサンジであるが、明け方、少しうとうとしていたらしい。目を覚ますといつの間にかいつも通りゾロに絡まっていた。どうにも寝ているうちに自然に絡まってしまう。
この体温が悪い。
と、サンジは思った。
ゾロの身体はやけに体温が高く、冷え性のサンジには触れると非常に心地良い。
(やっべえな……)
暖かい臥所から逃れ難く、鼻先まで布団に潜りこんだままだらだらとゾロの寝顔をサンジは眺めた。
すると、ゾロの耳朶の付け根あたりが切れて、赤くなっているのに気付いた。よく道に迷ったと言っては細かな傷を負って帰ってくるので、またどこぞで小枝に耳でも引っ掛けたのかも知れない。本当にこの男は絶望的なほど方向音痴だ。目と鼻の先ほどの距離の学校へ通うのに迷子になるというのも分からないが、一体どこで擦り傷が出来るような場所を通り掛かるのかも分からない。
そんなことを考えながら、徒然に切り傷になったゾロの耳を観察した。
血の滲んだらしい跡がカサブタになっていた。
そのカサブタが半分剥げかけていたので気になって、指でつまんで強引に剥いでみた。サンジはそういうのが気になる性質だった。結果カサブタは綺麗に剥がれたが、ちょっと血が出てしまったので、今度は舐めた指でちょいちょいつついて唾をつけてやった。そしてふーふー吹いて乾かした。
ゾロは相変わらず熟睡している。
鈍いヤロウだな、と少し呆れた。
だが、もう少しと思って、ふう、と吹いた息が首筋にあたると
「……ん」
と僅かに眉を寄せて声を漏らした。
(お、なんだ、敏感だなオイ)
ししししし、と中年親父のようにサンジは忍び笑いした。眉間にシワを作りながらも熟睡している大男というのは存外可愛らしい。
俄かにイタズラ心が湧いてきて、意図的に唇を耳の穴に近づけて、ふう、と吹いてやると、ますますゾロの眉根は深く寄る。
しししししし、とまた親父っぽい笑いを漏らして、いや、何やってんだオレ、アホか、と正気に戻り、サンジは寝なおすことにした。まだ時刻も早く、外は薄暗い。
改めて布団の中でもぞもぞと動き、しっかりとゾロの身体にしがみつく。これが一番寝心地が良い。
うとうとしながらゾロの耳朶を仕上げにちょいと突付き、足を絡めて眠りにつこうとした時に、違和感に気付いた。サンジの腿の辺りに、何か硬いものがあたっていた。その硬いものがゾロのモノだということに思い当たるまでそう間はなかった。
「?!」
なんだこりゃ。
サンジは恐る恐る布団の中を覗き込んで目視による確認をしてみた。

勃起していた。

朝っぱらからヤバいもん見ちまったぜ……とげんなりしながら布団の中から顔を出し、いや待て見間違いかも知んねえ、と思ってうっかり再度確認作業を行い、やっぱり間違いなくガチガチに勃ちまくってる危険物を安穏な寝床の中に発見して冷や汗をかいてしまうのであった。
「すげえな……」
寝乱れ放題に寝乱れて最早着ていないに等しい浴衣の裾から、前の部分がこんもりと盛り上がった下履きが覗いている。その突っ張り具合が並大抵でない。オレぁ男だぜ、と力強く主張せんばかりの突っ張り具合なのだ。
それを見るうちに、サンジは段々心配になってきた。
(こんなに勃起しまくってて、目が覚めるまでにおさまるのかな……)
その可能性は低いように思われた。
(てゆうか、やっぱオレのせいなのかな……息、ふーっとかしたし……あれで感じちゃったのかも知れねえ……ツラも行動も親父並みに見えてもこいつ、ナミさんのウソ真に受けるような初心な書生なんだぜ……)
オチャメもほどほどにしとかねェとな、と、ちょっと自らのイタズラ心を後悔した。
だがまあ放っておくより他無いように思われたので、そのまま寝なおすことにした。

「…………」

書生部屋は玄関のすぐ脇にあるので、玄関の柱に掛けられた時計の音がやけに大きく聞こえる。
窓の外がようよう白み出したが、サンジはまだ眠れていなかった。
(しまった……ゾロの勃起が心配でなかなか眠れねェ……)
心配と言っても何をどう心配するべきなのか分からないが、漠然と心配だった。ひとはあんなにも力強く勃起した状態で果たして安眠することが出来るのだろうか。朝起きたら、こいつ、すげェ股間が疲れてんじゃねえの、大丈夫か本当に。
「…………」
だがあれから結構時間も経過したわけであるし、好い加減おさまったか。
そう思って布団をめくり、中を確認した。
「……!……!」
全然おさまっていなかった。
サンジは声にならない絶叫を堪えつつ、今は何刻くらいだ、と気を揉んだ。
ゾロが目覚めた時まだ勃起したまんまだったら、隣りで寝てる自分としては一体どんな反応を返せば良いのだろう。
上手く寝てるフリが出来ればいいが、絶対唇とかひくひくする、と思った。そんなあからさまな寝たフリ、余計気まずい。気まず過ぎる。
だからって「よぉ、凄ェ勃起だなァ」とか冗談で紛らわすことも出来ない。
(だってオレは清純な聖母のはずなんだから!)
思わず自慢の金糸の髪を掻き毟りたくなった。懊悩でいっそ一思いにゾロの首でもしめてやりたいくらいの気分になってきた。首というか、いっそ、その凶悪な股間の息子のほうを縊ってやりたい。縊るか。そしたらクタッとするだろ、死んで。
「はッ!そうだ!」
そこまで考えて、サンジは突然、ポン、と手を打った。
(こいつが目ェ覚ます前に、抜いてやりゃあいいじゃねえか!)
清純な聖母と同衾してるっつーのに不謹慎にも勃起してたりしたら、こいつが傷ついて自分を責めたりとかしちゃうかも知んねえしな、とサンジは思った。
そうと決まれば早速、とばかりに下履きに手をかける。
サンジはその思いつきを
(名案だ!)
とか思っていたのであった。
これだから養父が彼を心配して海になんか出したがらないわけなのであった。

サンジはゾロの股間に手を伸ばしやすい位置まで身体をずらした。目の前にゾロの腹のあたりがくる。布団を少しめくり、作業の邪魔にならない程度に、けれどゾロが寒くて目を覚ましたりしないように掛けなおす。ゾロは都合良くサンジのほうを向いて、横向きに寝ていた。
腿のあたりまで下げた下履きから、ぴょこんと膨らんだナニが飛び出した状態で、ゾロはまだ眠っている。多分に間抜けである。
(うぁ……凄ェやべえな……)
うっかりチラッとそのブツを見てしまったサンジは予想外の寸法に多少の衝撃を隠せなかった。サンジの持ち物より大きいし黒いし血管がゴツゴツしている。ちょっとやそっとじゃ萎えねえぞオレぁ、と全力で主張してくる息子さんだった。
(クソ、負けられっか!)
何に対する対抗心なのか分からないが、サンジは意を決して、その力強い勃起に立ち向かうため慎重に指を伸ばした。
そっと握ると、ずっしりとした手応えがあり、熱く脈打っていた。
(く……こりゃ想像以上に壮絶に気色悪ィ)
まだ寒い春先の朝だというのに、額からじんわりと汗が滲んできた。
まずは軽く指先を揃えて竿を擽ってやった。
「……う……うぅ」
頭の上から低い呻き声が聞こえてくる。
そのまま柔らかい刺激を続けると、先端の部分がひくついて亀頭の部分が盛り上がってきた。透明な液でサンジの指までベタついてくる。お、こりゃ、いい感じなんじゃねえの、と思うと気色悪いながらもサンジは何故だか嬉しいような気がしてきた。あの仏頂面の書生がサンジの手で、気持ち良くなってるらしい。まさか意中の聖母にこんなご奉仕をされてるなんて、夢の中でも思っていないんだろう。そんなふうに考え、意中の、という自分の思考に少々甘酸っぱい気分になったりした。
この男は自分のことを好いてくれているのだ。
そんな男の持ち物なのだと思うと、この息子さんのためにもっと頑張ってやってもいいか、とサンジは張り切った。
軽く滑らすだけだった指を持ち替えて、しっかり竿を握る。中指で縊れてる部分を擦りながら、先端の、ぬめっとした穴のあたりを親指と人差し指で小刻みに刺激してやった。
「う」
ひくッ、とゾロの太腿が強張った。
下腹にグッと力が入ると、反り返ったナニの先にぷくりと少しだけ濁った液が出てサンジの指を濡らした。嫌悪感はなかった。ますますサンジは得意になって、ぐりぐりと自分でもここは弱い、と思われるゾロの粘膜の部分をいじった。竿のほうまでどんどんぬるぬるになってゆく。はやく射精させてこの息子さんを元通り寝かしつけてやんねえと、と気合入れてもう片方の手も添え、玉のほうまで揉んでやろうとした。その頭上から
「何してやがんだ、てめえは……」
押し殺したような、低い声が掛けられた。
いくらなんでも、ここまでされて目が覚めないわけがなかったのであった。



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05/1/14
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ここまで長かった……!ようやく18禁部分にたどり着きました……!(あーあー)