あの小さなレストランは、ちょっと前までオレの生活の全てだった。
料理も好きだったし、料理人になりたいと思ってた。
けど、ジジイが出てけって言うんなら仕方無いと思ったし、別の暮らしを始めることにした。
もう充分に育てて貰った。
今では、あんなに、毎日そこに居て当たり前だと思っていた、あのレストランに、ちっとも行っていない。
毎日でも、遠くから見るくらいは出来るだろうと、こんなに近所に住んでるけど、なんか、あれ以来いっぺんも行ってないんだ。ジジイのレストラン。
ゾロに会って、楽しかった。
なんか、最初から、一目見ただけのときから、面白くてたまんない奴と思ったんだよ。
でも、ゾロが遠くに行くって言うんなら、仕方無い。
これで、ゾロの居る、この生活も終わり。
ジジイが、本当はオレに出て行って欲しくないって思ってるんだってわかったときは嬉しかった。それなら、レストランに居なくても、オレはシアワセだ。
ゾロはオレのこと好きっぽいと思う。
むしろ愛してるといっても過言ではないだろうと予想している。
だったら、それでいい。
新しい生活は、またきっと、楽しいものであるだろう。



オレはこの町で暮らす。
給料が出たら、すぐに冷蔵庫を買おう。
そして新しい毎日が始まる。
自分専用の冷蔵庫のある暮らしだ。
愛すべき、その日々。






ラブリィ スイート ホームタウン
コーダ(3)






相変わらず部屋の中は真っ昼間の様相で、隣りの部屋のテレビの音も聞こえてくる。

油を使うと存外上手く指が入った。
調子にのって、そのまま挿入されたら思いのほか痛かった。
サンジは「うう」と唸ったが、ゾロも「うう」と唸った。
入れるほうも、痛いということはあるらしい。
「うう」っておそろいで、ちょっと仲良しっぽくねえ?とサンジは思った。
いわゆる正常位ではサンジに負担がかかるようなのでバックから入れて、今、ゾロは洗濯物の山に埋められたサンジの横顔や、ぐっと握り締められたサンジの手の甲ばかり見ている。
「おい、平気か」
もう何度目になるか分からない質問をした。
サンジはただ頭をこくこくと振って答える。
だが平気なわけが無い。
ゾロが腰を使うたびにサンジの背中も上下する。
さすがにその体内は狭く、奥までは入らない。
負担をかけないように浅めのところで出し入れをすることにしたが、それでも痛いのだろうか、ぎゅっと握った手のひらを、赤ん坊のようにニギニギと動かしてどうにか我慢しているらしいのが窺える。
中のほうもきついが、入り口のところが特にきつくて、切れていないかと、ゾロは心配になってきた。
確認しようと指でゾロをくわえ込んでいる、まさにその縁のところをなぞってみたら、
「ひゃ」
と、サンジが背中を撓らせた。
「ん?」
予想外に、甘い声のような気がしたので、ゾロはサンジの股間に手を伸ばして確認してみた。
やっぱり、感じているようだった。
先刻のようにそこは突っ張って、先走りを漏らしている。
「テメエ……気持ちいいんか?」
「や……い、い、痛い、んだけど、なんか」
「なんか?」
「なんか……気分的に……」
気分的?とゾロは復唱する。
「き、気分的に、盛り上がってきた……」
「……そりゃ良かったな」
「ううっ、どうしよう、オレとゾロはひとつになっちゃってんだな。あー、今度ナミさんに会ったりしたら、まぁサンジ君綺麗になったんじゃない、とか言われちゃうんだ、どうしよう、さようならキヨラカなオレ、おい、聞いてんのかゾロ」
「へーへー」
こんだけ喋れんなら平気だな、と踏んでゾロがまたグイと腰を動かし出すと、
「あ」
と小さく慌てたような声を上げて、サンジが顔を伏せる。
そして再び、小さな漏れ声の他は静かになる。
「なあ」
きゅうきゅうに締め付けてくるサンジの内部に、ゾロの息もあがってきた。
まっすぐな背骨のラインを、目を細めて見る。
きついから痛いだけなのか、それともこれは快感の一種なのか、火照るような熱が、サンジと繋がっている部分から上ってくる。
気持ちイイという以上に気分が高揚しているのは、ゾロも一緒だった。
「おまえ、どうして、あんとき途中で帰っちゃったんだよ」
「…………んん、な、に」
「あの、さ、前、オレんちで、オレが、引っ越す話したとき」
「ああ……あれ、だって、あっ、思ってたのと違っかったから」
「なにが?」
「ん、む、無理、話す、の、…う……」
「……そうかよ」
ゾロは、ぐ、と一度奥まで押し込んで、そこで静止した。
「すげえな、ココ」
「ふあ!あ、触んなっつってんだろ」
「……あー、触んねェから、言えよ」
「あ?」
「何が違ったって?」
サンジの顎に手で触れて、上を向かせる。
キスしようと思ったが、唇が届かなかった。後ろ向きの姿勢を、不便なものだと思ったのは、初めてだった。
「んん……だって、テメエ、の、童貞をいただこうと思ってたのに」
「……別にどうだっていいじゃねえか」
「うん、まあ、どうでもいいな。オマエがオレのこと愛してるのはよく分かったしな」
「……そうかよ」
「なあ、ゾロ」
「あ?」
「また会おうな、次、帰ってきたら」
「たりめェだろ」
「その頃までには、オレ」
サンジの滑らかな背中に腹を押し付けると、たまらなくなって、つい、少しだけゾロが腰を動かした。
「んあ、て、てめえ、ひとが喋ってる途中でどうゆう了見だ!」
「あー……イきてえ」
「無視かよ!」
「んや、無視してねえよ、話せよ」
随分ゆっくりと腰を揺すりながら、ゾロの声は微妙に掠れていた。
それを感じた途端に、何だかサンジもたまらないような気になって、話の続きはどうでもよくなってしまった。

その頃までには。

その頃までには、ジジイのレストランの手伝いとか、ゾロの筋トレの見学とか、そういうのじゃなくて、自分自身の生活を始めていたい。
そんな話をしようとしていたのだけれど。



皆様と一緒により良い町をつくってゆきたい、と、遠くからスピーカーの声が聞こえる。またさっきの選挙演説の車が近づいて来ているらしい。
それとも、同じような演説をしているだけで、別の候補者の車なんだろうか。
からからから、と窓のサッシを開ける音がした。
隣りの部屋だろうか。
この部屋の外では、普段通りの昼下がりが繰り広げられてるんだと思うと不思議な気がした。
身体はすっかり痺れて、痛いとも気持ち良いとも分からなくなってきた。
ただ、熱い。
いつまでもゾロ任せにしているのもどうかと思って、自分から腰を動かしてみることにした。
これは案外上手くいった。
どんどん気持ち良くなってくる。
サンジの動きに合わせて、ゆっくり腰を揺すっていたゾロも、リズム良く突き上げてきた。
何だか、一体感があった。
二人で頑張ってる、という気がしてきた。
変な声を出さないように、一生懸命堪えながら、
(合体って、すげえ)
と、サンジは感無量だった。
正直言うと、ソコは気持ちいいのか、そうでもないのか良く分からないが、リズム良く揺れる振動がたまらなかった。背中に時々かするゾロの腹筋の感触もイイし、なんか、はぁはぁいってるのが聞こえるのもイイ。
凄く気分が盛り上がって、感動でちょっと泣き出しそうだった。
でも涙は見せねぇぜ、男のコだもんな。
頑張ってサンジは我慢した。
涙も、変な声も、突っ込まれた場所の痛みも。

単調に突き上げられるうちに、「もうすぐイくかな?」という感覚が迫ってきた。
何か、思っていたより時間がかかる。
そして穏やかだった。
気持ちも、快感も。
変だ、と思いながら、気持ちいいのを堪えようとしたり、逆に集中しようとしたりする。
「サンジ……」
耳もとで、名前を呼ばれた。
かーっと頭に血が上るような気がした。
「ふぁ」
(オレ、変な顔してねェかな)
そんなことが気になった。
(声、出したい)
ぎゅうっと全身に力が入る。
耐えるように、口許を引き結んだサンジを、ゾロは背後から眺めていた。
とりあえず手近なものを握って我慢しようとしたのか、その白い手には例のゾロのぱんつが握り締められていた。そもそもソレが一番手近に出ているのはおかしい。自分の衣類より上に置かれているのはおかしい。
けれど、その真っ赤に染まった項のあたりや、声を出すまいと力の入った顎や、まん丸な後頭部が、健気に思えてきた。
何でこいつがこんなに頑張ってんのか、よく分からないけど。
全力で一生懸命な様子に、たいがいだと思いながらも、流されてしまう自分を自覚せざるを得なかった。
こいつはオレを好きらしい。
このちょっとどうかしてると思うような男を相手にこんな感想もなんだが、可愛い、ような気がしてしまう。

そんなに手ェ握り締めて、我慢してんなよ、なあ……

何だか、何でもしてやりたいというような気分になった。
その握り締めてるぱんつもあげてもいいとまで思った。
「……声、やっぱ出さねえか」
熱っぽい手でサンジの耳を撫でながら、ゾロが言った。
「…………ッ」
「お?」
「………く」
もうイく、とサンジの口は動いた。
「くはは」
ゾロは笑った。
「はは、てめえ、さっきは、言えなかったもんなあ」
「……ッせえ!……はぁ、あ、んう……」
「……おいちょっと我慢しろよ」
ぐい、とサンジの腰を高く抱えなおしてゾロがぴったりと動きをとめた。
「な……?」
「あとちょっとだ」
「な、に」
「声、出すのだよ」
「は?」
いいから黙ってろ、とばかりに、ゾロはそれ以上は口を利かず、サンジの股の間に手を入れ、べとべとに濡れた性器を握ると、軽く引っ掻くように刺激することを続けた。
(たまんねェ)
それでなくとも声を我慢するために集中できなくて苦しいのに、そんな生殺しのような愛撫を受けて、ひくひくとサンジは肩を震わせた。

この町で生きる、この町で生きる、よりよい社会を皆様とともに、ありがとうございます、ありがとうございます

随分間近に、選挙の車の演説が聞こえてきた。
「聞こえんだろ……?もうすぐ角曲がんぜ」
ゾロの言う通り、次第に近づいて来ていた騒音がクリアに聞こえだし、このアパートの脇の道を進路にとったらしいことが想像出来た。
アパートの少し先にはゾロが走り込みのあと休憩する公園があって、あのあたりは駅前に通じる道でもあることから、しばしば選挙や何かの団体が、演説したりするために立ち止まる場所だ。
「我慢すんな、サンジ」
突然大きくゾロが動いた。
サンジの前へまわした手も、ゆるい動きから、露骨に快感を与えるための、搾りだすような動きに変わった。
「あ……!」



そして何もかも、騒音の中に飲み込まれた。







04/5/27

 


いつまでエロなんだよ・・・・・・次回最終回予定です。
予定。
予定・・・・。