ストーブの無いサンジの部屋で、この春先、一番居心地の良い場所は陽のあたる窓の側だ。
そこにゾロは陣取って、ミルミルを飲みながら漫画本を読んでいる。
サンジはすることもないので仕方なく、ゾロのすぐ隣りに腰掛けて、一緒に日向ぼっこをするハメになった。
なんなんだ、この状況は。
なんだかもの凄く頭痛がしてきた。
あと、やっぱり凄くドキドキする。
自分でも不思議なくらいだ。





ラブリィ スイート ホームタウン
コーダ(1)





「…………」
ついさっきあんな別れ方をしたというのに、今は寛ぎきって漫画読んで笑ってる男を、サンジは恨めしく眺めるしかなかった。何しろ、何と言葉をかけていいものか思いつかない。先刻の別れが、サンジに多少の屈託をもたらしていた。
だが、好い加減退屈してきた。
というか、生殺しのままだった。
「したいようにする」
と言ったゾロは、何をしでかすかと思ったら、部屋へあがりこむなりこの有り様で、全くもって何がしたかったのか分からない。
ちょっとは期待したのに、なんだよ。
お、おまえの好きにして、とか口走りかけてたのに、なんだよ。
ほんとに全く、なんなんだよ。
冷たくなってきた爪先を、こっそりゾロの背中の下に潜り込ませながらサンジは心の中でぼやいた。相変わらず、ゾロの体温は高かった。
時間経過に耐えられなくなってきたので、ここらでちょっと確認してみようと思った。
「オイ」
「あ?」
「テメエがしたかったことってのは、ひとの部屋で漫画読むことかよ」
「あー……まぁ、それに近いな」
「…………」
サンジは返す言葉も失って、とりあえずゾロの背中の下にもぐりこませた爪先をもぞもぞやってみた。もうちょっと暖まりたくなってきたので、足の甲くらいまで思いきって突っ込んでみた。ゾロの身体がテコの原理でちょっと斜めになった。

一体全体、さっきのケンカはなんだったんだよ……
そんでオレのドラマチックな別れの決意は、一体ドコへ。

あまりにものどか過ぎるお友達的光景に、さすがのサンジもテンションが尽きかけていた。
「あのよ」
もう一度話し掛けてみた。
「あ?」
ゾロは漫画から目を離さずに応える。
「オマエ、いつ、発つの?」
「あー……明日」
「……随分、はやいな」
「ああ」と応えながら、ゾロはふと視線をあげ、サンジと目を合わせた。
「帰ってくるからよ、ゴールデンウイークとか、夏休みとか、冬休みとか」

したら、またテメエんちに来る。

ゾロはそう言った。
「来んのかよ……」
「おう、来る」
「なんで」
「楽しいからに決まってんだろ」
ぐい、とサンジの足がゾロの下で動いて、ゾロの身体が前のめりに傾く。
「テメエと居んの、面白ェ」
あと、メシも旨ェし。
ごろりとゾロが寝返って、サンジの方を向いた。
体育座りに座ったサンジの爪先の上に、今度はゾロの胸が乗った。
あたたかかった。
なんだよ、とサンジは思った。
なんだよ、なんだよ。
ひょっとして、好きか嫌いかで言ったら、ゾロはオレを好きなんじゃねえの?
結構好きなほうなんじゃねえの?
そうか。
好きか。
オレのことが大好きか。



そうだよな。



なんたって、いきなり抱こうとしたくらいだもんな。
「へへ……」
それなら、それでいいや。
もう、いいや。
そうか、なんだ、ケンカして損しちまったな。
ゾロはオレのことが好きで、離れても、また会えんだ。
そうだ、また会えるんだ。
ちょっとふしだらで童貞じゃなくてオレを置いて引越ししようとかする人でなしだけど、まあいいや。
多少の譲歩は必要である、とサンジは考えた。
というか、折角の仲直りムードを壊したくなくて必死だった。
だって明日でゾロは居なくなってしまうのだ。
今日一日、こうなったら、ゾロを満喫する。
満喫しまくる。
本日ゾロ最終日、本日ゾロ最終日、とサンジは変な独り言を言った。
そして「うし!」と気合を入れた。
まず手始めに、キスだ。
「おい、ゾロ、キスすんぞ」
そう言ってかがみこむ黄色い頭に、思わず
「本当にこれでよかったのか」
という疑問が胸を過ぎるゾロであった。
ちゅっ、と唇が触れ合って、サンジが嬉しそうに笑う。
くくく、とゾロも笑った。
「しょうがねえな」
ほんとに、しょうがないヤツだ。
愛されるってことは、しょうがないことなんだと、ゾロは観念した。
向かい合わせに横になり、手首を掴まれて唇を合わせる。
溜め息が漏れた。
巣立ちの日は誰にでもあるのだと、サンジは観念した。
明日居なくなる恋人(ダチ禁止)の隣りに並んで寝転びながら。
手を繋がれて、キスされながら。





いつの間にかキスに夢中になっていた。
こんなに気持ちイイもんだとは思わなかった。
全身筋肉でごつくて固いと思っていたゾロの口内が思いがけず柔らかであることに、サンジは密かな喜びを得た。
これはゾロの身体の内側なのだ、と思った。
これはゾロの身体の柔らかな内側の部分なのだ。
それが自分の口へ吸い付いてくる。
唇の裏側にある、より柔らかな部分に舌を這わせると、ますますキスを深くされる。
単に酸欠のせいなのかも知れないが、全身が気だるく痺れてゆく。
凄ェ、とサンジは思った。
オレ、凄ェゾロのこと好きだ。
やっぱオレの愛は真実の愛だわ。
凄ェな、オレ。
ゾロの手はサンジの腹のあたりに伸びてきて、胴幅を確認でもするみたいに腰周りを撫でまわした。
じわじわと、触れられた箇所から染み出すように、もどかしいような不思議な感覚が広がってゆく。
シャツがたくし上げられ、分厚い手のひらが潜り込む。
すい、と撫で上げられると、その跡を追うように、何とも言えぬこそばゆさが肌の上を伝って行った。そしてその指が胸の突起を摘むと
「あ」
とサンジの口から鼻に抜けるような甘い声が漏れた。
(うわ、すげえ、マジでエロい声、出た)
サンジは我がことながらうっかりびびった。
(ほんとに声、出るんだ、ほんとにあんな声出るんだ)
何か、とりあえず誰でもいいからその辺にいる人に報告したいような気分になった。
でもその辺には誰もおらず、ゾロしかおらず、ゾロはサンジの乳首を揉んでいる当人なので報告する相手としては相応しくなく、仕方がないのでこの発見はさしあたってサンジ一人の胸に収められることになった。
「ん、んん……あ、…んッ?!」
胸の奥の小さな秘密の小箱にこのささやかな驚きをしまいこむヒマもなく、今度は股の間へと差し込まれたゾロの手に、サンジは慌てて体を起こしかけた。
「あ、ちょっ……やめッ」
反射的に両腕を突っ張ってゾロの身体を離そうとする。
思い切り腰をひいたサンジへ、ゾロが
「イヤか?」
と問う。
「悪かったな。……キスはするのか?口開けろ、オラ……」
あっさりと手が離された。
ちゅっと唇の端にキスされた。
「え、ちょっと」
サンジは驚いた。
「あ?」
「や、や、ええと、や、やめないで下さい」
勇気をふりしぼって主張してみた。
「あー?」
まるでサンジの言うことが分かっていない様子のゾロにサンジは焦れた。
「……ッ、ちんこ掴めっつってんだ、このアホゾロ!続けろ!やめッ、とかオレがかわいい声出したくらいでやめんなってんだ!甲斐性無し!」
「……オマエ、すげえ勝手なヤロウだな」
「勝手じゃねえだろ?恥じらいだろ?イヤも止めても恥じらいのセリフに決まってんだろ?」
「は?恥らうタイミングが遅ェよ、とっくに始まってんだろ、今更なに言ってやがる。乳首はよくってちんこは恥ずかしいってのかよ」
「ったりめェだろ、オレの乳首は可憐だが、ちんこはさっきからガッチガチに盛り上がってんだよ、秘密にしときたいに決まってんだろ?照れるに決まってんだろ?オレぁ処女なんだぞこのアホがぁ!」
「はっ」
アホか、とゾロは鼻で笑おうとした。
そしたら、ケンカごしのこくせに耳まで赤くなっておまけに涙目のサンジと目があったので、鼻ではなく、本当に本気で噴出して笑うハメになった。
「だはは、はは、なんだ、テメエ、なんつー顔してんだよ、マジで」
しょうがねえな
と、本日通算何度目か分からないが、ゾロはまたそう思った。
必死なサンジの顔を見ていたら、髪とか、撫でたくなった。
本当に、しょうがない。
何もかもしょうがない。
もともと口数の多いほうのゾロでは無いが、何か気の利いたことでも言ってやりたいと少しだけ思った。
キスしながら股間に手を伸ばしたら、今度はサンジも拒まなかったものの、やっぱり驚いたふうに身を竦ませた。ゆっくり指を這わせると、そこは本人の申告の通り、既に勃起している。何で始めたばっかりでこんなにしてやがんだ、と思うと、そこはそれ、男心をくすぐったりしなくもない。
「は……あ、ん」
普段の声とはまるで違う、甘い声音に、ゾロも背筋から腰へと痺れが降りてゆくのを感じた。
有り体に言うと、キた。
「この……っ」
ぐい、とサンジの足の間へ自分の膝を割り込ませると、衣服の上から熱心にそこを擦り出す。
「あ、ちょっ、あッあッ、おあーーー!」
「……あほっ!」
「ひうッ」
感極まって一際高く喘ぐサンジの口をゾロが慌てて覆う。
「声ッ」
「……むぐ……んんん」
「声、出しすぎだ、隣りに聞こえんだろ」
「んん……!」
声を出せないように押さえつけられたまま、サンジは頷いた。
「おし、手ェ離すぞ」
「んん」
そっと口許から手を離しながら、反対の手で下肢への愛撫が再開される。
輪郭をなぞるようなゾロの手の動きで、布地の上からもはっきりとその形が分かる。
どんどん濡れてきているのが自分でも分かった。
やばい。
ぱんつの中がすげえことになってる。
てゆうか声出してえ。苦しい。
「んん、ん」
苦し紛れに足をじたばたさせたが、そんなことでゾロの手は緩まなかった。





04/2/22

 


おわ・・・おわらなかっ・・・・・・
これ以上放置すると見捨てられそうなので、もういっそ思いきり中途でアップ。ヒィ。