久しぶりに金髪を連れてアパートを出た。
何となくだがパソコンとしての使い方も分かった気がしたので、ノート代わりに使う事にしたのだ。

また放っておいて寝込まれても困るしな。

あの一週間も別にあえて無視してた訳じゃなかったのだ。バイトが忙しかったり、課題が出たりして、まあ、多少は顔を合わせ辛くて避けてはいたが、まさか嫌われてると誤解して動かなくなるとはな…。
「ゾロ?」
歩く速度を落としていたおれを金髪が不審そうに振り返っている。
そういうつまらなそうな顔をしてても、本当はおれに構って欲しくて仕方ないのかと思うとなんとなく、なんとなく…。
「何ニヤけてんだ?」
「!!」
指摘されて、思わず口元を覆った。
この間から、金髪は人の顔見て赤いだの笑ってるだの、いちいちチェックを入れてくる。
しかも真顔でだ。かなり反応に困る。
茶化してる訳でもないし、どちらかと言えば確認作業みたいな感じだ。
酷く居心地が悪い。
「…お前、それ止めろ」
「え?」
「いちいち、おれの状況を言うな」
「…了解」
微妙な真顔で金髪が頷いた。
歩く速度を上げて金髪を追い抜く。

慌てて追い掛けてくる金髪の足音に昔飼ってたバカ犬を思い出した。

鎖を千切って逃げ出して、とうとう帰って来なかった。
道に迷ったのか、車にでも跳ねられたのか、それとも新しい飼主を見つけたのか。
空っぽの犬小屋を見て、可愛がっていたのに薄情なもんだとガッカリして2度と飼うもんかと思った。
実際、ペットを飼ったのは後にも先にもそれだけだ。

「…パソコンって、勝手にどこか逃げ出したりしねーよな?」
「はぁ??」
金髪がサッパリ意味が分からないという顔で首を傾げた。
「パソコンが逃げ出す?どこかってどこだ?命令なのか?!」
「…いや…まあ、そんな訳ねーよな」
「おい、1人で納得するな。処理出来ねー話をするな!ずっと考えちまうだろーが!」
「今の話は忘れろ」
金髪は一瞬、凄い嫌そーな顔をしてから瞬きをした。
どうやら、記憶を削除したらしかった。




***

「なんか、サンジ君の肌と髪、艶がないわ」
大学に着くと、ナミが開口一番に言った。
「は?」
「あんた、ちゃんとサンジ君のメンテナンスしてあげてるの?」
嫌な予感がした。
「お風呂入れてあげてる?」
「・・・・」
今、一番考えたくない話題だった。
「何で入れてあげないの?あんたのアパート、一応風呂付いてんでしょ?」
「面倒くせぇ」
「サンジ君」
ナミが手招きして金髪を呼んだ。
誰ともしゃべるなと命令してあったので、金髪が困ったような顔をしておれを見た。
また動かなくなって、便所の個室直行なんて事は御免だからだ。
「どうしたの?」
ナミの問いかけに金髪がふるふると首を振った。
「しゃべっちゃいけないって言われてるの?」
金髪がチラッとおれを見た。アホか、そんな風に見たら…。
ナミの口が嫌な感じに笑った。
「あんた、そんなに独占欲強かったんだ〜。そう、サンジ君が他の人と話するのも妬けるの?」
「そうじゃねーよ。またお前と話してフリーズすんのが嫌なだけだ」
「失礼ね、私のせいじゃないわよ!ねぇ、サンジ君?」
金髪がコクコクと頷いた。
「ほら、違うって言ってるでしょ」
「…しゃべっていいぞ」
もう勝手にしろ。おれを会話に巻き込むな。
「ああ、ナミさん、久しぶりv今日も凄くキュートですね!」
「ありがと。ところでサンジ君、お風呂の入り方知ってる?」
「え?」
「身体の洗い方」
「ああ、おれ入浴ソフトはインストールされてないんです」
「まーじゃあ、ゾロに洗ってもらうしかないのね」
「え?ええ。まあ…」
ナミと金髪が揃って、おれの方を見ている気配がしたが無視だ、無視。
「でもゾロがあんな調子じゃ、いつまでもサンジ君、お風呂に入れないわね」
「仕方ないです。これも運命。甘んじて受け入れます」
「サンジ君可哀想。こんなに綺麗な肌なのに」
「ナミさんの方が綺麗です」
「あら、ありがとう。でも、本当に勿体ない…。私、勿体ない事って嫌いなのよね」
「だったら、お前が風呂に入れてやればいいだろ」
二人のイライラするような会話にキレて言った。
「いいけど。お金取るわよ。1回5万ベリー」
「アホか!そんな金あるなら入浴ソフト買った方がマシだ!」
「なら、ネットから無料の入浴ソフトダウンロードすればいいじゃない」
「…タダか?」
「タダよ。フリーウェアならね」
それは知らなかった。



***

アパートに帰ってから、早速そのタダのソフトを金髪にダウンロードさせた。
「インストールしていいんだな?」
「…ああ」
少しして金髪が目を開いた。
「プログラム、実行するか?」
「…何だ、そりゃ」
「入浴ソフトを動かすかってコトだ」
「ああ、動かしてみろよ。風呂場でいきなり溺れられても困るしな」
「じゃあ、実行するぞ」
金髪がいつもの半眼で固まって、突然訳の分からん歌を歌い出した。
歌詞を良く聞くとどうやら風呂に入ると言いたいらしい。
歌と共に服を脱ぎ散らかしながら、風呂場に向かおうとしているらしい。

おい、まさか…ここで全部脱ぐ気か?
ギョッとするほど白い肌に慌てて視線を反らした。
「風呂桶、空だぞ?」
完全に服を脱いだ(落ちてる服から見てそのはずだ)金髪は風呂場のドアを開け、中に入った。
「給湯器の電気入れるか?」
内心焦りつつ、玄関横にある給湯器のスイッチを入れた。
「終わり」
金髪が風呂場のドアから顔を出して言った。
「は?」
「実行終わり」
「はぁ?」
「入浴ソフト、ここまでだった。風呂場に入るソフトだったらしい」
「アホか!必要なのはその先だ!」
「…じゃあ、違うやつダウンロードしてみる」
「いいか、身体を洗うソフトだぞ!」
「うるせェな、ごちゃごちゃ言うな。検索したら10,623本もヒットしたんだから…」
金髪がブツブツ言いながら、さっきと同じインストール作業を繰り返した。

これで、ようやく大丈夫だと思ったのもつかの間。
海外のソフトだったのかボディブラシがないと洗えないとか、シャワーがないと駄目だとか、自分じゃなくて人の体を洗うソフトだったとか、なかなか上手く行かなかった。
「もう、いい。服持ってろ」
金髪に服を渡して、風呂の蛇口を捻った。
「おれが洗う」
「!!」
「何だよ、文句あんのか?」
返事がないので、金髪の顔を見ると赤くなって目を反らしている。

何だ?その反応は?!

「…変な事するなよ」
「誰がするか!!パソコンのくせに変な気回してんじゃね−よ!」

イライラと風呂桶に湯が溜まるのを待った。
家電だ、家電。洗車すんのとようは一緒だ。
どんなに見た目が人間ぽくても、股間とかあっても人間じゃねーんだから。物体だ、物体。

「…なあ、お前が洗い方教えてくれれば、自分で出来ると思うんだが…」
「あ?」
「皿洗いと、基本は一緒なんだろ?」
「…そういや、そうだな」
「これ使うのか?」
おれが握りしめてたナイロンタオルを金髪が摘んだ。
「そうだ、これを湯で湿らせて、石鹸を擦り付けて…」
どうやらおれの説明を理解したらしい金髪をおいて、風呂場を出た。
どっと疲れた。
時計を見ると、帰ってきてから一時間も経っていた。
時間を有効に使うためのパソコンのはずなのに、かえって時間を無駄に使ってるような気がした。
「おい、これからバイトだからな。なんか困った事があったらウソップに聞け。タオルはここ置いとくからな!」
慌ただしくアパートを出た。



***

バイトから帰ってみると、金髪の髪の毛がメチャクチャになっていた。
「…なんだ、その髪は。爆発にでもあったのか?」
「絡まった」
「絡まったって…お前…」
「‥ウソップは帰って来ねーし。櫛も見つからねーし…」
ガックリ肩を落とす金髪の髪を手グシで解いてやろうと思ったのだが、かなり根深く絡まっているらしく、ギシギシといやな手触りだ。
「おい、無理に引っ張るな!イテ−だろ!抜けたらどーすんだ!」
金髪が必死で根元を押さえる。
「人間じゃねーんだから、抜けたら生えて来ねーし、切れても伸びねーんだぞ!」
あんまりギャアギャア喚くので、手を離した。
「イテーって、そんな感覚ねーだろ?」
「アホ、パソコンにだって痛覚はあるんだよ!まー、大昔のパソコンにはなかったけどな」
「へぇー」
そこでふと、気がついた。
「お前、髪の毛何で洗ったんだ?」
「石鹸つけたナイロンタオルで…。何だよ?お前さっきそうやって洗うって言ってただろ?」
しばし金髪と睨み合った。
「…おれは髪が短いからな。普通はシャンプーで洗うんだよ」
「シャンプー?」
「髪の毛洗う専用の洗剤だ」
「…そんな便利なもんがあんなら先に言えよ!」
金髪が右手を出した。
「うちにある訳ねーだろ」
「…なんで?」
「おれは必要ねーから」
明らかにショックを受けたらしい金髪のぐるぐる眉毛が情けなく下がった。

「…分かった、買ってきてやる」
「い、いいのか?」
「しょうがねーだろ、この場合」
「そ、そうだよな。お前が原因な訳だしな」
ムゥっとした顔で俯く金髪に朝の仕返しがしたくなった。

「お前、嬉しいなら素直にそう言えば?」
一瞬で真っ赤になった金髪に思わず吹き出した。

「う、嬉しい訳ねーだろ!」
焦って喚く姿が増々ツボにはまり、笑いながら部屋を出てコンビニに向かったのだった。



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