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ゾロを起こさなきゃと思った。
8時00分。
いつものように蹴り起こそうと思ったのに、なぜか寝ているゾロの横に跪いた。
――あれ?
勝手に腕が上がって、ゾロの顔の両脇に手をついた。
―んん?
肘の関節が折れて、身を乗り出す姿勢になる。
おい、待て!
必死で腕を伸ばそうとするのに言う事を聞かない。
――これって、まさか…?!
慌ててデータを開く。
タイマーの設定がパターン3になってやがる。
誰だ、こんな事しやがったのは!!
初期設定ファイルの書き換え時刻は、昨日ゾロがチュートリアルをしていた時間帯だった。
こいつか!
何してやがんだ!
叫びたかったが、もうゾロの顔が目前に迫っていて、ギュッと目を瞑った。
唇に柔らかな感触。
1、
2、
3まで数えたところで、ゾロがおれの頭を抱きかかえるように腕を伸ばしてきた。
吃驚して、ギョッと目を開いた。
…何だコイツ?
昨日はホモじゃねぇとか言ってたくせに、やっぱりそうなのか?本物なのか?
突然、ゾロの舌が侵入してきて、勝手に動き回る。
何やってんだ?…寝ぼけてんのか?
しばし拷問に耐えていたら、ゾロが唐突に目を開いた。
「?!!――何しやがんだ!テメェ!!」
ゾロはそう叫んで、おれを力一杯突き飛ばした。
ドガンと押入の襖に激突した。
衝撃で襖が外れる。
ゾロがおれのマスターじゃなかったら、再起不能なまでに蹴りを入れてやるのに。
なんでこんな理不尽な目に合わなくちゃならねーんだ。
なのにプログラムは絶対。
「おはよう」
勝手に笑顔を作る。
でも、必死に抵抗したから、少しは歪んだはずだ。
「おはようじゃねーだろ!」
ゾロが物凄い形相で仁王立ちしていた。
おれは女の子のユーザーと幸せになれるはずだったのに。
どうしてこんな鬼のようなやつと暮らさなくちゃいけないんだ。
「おれだって好きでキスした訳じゃねーよ!お前が昨日、タイマーのパターンを3にしたんだろ!」
「なんだそりゃ」
「パターン3は『眠れる森の美女みたいに王子様のキスでお目覚めv』なんだよ!」
「アホか!んなもん変更すりゃいいだろ!」
「自分で勝手に変更出来ない項目なんだよ!おれだって野郎にお目覚めのキスなんかしたくねーよ!」
「だったらスリープ前に言えよ!」
「おれだって変更してあるのに気付いたの起きてからだったんだよ!たかがキスくらいでガタガタ言うな!第一、舌を突っ込んできたのはお前だろ!」
「んだと、このアホパソコン!」
ゾロが掴み掛かってきた。
さっきよりもっと怒ってる。
なんだよ、おれとキスしたのが、そんなに嫌だったのかよ?
頭の中で猛烈にデータが動いて、――暗転した。
***
気付いたら、夕暮れだった。
「バイト行ってくる」
そう言い残してゾロが部屋から出て行った。
9時間も止まっていたらしい。
――9時間も放って置かれたんだ。
そう思ったら、胸の辺が苦しくなった。
ゾロはおれが嫌いなのかもしれない。
コンコンとドアがノックされた。
「はい、どなたですか?」
「カヤ2号です」
ドアを開けると、カヤ2号ちゃんがニコリと微笑んだ。
「ウソップさんから預かって来たんです。ゾロさんに渡しておいてもらえますか?」
「ああ、ありがとう。今、バイトに行ってるから、後で渡しておくね」
パソコン入門の漫画だった。
「サンジさん、暗い顔してます」
「え?」
「ゾロさんと喧嘩でもしたんですか?」
カヤ2号ちゃんが心配そうに言った。
「いや、喧嘩っていうより、おれ…嫌われてるみたいで…」
声に出したら、ますます胸が苦しくなった。
「大丈夫ですよ。ゾロさん、パソコン自体にあまり慣れていないだけだと思います。私もあまり良い顔してもらえませんから」
「カヤ2号ちゃんも?」
「ええ。最初は目線も合わせて貰えなかったんですから」
こんなに可愛い女の子型パソコンなのに?
「でも、サンジさんが来てから少しゾロさん変わりました。パソコンに興味を持ち始めたみたいですね。きっとサンジさんに興味を持ったんだと思います」
「そうかな」
「そうですよ。ゾロさんはパソコンショップで沢山のパソコンの中からサンジさんを選んだんでしょう?わざわざ嫌いなパソコンを買ったりする人はいませんよ、ね?」
ニコニコ笑って、カヤ2号ちゃんが帰っていった。
ゾロはどうして野郎型のおれなんか買ったんだろう?
分からない、分からない。
――おれが考えても答えは出ないのだ。
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