一大決心で、ぶ厚いマニュアルを引っ付かみ、バックに押し込んだ。
今日は講義の空き時間があるから、どこかでゆっくり読もう。そう思った。

金髪はまたフリーズすると困るのでアパートに置いてきた。



「ゾロ!」
大学へ向かう途中、ウソップが後ろから声を掛けてきた。
「おう、ウソップ。早いな」
立ち止まってウソップが追い付くのを待った。いつもどおりカヤ2号も一緒だ。

「サンジ連れてきてねーのか?」
「ああ…フリーズされても困るからな」
「あ?フリーズ?原因は?」
「さぁ?」
「さぁって…普通、簡単にフリーズしたりしねーぞ」
「おれが知るかよ」
「せっかくパソコン買ったんだから有効に使えよ。講義もノート取る必要なくなるんだからよ」
「そうなのか?」
「おい…。カヤ2号、教えてやれ」
ウソップは呆れて言った。
「パソコンは講義の内容を音声で記録したり、内容をテキストにして保存する事が出来るんです。もちろん、サンジさんも出来ますよ。プリンターに繋いで印刷も出来ますけど、紙とペンがあれば手で書く事も可能です」
ニコリとカヤ2号が笑った。
「それで皆パソコン連れて大学に来てるのか」
「何のためだと思ってたんだよ?」
「…ペットみてーなノリだと思ってた」
その答えがウソップのツボに入ったらしく、しばらく笑っていた。
「お前、マニュアル読んでねーだろ?」
「昨日少し見た」
「マニュアル読むのが面倒なら、サンジに説明してもらえばいいだろ?チュートリアル入ってたはずだぞ」
「なんだそりゃ?」
ウソップの代わりにカヤ2号が説明してくれた。
「パソコン入門者がはじめに受けるレクチャーみたいなものです。電源の入れ方、基本動作、使用方法、メンテナンス方法など、一度聞いておくと良いですよ。マニュアルを読むより分かりやすいですから」
そんな便利なもんがあるなら、さっさと言ってくれりゃーいいのに。
1限が終わって、3限までの空き時間、面倒だったがアパートに戻る事にした。




「あれ?早いな」
金髪はスーパーから戻ってきたところだったらしく、冷蔵庫に食料を詰め込んでいた。
「チュー何とかってやつ、お前に入ってるのか?」
「…チュートリアル?」
「それだ」
「ああ、入ってるけど?」
「んじゃ、説明しろ」
「良いけど、今から? …まあ、いいけどさ。30分くらいかかるぜ?」
金髪は、付属品の入ってた段ボールから小さなディスクを取り出すと耳のカバーを開けて差し込んだ。
「座れよ」
そう言って、おれに座ぶとんを出した。

「最初の電源の入れ方から?」
「電源はいい。もう知ってる。次から」
「了解」
そう言って、いつものように機械音が始まった。
「…では、キーボードとマウスを接続して下さい」
言われて、昨日やったようにキーボードとマウスを取り付けた。
「次はTVとの接続です」
昨日と同じに線をつなげた。
「TVの画面で説明を開始します。TVの電源を入れ、ビデオ入力画面にして下さい」
TVを付けると、画面の真ん中にピンク色の卵があって、中からヒヨコが生まれた。
なんだこりゃ?
あっけに取られているとヒヨコが喋り出した。どうやらこいつが説明をしてくれるらしい。
自己紹介はいいから、さっさと始めてくれ。

「では最初に、ディスクトップの説明です」
ものすごい初心者向けらしい。アイコンとか、カーソルの説明を始めた。
「次はマウスの説明です」
ヒヨコが丁寧にマウスの持ち方、クリックとドラック、ダブルクリックの説明をした。
こんな初歩からの説明か…と少し青ざめた。それくらいはおれも知ってるんだがな。
早送りとか出来ねーのかなと思っていたら、キーボードの説明が終わった。
「次にタイマーの設定をしてみましょう。まず、この左上にあるピーチマークをクリックして下さい」
アヒルの説明とともに、画面左上にマジックで描いたようにグルっと円が描かれた。
クリックするとまた説明が始まった。
「カーソルを移動させて、コントロールパネルをクリックして下さい。クリックするとウィンドウが開きます」
また画面にマジックの円が描かれる。
分かりやすい…が、バカにされてるような気もしないではない。
クリックすると、画面にウィンドウが開いた。
「タイマー設定のボタンをクリックして下さい」
探す手間もなく、画面に赤丸が描かれる。クリック。
「パソコンを目覚まし時計代わりに使う場合は、ここに希望の時間を入力します。なお、この設定は対話モードでも入力出来ます。またEe1-90000シリーズでは、起こし方のパターンを選ぶ事が出来ます」
丸が描かれた場所にあった矢印を押して8時と入力する。
…起こし方ってのは何だ?パターン3まであったので、パターン3をクリックした。
「入力が完了したら、OKをクリックしてこの項目は終了です」
クリックすると、最初の画面に戻った。
「次はスリープの設定です」
もう知ってると思いつつも、赤丸が描かれるので仕方なく付き合った。
面倒だ。
すでに飽き始めた。

「では次のチュートリアルに進みましょう。次はパソコンの基本的な説明です。パソコンの記憶はディスクトップにあるLOGというフォルダーの中にテキスト形式で保存されています。パソコンは人間と違い、過去の事を忘れたりしません。1年前の事でも昨日の事のように正確に思い出す事が出来ます。このLOGフォルダーの中にあるテキストをゴミ箱に捨てるとパソコンは記憶を無くしてしまいます。取扱いには十分注意して下さい」
赤丸で囲まれたLOGフォルダーはハート形をしていた。
「また、LOGテキストは3ヶ月を過ぎると自動的に圧縮されます。圧縮されたテキストを読み込んだり、検索したりするのには少し時間がかかりますが、問題はありません」
ヒヨコがコホンと咳をした。
ハートの下にあるバックに丸が描かれる。
「書類フォルダーには、ユーザーの作成したファイルが保存されます。アプリケーションソフトで作られたファイルも、基本的にすべてこのフォルダーに保存されます。アプリケーションソフトについては、付属のアプリケーション入門チュートリアルで説明を行います」
だんだん意味が分からなくなってきた。

「最後にメンテナンスの説明です」
画面にTVのようなものが現われて、ヒヨコがリモコンでスイッチを入れた。
「日常生活でパソコンを使用する事は、私達と同じように塵や埃などによる汚れにさらされていると言う事です。人工皮膚は非常にすぐれた性能を持っていますが、定期的にクリーニングを行わないと汚れが付着し、とても落としにくくなってしまいます。そこで、人間と同じように入浴等によって、ケアをしてあげる必要があります」
「…は?」
「入浴させる場合は、必ず耳のカバーが閉まっている事を確認して下さい。耳のカバーが閉じていればパソコンは完全防水となり、2mくらいまでの水深に耐えられます」
小さなTVでアニメチックな説明が流れる。
「パソコン専用のボディーソープやシャンプーが発売されています。より良いパソコンライフのために是非お使いになられることをお勧めします。また入浴後は、人工皮膚を有害な紫外線から守るためにローションを塗るのをお忘れなく。なお、自動入浴ソフトウェアは別売です。販売元URLはこちらです」
別売?ということは、自動で風呂に入れないっつーことか?
おれが洗うのか?こいつを?
金髪を見た。そういえば、少し汚れてるような…気がする。
混乱している間に、ヒヨコはさっさとTVを異次元に消した。
「以上で基本のチュートリアルは終了です。お疲れ様でした。18歳以上のユーザーは、下のボタンから次のチュートリアルに進んで下さい」
18歳以上のボタンをクリックすると、ヒヨコがムクムクと大きくなりアヒルになった。
…鶏じゃなかったのかと、かなりどうでもいい事を考えた。
「このEe1-90000シリーズにはセックス機能が付属しています」
アヒルがとんでもない事を言い出した。
「ユーザーの好みに応じて陰茎のサイズを3段階で調整が出来ます。調整はコントロールパネルの中にあるR設定ボタンをクリックし…」
固まったおれを他所に、話はどんどん怪しい方向に進んで行く。

ストップだ、ストップ!!
ストップ!!!

マウスを滅茶苦茶にクリックしたら、アヒルが投げキッスをして消えた。
心臓がバクバク言っていた。
セックス機能なんてついてるのか?パソコンってやつは…。

慌ててバックに入ったままだったマニュアルを引っ張り出した。

後ろ方にピンクの袋とじページがあった。
転がっていたボールペンで破ると、中にセックス機能の説明が書いてあった。
・・・・・・・・・・。
マニュアルを持つ手が思わず震えた。

だからナミのやつ、おれをホモ扱いしやがったのか。
っつーか、パソコンショップで店員が渋ったのはそういう意味だったのか?
嫌な空気が近付いてくる気がして、頭を振った。

だが、まて、こいつに肛門は付いてないぞ。
ピンクページにあった各部の説明で、肛門は別売(…売ってんのかよ)と書いてあった。
「はは、ならホモじゃねぇじゃねーか」
笑って、気がついた。
ホモの場合、突っ込むのはどっちでも良いのだと。
思わず、マニュアルを半分に千切りそうになってしまった。


ああ、おれは…。

やっぱり、こいつ買うんじゃなかった。激しく後悔した。






「どうだった?チュートリアル。説明分かったか?」
「…まあな」
「何だよ?やけに暗いな」
そりゃ暗くもなる。
「おれはホモじゃねぇ」
「は?」
「お前にセックス機能があるなんて知らなかったんだ」
「ふーん?」
「おれはノーマルだ。変な気起こすなよ」
「アホ、おれは女の子専門だ。誰が変な気起こすかよ」
金髪が嫌そうに口を曲げた。
「そういうお前も変な気起こすなよ。おれには入れる穴がないからな」
ムカついたので金髪の頭を叩いた。






なのに翌朝、寝ていたら、いきなり金髪がキスをしてきやがった。
昨日設定したタイマーのパターンってやつが、起こし方の方法だったらしい。

喧嘩してる最中に金髪がフリーズするし、朝からさんざんな目にあってしまった。


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