| 「何してんだ?」 夕飯の皿を洗い終わった金髪が背後から覗き込んで言った。 正確にはおれは振り返ってないので、そんな気配を感じただけだ。 「パソコン操作ってのを覚えようと思ってな」 「ならオレに聞けばいいだろ。ヘルプ説明出来るぜ?」 「自分で覚えるからいい。そこに座ってろ」 5冊あったマニュアルのうち、『基本』というぶ厚い本を開いた。 さっき付属品の箱から取り出した色んなケーブルと紙面を見比べながら種類の確認をする。 まず、TVと繋げないといけないらしい。 これは知ってる。赤・黄・白のケーブルだ。 「おい、頭貸せ」 「ああ、TVと繋ぐのか?」 と金髪がおれの手からケーブルを奪おうとするので、慌ててケーブルを引っ込めた。 「自分でやるから、お前は動くな」 「へいへい」 耳のカバーは、ここを押しながら上に・・。 「痛っ!!」 ビクリと金髪が身を縮こませた。 「あ?!え?!…悪い!」 「…なーんてな。ウソ!」 「…………」 「…何?本気にした?」 こいつ…中古で売り払って新しいやつを買おうか? 「なんだよ?冗談だっての」 えーっと、どれだ?同じ色が2つあるな…。たぶんこっちの出力でいいんだよな。 「おい、無視すんな」 金髪側のケーブルを挿して、反対側をTVの裏に回って入力という場所に繋ぐ。 そしたら、どうすんだっけ? ああ、マウスとキーボードか。 なんとかマニュアルに載ってた説明通りにケーブルを差し終わった。 大満足して金髪の顔を見るとなんだか不機嫌そうだ。 「…んだよ?」 「別に。…モード切り変えるか?」 「ああ」 金髪がその場でやや俯いて固まった。 キュイーンという機械音がしている。 TVを付けて入力切り替えをすると、マニュアルにあった画面が表示されていた。 マニュアルを片手に手順通りスリープさせた。 金髪が目を閉じると同時に機械音が消える。無事にスリープ出来たらしい。 なんだ、やってみりゃどうって事ねーな。 動かなくなった金髪から、コードを外し、開いたままだった耳のカバーを閉じた。 画面と繋いでスリープすると、寝る姿勢にはならないらしい。 ちょっと失敗したなと思った。 強引に横に寝かそうと思ったが、関節がロックされるのか動かす事が出来ない。 どうしようかと項垂れた金髪のつむじを見つめた。 こいつのつむじ、渦巻いてねェな、やっぱり作りもんだからか? …気がつくと、勝手に手が動いて、金髪の前髪をすくい取っていた。 慌てて髪から手を離す。 何をやってんだおれは…。 金髪は当然ながらスリープしたままでピクリとも動かない。 ・・・寝よう。 座ったままの金髪を無視して、布団を敷いて眠りについた。 *** 枕元に黒装束の死神が座っている。 そいつは大鎌を振りかざし、オレの首に狙いを付けていた。 逃げたいのに、身体は動く事を忘れてしまったかのように硬直し、大鎌の行方を目で追う事しか出来ない。 耳鳴りがしていた。 「言い残す事はあるか?」 目深にフードを被った死神が言った。 「・・・」 喉がヒリついて声が出ない。ますます耳鳴りが酷くなる。 「・・・!!」 口だけがパクパクと動いた。 まだ死にたくない。 オレはまだ何もやっちゃいない。 やめろ!! ハッと目を開けると、目を閉じた金髪の顔がすごいアップで迫っていた。 「うお!?」 なぜだか反射的に飛び起き、金髪に頭突きするはめになって、またしても合金の洗礼を受けた。 目の前に火花が散る。 「って〜〜〜」 よくよく見れば、金髪は昨日と同じ格好で固まったままで・・。 寝ている間に布団から転がり出し、金髪の足を枕に使っていたらしい。 俗に言う膝枕ってやつだ。 そう思ったら、ジッとしていられなくて、布団から転がり出していた枕を意味もなくボコボコと殴った。 なんだか猛烈に暴れたくなる。 ちくしょう、なんなんだ。 そんなおれの焦りをよそに、ぐぅと腹が鳴った。 掴んでいた枕を部屋の隅に投げ飛ばし、金髪に朝飯を作ってもらおうと思って…ふと気がついた。 どうやって起こせば良いんだ? 慌ててマニュアルを開く。 えーっと、スリープ解除・・。 タイマーはセットしてねェから、こっちか。 名前を呼ぶか、電源キーを押す・・・電源? 思わずガクリと項垂れた。 もうヤツの股間に手を突っ込みたくない、名前も呼びたくない。 でも腹は減った。 「サ、……サンジ」 思いきり棒読みで言った。 小声で聞こえなかったのか、棒読みでは認識されないのか、金髪は起きる気配がない。 「サンジ」 肩を揺すりながら、もう一度呼んだ。 今度はちゃんと聞こえたらしく、独特の機械音が聞こえ、金髪がゆっくり目を開いた。 「おはよう」 そう言って、金髪がニコリと笑う前に猛然と違う方向へ振り向いた。 なんだか、こいつの笑顔を見るのはヤバい。 そう本能が言っている。 …ような気がする。 「どうした?」 「…飯作ってくれ」 それだけ言って便所に逃げ込んだ。 「なんだよ、腹痛か?」 便所のドアがカリカリと鳴る。金髪が爪で引っ掻いているらしい。 「うるせー」 万が一開けられたりしないように、ドアノブを引っ付かんだ。 「朝飯、何食べたい?」 「まかせる、何でもいい」 「あっそ」 ドア越しに金髪がキッチンの方へ向かったらしい足音がした。 ホッと胸を撫で下ろし、ドアノブから手を離した。 何だか、おれは逃げてばかりいるような気がする。 それもこれも、全部あのパソコンのせいだ。 対話式ってのがいけない。 こんな風に家電と喋るなんて絶対おかしい。 しかもあいつは鼻歌とか歌いながら料理したりする。 昨日、風呂上がりにそれを目撃して、訳の分からない衝動にかられたのだ。 あいつをパソコンとして動かす事を覚えればいい。 あの独特の機械音がしてる時は何とも思わない。 たぶん、話をしてる時の人間クサい表情を見るのがヤバいんだ。 だったら、極力対話を避けて、操作すればいい。 それはとても名案に思えた。 |