ルフィ達がアパートに引っ越して来てから、あっという間に十日程が過ぎた。
ルフィは殆ど毎日うちに顔を出す。
別にそれは構わねえんだが、うるさくてかなわない。
今日もバイトが終わって12時近くに帰宅したら、階段あがってすぐのうちのドアの前に、ルフィとシャンクスのパソコンが座り込んで眠っていた。何やってんだ。
「おい」
仕方なく、オレは声をかけた。
「起きろ、こんなとこで寝てんじゃねえよ」
「んー……あ、ゾロか。腹減った」
開いたばかりの目をぱちくりとさせてルフィが言う。
「何でうちの前で行き倒れてんだ」
「ゾロと遊ぼうと思ってさー、来たんだけど、サンジが入れてくれなかった。ゾロ、サンジに変な命令すんのやめろよ」
「いや、帰れよ、おまえんちに」
一瞬、そうか、悪いことしたな、と思いかけたが、すぐに我に返ってつっこみをいれる。
ルフィの部屋は同じアパートのなかにあんだし、なにもドアの前で待ってなくてもいい。
「だってそれだとゾロが帰ってきたとき、分かんねえだろー」
まるでもっともなことを主張するようにルフィが言う。
「毎日来んじゃねえよ、オレだってバイトとかあんだから」
「やだ!オレは来たい!」
「アホ」
まとわりついてくるルフィをいなしながらドアを開けると、金髪が中から飛び出て来た。どうやらこっちも退屈していたらしい。
「メシ、どうする」
「あ?食う、けど」
ちらり、と上目遣いにこっちを見てくるから、何のことかと思ったが、そうか、ルフィの分のメシの準備をするかどうかで、オレの判断を待ってるわけか。
「ルフィの分もすぐ作れんのか?」
「勿論だ」
じゃあ頼む、と答えたら、どうやら他人にメシを食わせるのが嬉しいらしく、奴はいそいそとメシの支度のため台所へ引き返す。どうやら今夜はカレーらしい。
金髪はカレーを作るときは多めに作って冷凍しておく。そのほうが経済的だし、うまいものが作れるそうで、こいつはそういうところが非常に細かい。まるで主婦のようだ。
さすが女相手に設定されてるだけのことはあんな、と感心することもしばしばである。
と、そんなことを考えてるうちにあれよあれよとメシの支度が出来て卓袱台の上にカレーが並ぶ。
なんか、よく分かんねえけど、本格的なやつだ。
「うまそー!サンジが大好きだーッ!」
卓袱台に金髪が食器を並べきるのを待ちきれず、ルフィがコップを持ったままのあいつに飛びつく。金髪は迷惑そうなツラしちゃいるが、食事の礼を言われたのでまんざらでもない様子である。
何だか無性に面白くない気分になった。
夜中にひとんちに押しかけて、そんで騒ぎやがって。
金髪から手ェ離せよ、と思ったが、それを言ったらまるで嫉妬みたいだということに気付いて口篭もる。
そりゃいくらなんでも、アレだろう。
なんつうか……そりゃおかしいだろう。
上手くは言えないがやけにもやもやした気分だった。
メシを食い終わったら帰るのかと思ってたが、ルフィ達はやたら元気でそのまま居座ってゲームしようぜ、ゲーム、ゲームとせがんでくる。
「うちにはそんなもん無ェよ」
「あるだろー、サンジがいんだから」
「こいつ?」
何を言い出すんだ、と思いながら金髪のほうを見たら、金髪も迷惑そうなツラをしていた。
「オレにゃソフトが入ってねえよ」
「大丈夫。私、たくさんダウンロードしてますから」
まだオレには見慣れない、紳士的な微笑みでシャンクス(のパソコン)が金髪に話し掛けた。パソコンでゲームが出来るなんて知らなかった。そもそもオレはテレビとかの前に座ってちまちまやるようなゲームなんて興味を持ったこともない。
既に深夜1時近くになって思考力が低下していたのもある。
その紳士的な態度にだまされてうっかり1回だけな、と了解したら、シャンクスは相変わらず真顔でズボンを下げる。一体何が始まるってんだ、異空間にもほどがある。
「ではケーブルを出して下さい。つなぎますので」
シャンクスは下半身まるだしのまま要求する。
ケーブルとか言われてもわけわかんねえし、つい数日前、ウイルス騒動で金髪が壊れまくったばっかりだったので、変な使い方したらまた壊れんじゃねえかと不安が脳裏をかすめた。まあ前みたいな壊れ方はもう無いだろうが(あれは特殊過ぎだ)、それでなくともコイツはすぐ固まったりして動かなくなっちまうのに、ゲームなんかに使って大丈夫だろうか。
ウソップに聞いた話によれば、こいつは愛情表現とかに重点をおいて作られたパソコンなので、その他のことはあまり得意ではないらしい。そのせいで時々動かなくなっちまうんだそうだ。
確かにクラスの他の奴らのパソコンに較べるとやけに出来ることが少ねえなあ、とは思っていたが、最近はそれも気にならなくなった。
ウソップはもう少し手直ししてやるか、とか言ってくるが、動作がおかしくなるとか言うし、何となく嫌だった。
…でもまあ1回や2回ゲームさせるくらいなら平気だろ。
そう気を取り直して、ケーブルっつうのはどれのことだ、とルフィに尋ねるか尋ねないかのうちに、
「ぎゃーッ!!」
深夜の町内を残らず叩き起こさんばかりの勢いで金髪が悲鳴をあげた。
「ケーブル…ケーブルをつなぎます」
はりついたような紳士的な笑みのまま、シャンクスがサンジのズボンを無理矢理脱がせようとしている。それを防ごうと金髪が暴れるがシャンクスはありえないほど怪力で(エースのヤロウがとんでもねえ改造とかしたに違いない)それなりに重たいはずの金髪の身体を片手で軽々と担ぎ上げてしまった。
これにはさすがに驚いて止めに入ったが、シャンクスはケーブルを繋いで対戦ゲームをするのだという説明をするだけで、金髪のまるで断末魔みたいな悲鳴をちっとも意に介していない。相変わらず紳士的な笑顔のまんまだ。かえって怖ェ。
ケーブルってなんだ、あの股間から出てるコードみてえのをつなぐってことか。
どこにつなぐんだ。
「やめてーッおかされるーッ」
金髪があげる悲鳴が、これまたどうかしてる。
必死に暴れる金髪をどうにか変態パソコンの魔手から奪い返そうと胴体を引っ張り、もみくちゃの乱戦になった。犯されるは過言だろうが、シャンクスのパソコンとは違い、柔らかいあのふにゃっとした股間を衆人環視(と言ってもルフィとシャンクスしか居ないが)でひん剥かれるのは頂けない。
こないだの、やけに上気したツラで縋ってきた金髪の、熱くなってた身体を思い出した。
こいつの身体は人間と変わりが無い。
少なくとも股間からコードは出てねえ。
そうだ、股間には、ケーブルは無いはずだ。
「笑ってねえでどうにかしろッ!」
と、ルフィを怒鳴りつけようとした矢先、漸く、ああそういえば、あんなふうなコードとかがいっぱいある場所を見たことがあると思い出した。
耳んとこだ。
パソコンには普通、うまく説明できねえが、三角形の猫みてえな耳がついてる。
以前テレビの画面であいつの機能を操作したときに、耳を外してコードを出した。
「おい、そいつのケーブルってのはズボンの中じゃねえぞ、てか普通そんなとこにねえだろ、耳だ、耳」
必死に叫ぶと、やっと騒ぎが止んだ。
「あ、そーか」
と間抜けな声を出したのは、他ならぬウチの金髪だった。
自分で思いつけよ……
05/10/21
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む…むつかしい!!
えーと、この話の前に番外編のウイルス騒動がはさまります。色々考えたのですが、矢張り志堂さんのお書きになった部分と交差させるのは力量的に無理でした…ごめんなさいです…