はたと気付くと、アデスはまたしてもくまさんになっていました。
いい加減、慣れてしまったアデスは驚きもせずに、またかと溜息をもらしました。
いつもなら、それでもとにかくクルーゼ隊長探しの旅に出るところですが、アデスはあることに気付きました。
やけに大きな木ばかりがあるものだと思っていましたが、地をみればそこは随分と近く、自分の身長が低いのだと気付いたのです。
何と、今回は大きいぬいぐるみ仕様のようで、アデスの身長は1mほどだったのです。
アデスは考えました。
これでは隊長を見つけるのにどれ程の時間がかかることだろう。
それに周りの緑は手入れが行き届いているようだから多分、どなたかの庭園なのだろう。
隊長以外に見つかればどうなるか分からないな。
そんなことを考えて、首を傾げるアデス。その背後に忍び寄る影。影はアデスを真似るように首を傾げました。
「なにしてるの?」
「はっ!?」
アデスは勢い良く振り返りました。
そこに立っていたのは今のアデスと同じくらいの身長の少年。つまりは子供です。
アデスは少年の存在より、その少年の容貌に驚きました。
もうすぐ肩にかかりそうな綺麗な金の髪。冬の澄んだ青空に似たアイスブルーの瞳。幼いながらに端正だと分かる面立ち。
アデスにラウ・ル・クルーゼという人物を連想させるに十分な容貌でした。
アデスはまた考えました。
この子は隊長か?いや、でも、何か違うような…。
実は私はタイムスリップして、今は隊長の子供時代だとか?
それとも、ここは未来でこの子は隊長の子供だとか?ああ、待て、相手が私では子供はできないか。いや、未来だからできるかも知れないな。
結局、何も分からないままアデスは改めて少年と向き合いました(むしろ、分からないのは貴方の思考です)。
少年はじぃっとその澄んだ目でアデスを見つめていました。
アデスは自分を見極めているのだろうと思い、黙ってそのままでいました。
すると、しばらくして少年がアデスの手を掴んで歩き始めました。
「いこ」
「は、ど、どこへ?」
「あっち」
少年はこの庭を歩き慣れているらしく、さくさく歩いていきます。
アデスはぬいぐるみ仕様なので足先が丸い為、多少歩きにくいのですが一生懸命歩きました。
「き、君、待って下さい。大人の人に見つかるのは多分まずい…」
「ぼくはキミなんてなまえじゃない。レイってゆうんだ。ギルさまがつけてくれたんだから」
「レイ?」
「うん。くまさんは?」
「…アデス、と」
「あです?かっこいいなまえだね」
「はぁ、ありがとうございます」
「ギルさまはほんとうはギルバートさまってゆうんだけどぼくが前に間違ってギルバトさまって呼んだからギルでいいって」
「は、鳩ですか。それは確かに嫌でしょうが…」
「でも、へいわのしょうちょうなんだよ?」
「はぁ」
アデスは何故だか彼に敬語を使ってしまいました。レイと名乗る少年に今は側にいない愛おしい人を見ているようです。
レイはアデスと手を繋いで、庭を抜けて噴水に辿り着くと辺りを見回しました。
「ギルさま?ギルさまー?」
「こら、レイ。かくれんぼでオニを探す者があるか。寂しくなったのか?」
上から降ってきた鮮烈な声にアデスが振り向くと、その声の主はひょいとレイを抱き上げていました。
そのギルバートという男の腕の中で笑うレイを見て、アデスは少しだけ胸が痛みました。
「ところでこちらのテディベアはどなたかな?レイの友達か?」
彼は随分と変わった友達だな、と笑って付け足しましたが、彼の反応こそ随分と一般のそれとは違ったものでした。
「あですってゆうんだって。ねぇ、飼ってもいいですか?」
「か、飼うっ?」
アデスは思わず、すっとんきょうな声を上げてしまいました。
レイはどうやらアデスは捨て犬や迷い猫と同じレベルで見ているようです。
「うーん、私もぬいぐるみの育て方は知らないのだがなぁ」
ぬいぐるみは育ちません、と何故に誰も気づきもしなければ、ツッコミもしないのか、いっそ不思議なくらいです。
「…だめですか?」
上目遣いで泣きそうになるレイをギルバートはぎゅっと抱きしめてやると、一度腕の中から下ろしました。
「レイはアデスのことが好きになったのか?」
「うん、すきです」
レイがそう答えた直後、ギルバートが一瞬だけアデスに目線を移し、もの凄い眼光で貫いたことにレイは気付きませんでした。
アデスはあやうく気絶するほどでしたが、何とか頑張って意識を保ちました。
「だが、レイ。レイには私がいるように彼にも誰かがいるのだよ、たった一人の大切な人がね」
さらりとしたどさくさまぎれの発言ではありましたが、それは多分、正しいことでした。
アデスが今、一番会いたい人はラウ・ル・クルーゼ、唯一人なのです。
けれど、どうすればいいのか分からず、アデスはしゅんとなってしまいました。
そのアデスを見て、レイも悲しい気持ちになりました。ギルバートは悲しそうなレイの頭を慰めるように撫でてやりました。
そんな時です。
「全く、どいつもこいつも世話の焼ける」
そんな声が聞こえました。その声はアデスが今、一番聞きたかった声。その主はアデスが今、一番会いたかった人。
「クルーゼ隊長!」
そう呼ばれた彼が先程アデス達も通った庭から出てくると、アデスはとことこっとクルーゼに駆け寄りました。
クルーゼが屈んでそのアデスを抱き留めると、ボンッという音と共に煙が舞い起こり、同時にアデスは元の人間の姿に戻ることが出来ました。
元に戻ると、今度はアデスがクルーゼを抱きしめました。
「隊長…っもう今度こそどうなるかと…っ」
「私は待つというのが好きじゃないんだよ、アデス。欲しいものがある時は特に」
そう言うや否や、クルーゼはアデスの首に腕をまわしてそのまま引き寄せると深いキスをしました。
アデスもそれに応え、何やら二人の世界に入ってしまいましたが、まだ側にレイとギルバートはいるのです。
ギルバートは片手でレイの目隠しをしていました。
「ギルさま?」
「ああ、見なくていい。その内、教えてあげよう…二人とも、子供の前です、そのくらいにしておいて頂こう」
そう言われて、クルーゼはアデスから離れるとギルバートの前に立ちました。
「何だ、羨ましいのか?」
「余計なお世話です」
「なぁ、デュランダル。案外、私は大丈夫そうだろう?」
「…どういう意味です?」
「そんなに悪い人生でもなかったさ…この男に出逢えた。割とそれで十分だ、救われた」
言いながら、クルーゼはアデスの肩にもたれて、アデスは黙ってクルーゼの肩を抱きました。
「…安上がりですね」
「そうでもないさ。だから、安心して、お前はお前のままにその子供と行け。私達ももう行くから」
「…そうですか…アデス」
「はい」
「この人を頼んだよ」
「承知いたしました。ご依頼されるまでもありません」
アデスは固い口調ながら、笑って敬礼をしました。それから、レイの前にしゃがみました。
「レイ、少しの間でしたが楽しかった。どうか幸せに」
「あです、まほうでもかかってたの?へんしんできるの?」
レイは不思議そうな顔でアデスの頬に触れました。アデスは苦笑だけを返して、レイの頭を撫でると立ち上がり、クルーゼの傍らに戻りました。
「ではな。ああ、最後の助言だ」
「何です?」
「遅刻の言い訳など何とでもなるものだ」
ギルバートは何のことかと疑問に思いましたが、クルーゼは不敵な笑みを返すだけでした。
たった一つの出逢い。たった一人との出逢い。
そんなことで救われる人生ではなかっただろう。そんなことで変わる運命ではなかっただろう。
けれど、そんなことはないと貴方は言うのか。それ程の出逢いだったと。
ならば、信じてみようか。この先にあるものを。
二人を光の中へ見送りつつ、そんなことを思いながらギルバートは目を覚ましました。
「…バート様、ギルバート様!?目が覚められましたかっ?」
「…レイ?」
「良かった、どれ程お呼びしても起きて下さらないから心配しましたよ」
目が覚めたギルバートの目に映るのはあの小さいレイではなく、身長も髪も伸びて、青年へと成長途中の美しい立派な少年でした。
ギルバートは見惚れるように彼を見つめ続け、やっと今までのことは自分の夢だったのだと自覚しました。
「ギルバート様?もしかして寝惚けてますか?珍しいですね…」
「いや、小さい頃のレイが夢に出てきてな…今朝は一緒に庭を散歩してから出ようか」
「執務に遅れますよ」
「…遅刻の言い訳など何とでもなるものだよ。嫌か?」
「そんなこと…あるわけないじゃないですか」
レイの困ったような、参ったというような笑顔にギルバートは朝一番の笑顔を返し、心から願いました。
どうか、レイが幸せでありますようにと。
END
うああああ〜(≧□≦)///
またも可愛いお話をっっ
ありがとうございましたーーっっっ!!!
レイくんとギル様のラブラブっぷりが可愛くてv
アデスの一生懸命な焦り方にまた萌えさせていただきv
でも隊長のギル様への言葉に涙が滲みました(T◇T)///
クルーゼ隊長に優しい世界///歌のように優しい世界…
そんな世界をアデスが与えてくれているのですv
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