空を見て、嫌な予感を覚えた。
それは綺麗な夕焼けだったのに。
今日は何でもない日だった。
けれど、近い将来には思うのだろうか。
あの日、感じたものはこれだったのかと。
「まだ起きているのか、レイ」
「ギルバート様」
その夜、どうしても眠りにつくことが出来ず、ベッドの上で本を読んでいたらドアをノックされ、返事をする前にギルバート様が現れた。
本を閉じて、立ち上がろうとすると彼が「そのままでいい」と言うので、とりあえずベッドにきちんと腰掛ける。
「明かりが見えたから。眠れないのかと思ってな」
そう言って、差し出されたマグカップの中身はホットミルク。
彼が自分用に持ってきたのはホットブランデー。
明らかな子供扱いで無意識の内に眉を潜めると彼は優しく笑いかける。
「こっちはその内、な。早く一緒に飲みたいものだよ」
「…まだ、だめですか」
「未成年に飲ませるわけにはいくまい。それに、まだ苦く感じると思うぞ?」
彼は隣りに座って、自分のブランデーを一口飲むと俺にもミルクを飲むように促すのでゆっくりとカップを傾ける。
甘いような苦いような不思議な味がして、じっとカップの中を覗いていると隣でギルバート様が声を立てて笑った。
「ははっ、気付いたか。実はスプーン一杯だけブランデーを入れてみた。飲めるか?」
「…美味しいです」
「それは良かった、なら将来も大丈夫そうだな。それで?何か悩み事でもあったのか?」
「え?」
「夕飯の時も元気がなかったから気になってね。ちゃんと食べて、ちゃんと眠らなくては戦闘時に差し支えるぞ」
「…すいません」
「謝ることはない。私が勝手に君の心配をするのだから。もし、私に話して楽になるのなら聞きたいのだが?」
そう言われて、迷う。
悩んでいたわけではない。ただ、心が落ち着かない。
嫌な予感がどんなものか、確信はない。
何かが起こる。
いや、誰かと…出逢う。そんな気がする。
運命の出逢い…そんな良いものではないことだけは分かる。
そんな出逢いならもう果たした。隣りに座る、この人と。
「レイ?」
「…いえ、何でも…ないんです。ただ、何となく眠れなくて」
「…なるほど?まぁ、君がそう言うならそれで良いが…じゃあ、今夜は一緒に寝てあげよう」
「はっ!?」
驚いて、彼の顔を見上げるとその顔は随分と穏やかな笑みを浮かべている。その笑顔を前に何も言えなくなった。
「もう3時だ、急がないと眠りにつく前に朝が来てしまうぞ」
彼は自分と俺のカップをベッドのサイドテーブルに置くと、先にベッドに潜り込んだ。
「ほら、おいで」
右腕を伸ばして、腕枕を申し出る彼に苦笑しながら彼の隣りに身を寄せて素直にその腕に頭を乗せた。
「いつまで俺は子供扱いなんです?」
リモコンで照明を落として、それをサイドテーブルに置いて彼の方を振り向くと、彼は見たこともないような笑顔を見せて。
「アルコールは駄目だが、私は君を子供扱いしたことは一度もないよ」
そう言って、額にキスをくれた。
じゃあ、これは何なのです?
そう聞くことは出来なかったけれど、彼の腕の中で俺は眠りに落ちていった。
どんな運命にでもちゃんと立ち向かうから。
だから、今はもう少しだけこのままで。
もう少しだけ、ここで眠らせて。
END