◆ ４．
「三蔵一行、覚悟しろっ！」
日が昇ってすぐに宿を出ると、どこからともなく妖怪達が現われて囲まれてしまった。
付近の住人達に被害が及ばないように、三蔵はジープを街外れまで走らせろと指示を出す。
しばらく行き、岩山ばかりの場所に出たところで戦闘が開始された。
「こんな朝早くから来んなよー！ もう腹減ってきちゃったじゃねーかよー！！」
悟空が怒りにまかせて、如意棒で片っ端から倒していく。
「紅孩児に早朝出勤の手当てでも付けてもらえよー！」
「って、もう給料明細を見ることはできないでしょうけど」
悟浄の言葉に続けながら、八戒が目の前の妖怪を吹き飛ばした。
「僕達が付けて欲しいくらいですよ、お手当て」
「歩合制でも構わねぇがな」
「それ、いいですね」
八戒はさっきよりも大きな気の塊を作り、そこら中の妖怪を一気に片付けた。
「成績は僕がトップですね」
にこにこしながら人差し指を立てている八戒に、悟浄はチッと舌打ちした。
「やっぱダメ、それじゃあ俺が不利だわ」
「では、指名制にしますか、この店」
「客筋があんまし良くねーからなー、イマイチ営業に気がノらないかも」
げんなりしながらも悟浄が錫杖を振り回した後には、妖怪が次々と薙ぎ倒されている。
「もうこれで終り？」
悟空が腹減ったとぼやきながら戻ってきた。
「こちらも粗方倒しましたが…あれ、三蔵は？」
辺りを見回した時、銃を続けてぶっ放して妖怪を始末した三蔵の背後から、異様に長い手が何本も伸びてきた。
「三蔵、後ろっ！！！」
思わず発した八戒の声に三蔵が振り向こうとした瞬間、リーダー格のようだった妖怪がその身体を捕らえた。
四人の前に現われた時は人間とほとんど変わらない姿だったのに、いつの間に変化（へんげ）したのだろうか。
身体の脇から更に四本の手が生え、それが長く伸びて蠢いている。
その何本もの腕を使って三蔵を後ろから羽交い締めにし、口も塞いでしまっていた。
三蔵は両手が自由にならないので印も結べず、真言も唱えられない。
「三蔵を離せ！」
悟空が叫ぶが、妖怪はただへらへらと笑っているだけで相手にしようとしなかった。
「こいつは頂くぜ」
崖っぷちまで後ずさりすると、経文を奪い取ろうとまだ空いていた手が動いた。
動きを封じられていながらも三蔵が抵抗しようとした時、地の底から地響きがして、地面が大きく揺れた。
「な、何だ？？？」
「うわーーーっ！！」
突然襲ってきた地震により、三蔵と妖怪がいた崖が足元から崩れた。
「三蔵ーーーーーっ！！」
咄嗟のことで、如意棒も錫杖も届かない。
唯一、八戒の放った気の塊が妖怪に当たって三蔵から引き離せた。
しかし、共に深い谷底へと落ちていってしまった。
「三蔵………」
落ちた先を見下ろしても、森と川が見えるだけで三蔵の姿は確認できない。
静けさを取り戻した大地には、三蔵愛用の小銃だけがポツンと残されていた。
* * *
「三蔵！ 三蔵ーーーーーっ！！！！！」
三人は大声を出しながら、三蔵が落ちたと思われる辺り一帯を探しまわっていた。
「おーい、いたかー？！」
「だめー、こっちにはいないーっ！」
「ったく、どこ行っちまったんだよ、あの生臭坊主は…」
悪態を吐きながらも、悟浄の表情は悲愴だった。
横に来た八戒も、近寄るのが怖いくらいにピリピリしたオーラを発している。
「もしかして、この川に流されたのかな」
悟空の言葉に、八戒と悟浄は三蔵の過去を思い出していた。
「また流されていたら…今度見つけるのは僕たちです！」
「このまま、下流へ行ってみるか」
「そうですね」
「急ごう！」
それぞれ胸の内で三蔵の無事を祈りながら、三人は川沿いの道を駆けていった。