◆2


交通の要所でもあるこの街は、物資も豊かで行き交う人の姿も多い。
飲み屋にも都会風の趣向が凝らしてあったりと、洒落た飲み屋が多く見受けられる。

悟浄達が歩いている通りは、表通りから一本裏道になっていて、所謂クラブ系の、酌女を売りにした酒場が軒を連ねていた。

悟浄と三蔵という目立つ容姿の若い男がその通りを歩けば、当然のように、売りを商売にしている女達が店に引き入れようとしたり、自らを買わせようとしてくる。

「あら昨日の素敵なお兄さんじゃないvねえ店で遊んでってよ〜」
「ねえねえ、今日はウチの店に来て〜」

ここ数日の滞在で、この当たりをうろつき過ぎたかも知れない。
この歓楽街の商売女達に、悟浄は既にちょっと知れた存在になっていた。
女が目的ではなく、あくまでも軍資金稼ぎの賭博と、三蔵を飲みに連れていく店の物色のために探索を重ねたのだ。
しかし悟浄の派手な赤い髪と目と、そして長身で整った容姿のせいで注視されて、女達からは既に常連扱いだ。

声をかけてくる客引き女達は十分合格点な美女揃いだった。
美人の多い土地柄なのかも知れない。

「フン…何処でも悪目立ちするヤツだな」

悟浄にかばわれるように斜め後ろを歩いていた三蔵が、あきれたように皮肉を言う。

「…まあ俺って、カッコいいし?」

 悪目立ちするのは、何も俺ばかりじゃない。

「自画自賛はみっともないモンだって知ってるか?」
「んでも、お前だってこの通りに入ってから、色々女の子に声かけられてるだろ?」
「連中はそうするのが商売だからだろう」
「でもよ、悪い気はしねえもんだろ? 可愛い女の子に誘われるってのはさ」
「…………俺には分からん」
「お前本当に…」

まったく全然少したりとも、“女”に興味が無いのか…
無い無いとは思っていたが、本気で女に反応できないのか。

その質問の為の言葉を上手く選ぶことができなくて、悟浄が言いよどんでいると

「おっ、悟浄じゃねえか。今日も勝負すんのか?」

この街の男から声を掛けられた。
一昨日カードで手合わせをして、少々巻き上げた相手だ。
勝負慣れた男で、カードは正直手強さを感じた。
かなり苦戦して、トントンの勝負に持ち込んで、最終的には何とか勝ったが儲けは無いに等しかった。

李鵬というこの男は、どことなく自分と似た、遊び人といった風情の気さくな男だ。茶髪に長身の見た目もかなり良い部類で、カード勝負中は、双方に女が群がった。
ライバル心を煽られたせいか、互いに印象が残っている。

声をかけられた時から、悟浄は立ち位置を三蔵の姿を隠すような位置にして、李鵬に向かい合った。

「また提丹の店に行くんだろ? 桃李が、ああ、あの店にいた黒髪の可愛い子いたろ?あの子がまたお前に来て欲しがってたぜ」
「いや、今日はあの店には行かねえよ」

話しながら、悟浄はさりげなく後ろに隠した三蔵を気にしていた。

「あれ…あ、お連れさんがいんのか……」

が、どう隠してもちらちら見え隠れする金色と白い姿に、李鵬は気づいてしまう。

「ああ、今日はちょっと連れと飲みに来たんだ。マスターが静かな店を紹介してくれたからさ」

適当に話しを切り上げて、早く店に向かおうとする。
が、李鵬は道を譲らずに、三蔵に視線を向けたまま惚けたように突っ立っていた。

「…いやあ… あんた美人だなあ…。あ、オレは李鵬って言う、この街の、まあ遊び人て奴だ。これから飲みに行くのか?良かったら良い店とか、オレが色々街を案内するけど」

三蔵の姿を見て目の色を変えた男に、悟浄はまた深々と溜め息をついた。

こういう李鵬のような根っからに女好きそうな男を、何というか、その気にさせるのだ。三蔵という存在は。
今までだってそうだったのだが、過去、悟浄が見た限りでは、三蔵に声を掛けた野郎連中は、普段は頼まれたって男なんかにコナをかけるようなタイプではなかった。

そんな事をぼうっと考えていると、
「痛てっ」
横から足を踏まれて、足を踏んでいる足の持ち主である三蔵の方を伺う。
三蔵の無愛想な表情には『目の前の男を無視して、さっさと先へ進め…』という命令が、分かりやすく浮かんでいた。

三蔵にとって唐突に現れた李鵬は、自分に馴れ馴れしく声を掛けてくる見知らぬ奴…というところだ。
普通の人間ならこんな場合、適当に社交辞令や挨拶くらいはするものなのだろうが、三蔵は三蔵法師としてならそれができても、個人としての世間的な付き合いといった類いの事になると、さっぱり役に立たない。

目の前の男の下心たっぷりの親切に、三蔵は完全に人見知りをしているのだ。
人慣れない小さな獣が、精一杯警戒している姿と何故か重なる。

三蔵法師として他人と対峙する時の三蔵なら、したたかで満ち満ちた威厳で人を圧倒して、揺らぐ姿など見せることがない。

凛として神々しく輝かんばかりのその姿に、意外と最近まで、コイツには弱さも迷いも怖いものも何も無いのだろう…くらいに思っていた。

…その輝きの本当の意味を知るまでは。






「悪イけど、今夜は二人で飲みてーんだわ、じゃな」
「っ!何しやがる」

悟浄は三蔵の右腕の手首に近い当たりをしっかりと掴んだ。
そのまま引きずるようにして、足早に李鵬の横をすりぬける。

振り返らずに、ただ三蔵の手を引いて、夜の街を足早に歩いた。

「おいっ、離せっ」

触れられることが苦手な三蔵はその手を振り払おうとするが、それより強く悟浄は腕を引いて進み続ける。

シャツ越しに掴んだ手首の骨張った熱い感触が、じんわりと神経を支配する。

「そこが店だから。早く行こうぜ」
「腕を離せ悟浄っ」

唐突な行動に弱い所のある三蔵は、腕を振り切ることができないまま。
雑踏を擦り抜ける速足に、不機嫌ながらも歩調を合わせるのが精一杯といった感じだ。

振り返れば確実に、警戒心を露にした紫の瞳を見ることになる。

…一応…仲間と言えなくもない間柄であるのに、いつも三蔵は必要以上に近寄ることを許そうとしない。
警戒して撥ね除ける。

人見知りされるようなものだ。今更に。
今は、三蔵には腕を振りほどいて欲しくなかった。






次へ→




←三蔵サマCONTENTSへ

←SHURAN目次へ