「私は貴方を愛してます。」
私が貴方にこう言ったのはいつの事だろうか。
「すまない。」
けれども、やはり貴方は拒絶の言葉を口にした。
分かっていた。貴方が私などを愛さないことを。この告白は、あくまで貴方に言いたかったこと。肯定の返事など、あるわけがない。
「有難うございます。」
私の想いに耳を傾けてくださって。本当に。
すると、彼は不思議そうに私を見た。私は彼が言うより先に理由を述べる。
「私用にもかかわらず、話をきちんと聞いてくださって。」
貴方の時間を、私の為に取らせてしまって。
「では、これで。」
そう言って踵を返して私は退室した。
もし、彼がここで肯定の返事を嘘でも良いから私に下さったら。その「もし」の時、私はどんな反応をするのだろうか。想像できやしない。
「…………。」
……悲しい事に、私には彼の成そうとする事が分からない。
分からないからこそ、私はその傍に立って最後まで彼を見届けたい。どんな関係でも良いから。
ただ、その関係が恋人同士だったら。
恋人同士で、彼を私が支える事が出来るなら、恐らくそれはどんな喜びにも替え難いだろう。
例え、彼の成そうとしている事が、私の命をも奪う結果になるとしても、私は喜んで彼に捧げるだろう。
けれども、これはあくまで理想。別に「艦長」と「隊長」の関係のままでも、彼を最後まで見届ける事が出来れば、私は構いやしない。私はただ、彼の傍に立っていたいのだから。
彼は、恐らく誰にも本当の彼を晒さないだろう。それが、彼の成す事のためなのか、生来からなのかは分からないが。
だからこそ、私は本当の「彼」というものに触れてみたくなった。「彼」という存在を知りたくなった。
だが、その結果で分かった事はただ一つ。私が彼を愛していると言う事だけ。
私は彼に惹かれた。
単に、私が彼にとっての駒の一つであったとしても、私はその駒の役割を彼の為に演じ続けよう。
最後には捨てられる運命にあろうが、彼の作った運命ならば別に悪い気はしない。
……ですけど……これだけはどうか許してください。
「愛しています、クルーゼ隊長。」
心の中だけでも貴方を愛する事を。この身のある限り、貴方を見守りつづける事を。
私はそれ以上望みませんから。
◆ ◆ ◆
艦が落とされる。
この事態も、やはり彼は想定していたのだろうか。ならば、別に悲嘆に暮れる必要はあるまい。駒の役を降ろされただけなのだから。
ただ私は、彼よりも先に逝き、彼の成す事を最後まで見届けられなかっただけで。
それが心残り。
彼が真に幸せだったのはどんな時だったのだろうか。その時の中に私は含まれているのだろうか。
……結局私は、彼の助けに少しでもなれたのだろうか。
…………
今の私、少しおかしいのですよ、隊長。
死の淵に立たされているのに、私は死に対して全く恐いと思っていないのです。
あるのはただ、貴方の成す事を最後まで見届けられない事と、貴方を最後まで愛せなかった事、そして貴方支える事すら出来なかった事に対する悲しみだけで。
……その悲しみだけなのです。
「…………。『艦長』としての最後の仕事をせねば。」
私は窓辺に立って、敬礼をした。これからの若い戦士達に対して。貴方に対して。
……隊長。
もし、貴方が許してくださるのなら……貴方が逝く時、私が迎えに行っても宜しいですか?
貴方の成すべき事が全て終わって、……もし貴方に有罪判決が下った時、私が貴方の替わりに罪を償うために。
貴方は悪くないのですから。
少なくとも私が見ている限りの貴方は……何処か悲しそうでした。表面的なもの、というよりも奥底から滲み出てくるような、そんな感じで。
何に対しての悲しみなのか私には分かりませんが……、そんな悲しみを持つ貴方にたいして、更に追い討ちをかけるようなことを私はさせたくないのです。貴方の苦しむ姿ほど、私自身を苦しめるものはありません。
……私は何を言っているのでしょうか。
天などあるはずがない。この戦争すら終わらせられないのだから。
これは貴方の言いそうな言葉ですね。
……どうか最後の最期に、私の不躾をどうかお許しください。
「貴方だけを愛していますよ、ラウ。」
御武運を。
―fin―
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