追悼アデス×クルーゼ

小説 Rai様

grief
―side・A―




「私は貴方を愛してます。」

 私が貴方にこう言ったのはいつの事だろうか。




「すまない。」

 けれども、やはり貴方は拒絶の言葉を口にした。

 分かっていた。貴方が私などを愛さないことを。この告白は、あくまで貴方に言いたかったこと。肯定の返事など、あるわけがない。

「有難うございます。」

 私の想いに耳を傾けてくださって。本当に。

 すると、彼は不思議そうに私を見た。私は彼が言うより先に理由を述べる。

「私用にもかかわらず、話をきちんと聞いてくださって。」

 貴方の時間を、私の為に取らせてしまって。

「では、これで。」

 そう言って踵を返して私は退室した。

 もし、彼がここで肯定の返事を嘘でも良いから私に下さったら。その「もし」の時、私はどんな反応をするのだろうか。想像できやしない。

「…………。」

 ……悲しい事に、私には彼の成そうとする事が分からない。

 分からないからこそ、私はその傍に立って最後まで彼を見届けたい。どんな関係でも良いから。

 ただ、その関係が恋人同士だったら。

 恋人同士で、彼を私が支える事が出来るなら、恐らくそれはどんな喜びにも替え難いだろう。

 例え、彼の成そうとしている事が、私の命をも奪う結果になるとしても、私は喜んで彼に捧げるだろう。

 けれども、これはあくまで理想。別に「艦長」と「隊長」の関係のままでも、彼を最後まで見届ける事が出来れば、私は構いやしない。私はただ、彼の傍に立っていたいのだから。

 彼は、恐らく誰にも本当の彼を晒さないだろう。それが、彼の成す事のためなのか、生来からなのかは分からないが。

 だからこそ、私は本当の「彼」というものに触れてみたくなった。「彼」という存在を知りたくなった。

 だが、その結果で分かった事はただ一つ。私が彼を愛していると言う事だけ。

 私は彼に惹かれた。

 単に、私が彼にとっての駒の一つであったとしても、私はその駒の役割を彼の為に演じ続けよう。

 最後には捨てられる運命にあろうが、彼の作った運命ならば別に悪い気はしない。

 ……ですけど……これだけはどうか許してください。

「愛しています、クルーゼ隊長。」

 心の中だけでも貴方を愛する事を。この身のある限り、貴方を見守りつづける事を。

 私はそれ以上望みませんから。


◆    ◆    ◆


 艦が落とされる。

 この事態も、やはり彼は想定していたのだろうか。ならば、別に悲嘆に暮れる必要はあるまい。駒の役を降ろされただけなのだから。

 ただ私は、彼よりも先に逝き、彼の成す事を最後まで見届けられなかっただけで。

 それが心残り。

 彼が真に幸せだったのはどんな時だったのだろうか。その時の中に私は含まれているのだろうか。

 ……結局私は、彼の助けに少しでもなれたのだろうか。

 …………

 今の私、少しおかしいのですよ、隊長。

 死の淵に立たされているのに、私は死に対して全く恐いと思っていないのです。

 あるのはただ、貴方の成す事を最後まで見届けられない事と、貴方を最後まで愛せなかった事、そして貴方支える事すら出来なかった事に対する悲しみだけで。

 ……その悲しみだけなのです。

「…………。『艦長』としての最後の仕事をせねば。」

 私は窓辺に立って、敬礼をした。これからの若い戦士達に対して。貴方に対して。

 ……隊長。

 もし、貴方が許してくださるのなら……貴方が逝く時、私が迎えに行っても宜しいですか?

 貴方の成すべき事が全て終わって、……もし貴方に有罪判決が下った時、私が貴方の替わりに罪を償うために。

 貴方は悪くないのですから。

 少なくとも私が見ている限りの貴方は……何処か悲しそうでした。表面的なもの、というよりも奥底から滲み出てくるような、そんな感じで。

 何に対しての悲しみなのか私には分かりませんが……、そんな悲しみを持つ貴方にたいして、更に追い討ちをかけるようなことを私はさせたくないのです。貴方の苦しむ姿ほど、私自身を苦しめるものはありません。

 ……私は何を言っているのでしょうか。

 天などあるはずがない。この戦争すら終わらせられないのだから。

 これは貴方の言いそうな言葉ですね。

 ……どうか最後の最期に、私の不躾をどうかお許しください。

「貴方だけを愛していますよ、ラウ。」

 御武運を。




―fin―



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