「私は貴方を愛してます。」
お前が私にこう言ったのはいつの事だろうか。
「すまない。」
私が放った拒絶の言葉。
けれども、お前はただ柔らかく笑っただけ。
「有難うございます。」
……何故、この男は拒絶されたにもかかわらず、感謝の言葉など吐くのだろうか。
私は聞きたかった。しかし、お前が先に言った。
「私用にもかかわらず、話をきちんと聞いてくださって。」
どこまで生真面目な男なのだろうか。私は拒絶したのだぞ。
「では、これで。」
そう言って踵を返して退室するお前に、もし私が「私もだ」と言ったら、一体どんな反応を見せるのだろうか。驚いて硬直するのだろうか。それとも年甲斐もなく赤くなって慌てふためくのだろうか。
……すまない。
私にはお前を愛する資格などないのだ。
私の成す事は数多の犠牲を出す。何を犠牲にしてでも、成さなければならない。
例え、お前が私の前に立ちはだかって止めようとしても、私はお前に銃口を突き付ける。
退かなければ、引き金を引く。震えそうになる手を叱り付けてでも。
そんな私に、お前を愛せる資格があるとでも言うのか?
……いや違う。私はお前に知って欲しくないのだ。
それを知った後で、愛し合った後で、お前が私から離れる事など想像出来るものではない。
まして、現実に起こってしまえば尚更のことだ。私に、どうやってその時の痛みを耐えろと?
それともお前は、それでも私に「愛してる」と言ってくれるのか?
……だめだ。
こう考えてしまうから、愛だの恋だのは害が多すぎる。正常な判断を狂わし、自身はおろか、
相手すら危険に晒す。
私はお前を早くから巻き込みたくない。成す事にお前が巻き込まれるのは、一番最後であって欲しいのだ。……叶うのなら、一番最後に私と共に……。いや、何を考えているのだ、私は。
……ああ。だが、やはり私はお前を愛している。
だから許さないでくれ。これから成す事を。
「愛している、アデス。」
許してくれ、お前のいない前でこの言葉を吐く事を。そして、お前の名を呼ぶ時だけは微かな甘さを含ませる事を。心の中だけで、お前を愛する事を。
それだけでも……。
◆ ◆ ◆
艦が落とされた。
……何を私は。分かっていたではないか、これくらいの事。あの状況下では落とされる事ぐらい。
そして、あの男が命を落とす事も。何もかも予想通りではないか。それに、あの男が私よりも先に逝くなども分かりきっていたはずではないか。
……全てわかっていた事ではないか。なのに、何故。
お前を知覚出来なくなったという事実が、何故こんなにも悲しいのだ? 私は、正面切って愛する事すら出来ない薄情者だぞ。その薄情者が……何故悲しむのだ?
……お前に「愛している」ということすら伝えられなかったのに、何故? ……今更ではないか!!
何故、私はあの男を正面から愛せなかったのだ!
そうすれば……そうすれば例え、絶望や失望を後から与える事はあっても、銃口を突き付ける日が来ても、……あの時に私を「愛している」と言ってくれたお前は満足出来たのではないか?
そうではないのか?アデス。
私がもっとお前を信じていたら……ここまで悲しまなくてすんだのか? 答えてくれ。
…………
……何をバカな事を。
全てこうなる事は分かっていたではないか……! 今更そんな事を言って何になるのだ!!
悲しみを感じるのはその時だけが悲しいからだ! 時が経てば、消え失せる! 一時の感情に流されてどうするのだ!
……だから、今。今だけはどうか……悲しませてくれ……。
「愛していたよ……アデス。」
私がこの言葉を、そしてあの男を呼ぶ名に甘さを含ませるのも、これで最後。
もう二度と外へ出すまい。お前への想いも、悲しみも、お前といる時だけの私の「人間」の部分を。
どうか、許さないでくれ。
憎しみでも、嘲りでも何でも良い。許さないで……私をそこから見ていてくれ。
そして……叶うのなら、最期に私を迎えに来て……、私を地獄へ叩き落してくれ。
それが、私に出来るお前への償い。
―fin―
『彼が死んだのに、どうして隊長はあんなに冷静なのかを考えた話』とのRai様のコメントです(T□T)//
自分がやろうとしている事は、何もかもを無にする事だから…だから愛するものなんか手にできない…
そんな隊長が切ないです(T◇T) あの冷静さがこれからの怒濤の悲劇への引き金の決意に満ちたものだと思うと余計に切ないです〜
隊長の叫びを作品にしていただけて、アデス視点もすごく決意に満ちていて…
お互い愛しあってるのがまた…(T□T)///素敵な小説ありがとうございます!