シークレット・セッシ ョン ◇3

 ▽ △ ▽



もう幾夜、身体を繋いできたのか……。

闘いの度に、では無い。
むしろ、そんな事は稀でしかない。
が、互いのテンションが一致し、条件が整えば、どちらからともなく誘った夜が確かに在った。

いつの間にか合図になっていたその短い一言を口にすると、あとは時の流れに従うだけ。
終わってから次の約束をするわけでもない。
いつも、これが最後かもしれない、と頭の片隅で思いながら肌を合わせる。

刹那の交わり。
故に、甘美で切なく。
際限無く求め、奪い、与え、放つ。

それでも、高みまで到達したように思えても、決して満たされたとは言えない。
だからこそ、前へ進めるのか。
前に進まなければならないからこそ、満たされないように心を隠しておくのか。

睦み合う場面に相応しい言葉は、ここには存在しない。
吐息は甘くとも、肌が熱くとも、繋がった部分が溶けてしまいそうでも、それだけは決して言わない。
相手の枷になるような言葉は、邪魔なだけだから。

割り切った、と言えなくもない。
けれど、実際はまだそこまで達観できるほど歳を重ねているわけでも無くて。
ただ、表に出さないようにしているだけに過ぎないのだ。
ぶつかり合いが浸蝕になったら………、それはその時に考えればいいのであって。

今は、今だけのことを考えていれば、それでいい。
まだ起こってもいない明日にまで頭を使う暇があるなら、この瞬間を燃やし尽くす術を探す方が先だ。
人生なんてのは、そんな “瞬間” の連続なんじゃねぇか。


静かになったベッドの上では、紫煙がふたすじ立ち上り、しばらくの間、ゆらゆらと揺れていた。



 ▽ △ ▽



今夜は部屋数が充分にあったので、一人部屋が四つ確保できている。
湧いて出てくるような妖怪どもを片付け、遅い食事を摂った後は、ただひたすら眠るだけだ。
食堂の閉店時間が迫り、そろそろ解散、という時に、三蔵が悟浄をチラリと見た。

「火」

悟浄が何も言わずに、ライターを滑らせる。
三蔵がそれを取り上げて、咥えていた煙草に自分で火を点ける。

「借りていく」

悟浄のライターを握り締めたまま、三蔵が徐に立ち上がった。
眠るから邪魔するな、と言い残して部屋へ引き上げていく後ろ姿を、黙って見送る悟浄と八戒。

「あのワガママ坊主、勝手に持って行くなっつーの。 後で取り返しに行かなきゃな」

文句を垂れている悟浄を八戒がじっと見つめた。

「何?」

視線に気付いた悟浄が訝しげに問うと、にっこりと微笑みが返される。

「このところ、夜の外出が減っているようですね」
「え?!」

唐突な話題に、悟浄は思わず慌てそうになった態度を取り繕わなければならなかった。

「……それが、どうかした?」
「いえ、別に」

何か含みがある時にも浮かぶ八戒の笑みに、悟浄は僅かに眉を顰める。
しかし、探るのも薮蛇になりそうで、それ以上問い質すことはできない。

「さて、僕達も戻りましょうか。 あなたには悟空を頼みたいんですけど」

満腹で気持ち良く眠ってしまった悟空に対して、八戒が先ほどとは違う、温かな眼差しを送っている。

「僕はお会計がありますので」
「…わかった」

理路整然と述べられ、悟浄は面倒くさがりながらも八戒の言うことに従った。
さっさと片付ければ、それだけ早くあいつの部屋へ行けるから。
八戒にばれないようにニヤケた面を引っ込めると、悟浄は悟空の頭を叩いた。

「猿っ、起きろっ!」
「うーん…もう朝飯ぃ?」
「このバカ猿、寝惚けてんじゃねーっつうの!」
「眠いよぉ……」
「こら、さっさと歩けっ!!」

八戒が会計を済ませている後ろを通って、悟浄に引き摺られるようにしながら悟空が運ばれていった。



 ▽ △ ▽



コン……コンコン

ノックの音を待っていたのか、扉はすぐに開いた。
来訪者を確認しようと、部屋の中にいた人物が少しだけ顔を覗かせる。
その目が、驚きで見開かれた。

「八戒……」
「お邪魔しますよ、三蔵」

有無を言わさぬ様子に気圧され、三蔵は返事もできないでいる。
その隙に、八戒が部屋へと入ってきた。

「何の用だ?」

音を立てずに素早く扉を閉める姿に向かって、三蔵は低く押し殺した声を出した。
しかし、問われても、八戒はただ微笑みを返すだけだ。
その真意がわからず、三蔵は焦れた。
もうすぐここには、ヤツがやって来るはずだから。
追い返さねばと八戒を睨んだ時、誰かが扉の前に立った気配がした。

コン……コンコン

今しがた、八戒がしたのと同じリズムでノックされた扉に、二人の視線が注がれる。
動こうとした三蔵を、唇に人差し指を立てて八戒が止めた。

「僕が出ます」

小声で告げ、ドアノブに手を掛ける。
人が一人通れるくらいの隙間を開けると、紅い影が滑り込んで来た。

「待たせ…た………ええっ?!」

目の前に立っている人物を見て、悟浄が驚きの声を上げた。

「おや、悟浄。 こんなところでお会いするとは奇遇ですね」
「ど…どういうこと…?」

事態を飲み込めない悟浄が説明を求めようと三蔵を見た。
しかし、その三蔵も腕を組んだままで、困惑しているのが顰められた眉から見て取れる。

「八戒……何でここに……」
「僕が何も知らないとでも思っていたんですか?」
「えっ?!……」

八戒は驚きで固まっている悟浄から視線を外すと、そばで立ち尽くしていた三蔵に近寄った。
顎に手をかけ、親指で柔らかな唇に触れる。

「熱を帯びた身体を持て余しているのは、僕だって同じです」
「おまえ……」
「この人を一人占めなんて」

八戒の顔が、声を発した悟浄にゆっくりと向けられた。

「いい度胸ですね、悟浄」
「……八……戒……」

あまりに恐ろしい笑顔を見せられ、悟浄は背筋が凍りつくようだった。

「あなたが教えてくれたんでしょう? 自分に素直になれと」
「ソレとコレとは……」
「肩の力を抜いて考えた結果です」
「う……」

悟浄は、自分の蒔いた種がこの状況を引き起こしたとは思ってもみなかった。

「今夜は僕と代われ、とまでは言いませんが……僕も仲間に加えてもらっても構わないですよね?」
「え?」

意味がわからないといった表情の悟浄と三蔵を交互に見て、八戒は妖しく微笑んだ。

「三人でするのは、初めてですか?」

三蔵の瞼が何度か瞬いた。

「僕も初めてなんですけどね」

八戒の声が楽しそうにはしゃいでいるが、二人は呆気に取られたまま、何も反応できない。

「何事も経験ですから」

そう言うと、八戒は悟浄の手元に目をやった。

「悟浄、あなたのその手土産を少し頂きたいんですが」
「え…これ……?」

悟浄の手には、紙袋に入った酒らしい形の物が握られたままだった。
要請に従い、袋から取り出して瓶を渡すと、八戒は直に口を付けて少し含み、三蔵へと顔を寄せた。
掴んだままだった顎を上げさせ、唇を重ねる。
口移しで、バーボンが三蔵に注ぎ込まれた。
ごくんと飲み込むと、原酒のままのきつさが喉を焼いていく。
口の中が空になっても、八戒は唇を離さなかった。
酒の残り香まで舐め取るように、八戒の舌が三蔵の口腔内を弄る。
長い睫毛に縁取られた瞼を閉じ、八戒に応えている三蔵を見て、悟浄の分身が脈打った。

「おい、勝手に先に始めてんじゃねぇよ」

言うと同時に手が三蔵の身体へと伸びて、背後から首筋に吸い付いた。

「んんっ!…」

同時に与えられる快感に、三蔵が身悶えする。
首を左右に振り、一先ず逃れようと試みるが、男二人に押さえ込まれていてはどうにもできない。
そのうち、下半身が震えだし、立っていられなくなった。
ガクッと膝が折れ、倒れそうになった身体を、後ろから悟浄が抱き留める。
八戒は力の抜けた三蔵を悟浄に預けると、部屋の奥に見えていたもう一枚の扉を開いた。

「せっかくですから、あちらで」

八戒が誘導した先には、ひとりでは勿体無いほどのダブルベッドが設えてあった。
三蔵が宛がわれたのはこの宿の中で一番広い部屋で、ゆったりとした間取りと造りになっている。

「コラ、ちょっと待て! 俺んトコのベッドはシングルだったぞ!」

さっき悟空を連れて行った部屋は自分の所と変わらなかったので、みんな同じだと思っていた。

「僕の部屋もそうですよ」
「コイツだけ待遇が違うとはどういうことなんだ、え?!」
「三人で使うなら、これでも狭いくらいでしょ?」
「ん?……ま、そうだけど……」
「落ちないように気をつけてくださいね」
「あ、ああ……」
「このような辺境ではクイーンやキングサイズは無理でしたが」
「え…?」
「川の字になって眠る訳ではありませんし」
「……」
「だから、いいですよね」

と、八戒にニッコリ微笑まれ、悟浄はまた寒気を覚えた。
用意周到とはこの男の為にあるような言葉だと、改めて恐ろしさを感じつつ。






四本の手が三蔵に伸びる。
法衣の上を落としていただけの姿から、着ている物が次々と剥ぎ取られていく。
先ほどのバーボンでいきなり酔いが回ったのだろうか。
少し目元を染めた三蔵は、ただされるがままになっていた。

「これ、脱がせにくいですね」
「あっても別に邪魔じゃねーけどな」

当人を余所に、手甲はそのままで、ということに決められた。
裸の中で一部分だけ布に覆われている姿が、一際、淫猥さを増している。

「僕に……よく見せてください」

晒された裸体をなぞりながら、八戒があちこちに唇を落とし、白い肌に朱を散らせていった。
お揃いの傷にはならなかった腹部も、愛しげに撫でさする。

八戒と知り合ってからでも、三蔵は数々の危険な目に遭ってきた。
軽い怪我で済んだ時もあれば、瀕死の状態に陥った時もあった。
幾つか、八戒が手当てを施した傷跡もあるが、遥かに古い傷も数多く残っていた。
そのどれもに、八戒は丁寧に愛撫を与えていく。

それは、悟浄とはまた違う感触。
唇が触れたところにも指が触れたところにも、敏感に意識が走り回る。
執拗なまでの愛撫に、三蔵はくらくらと眩暈を起こしそうだった。

枕元には悟浄が座り込み、獲物を前にして目を光らせていた。
ロックにした酒を時折三蔵の喉に口移しで注ぎ込みながら、柔らかな唇を堪能する。
呑み切れなかった琥珀色の液体が、三蔵の口元からつつっと一筋流れた。
それを舌で舐め取ると、そのまま又、唇を貪りつつ、自分の分身を三蔵に握らせた。

どれだけ熱いか、どれだけ猛々しいか。
既に知っているモノを手にして、三蔵自身も脈打つ。
頭を擡げたところを、八戒が咥えた。

「うっ!…」

局部に与えられる刺激と口腔内を這い回る侵入者の動き。
どちらもに過敏に反応してしまう三蔵の身体が、快感の渦に呑み込まれている。

「手が疎かになってるぜ」

悟浄がくちづけを中断し、三蔵の手に自分の手を添えて握り方を教える。
リングが心地良い刺激を生み出していたのは新たな発見だった。
けれど、強く擦られると痛みの方が大きくなったので、指の腹を使わせることにした。

唇が解放された為、もたらされる快感はひとつになった。

(浮遊しているのか……それとも、沈み込んでいくのか……)

三蔵はかつて経験したことの無い不思議な感覚を味わっていた。
そして、八戒による波に同調するように、夢中で悟浄を扱く。
すると急に、指示されるままに動いていた三蔵の手が止められた。

「っと、ちょい待ち」
「っ!…」

同時に、ほとんど達しかけていた三蔵の根元を、八戒が強く握る。

「このまま出しちまうのも味気ねーな」

身体を重ねる度に次第に膨らみそうになっていた想い……。
それを吐き出す代わりに、俺の欲望をぶちまけてやりたい。
ココロなんてモノは受け止めてくれなくてもいいから、ただ、自分を感じて欲しい。
そんな、内部で渦巻くもやもやした感情はおくびにも出さず、悟浄は余裕の表情で八戒に告げた。

「それでは」

悟浄を上回る余裕の笑みの八戒が、三蔵の身体をひっくり返して四つん這いにさせる。
戒めを解かないように、八戒と交代して悟浄が三蔵を握り直した。

「天国へ連れて行ってやるぜ、三蔵サマ」

そう宣言すると、すぐさま扱きはじめ、三蔵を一気に高みへと追い詰める。
限界が近かったそれは、もう慣れたと言ってもいい悟浄の手により、すぐに頂点に達した。

「くっ!!」

白濁したものを放出した後も、ビクッビクッと何度か身体が痙攣している。
汗で束になっている金色の髪を八戒が優しく撫でた。
力が抜けたように瞳を閉じて憂いを漂わせている顔には、キスの雨を降らせて。

悟浄は、手の中に放たれた精子を三蔵の蕾に塗りたくり、そこを指でほぐしはじめた。
どれだけ抱いても狭い入り口は、いつも吸い付くように悟浄に絡みつく。
刺激は快感となって三蔵を再び煽り、指を増やす都度、堪え切れない声が切ない息遣いと混ざって溢れた。

「たまんねぇな…」

既に張り詰めていた茎をひくひくと蠢いている秘所へと宛がうと、三蔵がびくりと身体を竦ませる。
何度迎えても、この時だけは慣れることが無い。
行く手には愉悦の泉が待っているとわかっていても、最初の瞬間は緊張が伴う。
その為、逃げをうつように腰が僅かに引けたが、悟浄の手がすかさず細い腰を掴んで引き戻した。

「力、抜けよ」

その声と同時に、三蔵の身体が一気に貫かれる。

「ああーーーーーっ!!」

膝も腕も崩れ落ちて自分自身を支え切れずにベッドに突っ伏してしまっても、悟浄の律動は続いていた。
突き上げられる度に三蔵の身体が前後に揺れる。
助けを求めるように前方へと伸ばされた手に、八戒が指を絡めた。
力が入る毎にしっかりと組み合わされる手と手。
中指の両端はリングが当たって痛い。
けれど、その痛みさえ今は愛しく感じ、八戒は顔を近付けて、三蔵の指の一本一本を丁寧に舐めていった。

「うっ……はあっ……っ……」

悟浄のペースが上がると共に、三蔵の半開きの唇から漏れ出てくる声が部屋の中を漂う。
近くで聞いていた八戒は堪らず、頭を抱え込むと唇を寄せた。

「んっ!……んんっ!!」

口で呼吸していたのに突然塞がれてしまい、息苦しくて三蔵が首を激しく振って抵抗する。
一旦、離れた八戒は、喘ぐ三蔵の口腔内に自分の分身を捻じ込んだ。

自由になったと思ったのも束の間、今度は口の中いっぱいに侵入してきた熱い塊。
吐きそうになっても、頭を押さえ付けられているので耐えるしかない。
嘗めているつもりは無かったが、身体が揺さぶられているのに併せて舌や唇も動く。
息も絶え絶えになりながら、三蔵は段々と頭の中が白くなっていった。

そこへ、

「イくぜ!」

と振り絞ったような悟浄の声が耳に届いた。
動きが止まるや否や、三蔵の内部に熱い飛沫が放たれる。
どくどくと自分の中を満たしていくものを感じ、三蔵がぶるっと震えた。

八戒はまだ途中だったが、三蔵の口から離れていった。
ようやく普通に息ができた三蔵が、思いきり酸素を吸い込む。
その時、悟浄が三蔵の中から出ていく拍子に、小さく声があがってしまった。
ずるりと抜ける感触に続いて、流れ出ていくものがわかる。
さっきまで自分に纏わりついていた全てが一瞬で無くなったような感じ。

(え……?)

三蔵は途端に虚無感を覚えた。
絶頂を感じたのは、ほんの僅かの間だけだ。

刹那とは、仏教でいう時間の最小単位。
その、何と短い事か。

三蔵が荒い息をつきながらそのままの姿勢でいると、顎に手を掛けられて上を向かされた。

「次は僕の番ですが」

今まで聞いたことの無いような低音で響く八戒の声音に、三蔵の胸の奥がぎゅっと掴まれる。
心臓の早い鼓動が、耳にまではっきりと届く。
自分を支配する快楽が再び目前に迫っていることに、三蔵は興奮を隠せない。

「遠慮してんじゃねぇよ」

ふっ、と笑ったような息が漏れ、その口の端が上げられた。

「来い」

乱れた髪の下で、紫暗の瞳が光る。
深緑の瞳も、それに応えるかのように妖しい光を宿した。
見つめあったまま抱え起こし、触れるだけのキスを与えると、八戒は三蔵を背後からぎゅっと抱き締める。

「いきますよ、三蔵……」

耳元での囁きに、三蔵の身体がぞくりと震えた。
その腰が掴まれ、僅かに浮く。
次の瞬間、八戒は胡座をかいている自分の上に、三蔵を勢い良く落とした。

「ああっ!!!!!」

いきなり、最奥まで届いた八戒の楔。
三蔵は息ができないほどに圧迫され、苦しそうに喘いでいる。

「ちゃんと息して、三蔵」

八戒の声に、一息ついた悟浄が三蔵の前に廻り込み、胸の突起を口に含んだ。

「あ……」

そちらに意識が行った途端、呼吸が元に戻った。
だが悟浄は、胸を弄ったまま三蔵の分身にも手を伸ばすと、巧みに追い上げていく。

「っ……うっ……」
「大丈夫ですか?」

悟浄の攻めに思わず呻いてしまった三蔵に、八戒の動きが止まる。
と、三蔵が片腕を伸ばして後ろの八戒の頭を掴んで抱え込み、声のした方に顔を向けた。

「手加減…するな……っ」

余計なお世話だとばかりに睨みを効かせた眼も、今は八戒を煽る餌でしかない。

「もちろんですっ!…」

餌に食い付くように、八戒が本能のままに目の前の唇を貪る。
それは顔が近付いてきた時に三蔵が予想したよりも、はるかに容赦無いくちづけだった。

「んっ! んんっ!!」

三蔵の喉の奥で出口を奪われた声が弾ける。
無理な体勢はあまり長く続けられず、三蔵が髪を振り乱しながら吸い付いていた唇を振り切った。

「三蔵……っ」

細い腰を押さえ付けて三蔵を突き上げる八戒の息も上がりはじめた。
はぁはぁと乱れた呼吸を落ち着かせようとする三蔵の下半身に悟浄が顔を埋め、その昂ぶりを舌で捕らえる。
その一瞬、くらっと世界が揺れたように感じた三蔵は、求めていた感覚がすぐそばまで来ているのを感じた。

(……近い……)

何もかもが溶け合い、何もかもが曖昧になり、宇宙と融合するかのように己と他者との区別が無くなる感覚。
三蔵は、その感覚を悟浄との行為によっても度々味わってきた。
しかし今は、それまでとは比べものにならないくらいの、更なる境地まで行けそうな気がしている。

白い木目細かな肌の上を八戒と悟浄の手が這い回る。
それぞれの違うタッチが、微妙に快感を増やしていく。
休む間も無い愛撫にくっと息を詰めた三蔵が、ありったけの意識を総動員させて叫んだ。

「……もっとだっ!……てめぇら、本気で来やがれっ……!」

それは征服者を刺激するにはあまりにも効果的な台詞で。
もとより、どちらも全力でぶつかっていたのは、疑う余地が無いほどだった。
なのに、それがわかっていながらもどこまでも気丈で自虐的な三蔵。
二人はその存在に対して、うっとりするほどの悦楽と、これ以上は無い興奮を感じた。

「では、覚悟してくださいっ!」
「くあっ!!!!!」

八戒が三蔵の腰骨と片手首を掴んで離れられないようにしたまま、自分の腰を思い切り突き上げる。
望みのままにと、己自身の炎を更に燃え滾らせ、三蔵を焼き尽くしていった。
悟浄の口淫も速度を上げて、三蔵を極限まで追い詰めていく。

「ぅあっ!!」

金糸の髪が淫らに舞う。
細い身体が仰け反り、喉元が曝け出される。

(もう…少しで……)

身体も心もバラバラになりそうなほどに揺さ振られる。
眩暈どころではない、この世の全てがぐるぐると回るような感覚。
三蔵は酔っていた。
酒の酔いだけで無く、この行為そのものに酔い、めくるめく快楽に浸っていた。
そして、その先の世界へ辿り着こうと、意識の全てを場面の流れに委ねた。

疼きもやがて昇華され、ただ、解放を待ち望むばかりになっている。
狂ったように頭を振り続けている三蔵のぎゅっと瞑った目元が、じわっと濡れはじめた。
許容量を越えた快感が、涙となって零れ落ちる。
限界まで張り詰めた三蔵を感じ取り、悟浄が最後にきつく吸い上げた。

「んっ!!」

自分の下腹部で上下に動く紅い髪を掴んでいた三蔵の身体が硬直した。
突き上げられたと同時に放出された精を、悟浄が残らず飲み下す。
悟浄の口が離れた後、やや放心状態の三蔵を八戒が前に倒した。
腰だけを持ち上げた格好の裸体を、深緑の瞳が上から眺める。

「ああ……」

美しい、と思わず溜め息が出るほどの光景に、八戒は見入ってしまっていた。
細いが、綺麗に筋肉のついたしなやかな身体。
くびれたウエストは儚ささえ感じるが、それが余計に八戒を昂ぶらせる。
ただ、これで手に入ったとは思わない。
けれど、今の三蔵の世界の全ては自分が与えたものだという事実に、八戒もまた酔っていた。

「三蔵っ!!」

既に何も耳に入らない様子の三蔵の名を呼び、八戒は穿っていた分身を更に奥深くへと押し進めた。

「ああっ!!……あっ……っ……あっ!………」

激しい律動により、三蔵の身体が前後に揺れ、掠れた声が切れ切れに漏れていく。
直接的な刺激だけが三蔵を支配している。

この、何も考えられない状態は、三蔵が暗に欲したものではなかったか。
今はもう、それだと認識することさえできないが。

「くっ!!」

肌がぶつかる音が止んだ瞬間、八戒が三蔵の内部に迸りを放つ。
最後の一滴まで出し切ると、ふっと力が抜けた。
そのまま八戒は、ぐったりと身体を投げ出している三蔵の背に倒れ込んでしまった。

絡み合う姿態のクライマックスを息を呑んで見ていた悟浄が、静寂の訪れと共に、ふうっと全身の力を抜く。
重なり合ったままの二人に近寄り、満足気な表情の八戒を見ると、その鼻の頭を軽く指で弾いた。

三蔵は半ば意識を手放しているようだ。
金糸の髪を梳きながらじっと見つめる。
その表情はどこか安らかだったが、まだ充分に淫靡さを漂わせていた。

「こーいうの……癖になりそう……」

紫暗の瞳を奥に隠している睫毛についた雫と、頬を伝った涙の跡を愛しげに拭いながらの、悟浄の呟き。
その後に、「僕もです」 という小さな声が、まだ荒い吐息と共に続いた。



 ▽ △ ▽

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