シークレット・セッシ ョン ◇2
▽ △ ▽
思わぬところでの意外な展開だった。
ひとりでは持て余していたかもしれない、厄介な熱。
そんなモノを抱えている自分の身体をどう扱おうかと考えあぐねていた時に、タイミングのいい誘いが来て。
三蔵は、はっきりとOKもしなかったが、きっぱり拒絶もしなかった。
――― それを、あいつは勝手に、都合のいいように解釈しやがって
だが、受けたのは自分の意思だ。
まあ、河童の誘いに乗ったのは、気まぐれってヤツかもしれないが。
思い返して、三蔵は口の端を僅かに上げた。
この身体は頑なに守らないといけないわけでも無し、ただの道具として使うことに抵抗は無い。
別に、三蔵法師といえども、欲望のままに行動する事があったっていいだろう。
俺はヒトの為では無く、己の為に生きているのだ。
我慢などする必要は無い。
開き直ったようにそう考えると、三蔵はそれをどこか面白がっている自分がいることを嘲笑った。
そして、奇妙な開放感と同時に、新たに浮かび上がってきた見えない枷を感じていた。
――― ま、束の間、快楽を享受したところで、バチは当たらんだろ……
枷の正体を見極めようとするのは、時間の無駄に思えた。
それが何なのかわかったところで、どうするつもりも無いのだ。
これから始まる行為は、その場限りのこととして、後には何も残さぬつもりだから。
間もなく、約束の夜。
適度な緊張感が辺りに充満していく。
三蔵は、法衣をするりと肩から落とした。
▽ △ ▽
コン……コンコン
注意していなければ聞こえないくらいの小さなノックの音がした後、扉が細く開けられた。
来訪者を確認すると、もう少しだけ開かれる。
そこへ、廊下で待っていた悟浄が、音も無く隙間から入り込む。
後ろ手に締めた扉に鍵をかけて一歩踏み出す。
そして、一連の仕草をじっと見ていた三蔵をぐっと壁に押し付けた。
「お待たせ」
近くにある耳にだけ届くくらいの、小声での囁き。
三蔵は、空間と時間が日常から切り離されていくように感じた。
「いいねえ」
悟浄の視線が、三蔵を下から上へと舐めていく。
風呂上りなのだろう。
単を一枚羽織っただけの三蔵は、この上なく色っぽい。
まだ上気している肌からはいい匂いが漂っている。
悟浄は首筋に顔を埋めて、三蔵から立ち上る香りを思いっきり吸い込んだ。
「この格好は、俺の為?」
「別に……」
「ちゃんと待ってられた?」
耳朶を甘噛みしながら問うと、すぐに三蔵の息が荒くなった。
「おまえが…待てと言ったんだろ……」
「イイ子だ」
「なっ!……」
言い返そうとした三蔵の唇を悟浄が塞いだ。
性急に舌を求め、絡ませる。
息もできないくらいに吸いつかれ、苦しくなった三蔵が悟浄の胸を押し返そうとした。
が、逆にその手を掴まれて、下へと持って行かれてしまう。
三蔵の手が触れたのは、悟浄の昂ぶり。
「っ!!」
その大きさと硬さに思わず身を捩ると、くちづけからは解放されたが、後ろ向きに抱えられてしまった。
「怖くなった?」
「誰が……」
「今夜は眠ろうなんて思うなよ」
「ぁ……」
項を舐められ、固く結んでいた三蔵の口から吐息が漏れる。
悟浄の手が、三蔵の中心へと伸びていく。
「もう、こんなじゃねぇか」
そう言いながら、単の上から形を確かめるように三蔵の分身を撫で上げた。
「あっ……っ………」
「感じてんだ…」
耳元で囁かれ、三蔵がきゅっと固さを増した。
擦られただけで、立っているのもやっとなほどに身体が震えている。
悟浄がその体勢のままベッドを目指したので、三蔵は足を縺れさせながら引き摺られていった。
数歩で到着したベッドの中央に三蔵が寝かされる。
けれど、すぐに上体を起こすと悟浄に背を向けてしまった。
割り切ってはみたものの、戸惑いは隠し切れない。
だが、自分が招き入れた手前、無様な真似は見せられない。
その葛藤を感じ取った悟浄が、正面に廻って三蔵の顔を覗き込んだ。
「三蔵サマはどんなプレイがお好みなんでしょうか?」
「……任せる。 どれでも、損はさせねぇんだろ?」
軽い調子で質問してみると、少しは緊張が解けたのか、三蔵がいつもの強い光を瞳に宿した。
「んじゃ、スペシャルコース、ってコトで」
悟浄の瞳も、真剣味を帯びだした。
見つめ合ったまま、三蔵の後頭部を掌で支え、くちづけを与えながらベッドに横たわらせる。
頭の下になった手が、白い項を這い、耳を弄った。
「んっ!……」
拙いながらも悟浄のくちづけに応えていた三蔵は、重複して襲ってくる刺激に身を震わせた。
その間も悟浄の唇は休むことなく三蔵を啄ばんでいる。
空いている方の手が単の襟を寛げ、首筋を撫で、浮き出た鎖骨を辿る。
滑らかな感触を楽しむように肌を滑っていた悟浄の指が、下へと移動した。
単の裾を割って入ると、茂みが直接手に触れた。
「準備万端じゃねぇかよ」
腰紐に手がかかり、しゅるっと引き出される。
薄い単が一枚と、細い一本の紐だけで守られていた三蔵の身体が、今、露わになった。
一見したところ白いだけだった肌には、よく見ると無数の傷が存在している。
それは、過酷だった三蔵の過去を語るにはあまりにも雄弁すぎて、悟浄は一瞬、言葉を失った。
しかし、次に自然と口をついて出てきたのは、紛れも無い本心だった。
「綺麗だ……」
「うるさいっ」
三蔵が両手で悟浄の紅い髪を掴んで引き寄せる。
それ以上、言葉の続きを言わせまいとするかの如く、噛みつくようにしてくちづけた。
が、主導権は悟浄に奪い取られてしまった。
思いきりディープなキス。
三蔵は、横たわっているのに、世界が揺れて倒れそうな感覚に襲われていた。
「美人は大歓迎。 強気なら、なお良し」
既に瞳の焦点が定まっていない三蔵にそう囁くと、悟浄はまたすぐに目の前の唇を求める。
「……んっ……っ…黙……れ……」
くちづけの合間に切れ切れに漏れるのは、三蔵の熱い吐息と、少し掠れた甘くも聞こえる声。
悟浄は今までの自分が女ばかり抱いていたことなど忘れてしまったかのように、三蔵に引き込まれていった。
分身を握られたまま、指と舌により身体中を弄られる。
その手馴れた愛撫に三蔵は翻弄されっ放しだった。
快感以外を感じる暇も無いほどに追い上げられる。
全身が硬直する。
あ、と思った時には達していた。
酸素を求めて開かれた三蔵の口に、悟浄の中指が侵入してくる。
「濡らした方がラクだから」
そう言って舌とじゃれ合うようにして指を動かし、三蔵に舐めさせる悟浄。
最初は唇の間からチラチラと覗く淫らな赤いイキモノを見ていただけだが、そのうちに自分の舌も絡ませた。
湿った音と熱い息遣いだけが、今この部屋で聞こえる全てだ。
唇を合わせたまま、悟浄は指を引き抜いた。
唾液でぬめぬめと光っているその指が、三蔵の秘所を目指していく。
狭い入り口に到着すると、それはゆっくり中へと入っていった。
くちづけに集中していた三蔵がぴくっと反応する。
異物感に驚き腰が引きかけたが、悟浄にがっしりと押さえ込まれている状態では逃げることも叶わない。
鈍い痛みが、段々と増えていく指と共に広がっていく。
だが、唇や首筋や胸に与えられる刺激と相俟って、その痛みも次第に、快感へと変貌を遂げた。
しかし、場面はすぐに次のステージへと展開していく。
膝を割って悟浄の身体が圧し掛かり、
「入るぜ、おまえン中に」
と言う声が聞こえて指よりも太くて硬いものが当たったのを感じた瞬間、激痛が三蔵を襲った。
「はあっっっ!!」
身体が引き裂かれそうな痛みに、三蔵の全身が強張る。
それが余計に苦痛を増すことになるのだが、耐えることしか知らない三蔵はひたすら歯を食い縛っていた。
「そんなに力むもんじゃねえよ」
少しでも苦痛が和らげばと、悟浄が三蔵の敏感な箇所に触れ、快感を呼び戻させようとする。
「んっ…」
愛撫に反応して、少しだけ三蔵の緊張が解けた。
そのタイミングを見計らって、悟浄が腰を動かし始める。
やがて、痛みだけでは無い、何とも言えない感覚が三蔵を包み込んだ。
「何故……だ?……」
「え?」
「何…で、俺と……なんだ……っ………」
まだ息も絶え絶えではあったが、思考できる状態になった三蔵の、悟浄への問い掛け。
それは、漠然と抱えていた疑問だった。
女ばかり相手をしてきただろう悟浄が、何故、男の自分を欲しがるのか、と。
悟浄は顔を近づけ、紫暗の瞳を覗き込んだ。
「美しいものを見たら、触れてみたくなるだろ」
「うっ……ん、んんっ……」
会話の間にキスが挟まれ、三蔵は身体全体ではっきりと快感を感じ、その波に溺れそうになっていた。
「最高僧の三蔵法師様をどこまで悦ばせられるか、ってな」
「…おまえの……スペシャルってのは……こんなもんか?」
あまり乱れていない様子の悟浄に、三蔵は眉根を寄せながらも強気な口調で言い返す。
「まだ、メインディッシュじゃねぇっつーのっ」
言うと同時に、強く突き上げた。
「んあっ!!」
思わず叫び声が上がった時には、悟浄の熱く硬い楔が深く深く打ち込まれていた。
三蔵の細い身体が弓のようにしなる。
ぎゅっとシーツを掴んでいる手に、更に力が入る。
呼吸するのも追い付かないくらいに攻め立てられ、息が上がった。
二人の肌が、汗でしっとりと濡れている。
「気持ちいいなら、我慢すんなよ」
「くっ…っ……んっ!……」
三蔵は浅ましく叫び声を上げることを律しているのか、唇を噛み締めたままでいた。
それを見た悟浄が、堅く閉じた口を割って入って濃厚なくちづけを与える。
麻痺しそうなほどに舌を吸われ、舐めまわされて、唇が離れても三蔵は口を閉じることができなかった。
「もっと声出せ、もっと聞かせろ」
「…あっ……ああっ!!」
開いたままの唇から、切ない声が搾り出されていく。
律動に合わせて、悟浄の手が三蔵の分身を扱き出した。
挿れる前に一度追い上げられていたそれは、二度目の放出を目指して、再び硬さを増している。
「そう、もっと! もっとだ!!」
悟浄の声にも煽られ、かぶりを振って声を上げ続ける三蔵。
そのあまりの乱れ様に、悟浄は自制心を失った。
「クソッ、もう我慢できねぇ……イクぜ!」
「んっ!!」
悟浄はこれ以上は無理というほどに腰を押し進めると、最奥に向かって解き放った。
同時に、三蔵も弾けた。
ぐったりと身を投げ出している三蔵の顔が、汗ばんでキラキラしている。
ついさっき、髪を振り乱していた時の、苦痛と歓喜が入り交じった顔。
そして、今の放心状態のようなどこか穏やかな表情。
そのどちらも、悟浄が今まで見たことも無い、普段とは違う三蔵の新たな顔だった。
「三蔵……」
これほどまでに美しく強い存在が、自分と繋がっている。
そのことに、悟浄は言いようの無い興奮を覚えた。
すると、悟浄の分身が、どくんとひとつ、大きく波打った。
「!」
その波を感じた三蔵の身体が、ぴくんと反応する。
「一発じゃ済まねぇな……」
「っ?!」
悟浄の手が、シーツに散らばっていた三蔵の髪へと伸びる。
そのまま中へ差し入れ頭を掴むと、三蔵の身体をぐいっと抱き起こした。
あっと言う間も無く、三蔵は悟浄に跨る格好になってしまっている。
逃れようと考えた時には、再び突き上げられていた。
叫ぼうとした口が悟浄に塞がれ、突っ張った手に力が入る。
肌に食い込む爪を感じながら、悟浄はその痛さを攻撃力に変えて、更に三蔵を攻め立てた。
三蔵の声にならない声が零れ落ちていく。
灼けるような夜は、まだ始まったばかりだった。
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