【第17章】





【第17章】



〔17−1〕


無理に出て行こうとする三蔵と止めようとした悟浄が殴り合っているところへ、悟空が突然入ってきた。
持ち込んだ卓をドアのすぐ前で組み立て、その上に布を掛け、ジャラジャラと牌を広げる。

「麻雀やろ」

唐突な発言に、誰もが驚いた。
最初に同意したのは八戒だ。
悟浄も、八戒に呼ばれて席に着かされた。
三蔵は出口を塞がれたことに腹を立てたが、悟空はどこうとしない。

――― 冗談じゃねぇ、こんな時に呑気に麻雀なんぞ……

「負けたままでいいワケ?」

――― 誰がっ! 負けたままで……いいワケがねぇだろうが……

「俺もう、負けるつもりないから」

――― 俺だってそうだ……

「勝たなきゃ意味ねーじゃん!!」

――― …単細胞の思考回路は単純明快だな……

次第に、三蔵の頭の中ではもやもやしていたものが消え失せ、霧が晴れていくような感じになっていた。

「次は勝つ」

それまでなし崩し的に付き合わされていたが、その力強い宣言は自分にも言い聞かせたもの。
トリプルリーチをかけられた三蔵は自分の番で牌を手に取ると、ちらっと見てから卓に叩き付けた。

「ツモ」
「え……」
「うそっ!」
「マジッ?!」

三人が三蔵の和了(あが)り役を見て呆然としている。

「言っただろうが、次は勝つと」

薄く笑みを口元に浮かべた三蔵が、美味そうに煙草をふかせた。

「あはははは、そう来るとは思いませんでしたー」
「おめっ、積み込んだりしてねーだろうなっ!」
「貴様じゃあるまいし」
「何をっ!!」

言い合いになりかけている三蔵と悟浄を尻目に、悟空が 「降参〜」 と言いながら後ろに倒れた。

「しっかし、いきなり役満とはなー」
「ホントですよ」
「フンッ」

一瞬の間の後、八戒がくくっと笑い声を漏らしたのに釣られたのか、悟浄も寝転んでひとしきり笑った。
横では三蔵が、煙草を咥えたまま卓上に肘を付き、掌に頭を乗せて目を閉じている。

「寝煙草はいけませんよ」

八戒は三蔵の口元から煙草を引き抜くと、吸殻が山と積まれている灰皿で火を消した。

「吸い過ぎですよ、アナタたち…」

いつもの小言口調になったが、もう誰も聞いてはいない。
三蔵の頭がガクッと揺れ、そのまま突っ伏した。

(三蔵…やっぱり、貴方は強い人ですね……)

その強さが愛しい。
目の前の金糸の髪に、八戒の手がついと伸びる。
一度だけ優しく撫でると、その感触が逃げないようにもう片方の手で握り締め、ベッドに凭れかかった。

「僕もいい手だったんですけどね〜」

自分が並べた牌を見ていた八戒の瞼は、すぐにゆっくりと閉じていった。







悟浄が一番に目を覚ました。
四人とも疲れでいつの間にか寝入ってしまっていたらしい。
マスターが毛布を掛けてくれたのも気付かなかったくらいだ。
上半身を起こしてみると、卓にうつ伏せになっていた三蔵の瞼がゆっくりと持ち上がるのが見えた。

「………」

目覚めて一番に視界に入ってきたのは、共に、自分の心の大半を占めている人物。
紫暗の瞳が紅い瞳をじっと見つめる。
二人の鼓動が、同時にどくんと大きく打った。
時が止まったかの如くに感じる。
何か言いたげに悟浄の唇が開かれた、その時、

「うーん……!」

と伸びをして悟空が起き出した。
その動きで八戒も目が覚めたらしい。

「おはようございます〜」

のんびりと挨拶をしてくるのは、日常の長閑な一場面と変わらない。
闘いに負け、皆、ボロボロに傷付いた身体ではあったが、雰囲気は明るく、どこか晴れ晴れとさえしていた。

「あー、腹減った〜〜〜」
「そういえば、悟空はずっと何も食べて無かったんですよね?」

毛布を畳んでいた八戒が、心配そうな声で問う。

「急に腹減ったのを思い出した感じー」
「じゃあ、マスターに頼んで何か作ってもらいましょう」
「うん!」

勢い良く返事した悟空は、すぐさま部屋から飛び出して駆けて行った。
「おっちゃーん!」 とマスターを呼ぶ声が建物中に響いている。

「悟浄はどうします?」

八戒が、最後の局そのままの状態で残されていた牌を片付けつつ尋ねた。

「ん?」
「朝食…と言うか、この時間だともう昼食でしょうが、食べられそうですか?」
「ん〜、一服した後で軽くもらおうっかな」

悟浄が凝りを解そうと、肩や首を廻しながら答える。

「三蔵は?」
「…コーヒー」

まだ覚醒し切れていない状態で短く返事した三蔵を、熱い想いを内に秘めた眼差しで見つめた八戒は、

「わかりました」

と答え、他の三人の毛布も片付けてから、麻雀セット一式を抱えて、使用済みの灰皿を手に取った。

「用意しておきますので、遅くならないうちに来てくださいね。 あー、灰皿はそっちのを使ってください」

八戒が視線で示したのは、箪笥の上に置かれてあった予備の灰皿だった。

「へいへい」

悟浄が軽く片手を挙げて八戒を見送る。
部屋には、二人だけが残された。




〔17−2〕


悟空と八戒が出て行った後、悟浄は羽織っていたシャツに腕を通すと、煙草を咥えた。
三蔵も自分が使っていたベッドに腰を下ろして、無言のまま煙草を一本抜き取る。
そこへ、悟浄がライターを差し出した。
三蔵がフィルターを唇で挟むと、目の前で火が点けられる。
揺らめく炎に引き寄せられるようにして、三蔵は煙草を火に近付けた。
少し吸い込み、ゆっくりと煙を吐き出す。

新しい灰皿を間に置いて、悟浄も三蔵と同じベッドに座った。
二つの紫煙が、並んでゆらゆらと立ち昇っている。
三蔵は灰皿の位置だけを確認すると、悟浄の姿は目に入れないようにしているのか、顔を背け床を見つめた。

(可愛くねぇな〜)

よく知っている仏頂面だが、機嫌が悪いのでは無さそうだ。
そして、視線を合わさないものの、意識が自分に向いているのを悟浄は感じていた。

今、こうして三蔵のすぐそばにいられる喜びを改めて噛み締める。
あの時、出て行ったのは逃げたんじゃない。
先ずは、自分自身でけりをつけるべく単独行動に出た。
だが、少し三蔵と離れなければ、と決心したのも理由のひとつで…。

あれ以上一緒にいると、欲望のままに三蔵に手を出してしまいそうだったから。
それは、本心ではあっても本意ではない。
だから、冷却期間を置こうとした。
この先、旅はまだまだ続く。
その道程を共に過ごせるように、冷静に自分と三蔵との関係を見つめ直したかったのだ。

しかし、実際に離れてみてわかったのは、三蔵への募る想いは止められないということ。
無理に抑え付ければどこかで爆発してしまうだろう。
それよりも、自分の想いを素直に認めてしまう方が互いの為に思えた。

とは言うものの、普通の恋愛感情とはどこか違う気がしている。
安らぎを求めているのでは無い。
約束を求めているのでも無い。
明日をも知れない旅路の中で、互いの存在が生きる原動力になれたなら、それだけでいい。
…と考えるのだ。

束縛しようとは思わない。
もとより、それは無理な話だが…。
ただ、相手に己を深く刻み付けたいとは思う。

最初は、傷付けたいわけじゃ無かったのは確かだ。
ここまで深く関わろうとは思っていなかったから…。
けれど、三蔵が抱えている闇の部分を前にしては、荒療治しか手段が思い浮かばなかった。

甘さを拒む三蔵は、己にも他人にも厳しい。
そんな相手と互角にやり合う中では、傷付け合うことでしか確かめられない場合もある。

他人を寄せ付けない三蔵と、どんな形であれ、刹那でもいいから触れ合えれば。
全身で三蔵を感じる瞬間がどれほど貴重で極上なものか、悟浄は身を以て知ってしまった。
悦びであれ憎しみであれ、三蔵の全てが自分にぶつかってくる時に、悟浄は満たされるのだ。
…が。

(三蔵は……?)

この町に来る前、森の中で触れた三蔵からは、拒絶の色は窺えなかった。
かと言って、悟浄を受け入れているのとは違うようだ。
多分、本人自身にも途惑いがあるのだろう。
意思の強い三蔵は、状況に流されたりはしないはず。
悟浄の手や唇に応えてしまうのは、そうしたいと願う部分が僅かでもあるからではないだろうか。
例えそれが、本人の無意識の範疇であっても。

「三蔵……」

つい、名前を口にしてしまった。
呼ばれた三蔵の気配が一瞬張り詰める。
ごくり、と生唾を飲む音が聞こえた。

緊張しているのか?
俺を…怖がっているのか…?

(ああ、そうだった……)

己が三蔵にしてきた事実を思えば、簡単に心を許すなどとは思えない。
旅に出る前も、出てからも、三蔵の気持ちを無視した行動をとってきた。
力で服従させ細い身体を組み敷き、幾度も犯したのだ。
今更、心を寄り添わせたりなどはできないだろう。

ならば、憎しみや殺意だけでもいい。
三蔵が自分を意識してくれるなら、その心の片隅にでも棲まうことができるなら。

「…身体、……無理すんなよ」
「……」
「もう、何もしねえから」
「!……」

予想に反した言葉だったのか、三蔵が弾かれたように顔を上げた。

「先に行くわ」

灰皿に煙草を押し付けながら悟浄が立ち上がる。
それに釣られて三蔵も腰を浮かせた。
だがすぐに、悟浄が歩き出したのとは反対の方へ身体ごと向き、その場に立ち竦んだ。
三蔵もほとんど吸い終わっている。
悟浄が使った灰皿を手に取り、その中の吸殻に持っていた煙草を重ねた。
燻っている煙が辺りに流れてゆく。
出入り口に背を向ける格好の三蔵を切ない思いで見遣ってから、悟浄がノブに手をかけた。

バタン。

ドアが閉まる冷たく響いた音に、三蔵が思わず灰皿を落とした。
微かにだが、指先が震えている。
カランカランと灰皿が転がるのは気にも留めず、三蔵は振り向いてドアを見た。
まるで、紅い残像を追うかのように…。
すると、

「!!」

複雑な思いに歪んでいた三蔵の顔が、驚愕の表情に一変した。
そこには出て行ったはずの悟浄が立っていたのだ。

「何…で……」

驚きに固まる三蔵の元へ、悟浄が足早に近付いてきた。
あまりの勢いに一歩後ずさったところを、伸びてきた手に捕まえられてしまう。
もう逃がさない、もう離さない、とでも言うように、抱きすくめる悟浄の腕に力が込められた。
金糸の髪に顔を埋め、三蔵の匂いを身体中に満たす。

ふと、シャツの裾が引っ張られている感じがした。
見ると、三蔵の下ろしたままだった手が、悟浄の服を握り締めている。
悟浄は、背中に廻していた手をゆっくりと解き、三蔵の甲に滑らせた。
慌てて離そうとした三蔵だったが、長い指が絡みついてくる為に逃れられない。
自由を奪われた状態の手を、悟浄が背面へと導いた。
まるで、腰の辺りで後ろ手に縛られているような窮屈な体勢に、三蔵が小さく呻き声を上げる。

「離せっ……」

俯いている三蔵を覗き込んだ悟浄が、ふっと笑った。

「嫌なら逃げれば?」

三蔵は手を振り解こうともがくが、逆に片手で一まとめにされてしまった。
空いた悟浄の手が、三蔵の顎を持ち上げる。

「力じゃ俺に敵わねぇってわかってんだろ?」
「…何もしねえんじゃ無かったのか…?」

睨み上げてくる紫暗の瞳をまともに受けて、悟浄は身体の芯が疼くのを感じた。

――― 欲しい…っ!!

三蔵が欲しい。
それは、紛れも無い素直な欲求だ。
今は、今だけは、余計なことは何も考えず、本能のままに三蔵を求めたい。
悟浄が三蔵を見つめ返した。

「こんなおまえをほっとけるかっての」
「…」

さっきまでの強引さはどこへ行ったのかと思うような静かな表情に、三蔵は暫し怒りを忘れた。

「けど」
「…?」
「何も変わってねぇよな」
「え……」
「何があったって、おまえはおまえなんだな、って思ったんだよ」
「な……っ!」

言い掛けた三蔵の唇を、悟浄のそれが塞いだ。
条件反射で、三蔵の身体が咄嗟に強張る。
しかし、与えられたのは、過去に経験した荒々しさとは違う、限りなく優しいくちづけだった。
それは、痛さがあったから余計に感じられる甘さだったかもしれない。

三蔵は、くらくらする感覚に酔わされ、自我を手放しかけた。
決して応えているつもりは無いが、悟浄の舌を受け入れているのは事実だ。
そのうち、優しくなぞる舌に、つい、自分の舌を絡めてしまった。
予想外の反応に驚いて、悟浄の動きが一瞬止まる。

「三蔵…っ!!」
「んっ!!」

もう、互いに引き返せない。
貪るが如くに求められ、三蔵も自然とそれに応える。
悟浄が顎に沿えていた手を三蔵の頭に廻して、くちづけはより深いものとなった。

どれくらいそうしていたのか…。
濃密な時を経て、ようやく二人の唇が離れた。
悟浄は拘束していた三蔵の手を解放すると、その身体を抱き締めた。
三蔵が、僅かだが、自ら悟浄の胸に頭を押し付ける。
どこか震えているような気がして、悟浄は背中に廻した腕に力を込めた。

「泣くなよ」

耳元で囁くと、すぐに三蔵が身体を離そうとした。

「誰がっ」

顔を見られまいと俯いた三蔵の額に、悟浄の手が伸びる。
びくっとした三蔵が肩を竦めた。
紅潮した頬が艶めかしい。
悟浄は、三蔵の目元を覆っている前髪をかき上げ、後頭部をふわりと手の中に収めた。
そのまま引き寄せて、包帯だらけの身体をそっと腕の中に閉じ込める。
金糸の髪を指に絡ませながら、宥めるようなゆっくりとした動作で髪を梳くと、三蔵の肩から力が抜けていった。

「って、今のは “泣いてもいい” ってことなんだってよ」
「…何だそれは?」
「わかりにくいだろ。 ったく、参るよなー」
「わかんねぇのは貴様の頭だ…」
「だから……泣くなよ」

三蔵はいつしか、大人しくされるがままになっていた。
頭を撫でられ、髪にキスを受け、腰に手を廻され、身体を密着させて…。
普段なら抵抗しているはずの悟浄の行為を、今は気持ち良いとさえ思ってしまっている。

離れていた時間を経て、自分の中で悟浄の存在が今までよりも大きくなっているように思えた。
この腕に全てを委ねるわけでは無いが、今だけ、胸を借りるくらいは構わないだろう。
それでも、三蔵は自ら悟浄の背に腕を廻すことはできなかった。

ただ、離れ難く思い、その場を動かずにいた。
合わさった胸を伝わって、二つの鼓動が互いの身体に響いている。
胎児が母親の心音を聞いて安心するように、三蔵もそのリズムを心地良く感じていたのだ。

「三蔵……」

悟浄は片腕で肩をしっかり抱え直してから、だらんとぶら下がっていた三蔵の右手を取った。
そして、手首に唇を寄せる。
ちゅ、と音を立てて吸うと、三蔵が敏感に反応した。

「見てろ」

舌を出して舐め上げ、きつく吸い付く。

「っ!……」

三蔵は鈍い痛みを感じながらも、言われるままにその様子をじっと見ていた。

「寂しかったろ、これが無くて」
「…知らん………」

にやりと口端を上げて、悟浄は三蔵のもう片方の手首も持ち上げた。
殊更に舐めては吸い、執拗に唇と舌とで愛撫を施しては跡を残す。

悟浄の口元を見ていた三蔵の、落ち着いていた呼吸が再び荒くなっていった。
紫暗の瞳が心なしか潤んでいる。
悟浄は手首にしっかりと跡が付いたのを確認すると、徐に三蔵の耳の下を両手で挟んで、唇を奪った。

「んっ…!」

激しさは、相手を求める想いの熱さによるもの。
このくちづけは決して蹂躙などでは無い。

「はっ…んんっ……」

息もできないほど荒々しく求め合う。
悟浄だけでなく三蔵も、我を忘れてこの行為に没頭していた。
その時、

「何してるんですか〜! もう支度できてますよ〜!」

と、突然、ドアを隔てて八戒が二人を呼ぶ声が聞こえた。

「!!」

瞬時に、三蔵が悟浄を突き飛ばすようにして、自分を抱えていた腕から離れた。

「今行くー!」
「早く来ないと冷めちゃいますよ〜」
「おう!」

悟浄が咄嗟に大声で返事をしたのを聞いて、足音が離れてゆく。
大げさに嘆息すると、悟浄は頭をガシガシと掻きつつドアの方へと歩き出した。

「邪魔が入っちまったな」
「……」
「続きは、また今度♪」
「なっ!!……」

振り向いた三蔵へ向けられた悟浄の眼差しは、それまでの口調とは違った真剣なものだった。

「今は、あのカミサマとやらを片付けねえとな」
「……ああ」
「取り敢えず、てめぇは先に顔を洗って来い」
「……?」
「そんな色っぽい面、アイツらにサービスしてやることねえっての」
「だっ!!……」

言い返そうとするよりも先に悟浄が部屋を出て行き、バタンとドアが閉まった。
軽い調子の鼻歌が段々と遠ざかって行く。

ドアを見つめていた三蔵は、先ず落ち着こうとひとつ大きく呼吸した。
溜め息にも似た息が口から吐き出される。
僅かに開いた唇に物足りなさを感じ、ふと指先が伸びた。

「!」

触れる寸前で自分の行動に気付き、慌ててその手を握り込む。

――― チッ……

そのまま手の甲で唇をぐいぐいと何度か擦った。
そうすることで、張り付いていた悟浄の感触が削ぎ落とされてゆくようだった。

三蔵は部屋を見回すと、隅の箪笥へと近付いた。
自分の荷物が入れられている引き出しを探り、手首が隠れるくらいの長袖シャツを引っ張り出す。
わざと手首を視界に入れず、その黒いシャツに袖を通すと、さっきまでの余韻を振り切るようにして部屋を後にした。




〔17−3〕


店の裏の空き地で、辺りの住人が普段はほとんど耳にしない音が響いている。
見物人と化した悟浄を前にして、三蔵が久しぶりに愛用の小銃を手に取っていた。
空き缶を的にしての練習は、一発も外さずに命中。
調子は悪くない。
三蔵の復調を見届けて、悟浄は先にその場を離れた。

もう少し撃ち続けてから三蔵が建物に戻ると、カウンターを中心に三人が集まっていた。
悟空は旺盛な食欲を満たす為に、テーブルをひとつ占領して、次々と食べ物を口に運んでいる。
その横では、さっきまではぶらぶらしていた悟浄が筋トレに励んでいるところだった。

四人揃ったので、「カミサマ」 の対処法についての話になった。
今までやってこなかった方法を取らないと勝てないだろう。
そこで八戒が、連携プレーを提案した。
その話を聞いていたマスターが、訝しそうな顔をしている。

「おいおい物騒だな、あんたら何しに行くつもりだい」
「…ええ実は、“神様” に喧嘩を売りに行くんです」







いよいよ、カミサマとの決着をつけに行く時がやってきた。
再び、あの長い長い階段を上がってゆく。
途中、幻術で現われたカミサマに惑わされることも無く、四人は真っ直ぐ頂上を目指した。

――― あれは俺の物だ

お師匠様から譲り受けた、魔天経文。
大事な形見のひとつなのだから、こんなところで手放すわけにはいかない。
三蔵の瞳に、鋭い光が走った。

「…取り戻す」





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