「終焉に捧げる星」 シリーズ


フラガ×クルーゼ

「水の草原」に寄せて

小説 紫水様




C.E.54

アル・ダ・フラガ邸焼失
  
フラガ夫妻死亡を確認
  
フラガ夫妻の長男ムウ・ラ・フラガ残される
ムウ・ラ・フラガ10歳
ラウ・ラ・フラガ 7歳



その頃地球上では、S2型インフルエンザと呼ばれる従来のワクチンを無効化した、ナチュラル壊滅作戦とも噂されるほどの恐ろしいインフルエンザが世界を席巻していた。





大西洋連邦内のアル・ダ・フラガ邸にその屋敷の当主が帰ってきた。

執事より宇宙からお待ち兼ねの少年がパナマ宇宙港に降り立ったと連絡があったからだ。


当主のアルが一服した頃、一台の車がエントランスに入って来た。
運転手の手でドアが開けられる。

執事が先に車から降りた。車中の人に囁くとゆっくりその人物が降り立った。

初秋、夏の名残の日差しと気温の、この地方を初めて訪れたその人は、吹く風に髪をなぶらせ青い空、周囲の緑の木々と下草に覆われた地面や芝生、そこに煌く光を眺めていた。

光の中で輝いている柔らかそうな金の糸、眩しげに細められた瞳は青い宝石、肌の色は太陽光線に晒されていないから透き通るように白い肌を持っていた。誰が見ても美しいと評価されるだろう・・・
服装は細身の身体にあった大人びたスーツ姿だった。
大人びてはいるが、声変わりは未だのように思えるが・・・・たしか歳は・・・・

光の中に立つその姿を、当主のアル・ダ・フラガは満足そうに窓から見ていた。


そしておもむろに正面入り口の扉を開けてやる。
「良く来たね? ラウ、地球は遠かっただろう?ご苦労だったね? 私が、アル・ダ・フラガだ。」
手を差し出してやると、白い細い指が出された。ほっそりとした手を両手でゆっくりと握り締めてやると頬を染めて俯いた。

「さあ、君の此れからの家だ。入り給え。」

扉が閉まり外の雰囲気が遮られた。ラウと呼ばれた少年は当主の後ろを黙って付いて行った。





「だから、以前から明日のパーティーは欠席と申し上げておりました!!」

びくっと、肩を震わせた少年に背の高い男は苦々しく告げた。
「気にするな、あの女のいつものヒステリーだ。フラガ財閥当主の妻だという自覚がないから困る。ラウ、こちらにおいで、使用人達に紹介するから。」




木彫りの意匠の付いた重みのある扉を執事が開けた。
先程から気になっていたのか、時折ラウの視線が其の扉に向けられていたのを執事は気付いていた。やはりご主人様は無視されたか・・・と息を吐き扉に手を掛けたのだった。

「ムウ様、こちらが本日おいでになりました、ラウ・ラ・フラガ様です。」
「あああ、君か〜さっきから何だろうって、気になっていたんだ!ムウ・ラ・フラガだよ。初めまして。」

と、ムウ様と呼ばれ、一瞬眼を見開いた少年が走って来て、すぐに破顔して手を差し出した。

ラウ、と紹介された、目の前にムウと同じ金髪、同じ青い瞳を持った、軽く毛先がウェーブした色の白い綺麗な少年が立っていた。歳からいくと僕がお兄さんだね?と、執事に問いかけた。

「一応、この方は46年にお生まれとお聴きして来ました。」
「話したいこともあるから、君はいいよ、下がってくれても・・・」
「しかし、他にこの屋敷を案内をしませんと、明日のパーティの事もありますから・・・」
「大丈夫、僕が色々と案内するから。離れの部屋の客間でいいんだろう?」
「はい、荷物はもう運び込みましたから。―――お父君に叱られないようにお気を付けて下さいね。」
「判ってるって、僕も休暇はあと少しだから、楽しまないと。明日のパーティは僕はいいんだろう?不肖の息子で苦労掛けるね、君にも・・・」
「いいえ、また寮にお戻りになるのですね? 使用人達が寂しがりますよ。では、ラウ様、後ほど。」
「ありがとう・・・・」

執事は軽く会釈をして扉を出て行った。

「今までこんなに気になった子ってなかったんだ!不思議だなあ〜やっぱり、親が違っても兄弟なんだなあ? そう思わないかい?」

最後に首を傾けにこやかに顔を向けてくる少年に、ラウは少し唇の端を引きつらせた。

「46年生まれだと、三つ違いか、8歳?になった?まだ?7歳? 大人びて見える。う〜ん、ねえ? 君さ、海は知ってる?」
「うみ?海?」
「うん、明日一緒に行かないか?近くにあるんだ。僕の休暇も後僅かだし、楽しみたいし、君と一緒だったら特別の日になりそうだ・・・君が来てくれてとても嬉しいよ。」
「休暇?」
「うん、学校の寄宿舎に入っているんだ。後一週間もすれば新学期に入るだろう?その前に寄宿舎に帰っておかないとね、ちょっと遠い所だから・・・君、ラウ君、学校は?」
「うん、行ってないから・・・」

「そっか、すごいなあ〜」

「じゃ、明日の暗いうちにさ、皆が未だ寝ているうちに出かけよう?上手くすれば峠で朝日が拝めるかも知れないぜ?」
くすくすと嬉しそうに楽しそうに想像していた。

「さて、約束したから、この屋敷の案内をするよ。しばらく滞在するの?それとも一緒に住むのかな?」
前に立って歩き始めたアルと呼ぶ少年は気さくに色々と聞いて来る。
どう応えようか悩んでいるうちに、次の質問が飛ぶ。

「何処の生まれ?母親は? 僕の母より前からの付き合いだったのかなあ?また僕の母のご機嫌が悪くなるかな? 綺麗な人? 今日はこなかったの?・・・」

いずれも言いあぐねていても気にしないで、どんどん部屋の案内をして行った。




一通り案内が済んだところへ執事がやって来て、夕食だと告げた。

「僕も一緒かい?」
「ええ、明日のこともありますし・・・」
「ママはなしだろう? いつものように・・・・」
「いいえ、ラウ様とお話がしたいとかでご一緒です。」
「素晴らしいよ!ラウ!君は離れ離れの家族を一つにまとめてくれた!!すごいんだ!」

「ではまいりましょうか?・・・ムウ様、上着を。」
「は〜い、これだから・・・」

広いテーブルに家族?が4人.
執事以下使用人がサービスに付く。
ムウの母親だろう、夜に相応しく肩が出たドレスを身に着けていた。若々しく美しい、フラガ財閥の当主夫人としては申し分がない容姿と思われた。ムウと同じく金髪碧眼。当主夫妻は似合いの一対とラウの目には映った。
其の婦人の唇から自分への質問の第一声を聞くまでは・・・・

食後の飲み物を頂いている時、

「ラウ君? 明日、お客様の前で恥を掻きたくありませんから貴方のことを知りたいのよ。
貴方の国はどちらかしら?何処で生まれたの?
お母様は今はどちらにいらっしゃるのかしら?今日はどのように言われて此処へやって来たのかしら?
お父様は本当にこの前に居るアルかしら?」

「ママ!!失礼だよ!」

ムウは先程自分も質問攻めにしたことを忘れて、母親の無神経な問いに非難の声を上げた。

ラウは、何処から応えようか思案した。自分をあのメンデルで創り出した張本人の言葉を待った。
が、知らぬ顔を決め込んでいるようすに、ふと、波風を立てたくなった。

「父上、とお呼びして良いですか? それともアル?と?」

「お返事がなければ、説明させていただきます。宜しいですね?
私の出身は宇宙にある、『コロニーメンデル』です。
父親はこのアルです。メンデルの主任研究員のヒビキ博士の手によって生まれました。
そこで、育ちました。今日やっと、地球にやってきました。だから、とても重力が辛いです。
母はもう居ません。顔も覚えては居ません。
今日から、このフラガ家の一員になるから、と宇宙港で執事さんより教えていただきました。それだけです。」

「・・・・・・・・・・」

「貴方は・・・ムウが3歳になるかならないかの時にすでに、私達親子を裏切っていらっしゃったのですね?!
何処かの女の卵子からこの子を作らせていた。さぞや貴方のお目に止まったぐらいですもの素晴らしく美しい上流階級育ちのご令嬢なんでしょう? そんなところで密会されていたなんて!
宇宙で隠す様に育てていらっしゃったとは!!あんまりですわ!!
そして、私に内緒でこの子を呼び寄せて、明日お披露目をするというのですね?
ご自分の誕生パーティの席上で!そして私に出席させて恥を掻かせるお積もりなんですわ!!
私に義理の母親役をさせようっていうのですか!?」

「さすが、賢い君だ、よく判っているじゃないか、母親が亡くなり、いい学校にも入学させてやりたい、このフラガ家に相応しい子供に育ててやりたいと思ってね。
聞くところによると、なかなか経済や国家権力などの学習能力のバランスに長けているようだ。
政治家としてのシュミレーション結果も良かったようだよ。」

「それに、この地球では、恐ろしい新型のインフルエンザも季節に関係なく蔓延しているじゃないか。
この子は罹らないんだよ。メンデルで生まれた甲斐があったね。
ムウ?この子を家族と受け入れてくれるかな?綺麗だろう?」

「父上、私はほとんど学校の寄宿舎で寮生活ですから、なんとも申し上げられません。
ただ、父上と、母上が仲良く生活していただけるなら依存はありません。
が、母上が何故、宇宙で一人になったこの少年をそこまで嫌うのか僕にはわかりません。
可哀想なこの子の母親になって上げて下さい。
このラウ君が我がフラガ家の一員と為るのならば僕にとって、今よりもっと休暇が待ち遠しくなると思います。」

「判りました。明日のみの母親役、という事で、宜しいですわね?
そして、あてつけがましく、仰いましたわね? 彼はインフルエンザに罹らない、と
では、この不治の病と今恐れられている病気に罹ったら、ムウをどうされるのですか?」

「此処で話せる話題ではないな。先程からお前は逸脱している。子供の前で話す事柄か?」

「わかっていますわ!貴方は、ムウの代わりにお連れになったのでしょう?
貴方はいつもそう・・・この家のことばかり・・・変わってしまわれましたわ!
この家督を継がれてから特に、私達の事を考えて下さらない。
この財閥と、仕事のことばかり・・・・」

「ムウ、ラウを連れて行け。」
「はい。」



「二人の子供を去らせた後の大人のことは判らない。気にするな。いつもだったら又これから揉めるけれど・・・・ふん・・」
と、廊下を歩きながらラウに話し掛けてはいるが、上の空のようだった。

「心配?ごめんなさい。あんなふうに説明するつもりじゃなかったんだけど。どう、言えば良いのか判らなかったので・・・」

「いいさ、喧嘩はいつもの事、帰って来る度に悪くなってる。それでも妻の座からは降りないし、僕には判らないね。―――僕の部屋においでよ、散らかってるけどね?」


「何しようか?そうだ・・君自転車知ってる?乗れるかい?」
「いや、乗ったことはない・・・」
「やっぱり・・・じゃあ、明日乗せてやるよ・・・後は・・あ、そうだ・・・」
と言いながら、部屋中をあちこちうろうろとし色々と出して来た。

「日差しもあるから帽子、そうだこのセーラーも君なら着られるな。そして、短パンだな。
それから、大切な食料調達に行こう! 厨房へ突撃!! 明日の用意もあるから一杯あるぞう〜」

「君も手伝え!」
「でも、まだいるんじゃないかな?片付けに・・・」
「あ〜、じゃあ、深夜一時に君の部屋の前に行くから・・」

と、二人はしばらく自分の部屋へ戻ることにした。


そして、深夜、皆が寝静まった頃、金の髪のねずみが厨房の中を走り回っていた。
ムウは、勝手知ったると言う感じで幾つもパンを抱えて、また明日の為の物か、焼きあがっていたパイを出していた。これ持って、と言われたラウは、すでに袋にチーズの塊とローストチキンの骨付きにハムの塊、梨か林檎?の果物、ミネラルウォーターのボトル類を入れて重そうにしていた。
「まだ入れるの?」
「朝と昼おやつってね?これも」
と、ビスケットの箱に、スパークリングワインのボトル・・・・飲むの?という顔でラウはムウを見つめた。にやっと笑う。
「楽しくなりそうだ・・・いつも一人で逃げ出すんだけど、今度は君と一緒だ・・・嬉しいよ、
君がこの家に来てくれて・・・明日が、否、もう少ししたら出かけよう・・」
「4時に此処で良いのだね?」
「うん、おやすみ・・・ラウ」
「おやすみなさい」

ラウはベッドに入ってこの後どんなことが待っているかと考えると寝付かれなかった。
地球に降りるときに味わった興奮とはまた違ったワクワクする気持ちがラウを包み込んでいた。

午前4時丁度にムウの部屋の前に立つ。彼が顔を出す。

彼に渡されたセーラーのシャツに麦藁帽子、短パンに靴下ズック靴。更に薄手の長袖シャツを渡される。
日焼け防止、着た方が良い。と小声で言うと、大きなカバンを持って先に歩いて行く。

「自転車出して来る・・・」

と言ってカバンをラウに渡し、自転車置き場に入る。大人用の物を出して来る。

「ラウの足が届くか?だな?」

と言い、にやっと笑った。

「さて、こっち、こっち、裏口の近くに昔の警備員室がそのままあるんだ。
そこの古い鍵を持っているから出入り自由さ。今は機械警備でわざわざ此処まで来ないしね。」

そこから出ると、もう、雑木林が目の前にあり、細い、道が一本どこかに続いていた。
「さて、うしろ乗れよ。」

ラウはカバンを背負って後ろの荷台に跨る。

「少し坂になって、低い峠を越えると海さ。坂道で辛くなるまで乗ってろ、歩くより早いからな。
それと、しっかり俺の腰に腕回して置かないと落ちるからな。」

「さて、しゅっぱーつ!!」




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