勝ちを確信して飛び掛ろうとした鼻先に、銃口を突きつけられた。
受け止められた蹴りに、強いと思った。
間近で見つめた瞳(め)の碧(みどり)が綺麗だと思った。
戦っているのに静かなままの気に戸惑っているうちに。
『……こんなことしてスミマセンでした』
綺麗な声で、そんなふうにぽつりと呟かれた。
今まで俺に、そんなふうに言った奴なんてひとりもいなかった。
だから。
失われちゃいけないと思ったんだ。
綺麗な瞳も、綺麗な声も――そいつ自身も。
燃えてるみたいな色の髪に触れた。
真っ赤だったから。
だから火のように熱いのかと思ったら、冷たかった。
なーんだ、やっぱりそうなんだ。
そんなふうに思いながら、でも少し不思議に思った。
触れた後でさえ、その髪はやっぱり熱いような気がして。
だから次に逢った時、隠されてしまった『紅』に。
「ヘンな頭」と言ってしまった。
だって、長く伸ばしてる方がずっといい。
金色とは違う、でも太陽の色だから。
『今度は自分で出てこい』
言われて、チクショウと思って飛び出したら、
雪の上に刻まれた足跡は、ひとつじゃないことに気づいた。
俺の前にも後ろにも。
導くように――後押しするように。
冷たさばかりを思っていた『白』を踏みしめたら、キュッキュッって音がした。
俺の叫び声さえ吸い取った雪が、独りじゃなくなった俺の足元で――啼いた。
三蔵がこの世界の全部だと思ってた。
なのに、全部の外側にまた全部があって。
自分の足で歩けば歩くほど、全部は大きくなっていって。
そんなふうに言ったら、きっとまた三蔵は「人語で喋れ」って言うから。
だから、胸の中だけでそう呟いた。
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