『終焉に捧げる星』シリーズ

アスラン×クルーゼ
パトリック×クルーゼ

小説 紫水様



増補改訂「C.E.68 月から帰国したアスラン」









C.E.68

アスラン13歳になろうとするこの年の或る日、月の幼年学校を中途退学。
プラントの一つ、父親の待つ、ディセンベル市に帰国した。

コーディネ−ターとナチュラルの争いが激化、父親のプラント最高評議会議員パトリック・ザラが月での生活が危ないと判断し帰国を命じたからだった。そのためにアスランは兄弟と同じように親しくしていた親友のキラと、離れ離れになった。
すぐにプラントに来るんだろう? という言葉を残して・・・・
いつかは彼もコーディネーターだからプラントで会えると信じた上での別れの言葉だった。

アスランはプラントのドッキング・ベイで、父親ではなく主治医のクルーゼが出迎えたのを驚きもせず喜んだ。
かつて月へ向かう時の最後の見送りが、クルーゼだったからだ。


「やっぱり、クルーゼ先生でしたね。何となくそんな感じがしたのです。」
「大きくなったね、アスラン君。見違えたよ。7年ぶりになるかな?」
「奥様、お帰りなさいませ。ザラ議員の代わりにお出迎えに上がりました。お荷物をお持ちいたします。」
「クルーゼ先生、背が・・成長されました?」
「ええ、さすがに止まりましたが・・・・」
「少年の面影がなくなって、もう十分に青年だわ。」
「アスラン、先生立派になられたわね。貴方ももっと大きくなるはずだわ。」
「ありがとうございます。普通より成長が遅かったようで、あの後少しずつ背が伸びましたよ。ようやくザラ議員に追い着くまでになりました。」

無事、何事も無くディセンベル市のザラ邸まで帰り着くことが出来た。

ただ、夫人だけは密かに警護のSPが付いている事に感づいたらしく、車の中で、クルーゼに「大丈夫なのか?」と言葉すくなに聞いて来た。
「大丈夫ですよ。ご主人が気を効かせて付けて下さった者達です。しかし、奥様に気付かれるようでは役に立ちませんね。後で忠告しましょう。」
「貴方は変わり無くお暮らしかしら?」
「ええ、変わった所といえば・・・・プラントが軍事組織を持った事はご存知ですね?」
「本当に何を考えているのかと、シーゲルに噛み付いたら、君のパトリックが中心人物だよって、呆れました。
軍人にもなった事もない男が、何をとち狂ったのかと、以前から強権的な考えの持ち主だとは思っていましたけど・・・・」
「必要な時期になってしまった。不幸な時期です。」
「判っていますわ、あのマンデルブロー事件にはさすがの私も・・・・早くプラントで食料の自給自足体制を確立せねばならないと、農作物の生産工場の着手計画を前倒しにやりたいと、企画書を無理やり通させましたから・・・」

「そしてコーディネーターは自分自身で火の粉を払わねばならなくなりました。私は、少しでも、ザラ議員の助けになりたいと、ザフトに入りました。」
「――先生・・・」
「クルーゼと呼び捨てに為さって下さい。ご主人を止める事も出来ませんでした。申し訳ございません。」
と、陳謝のために軽く頭を下げた。


夫人のレノアは、かつてアスランと共にこのプラントから月へ避難して行くその日に、クルーゼに「夫が政治的に過激な方向に走らないように見ていてくれ」と、「歯止めになってくれるように」と頼んでおいたのだった。
その頼みを守る事が出来なかった。更に、その政治態勢を肯定するようにザフトに入隊したというのだから・・・

暫く沈黙が続いていたが、アスランの「屋敷が見えたよ!」の声に車内の空気が軽くなった。
「あ、もう、到着ですね。私はお二人をお屋敷まで送り届けるまでがお役目、お待ちになっていらっしゃいますよ。どうぞ、政治の話は今夜だけでも無しの方向で・・・親子水入らずの良い夜を・・・・」


屋敷の正面玄関前で、パトリックが迎えに出たところでクルーゼはすっと敬礼をして回れ右をした。


「先生!!もうお帰りですか?」
と、クルーゼの腕にしがみついて来た。
「アスラン君、またお休みが頂けたら来ますよ。色々お話をして下さい。楽しみにしていますよ。では、さようなら・・・」
アスランに言い含めるように優しく囁くクルーゼを見ながら、ザラは言い付けた。
「クルーゼ!アスランの家庭教師の件頼んだぞ!」
「はっ!」
と、返事をし敬礼して去って行く後姿を、レノアは複雑な表情で見送っていた。        

        








月から屋敷に戻って数日後、アスランは到着した荷物と格闘していた。

開いたままになっていた部屋の扉を叩く音に、部屋中を散らかしたままのアスランはぎょっとして振り向いた。
父親なら先に叱る声が飛んで来る。母親は何処かのプラントへ行ったと執事が朝告げていた。

「?」
「先生!」
「おはよう、アスラン君、落ち着いたかどうか見に来たよ。」
「父上に頼まれたのでしょう?私が色々とはっきりしないのを気にしていましたから。」
「詳しくは君に聞いてくれと言われたから後で話しを聞くよ。――凄いね。手伝おうか?」
「え、あ、あの、自分でも何処へ何をどうするかはっきりしていないので・・・・」
「じゃあ、適当に放り込むとするか?すぐにお昼になるよ、父上に又お小言だぞ?」
「え?いるんですか?」
「ああ〜、午後帰宅出来るらしいよ。」
「はあ〜やっぱり手伝って下さい。」

二人でとにかく適当に放り込み始めた。その中で少しづつアスランは、今自分の頭の中で持て余している悩み事を喋り始めた。
黙って手を動かしながら聞いているクルーゼ。その姿にアスランは兄がいたらこんな感じかな?とふと頼り甲斐があると思ってしまった。なんでも相談しても良いかな?と。
今まではキラの面倒を見るのも結構楽しいと思ってはいた。
だが、もう、幼い時の記憶と全く違っているこの街でこれから、キラがいない、知っている人もいない、そんな生活に不安を感じていたのだった。

「先生・・・」
「うん?どうした、もう良いのかい?言いたい事や聞きたい事は・・・・」
「――綺麗に片付きましたね。」
「もう少しと思うが・・・」
「良いですよ、有り難うございました。お茶にしましょう。」
と、窓や、扉を開けたままそこを立ち去った。地球ならば四季咲きの薔薇と言われるだろう、時期を気にせず、見事に咲き乱れている薔薇の香が、部屋にも流れ込んでいた。


昼食を外でと執事に頼み込み、簡単にバスケットに詰め込んでもらうことにして、アスランは茶器を、ゲストルームと自分の部屋の間の薔薇の中にあるあずまやに、運び込んだ。

「やっと、ゆっくりお茶を飲めます。」
「私がいて良いのかい?」
「母や父上と一緒では息が詰まります。」
「ははは・・・かも知れない、君の学校の話、母上の政治と理想の話し?」
「その通りです。――私は・・・・まだ先が分かりません。どうしたら良いのか・・・・
超精密機械工学も好きです。母の様な農業も嫌いではありません。植物の生命の不思議さも学んでも良いかな、と思っています。
こんな政治状況になって僕達が振り回される原因も知りたいし、政治に無関心でもありません。
父親のプラント建設の工事の頃の話をシーゲルおじさんから聞くのも嫌じゃ有りません。ワクワクする冒険譚のようで・・・もっと良い居住空間が作ってみたいとも思います。――色々考えてしまって・・・・」 

薫り高いお茶を口に含み香りを楽しみながら、クルーゼは事も無げに告げた。

「アスラン・・・・全部ものにすれば良い。自分の物にね。まだ幾つだい?時間はたっぷり君にはある。急いで
答えを出さなくて良いだろう?
とりあえず、様々な教育課程の揃った学校に入学して学べるだけ学べば良いだろう?何年かかってもね。
納得出来るまで。そのうちそこから出て、いろんなプラントで学びたくなるかも知れない。
プラントはそれぞれに特別な物を持っている。誰にでも学ぶための門戸は開かれているのだから。
君には、時間が有るのだから。そうだろう?」
「先生・・・・」
「時間は君の味方だ・・・君にはこれからがある・・・もし、それほどにこの屋敷では息が詰まりそうだと言うなら、学生寮に入れば良いだろう?」
「学生寮?」
「そう、学生のための学校に近くに設置されている部屋の集まりのことで、様々な学生が住んでいる建物ともいえる。そこから学校に通うのさ。このプラント以外の家から通学出来ない生徒や学生達は勿論だろう?」
「先生・・・・」
「クルーゼ先生、戻ってきたばかりのアスラン様に何を口説かれているのですか?アスラン様がいなくなられたらお屋敷が又寂しくなりますよ。」
と、笑いながらバスケットを持って執事がいつのまにか後ろに立っていた。
「口説くとは・・・・そのような言葉は心外です。」
「アスラン様、ほら、お弁当出来上がりましたよ。いってらっしゃいませ。」
「ありがとう!!・・・先生、湖辺まで行きたいんです。」

バスケットを受け取るやいなやあずまやを出て行こうとした。

「判りました。お供いたしますよ。」

執事は、後を追いかけるように立ち上がったクルーゼの後ろに、すっと近寄り小声で伝えた。

「――クルーゼ様、ご主人様が午後にはお戻りですから、早めにお屋敷にお戻り下さいますように。奥様は暫くユニウス市にご滞在だそうです。」
「判りました。」

同じく了解の返事の代わりに頷くと足早にアスランの後を追った。






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