『Blue Moon』        小説 遊亜さま

◆ 9.


圧し掛かってくる重み。
触れ合った肌から伝わってくる体温。

さらりと金糸の髪を梳いた手が頬に下り、顎、首筋、胸へと伝う。
触れられたところが熱くなる。

下腹部まで来た手が、しっかりと押さえ込むように腰を掴んだ。
するともう一本の手が現われ、内腿から後ろへと辿っていく。

三蔵は今になって、八戒の本気と決意と、自分の置かれている状況を理解していた。
術が解けないと、今後の旅に支障を来たすだろう。
ならば、こんなことはさっさと済ませてしまえばいい。

しばらくは為すがままになっていたが、八戒の手が自分の後ろを弄っていた時、ようやく口を開いた。

「目隠しを取れ」

急に聞こえた声にハッとした八戒が手の動きを止める。

「嫌です」

八戒は、できれば三蔵には、無理にでも夢の中のことなのだとでも思っていて欲しかった。
だから、現実の光景も自分の姿も見せたくは無かった。

断られた三蔵は、ひとつ大きく深呼吸してから、また口を開いた。

「…己の身に起こっていることくらい、全部見届けてやる」
「三蔵……」

短い逡巡の後、八戒は三蔵の意思を尊重することにした。

目隠しを外された紫暗の瞳に映ったのは、光源といえば月明かりしか無い部屋。
そして、辛そうな眼差しで自分を見ている八戒の姿だった。

「何故そんな顔をしている……」

三蔵は意外だった。

「チャンスだとは思わないのか?」
「それは心外ですね」

辛そうな目に哀しみも浮かんだ。
直視できず、三蔵はふっと視線を外した。

「このままでいいんですね」
「ああ」

それは、行為を続行させてもいいという返事とも取れる。
三蔵に決めろと言った覚悟は、自分自身がまだ決められていなかったが、八戒は今の返事で腹を括った。

「目隠しを取った代わりというわけではありませんが」

と、三蔵の口に柔らかな布が詰められた。
舌で押し出されてしまわないよう、割いたシーツですぐにしっかりと固定される。
この後の行為により舌を噛まないようにという八戒の配慮でもあった。

いや、本当はそれだけはない。
三蔵が上げるであろう声を聴きたくなかったからそうしたのかもしれない。
辛そうな声も。
感じた時の声も。

・・・いや違う、一番の理由は……

口を覆ったものを外そうと抵抗している三蔵に、八戒は淡々と告げた。

「…続けます」

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