『Blue Moon』        小説 遊亜さま


◆ 8.


気が付いてすぐ、三蔵は混乱に陥った。
口と目が何かで覆われている。
両手は一本ずつ縛り付けられているのか、万歳の形をやめることができない。
下半身は自由だと感じるものの、重く鉛のようで思いのままには動かせない。
拘束を解こうとしてみたが、外れそうに無かった。
ただ、腕は柔らかい何かに包まれているらしく、動かしてみても特に痛みは感じなかった。

視覚を奪われたことで、聴覚が敏感になっている。
近づいてきた足音により、身体に緊張が走った。

「三蔵」

・・・八戒?!

聞こえたのは確かに八戒の声だ。
では、こんなことをしたのは……。

「申し訳ありませんが、しばらくそのままでいてください」
「ん…んんっ」

早く外せと言いたいが、言葉にはならない。

「僕の話を聞いてください」

落ち着いた八戒の声に、三蔵は抵抗をやめた。

「あなたに術がかけられていると言いましたよね」
「……」
「それは、誰かと交わらない限り解けないものらしいんです」
「っ!!」

三蔵が首だけを激しく振っている。
意図を汲み取った八戒が困ったような顔をしたが、仕方ないといった様子で近寄った。
頭の後ろに手が差し入れられると、口元を覆っていた布が取り払われた。

「ふざけんなっ!」

開口一番の怒声は、八戒だけに向けられたものではない。
けれど、ぶつけられた八戒はその責任を一手に引き受けたような声で 「すみません」 と謝った。

「でも、事実なんです」

その声がいつもより硬く、緊張を含んでいるのを三蔵は感じ取り、口にしかけた文句を引っ込めて続きを待った。
暫しの沈黙の後、八戒が口を開いた。

「僕が術を解こうと思っています」
「…?」

三蔵は、言われたことの意味が咄嗟にはわからなかった。
おまえがどうやって解くのだ…?

「僕が……貴方と交わります」
「何っ?!」

目隠しはされたままなので、八戒がどんな表情をしているのかがわからない。
声から伝わってくるのは、決意のみだった。

「とにかく、これを外せ!」

その両腕は、枕に入っていた綿と、シーツを幅広く引き裂いて作った布によってベッドに括り付けられていた。
それは、きっと暴れるであろう三蔵を少しでも傷付けまいとする為の、八戒の苦肉の策だった。

「だめです。 事は速やかに処理しなくてはいけませんから」

これ以上長引けば、苦しいのは三蔵なのだ。
しかし、三蔵にしてみれば、八戒が言った内容を受け入れるなどということはできない。

「俺のことは、放っておけ」

苦しい息の下で吐き出した言葉を、八戒は相手にしなかった。

「こんなになっているのに」

言いながら三蔵自身に手を伸ばす。
触れられただけで、三蔵の身体は電気が走ったように痺れた。

「くっ…!」

咄嗟の刺激をやり過ごしたあとに襲ってきたのは、八戒の前で裸体を晒しているという現実。
羞恥で顔に血が上っていくのが自分でもわかり、それがまた怒りの原因にもなった。

「さ…触るなっ!」

もがいている三蔵の拒絶にも怯まず、八戒は三蔵を離さなかった。
屹立したそれを四本の指の腹と親指の根元で柔らかく握りこみ、上下に扱き始める。

「うっ…やめろっ!!」
「自分でしたことなんて無いんでしょう!」

八戒の言った通りだった。

三蔵は今まで、性欲などを感じたことは無かった。
淡白なのか、自分で処理する必要も感じなかった。
思春期を迎える頃に寺院を飛び出した三蔵に、そういったことを教えてくれる者がいなかったせいもあるだろう。
人嫌いも、三蔵を性に関することから遠ざけていた要因だった。
ただ、夢精については身体の摂理なのだと理解し、起きてから下着を取り替えるだけのことで済ませていた。

だから三蔵は、今、自分の身に起こっていることに対して、半ば信じられない思いでいた。
何故そんなことをする?
そんなことをすれば、俺の身体は一体どうなる…?

触られているのは局部だけなのに、頭がくらくらしてきた。
大きなうねりに飲み込まれているような感覚。

八戒の手の動きが段々と速くなる。
それに合わせてどんどん追い上げられ、つま先が丸まり、身体全身に力が入った。

あとは、待つだけ。

・・・え、何を……?

と、自分に問うた途端、頭の中が真っ白になり、白濁した液体が一気に放出された。
ようやく手を離され、三蔵はぐったりとベッドに沈み込んだ。
荒く上下しているその腹を、八戒がタオルで拭っている。

くらくらしている三蔵は、自分の中から飛び出していったものが、使われた薬や術だったような錯覚を起こしていた。
けれど、身体の中で渦巻いている熱はまだ解放されず、それどころかさっきよりも大きくなっている。
敏感さも増したのか、空気の流れにも耐えられず身悶えてしまう。

まだ天を向いている三蔵に、再び八戒の指が触れた。

「つっ!!」

あまりに勃ちすぎたそれは一度達しただけでは萎えず、手での刺激も痛いと感じるほどになっていた。
まだ硬さを保っている部分を、八戒が口に含んだ。

見えていない三蔵は、何をされているのかすぐにはわからなかった。
局部が生温かいものに包み込まれ、ねっとりとしたものが這いまわっている感覚。
それが何なのかに思い至った時、三蔵は自分の理解を超えた八戒の行動に眩暈をおこしそうになった。
しかし、身体は貪欲に反応し続け、手でされた時とは違う執拗な吸い上げに、すぐに頂点まで達してしまう。

「離れろっ!」

命令は懇願になりつつあったが、八戒は聞き入れずに、そのまま吸引を強めた。

「くっ!……」

二度目の放出は、八戒が口で受け止めた。
ごくりと飲み干した音が部屋に響く。

それも、三蔵には到底理解できないことだったのだろう。
もう、立てつく気力も無くなっているようで、呆然としたままただ荒い呼吸を繰り返しているだけであった。

だが、術はまだ解かれたわけではなかった。

「三蔵」

自分を呼ぶ声に、衣擦れの音が重なっていた。
ぱさりと何かが落ちた気配に、耳がぴくんと反応する。

「覚悟を決めてください」

ギシッと軋ませた音を立てながら、自分も服を脱ぎ捨てた八戒がベッドに上がってきた。
神経を集中させているであろう耳元に唇を近づけると、感情を押し殺した声で呟く。

「今から、貴方を抱きます」

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