『Blue Moon』            小説 遊亜さま

◆ 3.


宴が終わると離れに案内された。
建物は母屋から少し歩かなければならないところにある一棟だった。
中は部屋が細かく区切られているようで、四人は個室を与えられた。

「いいんですか、バラバラになってしまって」
「構わん」

案内人に気づかれないよう、別れ際に八戒が三蔵に耳打ちしたが、返事は素っ気無いものだった。

「何かあっても、てめぇで片付ければいいことだろ」
「それはそうですけど」
「俺の邪魔はするな」

言うなり、部屋の扉がバタンと閉じられた。
悟空と悟浄は既に姿を消している。
残された八戒はやれやれといった顔でため息をついてから、案内人の後を追っていった。


* * *


・・・今日は満月か

開け放たれた窓から、月の光が降り注いでいる。
シンと音も無く、そこにあるのは静寂のみ。
ただ、紫煙がゆらゆらと漂っていた。

はっきりとはわからなかったが、連れて来られたここは離れといっても大きな建物のようだった。
四人がそれぞれ与えられた部屋も隣同士では無い。
悟空と悟浄は建物に入ってすぐ、違う方向に案内されていた。
そして、八戒の足音が段々と小さくなっていって消えた後も、ドアを開閉する音はここまで届かなかった。

・・・何の為に?

例え部屋が多くあるといっても、世話をするならかためておいた方が都合がいいだろう。
それをしないと言うことは、

・・・俺達を引き離すのが目的か

三蔵は肺いっぱいに煙を吸い込むと、ゆっくりと吐き出した。

・・・ったく、面倒くせぇな


* * *


・・・今日は満月でしたか

八戒もまた、ベッドに腰掛けジープの頭を撫でながら、窓の外を見上げていた。

・・・今月は、これで二度目ですね

一月に二度満月が見られることを表す言葉があると、どこかで聞いた。
滅多に無いこと、という意味も含まれているとか。

・・・滅多に無いことが、悪いことでなければいいんですが

あまりの静けさと澄みきった空気は、逆に八戒の心をざわつかせた。
食事の席は何事も無く済んだが、それでここの住人を信用したわけではない。

初めてこの村で出会った男女の様子も引っ掛かっていた。
それに、ここへ来てからまだ一人も子供の姿を見ていない。
赤ん坊の泣き声も聞いていない。
成人の男女ばかりというのも、どこか不自然である。

人間達は妖怪どもに操られているのではないのか。
そうでなくとも、何か狙いがあるのではないだろうか。

無事にこの村を出られて初めて、何も無かったことを喜べる。
今は注意するに越したことはないと、八戒は神経を張り詰めていた。

やがて…。
どこからともなく微かに甘い香りが漂って来た。
八戒の本能はこの香りを危険だと察知したが、時既に遅し。
バタッとベッドに倒れ込むと、瞼は特に抵抗も見せずに閉じていった。


* * *


悟浄が部屋に案内されて寛いでいると、部屋の扉がノックされた。

「誰?」

問い掛けるが返事は無い。
さっきのねーちゃん達ならいいのに、などと考えながらも、一応の警戒はしつつ扉を開けた。
そこには手土産を持った一人の美しい女が立っていた。

「おやおやこれは」

甘い香りを纏いながらやってきた者を、悟浄は口元を緩ませながら部屋へと招き入れた。




同じ頃、悟空の部屋にも訪問者の姿があった。

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