小さな羽、降るとき

 第7話






−太正15年8月−

「ブレント様。地下工場におこし下さい。」

 部下の知らせを聞き、ブレントはダグラス・スチュワート社地下にある秘密工場へ向かった。

 工場の最奥には一台の人型霊子甲冑があった。無人人型霊子甲冑ヤフキエル試作一号機。それがこの機体の名前である。この機体にはダグラス社の技術だけでなく、ブレントが黒鬼会、すなわち火車から提供されたデータも反映されている。ブレントはヤフキエルに触れてみる。

―京介、ついに完成したよ。私たちの愛の結晶だ。これで、必ず・・・・―

 この3ヵ月後、ヤフキエルを正式に完成させたブレントはダグラス・スチュワート社・日本支社の社長として帝都に赴くことになる。



−太正16年1月−

『帝国華撃団抹殺計画』を開始したブレントは、その中の一つとして、華撃団と政府のパイプを切断するために米田中将と花小路伯爵を拉致し、ダグラス・スチュワート社・日本支社の社長室内に監禁した。

米田はブレントに問いかける。

「あんたは、あの子たちが何のために戦っていると思う?」

「彼女たちが何を思い、何を願って戦っているのか、それがわかるかね、あんたに?」


ブレントは答えなかった、代わりに激しい怒りを胸の中に秘めた。

「あの子たちは強い。今までこの帝都を立派に守ってきた。そしてこれからも・・・・・俺はそう信じている。」



米田が言い終わると同時に一発の銃声が部屋に響いた。

ブレントが撃ったのである。幸いにも銃弾は米田の脇を掠めていた。

「何のために戦っている、何を願って戦っている・・・・だと!京介を殺しておいてよくそんなことがいえるな!」

米田と花小路は何のことだかよく理解していなかった。

「黒鬼会五行衆・火車、・・・と言ってもらえれば分かるかな?」

米田達は黙っていた。ブレントはさらに続ける。

「火車、本当の名は火野元京介。私と彼は愛し合っている、永遠にそばにいるとも誓った。その幸せをお前達は平気で奪っていった。・・・・・・そのくせ、何の罪の意識もなしに生きている!私はお前達を許さない!絶対に!」

米田は本当に言葉を失った。ブレントと火車、この二人がやってきたこと、今やっていることは自分達から見れば悪の行為、すなわち許されざるものである。しかし、かつての自分と同様に大切な人を失ったということも紛れもない事実なのである。米田は、ブレントの火車への深い愛情、自分達への憎しみをほんの少しだけだが分かったような気がした。

おそらく傍らの花小路も同じ思いだろう、とも。



 帝国華撃団・花組が大帝国劇場を奪還したことがきっかけで、ブレントは不利に立たされ始めた。ついには、米田とは花小路を助けるために、加山雄一率いる帝国華撃団・月組が社内を占拠したのである。

加山はブレントに銃口を突きつける。だが、ブレントは気にせず、飛来してきた大型蒸気の手に乗り込んだ。

「そこでおとなしく見ているがいい!!帝国華撃団・花組の散りゆく様をな!」



―ついに、私の願いがかなう・・・・!待っていろ、京介―



 ブレントは自分自身の身体を巨大ヤフキエルと化した。ヤフキエルの中身は、元々は降魔である。つまりブレントは、自らの肉体を降魔と同化させたのである。

 ブレント=巨大ヤフキエルは、一旦は帝国華撃団・花組を追い込んだものの、巴里より帰還した大神一郎の参戦により形勢が逆転した。

そして、真宮寺さくらの一撃により最後のときを迎える。



―・・・・・こんなところで、終わっては・・・・・―

ブレントは何とか、この状況を打破しようとした。しかし、もう遅かった。



その時、

―おつかれさま、ブレント―

ブレントにとって、懐かしい、一番聞きたかった声が聞こえる。

声のするほうを見ると、火車がいた。

火車は手を差し伸べている。あの日、ついには触れ合うことのできなかった左手を。

ブレントは火車の手を取り、そのまま抱きしめる。



―少し違ったが、これで一緒にいられるな。

 もう、永遠に離さないよ、京介―

―私も、あなたのそばを離れません。でも、私のことは“火車”と呼んでください。この名は、あなたのそばにいるための名です。―

ブレントの胸に顔をうずめながら、

―ブレント、あなた、巨大ヤフキエルになったとき、どんな結果になっても最後には死ぬつもりでいたのでしょう?―

火車が少し複雑な笑みを浮かべて言う。“もっと長く生きて欲しかった”という、思いも少なからずあったようである。

ブレントは以前、火車の図星を突いたことを思い出した。

―今となっては、そうかもしれないな・・・・。・・・・図星、だよ―



 崩壊していく巨大ヤフキエルは白い羽と化して銀座一帯に降りそそぐ。

その羽の中をブレントと火車、二人の魂が昇っていった。



「小さな羽、降るとき」終わり






後日談→





素敵なCPでお話を書いて下さってありがとうございました!!
サクラ大戦で関さんが出ておられるのは、ゲーム版の2
ブレントは“活動写真”という映画版に出ていたキャラです。
山寺宏一キャラ×関さんキャラですごく嬉しいCPですv
直接二人には接点は無いですが、同じ火属性の敵キャラで
長髪美形の火車と、エグゼクティブ系のブレントとの組み合わせはとても美味しくて//
敵キャラは理不尽な扱いを受けて消されてしまうものですが、
このお話で、二人の存在が救われているのがすごく嬉しかったです(〃∇〃)
こきびさんはこのお話を書かれるにあたって、入手され得る限りの設定資料を
調べられました。なので、まだブレントも火車も分からない〜というお方様は、
このお話を読まれてからサクラを御覧になった方が、キャラに思い入れが増すと思います//
実際、活動写真も、ブレントの気持ちの描写の足りない部分がこきびさんのお話で
補填されていますから〜///

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