小さな羽、降るとき

6話





 −太正16年夏−

 ブレント=ファーロングは異例の出世を続け、ついにダグラス・スチュワート社会長に就任した。それには何らかの裏取引があったのでは、といわれているが真相は闇の中である。ブレントは会長室の真下に見える紐育の街並みを見下ろしながら、

「本当に美しい街だ・・・・・。」

そう、つぶやいた。

そこへ、

「おめでとうございます。ブレント。」

ブレントが全てを誓い合った最愛のパートナーの声が聞こえてきた。そう、元黒鬼会五行衆の一人、火車こと火野元京介である。火車は帝国華撃団に破れ、その身が炎に包まれたとき、間一髪のところでブレントの部下により助けられ、紐育の病院で治療を受けていた。ちなみに、そのブレントの部下であるが、一ヶ月ほど前に全米全土を揺るがす大事件を起こしたため、ある一人の少女により討たれている。

ブレントはそっと、火車の頬に触れてみる。火車が入院中の間はあえて面会に行っていなかったので、こうして触るのは約2年ぶりのことになる。

「もう、体のほうはいいのか?」

「おかげさまで。すっかり回復しています。」

触れるだけでは飽き足らず、離さないとばかりに抱きしめる。

「そうか、よかった・・・・、火車、いや、京介?なんて呼べばいい?」

「黒鬼会五行衆・火車は、あの時に死にました。」

「そうか、なら、京介・・・だな。」

ブレントは京介の左手にある指輪を見る。あの指輪は熱のせいで形を変えていた。

「すっかり、変形しちゃったな・・・・・。」

「かまいませんよ。あなたがくれたものですから。」

京介はそう言って、キスをした。



 −太正15年2月−

 ブレントは目が覚めた。

「夢・・・・、か・・・・。」

そう、先ほどまでのことは全てブレントの夢の中のことである。会長就任も、火車が生きていたことも。

ブレントは一人で寝るには大きすぎるベッドを見回す。

「京介・・・・・。」

自分の隣で寝ているはずだった人物の名をつぶやく。

ここは紐育。帝都を自分のものにし、再びこの地に帰ってきたときには火車と二人だけの生活を始めるはずであった。そして、ゆくゆくは二人で『最上』を目指す。

―この夢が覚めなければよかったのに―

ブレントはそう思い再び眠りに付いた。



 ブレントの執務室の机には2つの書類がある。一つは火車があの日の前日に渡した降魔兵器の設計図、もう一つはブレントが現在開発している新型霊子甲冑の設計草案。ブレントはこの新型霊子甲冑にある術を施した。

それは南北戦争時、北軍を恐怖のどん底に陥れた南軍のブードゥー教徒呪殺部隊が使用した『人と魔を融合させる術』である。ブレントは帰国後、ブードゥー教徒呪殺部隊について調べ上げ、この術を見つけたのである。当時の資料によると、この術で自分と魔を融合させた南軍術師が北軍の一個師団を数分で壊滅させた、また、霊的な力がなくとも簡単に発動できるため教えを受けた南軍兵が大勢いたという。

しかしながら、この術には大きなリスクもあった。一度自分に術をかけると死ぬまで解くことはできないこと、かけた後は暴走して自我が利かなくなることである。

ブレントは何のためらいもなくこの術の使用を決めた。

この理由がブレント自身にわかるのは、もう少し先の話になる。







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