小さな羽、降るとき 

第4話








―太正14年八月―

 ブレントは紐育に一時的に戻っていた。いい具合に休みを取れた火車も同行している。


 火車は紐育の夜景を見て一目で心を奪われた。そんな火車にブレントは、

「私の過去を話しておきたい。」

そう言った。火車はキョトンとなった。

「この間、お前は自分の過去を話してくれただろう、だからな。それに、きちんと話をしなければならないことなんだ。」



 私は気が付いたら紐育のスラム街にいた。そこはスラムの中でも最低最悪の場所でな。子供だった私は家畜以下の扱いを受けていた。そんな境遇だから子供心に、「もっと上に、上に行こう」と思い続けていた。

 16歳くらいになった私は、あるマフィア組織の一員となった。

 数年たち、

「私が幹部、ですか。」

「そうだ、我々は君に期待している。」

私は出世を重ねていった。



「おい、アイツ。」

「幹部だってな。」

「根っからのスラム育ちだから、裏の世界に詳しいと思われたんじゃねーの。」

 そんな周りの連中のやっかみなど聞いていなかった。その時は、そこで偉くなっても所詮は裏社会の人間、何とか這い上がろうと考えていた。



 そんな時、偶然、不法投棄されていた初期型のスタアを見つけた。私は、それを改造してある場所に隠した。

その直後、

「あれは・・・、」

「あんなものがなぜここに!?」

「誰が乗っている!?」

私は組織をそのスタアで襲い、壊滅させた。偶然にも、内部抗争が幸いしていた。

 その時は、やっと裏の世界から抜け出せると喜んだよ。



「・・・・上へ、か・・・・。」

 しかし、結局残ったのは虚しさだけしかない。そんな私をある人物が見ていた。

「これを、君一人でやったのか。

しかも、このスタア、旧型をここまで改造してあるとは。すごいな。」

それがダグラス・スチュワート社の現会長さ。



ブレントはさらに話し続ける。

「私は今でも、上に行こうとしている。ダグラス社だって、そのための通過点でしかない、・・・・ただの駒だ。」

それを聞いて、今までずっと黙っていた火車が口を開く。

「私も、駒ですか。」

すると、ブレントはこう答える。

「お前は違う。そうだな・・・、言ってみれば共に上へ行くパートナー。私が王なら、后といったところか。」

『后』という言葉に一瞬驚いたが、大切な人に必要とされている喜びにあふれ、満面の笑みを浮かべる。

「そんな顔をするな。たまらなく、愛おしさが増して・・・・欲しくなる・・・・。」


ブレントはそれだけ言い、キスをした。それはしだいに深いものになっていった。



 どれくらい、そうしていただろうか。

火車は自分達の位置が先ほどより移動していることに気が付いた。確か、いすに座っていたはずなのに今は窓際にいる。

 そして、もう一つ別のことに気が付いた。ブレントが自分の服の中を探っているのである。

「ちょっとアナタ、これは一体。それに、いつの間にここに・・・・。」

その問いに対し、質問している当人の服を脱がしながら、脱がしている方は答える。

「お前がキスの余韻に浸って意識がもうろうとしている間にここに連れて来た。」

 ついに全裸にされ、目の前の相手が服を脱いでいる様を見ながら火車はさらに問い続ける。

「あ・・・あの、ここで、するん、ですか。」

「そうだ、この夜景を背景にお前を抱きたかった。」

そんなことを言われたら火車はもう、お手上げである。



 二人だけの紐育の夜は静かにふけていった。


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