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目が覚めた。土の壁、差し込む光、爽やかな風、青い空。硬い床?
ぼんやりとした意識下で不思議に思い隣を見ると至近距離に伝蔵の顔があった。
驚いて飛び起きる。硬いと思ったのは伝蔵の腕に包まれて寝ていたためらしい。
「わっ、や、山田先生?!」
「ん?起きましたか?」
「起きましたか?じゃありません!どうしてこんな格好で…痛…」
腰に痛みが走る。じんわりと広がる生暖かい液体の感触。
パニックになりそうな自分を抑えながら伝蔵に詰め寄った。
「先生も私もどうして裸なんですか?ここはどこですか?」
「昨夜のこと、覚えておらんのか?」
「昨日ですか?学園長の思いつきの砲丸投げ大会で、計測していたら頭に衝撃が…」
「半助、記憶が戻ったのか?」
「え?何の話です?」
「そうか、そうか。良かった」
伝蔵は嬉しそうに笑うとぎゅうっと半助を抱き締め口づけた。
真っ赤になっている半助に「そのうち教えてあげますよ」と笑った。
半助は困ったような不思議そうな目で伝蔵を見る。
とにかく何も覚えてないのだ。後頭部に打撃を感じて意識を失った後、いったい何が起こったというのだ?
なぜ伝蔵の胸で眠っていたのか、この生暖かいものはもしや。
伝蔵とは『仕事上の同僚、尊敬する先輩』と自分に言い聞かせ、恋慕の情はずっと封印していたはずなのに?
そういう関係になってしまったのなら、これから自分はどうすればいい。
まともに伝蔵の顔が見られない、ああどうしよう。
半助の頭の中をいろいろな思いが交錯しては消えて行った。
腕の中でくるくると表情を変えて困惑している半助を楽しそうに眺めていた伝蔵はそっと囁いた。
「そんな格好で可愛い顔していつまでも悩んでいると襲ってしまいますぞ」
「襲う?!なっ何言ってるんですか!」
半助は耳まで赤くしながら伝蔵の腕から離れた。
伝蔵の優しい瞳と視線がぶつかる。
敵わない…と思った。この眼に堕ちないでいられるだろうか。
伝蔵はもう一度確かめるように半助に接吻を落とすと立ち上がった。
「さて、帰りますかな。朝食の時間に遅れると食堂のおばちゃんが恐ろしい」
「…そうですね」
伝蔵から離れると脱ぎ散らかした衣を身につけようと立ち上がる。
自分の体のいたる所に赤い跡が残っているのが見てとれた。
ふとみると伝蔵の背中にも赤い爪跡が残っている。
気だるい意識下で感じるのは困惑とそれ以上の幸福感。
…ずっとあなたと共にありたい…
頭を振って想いを打ち消し身支度を整えると先に歩き出した伝蔵に駆け寄った。
子犬のようにじゃれつきたい衝動を抑えながら伝蔵の隣に並んで歩を進める。
…無くした記憶だけその場に残して…