君とメリークリスマス

第2回

 病院の入り口を出るおばあさんと長野、多香美。
 「ほんとにありがとう。助かりましたよ」
 おばあさんが頭を下げる。
 「お宅まで送りますよ」
 「いいんですよ。すぐタクシーが来るから。今日は若い人には大事な日なんでしょ」
 「え?」
 おばあさん、二人を見て笑う。どうやら二人を恋人同士と勘違いしているらしい。
 キキッと音がして、タクシーが止まる。おばあさん、二人に何度も何度も頭を下げて乗り込む。
 見送る長野と多香美。多香美、はっと思い出して、時計を見る。
 「大変、遅れちゃう!」
 長野、多香美を見る。何となく、とまどった気分。おばあさんがいなくなれば、自分たちには一緒にいる理由がない。
 「タクシー!」
 多香美、急に大声を上げて後ろのタクシーを呼ぶ。長野、慌てて、
 「僕が送るよ」
 「……いいのよ、平気!」
 そう言った多香美の、美しい笑顔。もう、タクシーが多香美の前に止まろうとしている。
 「あなたって、ほんとうにやさしいひとね。……きっと、あなたのクリスマスはすばらしいものになるわよ!」
 長野が何か言う暇もなく、多香美はタクシーの中へ。
 長野、タクシーが去るのを見送る。 
 「君の方こそ……」
 長野、口の中でつぶやく。そして、彼女の名前さえ聞かなかったことに気づく。

 いよいよ菅野家のクリスマスパーティーが始まる。
 様々な高級車が管野家の車寄せに止まる。
 室内で客を出迎える、好子、美穂、加奈子。
 客たちは口々に美穂と加奈子の美しさをほめる。
 「まあ、こちら、加奈子ちゃん!? きれいにおなりだわ!」
 「これはこれは、美人揃いで目移りするなあ」などなど。
 笑顔で上手に受け答えする三人。
 正雄は挨拶をしながらも、准一の肩に手をおいて客に紹介している様子。
 「甥の准一です」
 客は准一を見て笑顔で頷く。
 「ああ、じゃあ、岡田さんの坊ちゃんですね」
 准一も、ちゃんと礼儀正しくご挨拶。
 客の一人、好子に尋ねる。
 「あら、恵ちゃんは?」
 好子、少しだけ困るが、とりあえず、
 「あいにく風邪気味で……」
 「まあ、かわいそうに」
 そう言うものの、客の方は取り立てて気にしている様子もない。
 「まあまあ山田様……」
 などと言いながら、向こうへ行く。
 その時、グラスの割れる音。そして、執事の小林の声。
 「何をやってるんだ、君は!」
 美穂、振り返る。
 「すみません!」
 井ノ原が謝りながら、割れたグラスとこぼれた飲み物の後始末をしている。
 「だいたい君は、私の話を聞いていたのかね。グラスを運ぶときは気をつけろと、あれほど言ったじゃないか」
 小林がくどくどと言いかけたところへ、美穂。
 「小林さん、それくらいにしてあげて」
 「……美穂お嬢様」
 「慣れてないんだから、しょうがないわよ。ね?」
 「はあ、まあ……」
 小林、不服げに黙る。
 「あら、血が」
 井ノ原、ガラスのかけらで切ったらしく、指先から血が出ている。
 井ノ原は、
 「平気ですよ、こんなの」
 だが、美穂は心配そうにその手を取って、
 「だめよ、ガラスは危ないわ。ちょっと来て」
 そのまま井ノ原を引っ張っていく。
 井ノ原、引っ張られながら、小林に。
 「あ、じゃあ、後、お願いします」
 「え?」
 小林、割れたグラスと後にとり残される。
     
休憩室らしい場所で。
 美穂、井ノ原の指に包帯を巻きながら、
 「ごめんなさいね、小林さん、いつもはあんなこと言う人じゃないんだけど」
 「いいんです、俺が悪かったんですから」
 「……。さあ、これでいいわ」
 美穂、包帯をした井ノ原の指先を見て満足げ。
 そこへ、後ろのドアが開く。
 「ああ、いたいた」
 と、准一。
 「美穂姉ちゃん、おばさんが呼んどるで」
 「わかったわ」
 美穂立ち上がって、部屋を出ようとしながら振り返ってにっこり笑う。
 「これからは気をつけてね」
 その笑顔に井ノ原思わず見とれる。
 美穂は去るが、井ノ原はそのまましばし動けない。
  
 ドアの前に並んだ加奈子、戻ってきた美穂をつつく。
 「お姉ちゃん、長野さん、まだだよ」
 「……」
 美穂、少し心配そう。
 「森田先輩と三宅先輩もまだよ。准一のやつ、ちゃんと誘ったのかしら」
 そこへ、
 「まあ、長野さん」
 と言う好子の声。
 美穂、はっと顔を上げる。
 好子と正雄に挨拶しているタキシードの長野。美穂の視線に気がついて、微笑みかける。
 好子、美穂に。
 「美穂ちゃん、もういいわよ、長野さんとあちらにいってらっしゃい」
 美穂、長野と、人の集まっている方へ歩きながら。
 「……遅かったのね。あのとき電話があったから、もう少し早いかと思った」
 「あ、ああ……」
 何となく、ぼうっとしている長野。美穂はまだ、それに気がつかない。
 「……お花、何になさったの、少し髪につけられるかしら」
 美穂の髪は、きれいに結い上げてある。花を刺したら映えそうだ。だが、そう言って長野を見てから、美穂、はっとする。長野もはっとした顔。長野は花を持っていない。
 「ごめん……」
 すまなそうに美穂を見る長野。
 「けがをしたおばあさんがいたんだ。それで病院に寄ったりしたんで、花を買う時間がなくなってしまって……」
 長野を見る美穂。
 それが嘘とは思わないが、他に何かある気がして……。
 料理を運びながら、美穂と長野の姿に気がつく井ノ原。立ち止まって遠くから二人を見る。
 隣でテーブルをセッティングしているボーイ仲間に、長野を指さして井ノ原が訊く。
 「なあ、……あの人、誰だ?」
 訊かれたボーイは長野を見て、
 「ああ、あの人、長野インダストリアルの御曹司だよ。どうやら美穂さんの恋人らしいぜ」
 「え」
 言葉に詰まる井ノ原。美穂から目が離せずにつぶやく。
 「恋人……」
 
 「こんばんわあっ」
 パーティー会場に元気に飛び込んでくる剛。入ってどきっとする。奥には立派な大人の客がたくさんいるし、入り口には、正雄と好子が正装で出迎えている。
 「あっと……」
 中の雰囲気にとまどったような剛に、好子は優しく、
 「いらっしゃい、森田くん。パーティー楽しんでってね」
 「……は、はい」
 剛の後ろからは、タキシードの健が入ってくる。
 「あ、健」
 ほっとした表情の剛。
 健は一度剛に笑顔を見せてから、正雄と好子に、
 「ご招待ありがとうございます」
 落ち着いた挨拶をする。
 「両親からもよろしくと言付かりました」
 頷いて微笑む正雄と好子。
 「……森田先輩、三宅せんぱあい!」
 二人の姿を見て急いでこちらに来る加奈子、後ろに准一。
 「いらっしゃい、准くんがお二人をお誘いしたって聞いたんで、加奈子、すっごく楽しみに待ってましたあ 」
 後ろで准一がつぶやく。
 「よう言うわ、誘えって言うたんは自分やないか」
しかし、剛と健が来たのは准一も嬉しいので、加奈子への文句は顔には出さずにおく。  「剛くん、健くん、向こうへ行こ」
 准一が二人を誘うと、加奈子はそれを遮るように、 
 「もうすぐダンスが始まるんですよお。加奈子、踊りたいなあ」
 と甘えた声で言う。
 剛と准一は顔を見合わせるが、健は、
 「じゃ、僕と踊ろうか、加奈子ちゃん」
 と誘う。
 准一、感心したように、
 「さすが帰国子女や。健くんはアメリカンやなあ」

 剛と健達が客たちの中に入って行った頃、再びドアが開く。
 おずおずと入ってきたのは紗弥加、そして紗弥加をしっかり支えた坂本。
 二人を見てはっとする正雄と好子。
 「昌行くん……、でしたね。坂本さんのご長男の」
 「はい。今晩はお招きいただきましてありがとうございました」
 坂本は慇懃に挨拶。上気した顔で正雄と好子を見る紗弥加。
 「こちらは紗弥加ちゃんね。まあ……」
 目が潤む好子。
 「みつ子さん、さぞ喜んでるでしょうね。小さかった紗弥加ちゃんがこんなに大きくきれいになって……」
 「おばさま……」
 「来ていただけて、ほんとに嬉しいわ。みつ子さんを亡くされた坂本さんのご心痛を思うと、お慰めする言葉もなくて、パーティーの招待状もご迷惑なのかしらと思っていたんですけど……。やっぱりお出ししていてよかったわ。こんなに素敵なお客様をお招きできたんですもの」
 「……」
 「遠慮せずに何でも言ってね、紗弥加ちゃん。……ちょうど、うちの加奈子があなたと同い年なの。お友達になるように言っておくわ」

(続く)

 はい、第2回です。もうどきどきで始めたこのページ。少しでも面白いと言って下さる方がいて、hiruneは勇気百倍です。
 次回から、いよいよ女の子たちといろいろあります。でも、ほら、ドラマだから……。別にいいですよね!? (ちょっと不安……)


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