君とメリークリスマス

第1回

 「みんな、見に来てご覧なさい!」
 母親に呼ばれて、菅野家の長女、美穂(菅野美穂、設定・二十歳)三女、加奈子(榎本加奈子、設定・高一)は、一階のホールをのぞく。
 「わあ、すごーい」
 両手を打ち合わせて喜んだのは、加奈子。
 何人客が来ても困らない広いホールには、天井につくくらいのクリスマスツリー。母親の好子(田中好子)、メイドたちが飾り付けをしている。側には執事の小林(小林稔侍)が、微笑んでそれを見ている。
 「いよいよ明日ね、クリスマスパーティー!」
 加奈子はすっかりはしゃいでいる。
 メイドたちの手伝いをはじめる美穂。
 「あたしも今年からは、パーティーが終わるまでいていいのね!」
 はしゃぐ加奈子を見てにっこり顔を見合わせる好子と美穂。
 「去年なんて、あんなに頼んだのに、まだ中学生なんだから九時にはお部屋に戻りなさいなんてパパに言われて。加奈子、超悔しかったんだから」
 「お客様のお相手するって、結構大変なのよ。めぐちゃんなんか、あなたより早くお部屋に戻ってたじゃない」
 美穂に言われて、加奈子はつんとする。
 「だって、めぐお姉ちゃんは変わりもんだもん。いっつーもこーんな眼鏡かけちゃってさ、おしゃれや男の子には興味ないって言うんだもん。おかしいよ、絶対」
 好子はちょっと心配そうな顔。
 美穂は慌てて、「加奈ちゃん」とたしなめる。
 「美穂お姉ちゃんだって、長野さんと踊るの、楽しみでしょ。……もしかしたら、明日、プロポーズされちゃったりして。そしたらどうする? 受ける? ねえママ、長野さんとお姉ちゃんならぴったりよねえ。ハンサムで優しいし、おうちもつりあうし……」
 「加奈ちゃん!」
 真っ赤になってしまう美穂。母親は笑うだけ。そこへ。
 「ただいまー。……うわ、なんや、これ」
 ドアを開けて、いきなりパーティー用のテーブルにぶつかりそうになったのは、美穂たちのいとこの准一だった。
 「話には聞いてたけど、ここんちのクリスマスは派手やなー」
 「あ、准一!」
 「加奈子、俺はおまえより年上なんだから呼びつけにすんなって言うてるやろ」
 「いいから、准一、こないだしといた話のことなんだけど……」
 加奈子、准一の腕を引っ張って向こうへつれていこうとする。
 「お、おい……」
 そのまま無理矢理引っ張られていってしまう准一。

 学校。
 今日は終業式、明日からはいよいよ冬休み。でも、校庭ではサッカー部がまだ練習をしている。それを見ている女の子たち。
 一人の選手が目立って活躍している。
 敵のロングパスを奪って長いドリブル。敵ゴール前で味方にパスを出したと思ったら、すぐにまたボールを戻させて、見事なゴールを決める。
 「きゃー、剛くーん!」
 「森田先輩、かっこいーい!」
彼は森田剛(森田剛、設定・高二)。ところが、その後、彼の味方が蹴ったボールが、サッカーコートの脇を歩いていた女の子の頭に当たってしまう。思わず、頭を押さえて座り込む女の子。剛、慌てて女の子のところに駆け寄る。
 「ごめん! 大丈夫か!?」
 顔を上げたのは、管野家の次女、恵(奥菜恵、設定・高二 )。
 「なんだあ、恵じゃねーか」
 「なんだとはなによ!」
 恵、立ち上がってずれた眼鏡をかけ直す。
 「あ、ごめ、大丈夫だったか、頭」
 剛は恵のぶつかった場所をさわってみる。恵はその手を振り払って、
 「大丈夫よ、触んないでよ!」
 剛、手を引っ込めるが、まだ心配そうに。
 「冷やしたほうがいいぜ」
 「平気って言ってんでしょ。もう、あっち行ってよ!」
 それを見ていた剛の取り巻きの女の子たち、口々に
 「なにあれー」
 「やな女あ」
恵、むっとして
 「あんなこと言われるからいやなのよ。ああいうのにちやほやされて喜んでるなんて、あんたってほんとばっかみたい!」
 「喜んでなんかねーよ!」
 「嘘ばっかり!」
 恵、歩き出す。見送る剛。
 さっきからその様子を見ていた加奈子。
 「めぐねえって、ほんとだっさい。あんなだから、全然もてないのよ」
 加奈子、となりの准一に、きつい口調で訊く。
 「ねえ准一、森田先輩と三宅先輩、今日のパーティーに絶対来てくれるんでしょ!」
 加奈子と准一のいる向こう、葉の落ちてしまったプラタナスの前には、本を読みながら誰かを待っている様子の三宅健(三宅健、設定・高二)。学園の貴公子と呼ばれるのにふさわしい容姿。彼の両脇には女の子がまとわりつく。適当に相手している様子の健。
 「森田先輩も三宅先輩も、いっつもあたしのこと本気で相手してくれないけど、今日のパーティーであたしの虜にしちゃうんだから」
 「またしょうもないこと言ってるな。何で剛くんと健くん、二人ともなんや。せめて、どっちか一人に絞ったらどうや」
 「余計なお世話よ。ワイルドな森田先輩も、王子様みたいな三宅先輩も、どっちも加奈子の超好みなんだから、ほっといてよ! 加奈子はね、欲しいものはぜーんぶ手に入れる主義なの!」
 「……」
 思わずため息の准一。
 「もし二人が来なかったら、ただじゃおかないわよ、あんた。……わかってるでしょうね」
 すごい目つきでにらまれて、准一、びびる。

 「なあ、そういう訳や。前にも言ったけど、おまえら来てくれんと、おれ、ほんとに困るんや」
 練習の終わった剛、剛を待っていた健、気弱な声を上げる准一。三人、並木道を歩きながら。
 「おまえ、ほんとに加奈子ちゃんに弱いんだな」
 同情したように健が言う。
 「おまえの親って、今、仕事で中東の方行ってるんだったっけ」
 「そうや。その間、菅野のおじさんちに世話になってるんやけど、なんせ、あのうちで一番強いの加奈子やからなあ。あいつ、ほんま人によって顔使い分けよって、菅野のおじいさんまで加奈子を一番かわいがってるんや」
 「へえ。菅野のおじいさんって、あの、政治家の? 確か何回か大臣やったよな。でも、菅野の父親は、政治には近寄らないみたいだな」
 「そうや。でも、おじさんは婿養子やろ。あれこれ、頑固なじいさんにはずいぶん気を使ってるで」
 「結構大変そうだな」
 そんな健と准一の会話に興味なさそうに隣を歩く剛。健が准一に続けて尋ねる。
 「そう言えば、同じ菅野でも、うちのクラスの菅野恵はずいぶん加奈子ちゃんと雰囲気違うなあ。地味だし、同じ姉妹と思えないくらいだよ。うちじゃあ、どうなの?」
 健に訊かれて、岡田が答える。
 「見たまんまやね。もう一人、上に美穂姉ちゃんがおるのやけど、美穂姉ちゃんはもう大人やから落ち着いとるし、末っ子の加奈子はいつもにぎやかで話題の中心や。真ん中の恵は引っ込み思案で、同じ年の俺ともあんまりしゃべらんなあ」
 「そうか。……でも、そう言えばさあ」
 健、昔を思い出して。
 「俺、ずっとアメリカ行ってたから高校入ってからのことしか知らないけど……。菅野恵も高校入ったばかりの頃はあんなじゃなかった気がするんだけど」
 「……」
 話題に加わらず、黙ったままの剛。
 「そうなんか。おれ、いとこやけど、去年こっちに来るまで加奈子たちと滅多に会ったことなかったから、ようわからん」
 「ふーん。じゃ、もしかして、幼稚園から恵ちゃんとずっと一緒の剛が、彼女のこと一番知ってるんじゃない?」
 健は剛を振り返って尋ねる。
 剛は
 「そうかもな」
 と素っ気なく答える。
 「なあなあ……、それで、今日のパーティー、二人とも来てくれるんか?」
 と、准一は一番気になっていることを再び尋ねる。
 「おれは行くよ。加奈子ちゃんのことと関係なく、親父が仕事で行けないから、代わりにおれが挨拶に行くようにってうちで言われてんだ。菅野んちはうちの大事な取引先だからな」
 「そうかあ。よかった。……で、剛くんは?」
 「おれ、大人に混じって着飾んなきゃなんないようなとこ、好きじゃないんだよなあ……」
 「そう言わんと!」
 剛、しばらく考える様子、しかし多少はパーティーに魅力も感じていて……。
 「じゃあ、まあ、おれも行ってもいいや」
 「よっしゃ! これでおれも加奈子にいじめられんとすむわ」
 「岡田って、なんか不憫だな……」
 健がまた同情したように言った。

 並木道は交差点にさしかかり、三人はそれぞれの方向に分かれる。
 「じゃあなあ、パーティーは七時からやからな! 必ず来てや!」
 准一が叫ぶ。二人、振り返って頷く。
 そのまま手を振って角を曲がる剛。
 健は大通り沿いに走っていく。
 健とすれ違う通行人の中に、坂本(坂本昌行、設定・二十六歳)。会社帰りらしくスーツにコートで。手には、かわいらしくリボンのかかったプレゼント。
 准一も走って管野家に向かう。
 美しい冬木立に囲まれた、北欧風の管野家の外観。パーティーに向けて、木立にも飾り付けがされている。庭師の爺さん、帰ってきた准一に挨拶。准一は屋敷の中へ。
 その屋敷の外に、ツーリング用の自転車に乗り、リュックを背負った、ラフな格好の井ノ原(井ノ原快彦、設定・二十一歳・大学生)。
 「ここだ……」
 と、自転車を降りる。屋敷の中はパーティーの準備でざわめいている様子。
 井ノ原、庭師の爺さんに話しかける。
 「すみません、おれ、ここで今日、バイト探してるって聞いたんですけど……」
 管野家も、街も、すっかりクリスマスムードに包まれている。どこからか、鐘の音さえ聞こえて。

音楽流れる。(カミングセンチュリー「僕の告白」)

タイトル V6ドリームナイト・君とメリークリスマス 
〜聖夜に始まる六つの恋のストーリー!〜


出演

V6
(カミングセンチュリー)
森田剛
三宅健
岡田准一
(20thセンチュリー)
坂本昌行
長野博
井ノ原快彦

菅野美穂(菅野家長女)・・・菅野美穂
菅野恵(菅野家次女)・・・奥菜恵
菅野加奈子(菅野家三女)・・・榎本加奈子
坂本紗弥加・・・山口紗弥加
吉本多香美・・・吉本多香美
松本恵・・・松本恵


 包みを抱えた坂本、自宅の門を入る。古い洋館。手入れがされていず、木々に埋もれている。どこか暗い感じがする。
 「ただいま」
 誰も返事がないが、坂本どんどん入る。
 一つの部屋から、ごそごそと物音が聞こえる。
 坂本、中を覗く。
 部屋の中で、妹の紗弥加(山口紗弥加、設定・高一)がクロゼットを開いて何かを見ている。
 「何やってんだ、紗弥加。こんな部屋で」
 「あ、お兄ちゃん」
 紗弥加、慌てたように、開けていたクロゼットを後ろ手に閉じる。坂本、部屋に入り、見回す。
 「母さんの部屋に入ったの、久しぶりだよ。……生きてた頃と変わらないな」
 古いが、華やかな感じの部屋。
 テーブルの上には、母親(丘みつ子)の生前の写真。
 「……この部屋にはいるの、父さん、いやがるからな」
 「うん」
 紗弥加頷き、二三歩歩いて、しょんぼりベッドに腰掛ける。歩くと足が悪いのがはっきり分かる。坂本、急に妹がかわいそうになり、手に持った包みを思い出す。
 「紗弥加、これ」
 「え」
 「クリスマス・プレゼントだよ」
 「わ。あけていい?」
 紗弥加、嬉しそうに包みを開ける。坂本、それを見ながら。
 「母さんが死んでからうちはクリスマスもしなくなったものな」
 紗弥加、それには答えずに。
 「素敵!」
 中には可愛い髪飾り。紗弥加、それをじっと見つめる。
 「何がいいかわかんなかったよ。……この頃仕事で忙しくて、紗弥加ともろくにしゃべってなかったからなあ」
 紗弥加、まだじっと見ていて、つぶやく。
 「ぴったりだ……」
 「ん?」
 紗弥加、急に顔を上げ、真剣に。
 「お兄ちゃん、あたし、お願いがあるの!」
 坂本、妹の勢いに驚いて、
 「なんだ?」
 「あたしを、クリスマスのパーティーにつれてって!」
 「え?」
 「お父さんのお友達の菅野さんのおうちから、毎年パーティーの招待状が来るのは知ってるでしょう。昔は、お父さんとお母さんと、二人で行ってたじゃない」
 「うん」
 「あたし、子供の頃からあこがれてたの。ドレスを着たお母さん、とってもきれいだったもん」
 「……」
 「子供のあたしが一緒につれてってって言ったら、お母さん、紗弥加も高校生になったらねって言ってくれたのよ」
 「……」
 「紗弥加、今年は、その高校生になったんだよ。五年前お母さんは事故で亡くなって、紗弥加の足もこんなになったし、もちろんパーティーのことなんかあきらめようと思ったけど。でも」
 「……」
 「昔から、お兄ちゃんがあんまりにぎやかなとこ好きじゃないのも知ってるけど……、だめ? ……だってね、だって、お兄ちゃんのプレゼント、ぴったりなんだもん、お母さんのドレスに」
 紗弥加、急いでクロゼットを開ける。そこには、母親のドレスが。紗弥加に似合いそうだ。片手に髪飾りを持ったまま、紗弥加、坂本に、
 「ね? ぴったりでしょ」
 坂本、妹がそんなことを考えていたとは知らず、しかし、いつも不満一つ言わない妹の懸命な様子に心を打たれて。
 「……そうだな」
 「紗弥加、これを着て、この髪飾りをつけて、パーティーに行きたい。一度でいいの。ね。お兄ちゃん、お父さんに内緒でつれてって。だって、お父さん、絶対いやがるもん。こんな足のあたしがそんなとこに行くの……」
 その時、紗弥加、ドアの向こうに目をやって叫ぶ。
 「……お父さん!」
 いつの間にかドアが開いていて、仕事から帰ってきたらしい父親(竜雷太)が紗弥加を見ている。
 父親、黙って入ってきて、紗弥加の手にしていたドレスを手に取る。
 「ご、ごめんなさい、……」
 慌てて坂本も。
 「父さん、紗弥加は……」
 「何を謝るんだ、紗弥加」
 「だって、お父さん、お母さんのもの、とても大事にしてるのに、あたし、勝手に……、それに……」
 「紗弥加はお母さんにそっくりだから、似合うぞ、このドレス」
 「お父さん」
 「紗弥加、大事なのは母さんの思い出じゃなくて、おまえだよ。おまえの足のことを気にして、わたしはかえっておまえを苦しめていたんだな」
 初めて父親からそんな言葉を聞き、黙る坂本と紗弥加。
 「昌行、紗弥加を頼むぞ」
 坂本、頷く。
 
 菅野家。
 パーティー会場の花を手直ししながら、浮かない表情の美穂。
 「どうしたの、美穂ちゃん」
 後ろから声をかけたのは、母親の好子。
 「元気ないわよ」
 「何でもないわ」
 「知ってるわよ、長野さん、今、お仕事でニューヨークなんですって?」
 「……」
 好子、からかうように。
 「長野さんがいらっしゃらないだけで、そんなにパーティーがつまらなくなっちゃうの?」 
 「ママったら」
 「長野さんはほんとにいい青年だものね。美穂に、お兄さんみたいに優しいものね」
 「お兄さんみたいに?」
 ちょっと引っかかる美穂。でもそこへ。
 「ねえ、ねえ、ママ、見て」
 そう言って現れたのは、もちろん、加奈子だ。
 加奈子のドレスは真っ赤。華奢な加奈子をますます愛くるしく見せている。
 「これは……」
 ちょうど厨房の打ち合わせを終え出てきた小林も、加奈子を見てさも可愛いというようににこにこ笑う。
 「素敵よ、加奈ちゃん」
 母親も笑う。
 「おじいさまもお喜びになるわ。おじいさま、加奈ちゃんと踊るためにわざわざいらっしゃるのよ」
 「えへへ。加奈子、また腕によりかけておねだりしちゃおう」
 「まあ、この子ったら」 
 思わず苦笑してしまってから、好子、
 「美穂ちゃん、美穂ちゃんも着替えてらっしゃい」
 「はい、ママ」
 美穂は元気のない声で答え、歩き出す。それを見送って、
 「ねえ、めぐちゃんはどうしてるかしら」
 好子が加奈子に尋ねる。
 「さあ、知らなーい」
 加奈子は冷たい。
 「ちゃんと言ったようにしたかしら」
 好子は心配顔。
 美穂は、着替えに行こうとして、ホールに入って来ようとした井ノ原にぶつかりそうになる。
 「あ!」
 「おっと」
 一瞬、井ノ原、美穂を支える。美穂は赤くなってすぐ井ノ原から離れる。
 そこへ、メイドの声。
 「美穂様、長野様からお電話です」
 美穂の顔、ぱっと明るくなる。
 「ありがとう、すぐ行きます」
 美穂、去る。それを見送って立ったままの井ノ原。
 小林、それを見ていて、井ノ原の方に来る。
 「誰だね、君は」
 「あ、おれ、今日ここで人が足りないって聞いて来たんです」
 小林、胡散臭そうに井ノ原を見る。
 「確かにそうだが。誰に聞いてきたんだ、君は」
 「そんなこと、町中の人が知ってますよ。菅野邸のクリスマスパーティーって言ったら有名だから。……あ、おれは、昨日までバイトしてた八百屋で聞いたんですけどね」
 小林、まだ疑いの目。
 そこへ後ろから、厨房のコックが声をかける。
 「ほんとですよ。そいつ、ずっと八百屋で見かけてました」
 「……。八百屋は行かなくていいのかね」
 「明日から出かけるんで、八百屋のバイトは今日の昼までだったんです。でも、できれば少しでも金があった方がいいんで、やりたいんです。ここんちはたくさんもらえるって聞いたし……」
 小林、断ろうと口を開きかける。だが。
 「いいじゃない、お願いしましょうよ」
 と、好子が口を挟む。
 「一人でも多い方が助かるわ。あなた、お願いね」
 「はい!」
 元気よく好子に返事をしてから、井ノ原、不愉快そうに自分を見る小林に、にっと笑う。

 クリスマスムードいっぱいの繁華街。
 車の運転席から電話する長野(長野博、設定・二十五歳)。
 「……あ、美穂ちゃん?」
 電話の向こうには美穂。
 「博さん? 今、どこなの?」
 心配そうな美穂の声に、長野、
 「え、どうして?」
 「あの、他の人から、博さんはニューヨークだって聞いて」
 長野、笑って
 「もう街に戻ってきてるよ」
 美穂の声、明るくなる。
 「そうなの!」
 「僕は、行くって言ったら、ちゃんと行くよ。……ところで、美穂ちゃんのドレス、何色なの?」
 「え?」
 「君のドレスにあった色の花を贈りたいんだ。……何色?」
 「あの……、白いの」
 「多分そうだと思った。君にぴったりだ。……じゃあ、僕はちゃんと行くから、心配しないで」
 「……はい」
 電話を終えて、幸せそうに受話器を置く美穂。遠くからそれを見る好子。
 
運転する長野。
 前方に、しゃれた花屋。長野、花屋の方に車をつけようとする。その時。
 前方で、キキーッと大きなブレーキ音。
 「あぶねえぞ、ばばあ!」
 トラックの窓から顔を出した運転手が、道路の真ん中に転んだおばあさんに怒鳴る。なかなか起きあがれないおばあさん。
 「大丈夫ですか!」
 見ていた女の子が、歩道からおばあさんの側へ駆け寄る。
 おばあさんを助けながら、女の子、運転手に怒鳴る。
 「あたし、見てたわよ! 急に曲がったのはそっちでしょ!」
 その女の子(吉本多香美、設定・二十歳)の、真剣に怒った表情。長野は目が離せなくなって。
 「けっ」
 運転手、窓から唾を吐く。
 「きゃ」
 トラックは、わざとのように、多香美のすぐ側を通って走り去る。
 思わず、車を傍らに止め、車から降りる長野。 
 多香美とおばあさんの側に駆け寄る。
 「大丈夫?」
 「あたしは平気だけどおばあさんが……」
 長野、おばあさんを助け起こす。
 「ありがとう、平気ですよ」
 おばあさんはそう言うが、一人で立とうとして、「あいたた……」と顔をしかめる。
 長野と多香美、顔を見合わせる。

 菅野家の、恵の部屋。
 恵、机に向かって勉強している。
 ふとその手を止めて、部屋の隅のドレスを見る。
 そこには、恵のドレス。
 恵、立ち上がってドレスに近づく。その時、ノックの音。恵、あわてて机に戻って返事する。
 「はい」
 入ってきたのは、好子。
 好子、部屋を見回し、恵が何の準備もしてないのに驚く。
 「めぐちゃん。まだ着替えてないの?」
 「だって、あたし、パーティーなんて、出たくないんだもの」
 「なに言ってるの」
 好子、ドレスを手にとって、
 「あなたが選ばないから、ママが見立てたのよ。……気に入らない?」
 母親のがっかりした声に、恵、思わず。
 「そんなことない! ……とっても素敵」
 「じゃあ、早く着て見せて」
 「……素敵だけど……」
 「?」
 「素敵すぎるの。あたしには似合わないわ」
 「え、どうして? なんでそんなこと言うの、めぐちゃん」
 「……あたし、美穂お姉ちゃんみたいにきれいじゃないし、加奈ちゃんみたいに可愛くもない。……ブスだもん……」
 「ええ……」
 好子、驚いて、言葉に詰まる。
 「何言ってるの、めぐちゃんにはめぐちゃんの魅力があるわ」
 「いいの、自分でわかってるから。パーティーなんか出たって、自分が惨めになるだけ。行きたくない」
 「おかしいわよ、めぐちゃん。ほんとはママ、ずっとめぐちゃんのこと気になってたのよ。明るくて優しかったあなたが、高校に入った頃からおかしいもの。……どうしたの、何かあったの?」
 「なにもない」
 「ああ、そうだ。さっき加奈ちゃんから聞いたんだけど、今年は、同じ学校の森田くんや三宅くんも来るんですってよ。准くんが呼んだんですって」
 「え!? ほんと!?」
 「ほんとよ。めぐちゃん、森田くんと昔仲良しだったでしょ。ちょっと照れ屋さんだけど、いい子よね。ママ、好きよ、あの子。きっと一緒に踊ったら楽しくって気も晴れるわよ」
 「いや!!」
 「めぐちゃん?」
 「絶対にいや!! 剛となんか、死んでも踊りたくない!!」
 恵の剣幕に好子驚く。
 「パーティーになんか、絶対でない!!」
 恵、母親の手を払いのけて机に突っ伏す。
 「めぐちゃん……」
 困ってしまった母親の優しい声に、恵、顔を伏せたまま、
 「ごめんなさい、今日だけめぐのわがまま聞いて……」
 「わかったわ、いいわ、無理しなくても」
 好子、優しく。
 「ママもね、ほんとはすごく楽しみなパーティーに出たくないこともあったもの。やっぱり、めぐちゃんの頃よ」
 「ほんと?」
 恵、顔を上げる。
 「どうして?」
 「それはね……」
 言いかけると、ドアが開いて。
 「ただいま。めぐ、どうかしたの?」
 顔をのぞかせる、菅野正雄(草刈正雄)。
 「おかえりなさい、あなた」
 好子、立ち上がる。
 「恵、少し具合が悪いんですって。……でも、きっと治ると思うの」
 「そう? 恵、無理しないで」
 「……はい、パパ」
 好子、正雄の背に手を添えて部屋を出ながら振り向いて、恵に。
 「めぐちゃん、少しでも治ったら、顔だけでもだして。……ね?」
 恵、顔を伏せたまま、微かに頷く。

 外は暗くなり、クリスマスのライトに灯がともる。
 井ノ原は、お仕着せのボーイの制服。他のボーイたちと、執事・小林の監督のもと、パーティーの準備をしている。
 大人っぽいスーツを着た准一は、美穂とキャンドルの準備。クリスマスツリーの下では、正雄と好子の真ん中で加奈子がはしゃいでいる。好子はふと、心配そうに二階の方を見上げる。
 その二階では、自室でひとり、ドレスを見ている恵。
 紗弥加は自宅の居間。母親のドレスを着て、坂本のプレゼントの髪飾りをつけて、父親の前に立っている。頷く父親。坂本もタキシードを着て、そこへ来る。兄の方を振り返って笑う紗弥加。
 健もタキシード。鏡の前で、髪をとかす。
 剛は少しラフに。黒いスーツの下は、彼によく似合うオレンジのシャツ、お揃いのネクタイ。コートを羽織り、自宅のマンションを出て、軽やかに通りに出る。剛、空を見上げてつぶやく。
 「雪、降らねえかなあ……」

(続く)

 ……というわけで、お話がいよいよ始まりました。もう先の展開が読めちゃう人、まだまだわかんない人、いろいろですが……。
 できればほんとのクリスマスまでに終わらせたいけど、ちょっと無理かな……。


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