准八戒との間に一体何があったのか、金田角が説明し始めた。
金田角「昨日の夜な、久しぶりに雨が降って」
銀狼角「ほんまひさしぶりやった」
金田角「慌てて洗濯物取り込んどったら、空からこの男が降って来たんや」
銀狼角「びっくりしたよなあ」
金田角「ほんま。やっぱ、夜に洗濯物干したらあかんな」
銀狼角「そういう問題やないやろ」
金田角「それでいきなり何言うかと思うたら、腹減ったから飯くわせえって」
銀狼角「遠慮っちゅうもんを知らん男や」
金田角「それでまあ、訳を聞いたら、仲間からはぐれて落ちてきたっちゅうんで」
銀狼角「そんなら賭けようか、と」
金田角「仲間が捜しに来たら腹一杯食わしたる。来なかったら」
銀狼角「はい、来なかったら」
金田角「そん時はあるものを貰うということになっとった」
やっと肉を飲み込んだ八戒、
「俺はずっと信じとったで。絶対俺のこと捜しに来てくれると思うとった」
井「そうか、信じててくれたか」
准「ほかの二人はともかく、お師匠さんは絶対来てくれると思うとった」
剛空「お前な……」
金田角「それでまあ、こうしてご馳走しとるわけや」
准「ほんまにいくら食うてもええんやろな」
金田角「そらもう、俺は約束は守るで。じっちゃんの名にかけて」
准「じっちゃんて誰やねん」
金田角「誰でもええやん」
准「まあええわい。どうせやから、みんなもご馳走になりいな。結構うまいで」
と言って、八戒はまた肉にかぶりつく。
井「いいのかい」
准「ええって。こちらのお二人も一緒に食べよ。さ、さ。遠慮せんと」
金田角「それはこっちのせりふや」
何だか釈然とはしないものの、准八戒が無事だったということで健蔵たちも一安心。遠慮なくご馳走になることにした。剛空も井乃浄もホッとして食べる食べる。
やがて准八戒はふと気づいて、銀狼角に話しかけた。
「あんさんは、あんまり食わんな」
と言うと、銀狼角が答える前に、金田角が、
「うちの相方はあんまりものを食わんのや」
銀狼角「どうも食べることには欲がなくて」
准「ほう、そういう人もおるんやな」
銀狼角「俺はいいから。あんた、もっと野菜食わなあかんよ」
そこへ健蔵、
「お二人はなぜこの山に」
と尋ねてみた。
銀狼角「なぜ、と言われても」
金田角「気づいたらここにおったんねん」
剛空「じゃあ、ずっと昔から山賊稼業か」
銀狼角「山賊?」
金田角「人聞き悪いな」
井「ふもとの町じゃ、みんな怖がってるぜ」
金田角「まあ、無理矢理寄越せと言うからかな」
銀狼角「そうかもな」
そこへ准八戒、口に料理をほおばったまま、
「けど、寄越せと言われても渡せんものもあるで」
金田角「そう、それが問題なんや」
剛空「何をとるんだ。金か」
銀狼角「金の場合もあるし……」
金田角「人それぞれいろいろやな」
健蔵「そう言えば、さっき、八戒を捜しに来なかったら、八戒から何か貰うと言っていたけど」
八戒、ちょっと慌てて、
「あ、あれはもう済んだ話や。どっちにしろ、捜しに来てくれなんだら、とられる心配もないものやったし」
剛空「へえ、一体何だよ」
准「なんでもええやん。それよりも二人に頼みがある」
と、金田角と銀狼角に向かって言うので何を言い出すかと思ったら、
「料理がなくなってきよった。追加オーダー頼むで」
金田角「おい、まだ食うんか」
准「まだまだ入る。腹一杯になるまでいくらでも食ってええっちゅう話やったやん」
銀狼角「そらそうやけど」
金田角「まいったなあ」
准「もうないんかいな」
金田角「ない」
准「何や、まだ食い足りんなあ」
井「弁当を持って来たぜ」
准「そらありがたい。それ貰うわ」
准八戒は、井乃浄が渡した弁当を開けるとまたがつがつ食べ始めた。
一同あきれてそれを見ていたが、金田角が、健蔵に、
「こんなんが仲間におったら大変やろ」
と言うと、
健蔵「そんなことはありません。大切な仲間です」
銀狼角「ほう、やっぱり」
金田角と銀狼角がなにやら納得したらしい表情をしたところへ、
剛空「ところで。聞きたいことがある」
と切り出した。
金田角「何やねん」
剛空「さっき八戒の偽物になって出てきたのはあんたらか」
銀狼角「偽物?」
剛空「解屍法を使って逃げただろ」
金田角「解屍法?」
井「知らないのか」
准「何や、俺の偽物って」
そこで剛空たちは八戒の偽物があらわれた話をしてきかせた。
准「へえ、俺の偽物が出たんか。俺も結構有名になったんやな」
剛空「有名かどうかはわからないけど、俺たちがねらわれてることは確かだ」
准「誰に?」
剛空「だから、それが分からないから聞いてるんだよ」
金田角「それは俺らとは違うな」
銀狼角「うん。解屍法の資格はまだ取っとらんし」
井「資格?」
金田角「あいかたは、食うことには欲はないけど、資格を取ることには欲があるんや」
井「ほう」
銀狼角「いろんな資格持っとるで。この業界ではピカイチと呼ばれとる」
井「解屍法にも資格があるのかい」
銀狼角「さあ、それは知らん」
その時、八戒が腹をさすりながら、
「ああ食った。やっと満腹した」
と声を上げた。金田角と銀狼角はホッとした様子。
准「昨日から何も食っとらんかったもんな。まあ、昼飯はこれぐらいにしておいて、夜はもっとこってりしたもんで頼むで」
金田角「夜って、まだ食うのかいな……」
准「いくらでも好きなだけ食わしてくれる、言うたやん」
銀狼角「そらそうやけど」
准「賭けに勝ったらいくらでも食わしてくれることになっとったんやから」
井「ずいぶん無謀なかけだな」
金田角「堪忍してえな」
准「そう言われても堪忍できんこともある。せっかくやから、みんなで一年くらい世話になったろか」
銀狼角「そんな……」
剛空「食べ物がらみじゃ、八戒は譲らないだろう」
金田角「これ以上居座られたら、破産や」
准八戒との賭けに負けたばかりに困ったことになった金田角と銀狼角、助けを求めるような目を健蔵たちに向けたが、剛空と井乃浄は笑っている。
そこで健蔵は、
「お二人が、私の言うことを聞いてくれたら何とかしましょう」
と言い出した。
銀狼角「どないせい、ちゅうねん」
健蔵が何を言い出すのかと一同が注目すると、
「二人が山賊稼業をやめる、というのなら何とかしましょう」
と言う。
金田角「山賊と言われてもなあ」
銀狼角「そらまあ、人からいろいろ取っとったけど」
剛空「二人はここで人から何をとっていたんだ」
井「そうそう、それが気になってた」
尋ねられた金田角と銀狼角はちょっと顔を見合わせたが、
金田角「ラブラブなもの、や」
健蔵「ラブラブなもの?」
銀狼角「そう、ラブラブなもの。何が一番大切なものなのか聞いて、それを頂いとった」
井「ほう」
金田角「けどな、みんな金やら宝石やら、つまらんものが多くてな」
剛空「だけど、そういうのをとったら、それはやっぱり山賊だろう」
銀狼角「まあ、そうやな」
健蔵「そういうことをやめるなら、私は八戒を連れていきます」
金田角「やめん、と言うたら」
健蔵「八戒を置いていきます」
銀狼角「そら困る」
金田角「わかった、やめる。やめます」
そこで健蔵、准八戒に向かって、
「八戒、早く出発しよう。おサカ様の所へ行かなくちゃ」
准「そうやなあ。なら、弁当だけ作ってもらおうかい。それで堪忍したる」
金田角「そらありがたい」
というわけで、一行は弁当を作ってもらって出発することになった。別れ際、挨拶をする段になって、金田角、銀狼角の前に向かい合って健蔵が立ち、健蔵の後ろに剛空、准八戒、井乃浄が立った。
そこで金田角が一行にあることを尋ねたが、いったい何を尋ねたのか、それは次回で。