V遊記

第26回

 さて、この山に住む山賊のことを聞かれたナガンノンは、
「この山には何とか角(かく)というのがいるという話を聞いたことがあるが、実体はよくわからない」
と、答えた。
剛空「何とか角で二人組?」
井「三角四角とか」
剛空「何だよそれ。金さん銀さんで三角四角じゃ、わけわかんねえよ」
ナガンノン「とにかく、准八戒を捜すのはお前たちにまかせる。私はこの、解屍法を使うのが何者か調べてみる」
剛空「どうやって」
ナガンノン「ひとまず天界に行ってみる。これだけのことができるのだから、天界でも名を知られた者かもしれない」
井「なんかすごいのを敵に回してるみたいだなあ」
ナガンノン「誰かの恨みをかったことでもないか」
健蔵「そんなことはありません」
井「恨みと言えば……」
ナガンノン「何かあるのか」
井「剛空がナガンノン様を恨んでるかも」
剛空「恨んでねえよ」
ナガンノン「そんなことを言ってる場合じゃないだろう。では、後は頼むぞ」
 そう言うと、ナガンノンはスッと消えてしまった。
井「何だよ、ずいぶんあっさり消えたな」
健蔵「ナガンノン様もお忙しいのだろう」
剛空「ま、俺たちは俺たちで行きましょうよ」
井「けど、よっぽど気をつけていかないとあぶないな」
健蔵「ナガンノン様も警戒するほどの相手だ」
剛空「俺がついてますよ」
井「そうだよな、何かあったら頼むぜ」
剛空「井乃浄は自分で何とかしてくれ」
井「そんなあ」
 こうして三人はまた山を登り始めたが、いつどこから敵が来るのか分からないので気の休まる暇がない。
 こうして三人が、准八戒を捜してあたりに気を配りながら歩いていると、前に大きな岩があり、日陰になっていたので、三人はひとまず、その岩の下で休むことにした。
井「腹減ったなあ」
剛空「弁当あるけど」
井「お師匠、食べますか」
健蔵「食べるわけにはいくまい。八戒はおなかを空かせているだろうし」
剛空「そうですよね」
 井乃浄が立ち上がり、
「はっかーい。じゅんはっかーい」
と声を限りに呼んではみたが、呼べど叫べど返事はない。声は木立に吸い込まれていくばかり。
井「どこ行っちまったんだろうな」
と気落ちして腰を降ろしたとき、岩の上から、
「ほんまに来よった」
という声が聞こえた。
 三人が慌てて岩の下から出て上を見ると、色白で、やや目の細い若い男が立っていた。男は三人を見下ろし、
「よくまあ、こんなところまで捜しに来よったなあ」
と声をかけた。
井「何だ、お前」
健蔵「准八戒のことを知っているなら教えてくれ」
 男は冷たい笑顔を見せると、
「まあ、上がって来な」
と言って姿を消した。剛空はすぐにも飛んで上がろうとしたが、健蔵をおいて行くわけには行かないので、三人一緒に岩の横の細くて急な道を登って行った。登ってみると、岩の上には洞穴が口を開けている。のぞき込むと、中は明るく、話し声も聞こえた。
剛空「俺が行きます」
 そう言うと、剛空は返事を待たずに飛び込んだ。油断なく如意棒を構えながら進んでいくと、広い部屋に出た。
「剛空」
 声のした方を見ると、准八戒が椅子に座り、その両脇に若い男が立っている。八戒の左側はさっき見た男。八戒の右側には、短い髪に細いもみあげ。
剛空「准八戒」
 剛空が歩み寄ると、細いもみあげの方が、
「ほんまに来よったんやなあ」
と感心したように言う。見ると、准八戒は椅子に縛り付けられている。
剛空「八戒を放せ」
 そう怒鳴ると、もう片方は、
「まあ、そうかっかせんと」
と言って馬鹿にしたような笑いを浮かべた。縛り付けられている八戒は、
「そんな怒らんでもええで。俺は大丈夫や」
と言う。
剛空「何が大丈夫なんだよ」
准「ただ縛られてるだけや。後は楽しませて貰うだけや」
剛空「?」
 左側の男は、
「そういうこと」
と言いながら八戒の縄を解いた。しかし八戒は逃げるでもなく座ったまま。
剛空「どういうことだ」
准「まあええやん。お師匠さんたちは?」
剛空「外にいる」
准「なら呼んできてえな」
 何が何だか分からないまま剛空は一度外に出た。健蔵と井乃浄は、いても立ってもいられない様子だったが、剛空が首をひねりながら出てきたので、
井「どうしたんだ」
健蔵「何かあったのか」
と剛空に詰め寄る。剛空は、
「中で八戒が待ってます」
と言うのがやっと。
健蔵「無事だったのか」
剛空「はい」
 剛空の返事を聞く前に井乃浄は中へ駆け込んでいった。剛空は健蔵と後に続く。
 広間に入った三人は様子を見てびっくり仰天。広間に入ってみると、さっきとは様子が違い、准八戒の前に大きなテーブル。そしてその上には山海の珍味がぎっしりと並べられている。准八戒はと見れば、がつがつがつがつ料理を口に運んでいる。三人が入ってきたのを見ると、
「待ってたで。せっかくやから、みんなでご馳走になろ」
と言う。
健蔵「これは一体……」
 三人には何が何だかわからない。
准「まあ、座ってえな」
 言われるままに三人はテーブルを囲んで腰を降ろした。すると、さきほどの二人が姿を現し、八戒の両脇に座った。二人とも敵意はなさそう。
健蔵「八戒、これは一体どういうことなんだ」
 八戒は料理を口に運びながら、
「賭けに勝ったんや。この二人は、生まれたところが俺と近いんや。話がすぐに通じて助かったで」
剛空「一体何者なんだ」
准「そうやったな。紹介がまだやった。」
と、自分の右側の細いもみあげの男を指して、
「こっちが金田角」
と反対側を指し、
「こっちが銀狼角や」
と言う。紹介された二人はにこやかに頭を下げる。
剛空「これが、きんさんぎんさんか」
井「三角四角じゃなかったんだ」
健蔵「一体どういうことなんだ」
 八戒は大きな肉のかたまりを口にほうりこむと、自分の右側の金田角に、
「ちょっと説明してやって」
と言うと、自分はもぐもぐ食べ始めた。
 一体何があったというのか、それは次回で。