V遊記

第20回

 達が、一緒に生まれ変わった仲間の一人に会えたというので、
准「そら良かった。その人は何しとんの」
達「そいつは俺よりまじめでね。俺は生まれ変わってからは昔のことをすっかり忘れてて、こんな商売に手を出すようになっちまってたんだ。で、たまたまそいつに会った時に昔のことを思い出したんだ」
井「相手は覚えてたのかい」
達「いや、そいつも俺と会って初めて思い出したんだ。そいつも、音楽の方にはいかなかったけど、修行して仙人になるんだ、って言ってた」
准「あ、太一真人やろ」
達「何だ、太一にも会ったのか」
 井乃浄が、太一真人と会った時のことを話すと、
達「そうか、相変わらず正義の味方をめざしているのかだけどな、あいつが俺に巨乳大王なんてあだ名をつけたんだぜ。官職予備校にいた時に、ちょっと太ってたもんだから、ふざけて予備校一の巨乳男だなんて言ってたのを覚えててな」
井「なんだ、そういうことだったのか。やっぱり巨乳の女はいないんだな」
ナガンノン「これからどうする。山賊稼業を続けるか」
 そう言われた達、しばらく考え、
「どうも、俺が人間界に来たのには何かほかの意味があったのかもしれないな。山賊稼業も飽きたし、何かやってみるよ。昔の仲間はまだいるはずだし。自分で探してみる」
ナガンノン「それがいいだろう。仲間に会えるといいね」
達「本当は、早く仲間を集めたいと思ってたんだ。みんなが集まっても大丈夫なように、こんな、部屋がたくさんある家に住んでたのさ」
 こうして一行と達はうち解け、その日は達の家に泊まることになり、ナガンノンは姿を消した。ナガンノンがいる間、健蔵がナガンノンばかり見ていたのは言うまでもない。
 翌日から、一行はまた西へ向かって旅を続け、昼には進み、夜には宿りのくり返し。
 何事もなく歩いていると、話題もなくなり、そう言う時にはその場にいない者の悪口で盛り上がろうとするのが世の常。
井「しかし何だってナガンノンっちゅうのは、いちいちカッコつけて出てくるのかね」
剛空「必ず光って出てくるからな」
准「そのせいでキョンシーも死んでもうたし」
井「お師匠さんも、カッコつけすぎだと思うでしょう」
健蔵「ナガンノン様のことを悪く言うのはよくないよ」
剛空「カッコつけるのはともかく、俺たちがいるのに一番いいとこだけ持って行っちゃうのがいやだね。何のために三人でお師匠様を守ってるのか意味がねえじゃねえか」
准「ほんまやな。俺らなんなんやろ」
健蔵「でも、本当に危ない時には助けてくれるっていう安心感があるし……」
井「俺たちだってやるときゃやりますよ」
剛空「全く。ナガンノンじゃなくて、俺たちをあてにしてくださいよ」
健蔵「なぜそう、ナガンノン様のことを悪く言う」
剛空「なぜって……」
准「妬いとるんやないのか」
 准八戒がからかうと、剛空は思い切り怖い顔でにらみつけて黙らせた。
 少しの間、気まずい沈黙が続いたが、先頭を歩いていた井乃浄が声を潜めて、
「誰かいるぞ」
と言ったので、一同歩みを止めて前方の様子をうかがった。
 木立のすき間から、こちらへ向かって山道を歩いてくる人影が見えるが、どうやら女のようだ。
井「おっ、若い女らしいな。どうしたんだろう」
准「ただこっちに来るだけやろ」
井「どうしてそういう夢のないことを言うんだよ。袖擦りあうも他生の縁って言うじゃねえか。偶然の出会いから恋が芽生えて……」
剛空「芽生えてどうすんだよ」
井「そ、そりゃあ、口では言えねえよ」
准「なんや、よっぽど変なこと考えとるらしいな」
 そう言っている間に、女はだいぶ近づいてきた。
健蔵「具合が悪いみたいだ」
 女の足どりはだいぶふらふらしている。
井「助けなきゃ」
 そう言って井乃浄が歩み寄ろうとしたが、剛空はそれを押しとどめ、
「変だ。俺たちを見ても怪しまないでこっちにくるってのはおかしい」
井「具合が悪いから俺たちの様子を見る余裕がないんだろ」
 井乃浄がそう言って剛空を振り払おうとすると、剛空は何も言わずに飛び出し、如意棒で女を思いきり突いた。
 すると女はぎゃっと叫んでその場に倒れ臥した。
井「何するんだよ」
健蔵「剛空! なぜそんなことを」
准「どないしたんねん」
 驚く三人を無視して、剛空は女の体を探った。
井「やめろ! 俺だってそんなことはしないぞ」
 井乃浄がつかみかかるが、剛空は全く相手にしない。しばらく女の体をさぐると、健蔵に向かって、
「解屍法です」
と言った。
健蔵「何だ、それは」
 剛空、立ち上がると、女の死体を指さし、
「これは妖怪が化けていたものです。しかし、しとめるのが一瞬遅かったから、妖怪の本体には逃げられました。ここにあるのは、偽の死体です」
准「死体に偽もほんまもんもあるわけないやろ」
剛空「だから、偽の死体を残して逃げるのが解屍法なんだよ。こんなのにだまされちゃいけない」
 その言葉に、健蔵もじっと死体を見つめたが、どう見ても人間の女の死体にしか見えない。
井「何だよ一体。お前だけだまされなくて、俺たちは三人ともだまされてたってことかよ」
剛空「そういうことだ」
准「なんか納得できへんな。お師匠さん、信じますか」
 そう尋ねられた健蔵、
「もし、私たちに危害を及ぼすような妖怪だったのなら、ナガンノン様が来てくださるはずだ」
 その言葉にうんざりした表情の剛空、
「またナガンノンだ」
 剛空の表情を見た井乃浄、
「ははあ。読めた」
准「何やねん」
井「剛空、お前、ただの八つ当たりでこの女を殺したんだろう。よっぽど面白くなかったんだな」
准「なるほど、そういうことやったんか。焼き餅の憂さ晴らしに人殺しなんて絶対あかんで」
剛空「何言ってるんだよ!」
 剛空はいきり立ったが、井乃浄は相手にせず、健蔵に向かって、
「あいつ、お師匠様がナガンノン様にばかり頼ってるから面白くないんですよ」
 それを聞いた剛空、
「いいかげんにしろ! ナガンノンなんか関係ねえんだよ!」
 その言葉に、今度は健蔵がかちんときた。
「なんかとは何だ、ナガンノン様のことを」
 というと、健蔵、口の中で、
「しまれ」
と呪文を唱えた。とたんに緊錮帽が剛空の頭を締めあげる。
「う、うわーっ」
 剛空は頭を抱えてのたうち回る。准八戒はちょっと気の毒そうな顔で見ているが、井乃浄はざまを見ろと言わんばかりの表情。
剛空「や、やめてくれ。痛い! 痛いっ!」
 さすがに健蔵も気の毒になり、
「ゆるめ」
と唱えた。剛空は地面にへたり込み、肩で大きく息をしている。
准「素直に謝った方がええで」
剛空「な、何言ってんだよ。俺は悪くない」
 それを聞いた井乃浄、健蔵に、
「どうします」
と尋ねた。
 健蔵はそれに何と答えたか、それは次回で。