第3回

 健が家についたとき、すでに家には明かりがついていた。
 健は、玄関の方から家に入った。静かに入ったつもりだったのに、
 「あれ、今帰ったん?」
 岡田がすぐにキッチンから顔を出した。
 「飯、できてるで」
 健は黙ったままキッチンに入った。そして買ってきたものを紙袋ごとテーブルの上にどさりと置いた。
 袋に入っているのは、文庫本一冊にハードカバーが二冊。薄地の白のシャツ、チェックのシャツ、新しいスニーカー、それが自分用に買ったもので、あとは、きれいな色のタオルなど気に入った雑貨。それらと別にしてあったビニール袋の買い物包みを健は岡田に渡した。
 「なんや、これ」
 「食べ物。パンとか、あと出来合いのものも買ってきた。おまえ、食えよ」
 「へえ」
 見ると、テーブルには、岡田の作ったらしい簡単な料理が乗っていた。冷蔵庫には調味料くらいしか入っていなかったはずだ。健が尋ねた。
 「おまえ、どっか買い物に行ったの?」
 なんだか、岡田はひとりでどこかに出かけない気がしていた。
 「さんぽがてらな。小さい店がバスの通り沿いにいくつかあったの見てたから」
 「……そう」
 「まあ、金ないからろくなもの買えんけど、米さえありゃ、あとは多寡が知れてるし。三宅さん、飯は」
 「食ってきた」
 答えながら健はイスに座った。
 昨日健が怒鳴ったことなんて、岡田はもう忘れているみたいだった。今日、気を取り直したら、昨夜すねて怒鳴った自分が少し恥ずかしくなって、ごまかすように岡田に食料を買ってきたのだったが、なにも気にしていないみたいな岡田の顔を見ると、健はまたいらつくのだった。健は、首を傾げ、片眉を心持ち上げた。整った顔が少し意地悪そうになった。
 「……ねえ、おまえ、ほんとはなにやってるやつ?」
 いきなりの健の質問に、包みを開けていた岡田は一瞬動きを止めた。
 「年、いくつ? 俺と同じくらいだろ?」
 「……」
 「学校行ってるの? 仕事してるの? 何日もこんなとこでうだうだしてていいの?」
 言いながら、健は鋭く岡田を見つめた。岡田はそれに気づきながら、健の方を見なかった。岡田はまた、何事もなかったように健が買ってきた総菜のパックを開けだした。
 「……いろいろ買うてきたのやな。……なあ、三宅さんこそ、ここで暮らす金、どうしてるの」
 いつもと変わらない口調だった。
 「金、いくらでもあるみたいやけど、働いてるの?」
 健は黙った。
 「親父さんの金?」
 「……」
 「ええな、金持ちの、ええ親父さんがいて」
 「……」
 「まあ、それで俺も助かってるんやから、俺にとってもええ親父さんや。俺、ほんま、金ないんや。森田さんからもたいしてもらってないし。……まあ、もっとも森田さんもそう金ないみたいやったからしかたないけど……」
 そこまで言って、岡田ははっとしたように健を見た。
 健は怒っていると言うよりも、もっと鋭い瞳で岡田を見ていた。
 
 ここに来るまで、森田さんの頼み事がこんなやっかいなことだとは思いもしなかった。
 あの日、森田さんに会ったのは偶然だった。森田さんがあの部屋に来ているとは知らなかった。自分はまだ時折そこに出入りするようになって数ヶ月ほどで、森田さんとは1,2度顔をあわせたことがあるだけだ。だから、彼について知っていることと言えば、仲間内から聞いた彼の噂話だけだった。
 仲間は東京と近郊数カ所にいたが、その部屋は、仲間内でも特殊な場所だった。月に一度ほどはそちらに顔を出すように言われていた。何気ないアパートだったが、そこへ行くのは緊張した。
 その日そこには、剛の他に三人人がいた。その部屋のほんとうの主はかなり前からいなくて、彼の恋人が今はその部屋の主になっていた。他には、その部屋に行くといつも会う仲間の一人で、背も高く体格のいい男。それと、このごろ頻繁に来るらしい、やせて顔色の悪い、眼鏡の男。
 小さくノックをしてドアを開くと、一番ドアの近くにいて振り向いた剛の顔はどこか青ざめていた。いや、その、狭い部屋にいた四人全員が青ざめていたかも知れない。でも、このごろはそれが通常のことになっていた。部屋の主が戻ってこない以上、しかたのないことだった。
 声を出したのは、今はその部屋の主になっている女性だった。
 「……ごめんね、岡田くん。せっかく来てもらったけど、今日はこれからちょっと別の集まりがあるのよ。他にも何人か、人が来るの」
 疲れた声だったが、彼女の語調ははっきりしていた。恋人がずっと帰って来ないと言うのに、彼女はいつも気丈だった。言われて、岡田はすぐに納得した。今までにも、そんなことが何度かあったからだ。
 「……わかりました。また今度寄ります」
 「すまないな」
 体格のいい男が言った。
 「明日寄ってくれよ。頼みたいこともあるし」
 「はい」
 やせた男は終始無言だ。そのまま岡田は薄いドアを閉めた。急な階段を下りたとき、上から何気ない声が聞こえた。
 「ちょっと待ってくれる」
 見上げると剛だった。
 「君、たばこ買って来てくれる。……あ、俺今行くから」
 剛が階段を駆け下りてきた。
 「金、金、と」
 言いながら剛は後ろポケットを探って、出した五千円札と数枚の千円札をすばやく岡田に握らせた。
 「……?」
 「たばこじゃなくて」
 剛は小さな声で早口に言った。
 「こいつに会ってきてよ」
 千円札のなかに、住所と名前を書いたメモが入っていた。
 「俺、帰るの三日か四日遅れるからって、そいつにそう伝えて」
 「……」
 「そいつ体弱いんだ。俺が帰るまで、できれば君、そこにいてやって」
 「え……」
 意外な言葉に、岡田は相手の顔を見た。
 「今、取り込んでるんだ。わかるだろ。私用に使って悪いけど、君しか頼めねえよ。あの人たち、頭固いから」
 剛がそこまで言ったとき、上から不審そうな声が聞こえた。
 「……どうした、森田」
 心配そうな男の顔がのぞいた。剛はちらっとそちらを見上げて、そのまま自分につぶやいた。
 「すぐ行って。こういうこと、いやがるから」
 うなずいて靴をはくと、やっと剛は安心した顔になって、靴を履く自分を見ていた。体の大きな男が階段を下りてきて、訊いた。
 「なにしてんだ」
 その言葉に、小柄な剛が面倒そうに言った。
 「お前ら、いちいちうるさい」
 男がむっとした顔になる。
 「こいつ、たばこの名前、覚えねえから何度も教えてたんだよ」
 男が、いやそうな顔をして、剛に言った。
 「仲間を、お前とかこいつなんて呼ぶな」
 剛はそれを相手にせず、玄関を出る岡田に軽く言った。
 「じゃあ、……頼んだよ」
 
 そのまま、駅に向かった。
 メモを見て、とんでもない住所にあきれたけれど、たまに地方都市などに用足しに行かされるのには慣れていたから、そう驚かなかった。それよりも、初めて口を利いた森田さんの言うことを、顔見知りの男の言うことより心安く聞いた自分が不思議だった。
 だが、あの部屋で会う人間たちは、森田さんのことを今までいつも誉めていたではないか。「森田みたいになれよ」と言われたことさえあったのだ。
 メモにはちゃんと、「三宅健」と相手の名が書いてあったのに、それは単に家の表札だと勝手に思っていた。もちろん、森田さんが仲間にあんなごまかしを言ってまで伝言を伝えようとする相手は、彼の恋人なのだと思いこんでいたのである。

 ……その相手は金持ちそうなこぎれいな男の子で、しかも、今までなにも知らずに森田さんをこんな別荘に住まわせていたのだった。
 自分が知っていることを言ってもいいのか悪いのか、それも判断がつかなかった。だが、用心するに越したことはない。
 今健ににらまれて、岡田は、しまった、と思いながら黙った。森田さんの名前なんか出すんじゃなかった。健はすぐ、剛についていろいろ質問するに違いない。
 ……あたりまえや。友達やって言うのに、森田さんのことなにも知らなくていたらしいんやから……。
 だが、健は黙ったままイスから立ち上がった。そして、抑えた声で言った。
 「明日かあさって、剛、帰ってくるんだろ」
 「え? ああ、そうやろな……」
 「明日は俺、うちにいるから、あんたが買い物に出て。あれこれ運ぶの面倒でさ、俺、今日あんまり買えなかった。金は渡すから」
 「……ええで」
 健はそれきりなにも言わずに二階に上がっていった。岡田はとりあえずほっとした表情になる。

 翌日朝遅く、岡田がキッチンに入ると、すでにそこには健がいた。
 「……おはよ」
 声をかけると、健もちょっとだけ顔をあげて答える。
 「おはよう」
 どことなく落ち着いた表情だった。今朝はちゃんとトーストかなにか食べたらしい。パン屑のついた皿とカップが、両方とも空だった。
 「今日は天気悪そうやなあ」
 窓を見ながら言うと、健の顔が曇った。健がなにを考えているのか、もう岡田にも簡単にわかる。健は、今日帰ってくるかも知れない剛が雨に遭わないか心配しているのだ。
 腹の立つことも多い人やけど、そういうところはかわいいと思わざるを得なかった。想像以上にいつも剛のことを考えているらしい。
 どっちにしろ、剛が帰ってくれば、自分はすぐにここを立ち去るのだった。たぶん、森田さんは今日には帰ってくるのではないか。こんなに待たれていると思ったら、誰だってなるべく早く帰ろうとするだろう。森田さんの方だって、少し帰るのが遅れる位のことでわざわざ伝言を頼むくらいに気にしているのだから。
 昨日言われた通り、午後になって、岡田は健に頼まれた買い物に出かけた。それはやたらに多かった。幸いなことに、天気は午後中ずっともった。ただ、気配をひめた風が吹きはじめ、空に雲が広がっていた。台風が近づいているらしい。
 その日、剛は帰らなかった。

 朝方から風の音に雨が混じり始めた。
 いくら寝ていてもいいのに、なんだかもう眠れない。いつもより早く岡田は目覚めた。ドアの音がしたようだった。だが、風で何かがドアにぶつかったのかも知れない。もしかして森田さんが帰ったのかも知れないと思ったが、玄関に出ても、そんな気配はなかった。 窓越しに見える、強い雨風になびく草木が、まるで映画かなにかのようだった。雨音は、ときに滝のように強くなった。
 健もこの物音では眠っていないだろう、と思った。
 外にも出られないので退屈だった。健は、なかなか2階から下りてこない。不規則な生活をしているみたいだから、朝頃に寝て、この物音にも眠っているのだろうか。
 朝は一人で軽く食べ、午後もだいぶ過ぎてから、岡田は、昼食の準備を始めた。昨日買い込んで来たのが幸いだった。今日はなんでもある。森田さんが帰ったらごちそうなのだろうが、まだなので、なにか簡単なものでいい。
 昼食の支度をして、いくらなんでも、もう健を呼びに行ってもいいだろうと思う。だが、健の部屋をいくらノックしても応答がない。妙な気がしてドアを開けた。部屋は空っぽで、健の気配はなかった。岡田は立ちすくんだ。
 ……俺はアホや……。
 健はあんなに剛の帰って来るのを待っていたではないか。
 昨日、帰ってくるかもしれない剛が帰って来なかったとき、健は案外平静に見えた。朝からずっと剛を待っていたらしいのに、夜になって、どうやら今日は帰ってこないとわかっても、なんの文句も言わなかった。いらついてまたなにか言い出すに決まっていると覚悟していたのに、むしろいつもより落ち着いて見えた。眠いと言っただけで、ひとりで二階に上がっていった。
 ……きっとあのとき、すごくがっかりしてたんや。俺になにか言う気も起こらないくらい……。
 今になって、なにも言わずにずっと窓の外を眺めていた健の気持ちが分かった。
 昨日雨が降りそうなだけであんなに心配そうだった健が、黙って今日のこの天気を見ている訳がなかった。昨日帰って来なかった森田さんは、今日は帰るに決まっているのだから。
 朝、あのときや。もう、あのとき出かけたんや……。
 どういうわけか、相手は自分と同じ年頃の男の子なのに、健を放って置いてもいいとは全く考えなかった。
 岡田は勢いよく階段を下りると、玄関脇のクロゼットをひっかきまわして古いビニール傘を見つけだした。そしてそのまま、吹き付ける雨の中に飛び出した。

 バス停までのいつもは気持ちいい道が、小さな川のようになっていた。泥水が、ぐずぐずと平気で靴の中に入ってくる。傘もほとんど役に立たない。
 バス通りに出ても、視界が悪く、ほとんど車の姿がない。バスが時間通りに来るとは思えなかった。岡田は駅に向かって歩き出す。風雨は歩きにくかったが、慣れてしまえばびしょぬれで歩くのもどうということはなかった。
 1時間ほど歩いていると、バスが脇を通っていった。しまった、と思ったとき、バスは信号で止まった。岡田はあわててバスに駆け寄る。
 大声を出してドアを叩くと、運転手がドアを開けてくれた。この天気だから特別かも知れないし、田舎はそうなのかも知れない。
 乗り込んだバスの中は、むっと湿っぽかった。窓を洗うように雨が伝う。
 のろのろと動いていたバスが駅に着いたとき、まだ雨も風も収まる気配はなかった。だが、蒸し暑いバスの中よりいっそ気持ちがよく、岡田は傘を差そうともせずにバスからとび降りた。
 駅前にも人の影はまばらだった。まだ新しい、しゃれた赤煉瓦造りの駅構内に入って左右をみまわすと、改札の向かいあたりに立っている健の姿がすぐにわかった。
 濡れたからだろう、いつもふわっとしている髪も、服も、ぺしゃんとして、頼りなさそうな顔で壁に背をつけている健は、ここから見ると、捨てられた小さな動物みたいに痩せていた。
 「……三宅さん!」
 岡田はずぶぬれのまま健に駆け寄って声をかけた。健がこっちを見た。
 「ずっとここにいたん!?」
 健の手には傘が二本握られている。
 「朝からずっと?」
 尋ねられて、健は答えずに下を見た。表情が疲れきっている。しゃべるのもおっくうそうだった。
 「言ってくれれば俺が来たのに」
 「……」 
 「すごい疲れた顔しとるよ。なあ、三宅さん、あんた帰っててええから。代わりに俺が森田さんのことここで待ってるから」 
 岡田がそう言うと、健はやっとつぶやくような声を出した。
 「……いいよ、別に」
 「でも……」
 「……いいって言ってんだろ!」
 健がかすれた声で怒鳴ったので、岡田はそれ以上言うのをやめた。しょうがないので健に並んで壁にもたれた。
 「……列車は動いてるん?」
 健の横顔を見て聞いてみる。健はこちらを見ずに言う。
 「すごく遅れてるけど、全然来ないわけじゃない」
 「そうか……」
 ため息をつくようにそう言って、岡田はもう黙った。

 改札に入っていた最後の駅員が、ブースを閉めて出ていった。それで、改札は無人になった。
 下り列車の最終の客がすべて改札を抜け終わったからだ。
 岡田は、黙っている健の顔を見た。それから、外の方を見る。暗い。雨音だけが聞こえる。風は止んだのだが、雨台風というのだろうか、台風がつれてきた雨が、まだ勢いよく降り続いている。岡田はもう一度健の方を見る。
 「今日は台風やったから」
 慰めるように言う。
 「森田さん、来られへんのやろ。……しょうがないやん!」
 「……」
 「よかったら、明日あさ一番から待とうや。俺もつきあうから」
 健はやはりなにも言わなかった。
 「な、とりあえず、帰ろ」
 健が動かないので、岡田は健のむき出しの腕をつかんだ。細いその腕は妙に熱かった。
 岡田は突然、健が息苦しそうなのに気がついた。おそらく、健は今まで我慢していたに違いない。あわてて額に手を当てようとすると、健がその手を振り払おうとした。でも、健の手にはほとんど力がこもっていなかった。岡田がふれた健の額は、燃えるように熱かった。
 「三宅さん!」
 どういうわけか怒りがこみ上げてきて、岡田は怒鳴った。
 「具合悪いってなんで早く言わへんの!」
 岡田にそう言われても、健はなにも言い返さなかった。剛が今日も帰らないとわかって、気力をすべて失ったみたいだった。
 「ここにいて! 俺、タクシーつかまえてくる!」
 岡田は雨の中に飛び出した。駅のロータリーにタクシーは一台も止まっていなかった。岡田は歯がみしながらタクシーを待った。雨の中をやっと一台のタクシーが入ってきた。それを呼び止めて、人を連れてくるからと言って健のところに走って戻った。健は、壁にもたれるようにして、ぐったりと倒れていた。

 「大丈夫。俺、ここにいるから」
 どこからか剛の声が聞こえた気がした。
 うれしくなって目を開けようとした。でも、瞼が思うように動かない。
 「……気がついたん?」
 誰かそう言った。でも、剛の声じゃない。
 頭が朦朧とする。剛はどこだろう。なんだか目を開けていられない。ううん、目を開けてるんだか閉じてるんだかわかんない。
 「剛?」
 やっと乾ききった口が動いた。自分の体じゃないみたい。わかってる、僕はしょっちゅうこうなってしまう。でも、こんなことはなんでもない。
 「……剛?」
 声が聞きたくて、もう一度呼んだ。別の声がなにか言った。よく聞こえない。
 呼ぶのがじれったくなって、健はゆっくり手を伸ばした。しばらくしてぎこちなく、その手が握り返された。
 ……剛じゃないみたい…… 
 そう思ったけれど、剛以外にだれも自分についていてくれるはずがないのだから。 
 握り返された手はひんやりと冷たくて、気持ちよかった。どこからか声がする。
 「……今度起きたら、森田さん、きっと帰っとるから……」
 え?
 「な? それまで代わりに俺がついてるから。なにも考えんと寝てて」
 誰?
 健は努力して、やっともう一度目を開けた。目の前に心配そうな岡田の顔があった。
 ああ、そうだ、こいつ。
 ずっとしゃくにさわってた。
 だってこいつ、俺の知らない剛のこと、知ってるみたいなんだ……。
 しかし、息苦しくて、もうそれ以上考えられない。健は目を閉じて肩で息をし始めた。
 「……すごい熱や。……なあ、三宅さん、がんばってや。がんばって……」
 健の手をしっかり握って、岡田がつぶやいた。

 ……気づくと、そこは暗闇だ。だが、夜の闇ではない。人を不安に陥れる虚無の闇。……そこに、突然鋭い叫び声が響く。
 「まだ言わないのか!」
 「スパイ!」
 「言いなさい、岡田をどこにやったの!」
 沈黙。それから、感情のない、冷たい声。まるで、闇、そのものの声のような。
 「……これは君を救うためなんだ」
 「……」
 「我々は君を救いたい」
 「救う……」
 かすれた声が、聞き取れないくらいの声で繰り返した。
 「そうだ。だが、これだけやっても、まだ君を救えないようだ……」
 「……」
 荒い、とぎれとぎれの息が聞こえる。冷たい声がまだ続けた。
 「いいか、死は敗北だ……。わかるか……」
 そして、再び沈黙。


 わかりにくいですねえ……(ためいき)。
 あと1回では終わらなかったので、あと2回続きます。全部読み終われば、どういう話なのかわかるはず、ですが……(自信ない)。(98.7.18 hirune)


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