ぼくたちの怪談
ー第5回ー
第二幕・玄関前(前回のつづき)
剛、坂本、准一、あわてていろんな場所の窓を開けようとする。どこも開かない。
剛「こんなの割っちゃえばいいじゃん!」
剛、いらついて窓にカバンをぶつけようとする。が、長野がそれを止める。
長野「まあまあ、待って下さい。こんな窓なんてその気になればいつでも割って外に出られるじゃありませんか」
剛「……」
剛、健、准一、坂本、長野に不審を感じて、長野を見つめる。
坂本「そう言えばあなたさっき、わたしたちはここから帰れない、って言ってましたね」
長野「そんなことは言ってませんよ。わたしはただ、「帰れるのかなあ」って言っただけですよ」
剛「同じことだよっ」
健「こんなこと、あなたがやったってわけ!?」
准一「なんでわざわざこんな手間のかかることを……」
長野「わたし? 皆さん、わたしがドアを開かなくしたとでも言うんですか?」
坂本「あなたじゃないなら誰がやったんですか」
長野「そ、そんなことわたしに言われても……(ぶつぶつ)」
剛「はっきりしろよ! あんたなんだろ!」
剛、長野につめよる。
長野「わたしじゃありませんったら。……でもわたし、皆さんが知らないことを知っておりますよ。……たぶん」
健「……なに」
剛「……言ってみろよ」
長野「今この学校にいるのは、わたしたちだけじゃないと思いますよ」
准一「ええ?」
坂本「他に誰がいるって言うんだ」
剛「どうせでまかせだよ」
長野「誰かって、名前は知りませんが……。実はわたし、皆さんとお会いする前にこの学校の中をあれこれ見させていただきまして」
剛「ほら。これがあやしくなかったらなんだって言うんだよ」
坂本「もしかして、校舎の中を自転車で走り回ったんですか?」
長野「はい(笑顔)」
坂本「(あきれて)階段はどうしたんです」
長野「なに、階段なんて、こう、自転車をかつげばどうってこと……」
坂本「しかし。なんだって自転車なんかかついで階段を上ったり下りたりしたんです」
長野「? わたしは別に上ったり下りたりなんかしていませんよ。屋上からここまでずっと下りてきただけです」
坂本「でも、最初屋上まで行くのには上らなきゃならなかったでしょう(投げやり)」
長野「? だって、わたしは……」
坂本「ああ、もう。いいですよ、そんなこと。で、どこに誰がいたんですか」
長野「あ、そうそう、その話。わたしがまず着いた屋上で、すごい夕立の中、誰か若い女性が立ちすくんでいたんです」
坂本「屋上?」
剛、健、准一「若い女性?」
長野「はい。こう、祈るがごとく胸に手を組み(ポーズをまねする) せつなく目を閉じてですね……」
剛「いいよ、まねしなくて……」
長野「邪魔しちゃ悪いんで、わたしはなるべくそうっと屋上を下りてきたんですが。でも、彼女はいったいなんだったんでしょうねえ……」
坂本「……で?」
長野「で?……って。それから下りてくる途中でこの方を見つけて(と井ノ原を指さす)、下に来たらあなた方に会って、今に至るわけですが、その間彼女が学校を出ていった気配はありません。だから、たぶんまだいると思いますよ」
全員「……」
剛「あの夕立の中わざわざ屋上に立ってるなんて」
健「普通じゃないよね……」
坂本「……うむ……」
准一「まさか」
健「それって」
剛「自殺でもする気だったり……」
坂本、剛、健、准一、顔を見合わせると、すぐにあわてて階段を駆け上り出す。
坂本「屋上だな!」
健「超やばいって!」
准一「はやまるなよ!」
剛「なんでそれを早く言わねーんだよー!」
階段を上った坂本、剛、健、准一は見えなくなる。残されたのは長野と井ノ原のふたり。長野はよっこらせっと自転車を担ぎ、階段を上ろうとして井ノ原を振り返る。
長野「さあ、行きましょうよ。どうやらこれですべてがわかりそうですよ」
井ノ原「……」
長野「行かないんですか? じゃあ、わたしはお先に」
井ノ原「……待てよ!」
井ノ原に呼び止められ、長野が振り返る。
井ノ原「あんた、誰なんだよ。いったいなにをたくらんでるんだよ。もしかして、俺がこうして生き返ったのも、あんたが仕組んだことなのか!?」
長野「仕組む? わたしが? ……なんでわたしがわざわざそんな面倒なことをしなきゃならないんですか(微笑む)」
井ノ原「……なにがおかしいんだ!」
長野「だって……。そりゃ、わたしがこんなすばらしい夜を楽しんでいないとは言いませんけど」
井ノ原「……(にらむ)」
長野「行きましょう、井ノ原さん。あなたも行った方がいいと思いますよ」
長野、ゆっくり階段を上り出す。その長野の姿が見えなくなると、井ノ原も不安そうに辺りを見回してから、階段を上り出す。
第3幕・屋上
屋上脇にある階段室のドア。
そのドアから息を弾ませて出てきたのは坂本、剛、健、准一。出てくるとあたりを見回す。しばらくして長野、井ノ原も出てくる。
坂本「(声を潜めて)どこだろう」
准一「(同じく小声で)ほんとに誰かいるのかな」
剛「あいつ、でまかせ言ったんじゃねえのか」
長野「(後ろから突然)あいつって誰ですか?」
剛「わ!」
健「しーっ。誰か驚いて飛び降りたらどうするんだよ」
長野「ほんとにしょうがないなー、森田くんは」
剛「……(長野を睨む)」
坂本「妙に暗いな」
准一「なんか……、変な感じがする」
4人があたりを見回すうちに、少しずつ舞台全体が明るくなってくる。
健「だんだん目が」
准一「慣れてきたけど」
剛「やっぱり誰もいないんじゃねーか?」
長野「いるじゃありませんか」
剛、健、准一「……え……?」
舞台、上手側が明るくなる。それまで薄暗がりだったなかに、女性が立っている。
坂本「……鈴木先生……!?」
確かに、屋上のフェンスにもたれて立っていたのは、若い女教師の鈴木蘭々である。鈴木、名前を呼ばれて、不思議そうにゆっくり振り返る。メガネはかけていない。坂本はそんな鈴木を見つめる。
井ノ原はさっきから口をつぐんでドア近くに立っているだけである。鈴木を中心に明るくなる。逆に後ろの方、井ノ原と長野が立っている辺りは徐々に暗くなり、井ノ原と長野は見えなくなる。坂本が、鈴木の方に歩み寄る。
坂本「そこにいるのは鈴木先生ですよね……?」
鈴木「誰……!?」
坂本「見えませんか。坂本ですが」
鈴木「坂本先生?」
鈴木、手に持っていたメガネをかける。
鈴木「(驚いて)坂本先生、森田くん、三宅くん、岡田くん……」
坂本「鈴木先生、こんな夜にこんなところで……、なにをしてらっしゃるんですか」
鈴木「え? 夜って……。(辺りを見回し、驚く)もう夜なの!? (つぶやく)……そんなに長い時間ここにいたなんて思わなかった……」
剛「(こっそり)鈴木先生ってメガネ外したら結構かわいかったな」
准一「(こっそり)俺も今そう思った」
健「どうやら自殺じゃなかったみたいだけど、なんか先生、様子が変だね……」
坂本「あなたが夕立の中、ここで濡れていたのを見た人がいるんですよ」
鈴木「え? (自分を見回しながら)ああ、もう乾いてきてます……」
坂本「乾いてって……。(あきれる) 風邪を引きますよ」
ちょうどそのとき、鈴木がくしゃみをする。
坂本「いわんこっちゃない」
坂本が上着を脱いで鈴木に羽織らせる。鈴木は無表情にそうされながら、
鈴木「……あ!」
坂本「? どうかしましたか?」
鈴木「(不思議そう)坂本先生こそ、なんでまだ学校にいるんですか」
坂本「……は?」
鈴木「今日、最後まで職員室に残っていたのは先生とわたしでしたよね。それで先生は、夕立のちょっと前に学校からお帰りになったじゃないですか。妹さんが遊びに来るから駅まで迎えに行くんだって言って。先生が学校を出てすぐあの雨が降り出したんですから、よく覚えてますよ」
坂本「はあ?(笑う) 確かに職員室からは出ましたが、帰ろうと思ったらこいつらがまだ下に残ってたんで。(剛たちを指さす) ずっと下でこいつらの話を聞いてたんですよ」
鈴木「え、じゃあ妹さんは?」
坂本「?(けげん) 鈴木先生、なにか勘違いしてるんじゃないですか」
鈴木「でもわたしは確かに……(考える)」
健「ねえ、鈴木先生。どうしたの、……なにかあったの……?」
鈴木「(考えるのを中断)……え、なに?」
健「もし、嫌なことでもあったんなら、俺たちに話してよ」
鈴木「……どうして?」
健「だって……気になるよ……。なあ」
准一「先生、なにか思い詰めてることでもあるんじゃないですか?」
剛「そうそう。だいたい、夕立の中突っ立って考え事してるなんて、普通じゃないよ」
鈴木「……」
剛「先生って、相談する友達とかいなさそうだし。悩みがあるなら俺たちに聞かせてよ」
鈴木「……」
坂本「(黙ってしまった鈴木の顔を見てあわてて)こら。子どもがつまらんことを言うな」
剛「俺らもう、子どもじゃねえって」
坂本「いいや、高校生なんてまだ子どもなんだ。常々言おうと思ってたんだが、おまえらは大人をなめてるぞ」
剛「なんだよ急に。別になめてねーよ」
健「そうだよ。ただ、鈴木先生になにか悩みがあるかどうか聞いただけじゃん」
坂本「いいか、先生は女友達とは違うんだ。先生には先生に対する口のききかたってもんが……」
鈴木「いいんですよ、坂本先生」
坂本「しかし、こいつらはいつも……」
鈴木「わたし、ほんとうに友達いないんです」
剛「ほら」
坂本「そんなことはないでしょう! ……でも、もし、心配事でもあるのなら、わたしが聞きますよ」
鈴木「……」
剛「担任じゃ頼りにならねーって」
健「そうそう。たいした恋愛経験もないし」
坂本「おまえらだってないだろう」
剛「どうしてだよー」
坂本「あのなあ。女の子とつきあえばいいってもんじゃないんだ」
健「でもつきあわなきゃ始まんないよねえ」
剛「だよなあ」
坂本「……(言い返せない)」
鈴木「(3人の口論にほんの少し笑って)心配してくれてありがとう」
坂本、剛、健、准一「……」
鈴木「でも、いいの。今さら言っても、もうどうしようもないことだから」
健「そんなあ!」
剛「そんなの、話してみなけりゃわかんねえじゃん!」
准一「そうですよ!」
坂本「……」
鈴木「いつも後悔してる。自分が最低な人間だったことを。……でも、ほんとうにどうしようもないんだもの……」
健「先生……」
剛「なんだよ、それ……」
准一「そんなことないですよ……」
坂本「鈴木先生……」
鈴木「……」
坂本「どうしようもないからって、今まで誰にもご自分の悩みをおっしゃったこと、ないんですか……?」
鈴木「……(頷く)」
坂本「……じゃあもしかしたら、人に話すことで、少しはなにかが変わるかも知れませんよ? わたしもこの子たちも、あなたのことが心配です」
坂本の言葉は、鈴木の胸に響いたようである。鈴木はしばらく考えてから、顔をあげる。
鈴木「話したら、わたし、なにか変わると思いますか?」
坂本「はい」
剛「きっとなにか」
健「ちょっとかも知れないけど」
准一「少なくても、俺たちは、今より鈴木先生をわかることができます。それって大事じゃないですか?」
みんなの言葉に、鈴木は考える。
鈴木「そうね……」
(つづく)
こんにちはーっ(^^)
「ぼくたちの怪談」、だいたいラストが見えたと思ったんですが、書いてみたら、変でした(泣)
今後を大幅に考え直さなければならないようです……。
どうなるんだ、この先ーーっ(泣)
(1999.6.20 hirune)
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