「君とメリー・クリスマス」番外編
第3回
紗弥加が家につくと、先に来ていた加奈子が門の影から顔を出す。
「さ・や・か・ちゃん!」
「あ、びっくりした、もう来てたの」
「来てたよ。……紗弥加ちゃん、どうしたの、何かぼうっとしてる」
「え、そ、そう?」
「んー、なんか、楽しそうだねー」
加奈子は紗弥加をじろじろと見て、
「なんか悪かったよね、今日はもっと三宅先輩といたかったんじゃなーい?」
と言う。
「ううん、いいの、また会えるし……」
と紗弥加は真面目に返事するが、加奈子が殊勝なことを言ったのはただの挨拶だったらしく、加奈子はそんな紗弥加の言葉など大して聞いてもいない。
「ねえねえ、昌行さん何時頃帰ってくるかなあ」
と言いながらさっさと門を入っていく。
見ると、加奈子の手には大きな買い物袋。
「な、なに、その袋」
後ろから尋ねる紗弥加に、加奈子はにっこり笑って振り向き、
「紗弥加ちゃん、今日は加奈子が昌行さんに晩御飯つくるね!」
「……」
立ちすくむ紗弥加。
「なにがいいかわかんなかったから、いっぱい買って来ちゃった」
早速入った坂本家のキッチンで加奈子が買ってきたものを広げている。
「い、いいよ、加奈ちゃん。あたしがうちにあるもので作るから。……それより、加奈ちゃんはうちで晩御飯食べてっていいの?」
「大丈夫、大丈夫。それより、、和食、洋食、中華、なにがいいのかなあ?」
「へえ、加奈ちゃんて、お料理得意なんだ」
紗弥加は少し感心する。言われた加奈子は首を傾げて、
「……さあ?」
リビングのソファで本を読んでいた紗弥加が心配そうに時計を見上げる。
時計の針は7時。
紗弥加はキッチンに入る。
「ねえ、加奈ちゃん、もうそろそろお兄ちゃん帰って来ると思うけど……」
「え、あ、……もおーーー!」
テーブルの上はごちゃごちゃ。食事はまだなにもできていないようだ。加奈子が金切り声をあげる。
「紗弥加ちゃんが急に話しかけるから、お塩の分量間違えちゃったじゃなーい!」
「あ、ごめん……」
そこへ、電話の音。紗弥加が急いで出る。
「あ、お兄ちゃん。……うん、うん、でも、加奈ちゃんが待って……。……うん……、わかった……」
受話器を置いた紗弥加は、少し行きにくそうにまたキッチンへ。加奈子は真剣に鍋をかき混ぜている。紗弥加の来た気配に笑顔で振り向く加奈子。
「紗弥加ちゃん、バッチグーだよ! この調子ならちゃんとできそう!」
「あ、そ、そう……」
紗弥加、言いにくそうに、
「加奈ちゃん、あのね……」
「なにい?」
加奈子が鍋をかき混ぜながら言う。
「お兄ちゃん、仕事が入っちゃって、遅くなるって言うの。今、お兄ちゃんから電話があったのよ。お父さんが帰ってくれば加奈ちゃんを送ってあげられるけど、お父さんも朝から遅くなるって言って出かけたし。……だから、加奈ちゃん、今日はもう帰った方がいいよ」
加奈子は鍋をかき混ぜているまま。
「あの。加奈ちゃん、聞こえた……?」
「やだ」
「え」
「帰んないよ」
「でも……」
「やだよ!」
そう言いざま、加奈子はやっと振り返る。
「いやだよ! 今日はバレンタインデーだよ。紗弥加ちゃんだって、三宅先輩にチョコ渡したでしょ」
「……」
「めぐ姉だって、美穂お姉ちゃんだって、恵ちゃんも多香美さんも、みんなちゃんとチョコ渡したに決まってるよ。だって、だって、バレンタインデーだもん。おまけに私たちのは、魔法のクスリが入ってる特別なチョコなんだよ!」
「……」
「それに……。みんななんか、いいよ。だって、ちゃんと好かれてるもん。……加奈子なんか、昌行さんになんとも思われてないもん……」
「そんなことないよ。お兄ちゃんはただ……」
「一度もデートも誘ってもらったこともないんだよ。加奈子が紗弥加ちゃんに会いに来なかったら、全然会えない」
「で、でも、加奈ちゃん、しょっちゅううちに来てるんじゃ……」
「とにかく!!」
加奈子は小麦粉で汚れた手でバン!とテーブルを叩く。
「加奈子は昌行さんにチョコを渡すまで帰らない!」
時計は10時。
紗弥加は時間が気になる。加奈子はつまらなそうにテレビドラマを見ている。
「ね、ねえ、加奈ちゃん、時間、大丈夫?」
加奈子はこちらを見もしない。
「大丈夫。さっきうちに電話したじゃない」
「でも、早く帰ってきなさいって言われたんじゃない?」
「……いいの!」
「じゃ、じゃあ、お腹空いたでしょ。先に食べてよっか」
「いいの! 昌行さんが帰ってからで!」
「……そう……」
その時、玄関のベルの音。
「お兄ちゃんかも……」
ほっとした紗弥加がソファから腰を浮かそうとした時、
「おっかえりなさーい!!」
加奈子は大声で言いながらすでに廊下をバタバタと走っている。
紗弥加が玄関についてみると、
「お、おい、何でこの子がまだうちにいるんだ」
逃げ腰の坂本の腕にピトッとくっつく加奈子。
「だって、加奈子ちゃんお兄ちゃんに会えるまで絶対帰らないって言うんだもの……」
「そうでーす」
と悪びれない加奈子。
「全く……」
と肩を落とす坂本。
「こんなことじゃないかと思って、仕事早めに切り上げてきてよかったよ……」
「昌行さん、今日は加奈子が昌行さんのためにおいしーいグラタン作ったんですよお。今あっためますから食べて下さい!」
いそいそとキッチンへ行こうとする加奈子の腕を昌行は急いでつかまえる。
「今腹減ってないからいいよ。それよりもう帰りなさい」
「そんなあ……」
ものすごく落胆した加奈子の表情。
「加奈子、3時間もがんばって作ったんですよ。昌行さんにおいしいって言ってもらおうと思って……」
「……わかった。あとで絶対食べるから、君はもう帰りなさい。俺がこのまま送って行くから」
「え!」
加奈子の顔は急に明るくなる。
「昌行さんが送ってくれるんですか!?」
「……あ、ああ」
「うれしい!!」
加奈子は大げさに飛び跳ねてから両手で頬を押さえ、
「やだ、でも、そんな、加奈子はまだ……」
と一人の世界に入る。顔を見合わせる坂本と紗弥加。
加奈子を乗せた坂本の車が出ていく。キッチンの窓からそれを見て、紗弥加はほっとため息。時計を見上げ、
「もう、こんな時間……」
オーブンに近寄り、
「加奈ちゃん、グラタンはオーブンに入れといたって言ってたから……。暖めとこうかな」
一応オーブンを開けてみて、紗弥加は驚く。
「なに、これ」
グラタンをひとつ取り出して、確かめるようにまたオーブンの中をのぞく紗弥加。そして、言う。
「加奈ちゃんたら、お兄ちゃんの分しか作ってない……」
坂本の車が白いライトの並ぶ夜の国道を走っていく。
「きれい……」
窓から外を眺めている加奈子はすっかりうっとり気分。窓から外を見ながらつぶやく。
「加奈子、昌行さんと夜の海が見たいなあ……」
だがそこで、いつか住宅街に入っていた車がキキッと止まる。
「さ、着いたよ」
「ええっ」
加奈子はあわてて辺りをきょろきょろと見回す。
「ここ、海じゃありませんよお」
「当たり前だ。君の家の前だよ」
「ええーー」
「早く降りて」
「だって、海……」
加奈子はしばらくぐずぐずしているが、嫌々車を降りてふくれっ面。そしてはっと気づく。大事なチョコをまだ渡してない!
「寒いから早く家に入れよ」
窓からそう言って、坂本の車が動き出そうとする。
「待って、チョコが……」
焦ってカバンの中を探りながら加奈子が大声を出す。坂本は深く気にもとめず、
「いいよ、チョコなんか別に……」
その言葉に動きを止める加奈子。そして口の中でつぶやく。
「……チョコなんか、別に……?」
ゆっくり車が動き出そうとしたとき、突然加奈子は車の前に飛び出す。あわててブレーキをかける坂本。
「馬鹿! 鈍感! モジャゲ!!」
車の目の前で、加奈子が腰に手を当てて怒鳴っている。
「なによ、その言い方! 今日は大事な、だいっじーなバレンタインじゃない! 加奈子は昌行さんにチョコを渡すためにずっと待ってたのに、そのバレンタインのチョコを別にいらないってなによ!!」
「おい、あぶな……」
「昌行さんは加奈子からのチョコなんてどうでもいいの!?」
運転席から加奈子の怒った顔をあきれたように見つめる坂本。
「そっか、わかった、加奈子なんかどうでもいいんでしょ。わかったわよ! じゃあ、もう、加奈子、紗弥加ちゃんちになんか遊びに行かない!!」
「……」
「……加奈子が行かなきゃ、昌行さんは加奈子にもう会えないんだから。そうでしょ? 加奈子に会えないんだよ! もう、ずうっと……」
言ってるうちに悲しくなる加奈子。ほんとにそうなんだから。行けば暇な時は紗弥加と一緒にどこかに連れてってくれたりするけど、二人でどこかに行こうなんて言ってくれたことはないし、ほんとにどうでもいいって感じ。パーティーの時はすねた加奈子の機嫌を取ってくれたけど、昌行さんは大人だし……。
黙ってしまった加奈子に、坂本はとうとう車を降りて側による。
「加奈子ちゃん?」
その時、加奈子が突然怒ったような声を出す。
「前言撤回!!」
「……はあ?」
「チョコを受け取ってくれなかったら、加奈子毎日紗弥加ちゃんちに行くから!!」
「……」
「毎日行って、毎日昌行さんに晩御飯作る!! ……わかった?」
「……」
坂本は黙って、それから思い出したようにコートのポケットを探る。
「そうだ、忘れてたよ。これ」
「?」
「会社の帰りに客のいないワゴンがあったから思わず買っちゃったんだけど、君にあげるよ」
「……なによ、これ」
加奈子はいかにもな包みを怪訝気に受け取って、
「……チョコ?」
頷く坂本。
「昌行さんが……、買ったの?」
再び頷く坂本。
「だって、……なんで加奈子に? バレンタインのチョコは女の子がプレゼントするものでしょ……?」
「バレンタインのチョコって、なんかかわいいだろう。男がもらうより、君みたいな女の子が受け取った方がぴったりな気がしてね。そんなチョコって、今の時期しか売ってないし。……それはウサギの形だけど」
加奈子はじっと包みを見てつぶやく。
「ウサギ……さん」
それから加奈子は自分を見守る坂本の方に顔を上げる。その顔はもうすっかり笑顔。
「……ありがとう!!」
そして加奈子もやっと自分のチョコを取り出し、両手で差し出して小首を傾げる。
「昌行さん、加奈子のチョコ、絶対、ぜーったい食べて下さいね!!」
坂本の車を見送ってから、加奈子は包みを手に、満足そうに家に入っていく。
「ただいまあ!!」
「加奈ちゃん!」
あわてて出てきたのは好子。
「だめでしょ、あんなにすぐ帰るように言ったのに、坂本さんにご迷惑でしょ」
「大丈夫だって! 昌行さんは加奈子にメロメロなんだから!!」
「全く、あなたって子は……。心配だから今迎えに行こうと思ってたのよ」
「もう、平気ですう! 加奈子はお・と・な・だよ、ママ!!」
そう言って階段を上る加奈子。
「待ちなさい! もう……」
好子はため息。
加奈子が階段を上ると、二階のコーナーで美穂が電話をしている。受話器を手にした美穂が小さく驚きの声を上げる。
「ほんと!?」
美穂は加奈子が見ているのに気がつき声を小さくする。
「どうして? ……嬉しくないの? 多香美」
加奈子が不思議そうに見ていると、メグが自分の部屋から出てくる。
「あ、加奈ちゃん。もしかして今帰ってきたの?」
「うん、そう」
「ママに会った? ……ずっと心配してたんだよ」
「だって、加奈子、昌行さんと二人きりでドライブしてたんだもーん」
二人が話している横で美穂がうつむいて受話器に言う。
「うん。……じゃあ、明日。明日会おう、多香美……」
そして受話器を置く美穂。美穂が泣きそうな顔をしているのに気付き、メグと加奈子は美穂を見つめる。
「どうしたの、お姉ちゃん」
「なんかあったの?」
二人に尋ねられ、美穂は笑顔を作って、
「ううん、なんでもないよ」
そう言っても、その顔はすぐに曇って、その頬に涙がひとつぽろり。
心配そうな妹たちの顔に、美穂はまた少し笑って見せようとするが、失敗。寂しそうな表情のまま美穂が小さく言う。
「あのね、多香美が長野さんにプロポーズされたんだって……」
「え」
「お姉ちゃん……」
メグと加奈子は驚く。
「お姉ちゃん、もしかしてまだ長野さんのこと好きだったの……?」
加奈子の問いに美穂は頭を横に振って、
「違うの、そうじゃないんだけど、でも」
目を伏せてしまった美穂に、メグが言う。
「ねえ、メグの部屋に来てみんなでおしゃべりしない?」
「……」
「加奈ちゃんも一緒に、お茶でも飲みながら今日のこと話そうよ」
メグの部屋。
美穂はベットの上で膝を抱えるようにしている。加奈子は床の上に座り、部屋の中を見回している。メグは紅茶を入れたマグカップを二人に渡す。
両手を暖めるようにカップを持って、美穂が話し出す。
「あたしがね、電話したんだ。多香美に。今日、どうしたかなって思って」
黙って聞いているメグと加奈子。
「最初はつまんないこと話してたんだけど、多香美が急に黙って、それから言ったの。春から長野さんはロンドンに行っちゃうって」
「……」
「短くても3年は行かなくちゃならないんだって。それでね……。急がせるわけじゃないけどって前置きして、プロポーズされたんだって……」
「でも……。長野さんと多香美さん、まだ会って2ヶ月も経ってないでしょ」
とメグ。するとすぐ加奈子が口を挟む。
「関係ないじゃない、メグ姉。つきあった日数なんて」
「そ、そうかなあ」
「そうだよ。あたしだって昌行さんと会ったの、あのクリスマスだったけど、今はもう思い思われ……」
「……加奈ちゃんの話はあとで。今はお姉ちゃんの話聞こうよ。……それで? お姉ちゃん」
「多香美ね、嬉しそうじゃなかったの。多香美、涙声だった。それであたしもなんだか寂しくなっちゃって……」
「なんで?」
と加奈子。
「多香美さんと長野さんってうまくいってないの?」
美穂、首を横に振って、
「そうじゃないよ、うまくいってる。そうじゃないの」
「……?」
「だって、多香美とあたし、こないだまでただいつもふたりできゃーきゃー騒いで……、まるで子供だったのに……、結婚なんて、遠いことだと思ってたのに……」
「……」
「多香美は結婚しちゃうよ。絶対しないなんて今は言ってたけど、もうすぐ長野さんと遠くへ行っちゃうよ……」
膝に顔を埋め、涙声になる美穂。
「お姉ちゃん……」
メグは美穂の隣に腰掛ける。
「お姉ちゃんのチョコはどうしたの。井ノ原さんに渡さなかったの」
顔を伏せたまま美穂が頭を横に振る。
「渡した」
「どうしたの? 井ノ原さん、あんまり嬉しそうじゃなかったとか」
また美穂が頭を横に振る。
「快彦さんのバイトが終わるのを待って、近くの公園で渡したよ。すっごく喜んでくれた。なんか、こっちが照れちゃうくらい……」
「じゃあ、いいじゃない。なんでそんなに泣き虫なの?」
美穂は急に顔を上げる。
「あたしだってその時まではすごく楽しかったよ。近くにおいしいおでんやがあるから行こうって誘ってくれて、嬉しかったし。でも……」
「でも?」
「チョコを見ながら、言うんだもん。「バレンタインにこっちにいてよかった」って」
「……」
「あたしがどういう意味かわからないでいたら、あさってから旅行に行くって言うんだもん。インドとかスリランカとかの方に。物価が安いし、知り合いがいて向こうでバイトできるからって」
「……」
「軽い調子で言うんだよ。四月半ばまでは向こうだって。2ヶ月もだよ。そんなこと大事なことを、なんでもないふうに、今日急に言うんだよ」
「お姉ちゃん……」
メグがつぶやく。
「それで寂しいんだ……」
「なんだか頭に来ちゃって、用を思い出したって帰ってきたの。快彦さん、驚いてたみたいだったけど、あたしが怒ってるってこともわかんなかったかも知れない。……もう、全然楽しくない。こんなバレンタインなんて……、ひどいよ……」
顔を見合わせるメグと加奈子。その時、電話の音が。加奈子が立って廊下に出る。
「はい、菅野です。……はい。……はい」
加奈子、開いたドアの間から美穂の方を見て、
「はい。今、姉と替わります」
受話器にそう言ってから、美穂を呼ぶ。
「お姉ちゃん、電話!!」
美穂が顔を向けると、
「井ノ原さんだよー」
美穂、ためらうような様子だが、メグが言う。
「大丈夫だって、お姉ちゃん。あたしたちが渡したチョコは、魔法のチョコなんだから!!」
妹の言葉に、美穂の顔に少しだけ笑顔が戻る。美穂、廊下に出て加奈子から受話器を受け取る。
「……あ、……快彦さん……」
加奈子はやれやれと言った感じで部屋に戻ってくる。
「全く、姉の世話も大変だよね」
しばらく話してから受話器を置いた美穂、今度は顔が輝いている。
「メグちゃん!!」
「なに、お姉ちゃん」
美穂、部屋に駆け込んできて、
「今、快彦さんからの電話だったの!!」
「う、うん、知ってるよ」
「あのあとうちに帰ったんだけど、あたしが怒ってたような気がしてどうしても気になったんだって」
「……へえ」
「それで、今、うちのそばの電話ボックスにいるんだって。あたし、ちょっとだけ行って来る!」
「ええ!?」
「大丈夫、ほんのちょっとだから。もしかしてママは心配するかも知れないから黙っててね」
「でも、じゃあ……」
「十分、ううん、二十分位したらすぐ帰るから!!」
そう言うと、美穂はもう部屋を飛び出していく。
「うちに来てもらえばいいじゃない」
メグがつぶやくが、加奈子は
「だめだめ、外で会うのがロマンチックなんだよ」
「そうかなあ」
「メグ姉も考えてみなよ、バレンタインの夜に、うちの中で森田先輩と会ったりして楽しい?」
「う、うん、まあ……」
「でしょ。でも、電話が来たと思ったらもう近くに来てるって言うのが井ノ原さんだよね」
加奈子の言葉にメグも思わず笑う。
「ほんとだね」
窓辺に立っていた加奈子が外を見て急に大声をあげる。
「ほらあ。外は星がきれいだよ」
「へえ」
メグも立って加奈子の隣に寄る。窓越しに見る冬の夜空には、降るように星が輝いている。
「いつか昌行さんとこんな星を一晩中見てたいなあ……」
加奈子はまた、夢見るようにひとりごと。
加奈子が坂本さんに夢中なのにはいつもあきれているけれど、今ばかりはメグも黙って星空を見る。
クリスマスに剛たちと不思議なほど静かな雪を眺めたけれど、あれからずいぶん経った気がする。一人でいじけてた頃が遠い昔みたい。剛はいつもポーカーフェイスだけど、それでいいよ、あたしは。これから春が来て夏が来て、時間はたっぷりあるもんね……。
……そう、きっとみんなも今この星空を見てるよ。
そう思うと胸がいっぱいになって、メグは星空を見つめて、小さくため息をはく。
第1回でカトリーヌ先生がメグと加奈子におクスリを渡すシーン、少しだけ手直ししてあります。気になる方は見てみて。(大したことじゃないんだけど) 次回で終わる予定でーす! (1998.2.11)
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