美少女探偵双葉の冒険! 第2話。思いは続く…

 夕暮れ時。
 調べ物を終えた私は事務所に向っていました。
「調べ物に時間がかかっちゃったよ〜。お兄ちゃん待っているかなあ。この資料があれば捜査の裏付けになるから、早く持っていかないと」
 私の名は双葉、嘉神双葉。お兄ちゃんと一緒に探偵事務所をやっています。…と言っても本当のお兄ちゃんじゃないよ。
 私の一番大切な大好きな人…きゃっ! 恥ずかしいっ。
 お兄ちゃんは嘉神悠志郎と言って帝都でも有名な探偵です。
私はまだ助手で足手まといになっちゃうけど、一人前の探偵になるため日夜努力しています。

 事務所の近くまで来ると、6歳ぐらいの女の子がぽつんと座っていました。急いでるのでそのまま通りすぎようとしたのですが、目の端に赤いものが見えました。
 血…!女の子は足から血を流していたのです。
 私は足を止めると女の子の前にしゃがみました。そして、安心させるようにゆっくりと話し掛けました。

「どうしたの、お嬢ちゃん。怪我をしているの? 大丈夫?」
「ちょっと…きっただけ…。だいじょうぶ…だけど…、おねえちゃんは…だれ?」
 女の子は話し掛けられて一瞬ビクッとしましたが、私の顔を見て安心したのか、とつとつと答えてくれました。

「私は、嘉神双葉。探偵よ。お嬢ちゃんのお名前は?」
「わたしは…こばやし…みやこです。おねえちゃんは…たんていさんなの?」
「そうよ、みやこちゃん。」
 私は答えて、みやこちゃんの傷を見ます。たしかにそんなにひどい怪我では無いようです。でも、早めに消毒して傷薬付けないといけないです。
「とりあえず、傷の手当てしましょう。ここからだとお医者さまより私の事務所が近いわね。みやこちゃん歩ける?」
「うん、わかった。わたし、あるけるよ」
 みやこちゃんはちょっともじもじしていましたが、立ちあがると、
「おねえちゃん、たんていさんならわたしのことたすけてくれる?」
「どうしたの、お姉さんが力になれることだった、もちろん助けるよ」
「よかった。わたし、へんなおじさんたちにおいかけられてたの。にげまわってるあいだにしらないばしょにきてしまったし…。おうちにかえりたいの」

 誘拐事件かもしれません。こんな小さな子になんてことを。
「わかったわ、みやこちゃん。探偵の双葉お姉ちゃんに任せてね。無事にお家に連れて行ってあげる」
「うじゅ〜」
私が胸を叩いて約束をすると、みりすも返事をしました。
みやこちゃんはきょろきょろしてどこから声が聞こえたのか探しています。
「みやこちゃん、ここよ」
「うじゅ」
 私が帽子を少し上げるとみりすが顔を出しました。
「うわー、このこはだあれ?」
 みやこちゃんはきらきらとした目でみりすを見ています。
「みりすよ。私の相棒。かまないから手を出しても大丈夫よ」
「うじゅ」
 私とみりすの返事を聞いておずおずとみやこちゃんは手を出しました。
「うわー、かわいい〜」
 みやこちゃんは、ゆっくりみりすを撫でています。
「さて、まずは事務所に行って、怪我の手当てをしましょうね」
 私が立ちあがると、みりすが帽子の中に引っ込みます。私は、みやこちゃんに手を差し出しました。
「うん!」
 みやこちゃんは名残惜しそうな顔をしていましたが、私の手を取って、ゆっくりと立ちあがります。
「じゃあ、行きましょう」

 2人で歩き出して、5分も歩いたでしょうか。そろそろ事務所が見えてきました。
「さあ、もう少しよ。みやこちゃん。ここの角を曲がったら事務所だから…」
「おっと、そこまで」
 曲がり角の向こうから、赤いシャツを着た男が現れて、手を広げて前に立ちふさがります。人の気配に振り返ると、後ろからも青いシャツの男と、全身黒ずくめの男があらわれました。
「さて、お嬢さん。そちらの小さなお嬢さんを渡してもらいましょうか」
「そうそう、おとなしく渡してくれれば手荒な真似はしませんよ。」
「俺たちは紳士ですからね」
 3人はそれぞれ言い放つと笑い出しました。
 私は小さな声でみやこちゃんに話しかけます。
「もしかして、へんなおじさんってこの人たち?」
「そう…」
 みやこちゃんは、ぎゅっうと、私の手を握って震えています。私がみやこちゃんを守らないといけません。

 私は怯えているふりをしながら小声でみやこちゃんに指示を与えます。
「みやこちゃん、合図したらあのたこやきやさんの横にある、赤い煉瓦のビルヂングに向って走ってね。嘉神探偵事務所って看板が出ているから、その中に逃げ込んで。中に私のお兄ちゃんがいて、みやこちゃんを守ってくれるから」
「うん…」
 みやこちゃんは泣きそうな顔をしていましたが、小さくうなずきました。私は自分の頭から帽子を取ると、みやこちゃんにかぶらせます。
「この帽子は探偵の印。この帽子をかぶっていると勇気が出るよ。ちょっと預かっていてね」

 近寄ってくる男たちとの間合いをはかって…
「…それじゃあ行くよ!」
 私は弾丸のように、前から来る赤シャツ男の鳩尾めがけて突っ込む!
 べギッッッッ!
 板塀に男を叩きつけて、みやこちゃんが走り出すのを横目で見る。みやこちゃんを追いかけて、後ろから来た青シャツ男が走り出す。私は振り返りざま、足をかける。
 ドシャッ!
 男はもんどりうって倒れる。

「さて、ここは通しませんよ。悪人のみなさん」
 私は立ちあがると、手を広げて男たちに通せんぼをした。
「やるねえ、お嬢ちゃん、仲間にほしいぐらいだ」
 黒ずくめの男が、にやにや笑っている。
「だいたい、あなたがたはみやこちゃんに何の用があるの?」
 なんとかみやこちゃんが逃げるまで時間稼ぎをしなくちゃいけない。
「いやいや、用があるのは俺たちの依頼人だよ」
 黒ずくめの男は大きく手を広げる。
「依頼人は誰で、何の理由があるの?」
「おっと、それは秘密だよ。俺たちはさっきのお嬢ちゃんの誘拐の依頼を受けただけだからな」
 黒ずくめの男は肩をすくめると、ゆっくり私の横を通ろうとした。
「さて、時間稼ぎに付き合っていてもしょうがない、通らせてもらうよ」
 今だ!急所めがけて蹴りを繰り出す…
バシッッ!
 と、蹴り上げた右足をあっさり黒ずくめの男は掴んだ!
「おいたはダメだよお嬢ちゃん。大人の仕事の邪魔をしちゃいけないな」
 黒ずくめの男は、私の右足を持ってまるでごみでも投げるように放り投げる! 私の視界がぐるっと一回転する…。
 どさっと、そのまま地面にたたきつけられる!
 私は目を閉じて体を硬くして、衝撃に備える。
 …
 ……
 …………

 あれっ?
 痛くない…。
 おそるおそる目を開けた私の前に、お兄ちゃんの顔が。
「大丈夫ですか、双葉。無茶をしてはいけませんよ」
 お兄ちゃんが抱きとめてくれたんだ…。
 私を起き上がらせると、お兄ちゃんは黒ずくめの男に向かって声をかけました。
「さて、引き上げたほうがいいですよ。みやこちゃんは無事保護しましたし、依頼人はこちらの方でおさえました。これ以上やっても警察のお世話になるだけですよ」
「そのようだな、こりゃ割りが合わんな」
 黒ずくめの男の視線を追って後ろを振り返ると、みやこちゃんの横に初老の紳士が一人、みやこちゃんと紳士を守るように屈強そうな男の人が四人。そして、縄を打たれた男が一人。
 ああ、みやこちゃん無事だった…よかった。
「双葉に怪我でもさせていたら許しませんがね。貴方のような方とやりあうのは無益ですしね」
 お兄ちゃんは私をかばうように黒ずくめの男の前に立ちました。
「さて、仕事は失敗しから、後金はもらえねえな。早速、退散するとするか」
 黒ずくめの男は赤シャツと青シャツを起こして、
「そこの元気な嬢ちゃん、あんたの名前は?」
振り返り私に向かってたずねました。
「探偵、嘉神双葉です!」
 私は声が震えないように、精一杯胸を張って答えました。
「ほほう。ということは、そっちの兄ちゃんが名探偵の嘉神悠志郎かい。こりゃ相手が悪かったな。あんたらの名前はこっちの世界でも有名だしな」
 黒ずくめの男は立ち去ろうとしてまた振り返りました。
「あ、そうそう。裏の世界のことで何か知りたいことがあったら、浅草まで俺を訪ねにきな。十六夜の水沢って言えば通じるよ。それじゃあ、すまんかったな探偵さん」
 右手を上げて、水沢と名乗った黒ずくめの男は去っていきました。

ふうーーーーーっ
 足の力が抜けて私はその場にへたり込んでしまいました。そんな私に向かって、帽子をかぶったみやこちゃんが走ってきます。
「ふたばおねえちゃんだいじょうぶ?」
「大丈夫よ、みやこちゃん。ちょっと足がもつれただけだから」
 心配そうにのぞき込むみやこちゃんに答えると、私は立ち上がりました。
「ふたばおねえちゃん、おぼうしかえすね。このおぼうしかぶったら、みやこ、すごくはやくはしれたよ。それにおねえちゃんにいわれたばしょにいったら、みさきのおじさんがいたよ。おねえちゃんはすごいたんていさんだよ!」
 興奮してるみやこちゃんの横に初老の紳士がやってきて、私に向かって深々と頭を下げました。
「みやこ嬢を助けてくださいましてありがとうございます、嘉神双葉さん。私は、小林一三氏の秘書をやっております、三崎正昭と申します」
「え、あ、えっとその…」
 私が口篭もっていると、お兄ちゃんが説明をしてくれました。
「双葉、みやこちゃんが事務所に駆け込んできた時には、三崎さんから小林一三氏の孫である、みやこちゃんの捜索の依頼を受けている最中だったのですよ。双葉が危ないってみやこちゃんに言われて、あわてて出てくると…」
 お兄ちゃんは振り返ると指をさして、
「そこで捕まってる人が様子をうかがっていてね。捕まえたらあっさり誘拐のことを話したんですよ。あとは、もうわかりますよね」
「なるほど、そういうことだったんですか」
 私がお兄ちゃんの説明で納得していると、
「さあ、外で立ち話していると風邪を引いてしまいますよ、みなさん事務所に戻りましょう。双葉、みなさんに暖かい紅茶を入れてくださいな」
 お兄ちゃんが手を叩いて、三崎さんと一緒に事務所に向かって歩き出します。そして、小さな手、みやこちゃんの手が私の手をつかむと引っ張ります。
「おねえちゃんもいこっ!」
「そうだね、みやこちゃん」
 私はみやこちゃんに微笑むと、手をつないで歩き出しました。
 事務所の入り口まで来たときにみやこちゃんが手を引っ張って止まります。
「おねえちゃん、ありがとう」
 みやこちゃんは手を離してもじもじしたかと思うと、
「あのね、わたしおおきくなったら、おねえちゃんみたいなたんていさんになる!」
と大きな声で私に宣言しました。
 私も昔はこんな感じだったのかなあ、とほほえましく思います。
「それじゃあ、この帽子はみやこちゃんにあげましょうね」
 私は帽子を取ると、指で回します。
「うじゅ?」
 頭の上のみりすが、帽子をどうするのかというように鳴きます。
「いいの? おねえちゃん?」
 みやこちゃんがびっくりした顔で、私を見ます。
「いいのよ、みやこちゃん。みりすはあげられないけど、大切にしてね」
「うじゅっ」
 みりすもうなずきます。
「ありがとう、おねえちゃん。大切にするね!」
 帽子をかぶったみやこちゃんは、飛ぶように事務所に入ります。
「あのね、あのね。みさきのおじちゃん。ふたばおねえちゃんからぼうしをもらったの。たんていさんのぼうしだよ。おおきくなったら、わたしたんていさんになるんだよ!」


……
………

そしてこれはまた違うお話…。

「次回、『美少女探偵双葉の冒険! 旅は道連れ』」
「見てくれないとかじっちゃうぞ!」
「うじゅ〜」

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