− LOG_0.5 「星々の集う日へ…」  −

Aパート

 
 航宙日誌<USS.アクシオン> 副長アーキー・K・シータ:記録

 二年間の星図作成任務を無事終了し、多くのクルーはそれぞれの故郷へ久しぶりに戻り、家族との再会を果たしている頃だろう…
 艦長もアクシオンを離れ三日が過ぎたが、今のところ平穏な日々が過ぎている。ただ、クルーの半数が居ないためか、艦内が寂しい気がしているのは私だけだろうか…
 現在、当艦は内戦が起こりつつある惑星ネイナスに連邦の調停団を派遣する任務についている。
 反政府勢力が同星防衛軍の一部を掌握したとの情報が入り、近隣惑星に被害が及ぶ事を恐れたネイナス大統領からの要請で、両者の調停会議に惑星連邦も参加するためである。
 反政府勢力は武力行使に出る声明を発表しているらしく、今回の調停会議が無事に終了すれば良いのだが…


T.『思い出への始まり』

「副長。あと一時間でネイナスの周回軌道上に到着します」
 主任操舵士のケイト大尉が艦長席に座る女性士官に声をかけた。その見なれた女性士官は本艦の副長であり、同じ女性士官としてケイトが目標としている人物でもある。
 <アーキー・K・シータ>中佐。四年前にこの<USS.アクシオン>の副長として着任し、艦長と共にクルーから信頼されている次席指揮官である。
「ありがとう、大尉。そろそろ調停団にも準備に入るように連絡しておいて」
 そう言うと同時にアーキーは肩に掛かる長い髪を背中へと流しながら、ブリッジ全体を見渡していた。
 ブリッジクルーも数名が休暇で故郷に帰っており、その代わりに若いクルーが各ステーションで仕事をしている。
 中には少し緊張している士官もいるが、若くても緊張と責任の伴う仕事を与えるのは必ず良い経験になるとシータは思い、ブリッジ任務につかせている。ただ、ずっと緊張されるのも考え物だが…
「そう言えばタトゥーイ少尉、ディファイアント級の新造艦が配備されるニュース、知ってる?」
 ケイトに突然名前を呼ばれ、少し驚きながらも少尉は質問に答えた。
「あ、はい。第22宇宙基地で建造されているディファイアントU級ですよね。DS9配備のUSS.デファイアントと同系の改良艦だと聞いてます」
 ケイトも武器コンソールを担当しているタトゥーイ少尉が緊張し続けているのに気が付いて、話しかけたのだろう…
 そう思いながら、シータも話に加わった。
「保安部員としては、戦闘艦にあたるディファイアント級に乗ってみたいかしら?」
 まだ数隻しか配備されていないディファイアント級宇宙艦は、艦隊士官の多くが興味を引く存在である。
「戦闘艦だから乗りたいって事はありませんが、正直興味はあります。でも、今は覚える事が多くてそれどころじゃないですよ」
 少し笑いながら少尉は返答してくる。確かにアカデミーを出たばかりで、今は仕事を覚える方が大変だろう。
「でもシータ副長はどうなんですか。副長が希望すれば上級士官として転属出来ると思いますけど…」
「そうねぇ。副長ならそろそろ小型艦クラスの艦長として転属になっても、おかしくないわよねぇ」
 タトゥーイやケイトから反対に質問をかえされるとは思っていなかったが、少し考えた後にシータは思っている事を正直に答えた。
「そうね。いつかは転属命令が来るでしょうけど、今自分からこの艦を離れたいとは思わないわ。それに、艦長から教わる事がまだまだ多くあると思っているから…」
 艦長になる事を目標にしてきたアーキーは今現在、その目標の手前まで来ている。
 だが今の自分には宇宙艦を常に指揮する存在となるには、まだ何かが足りないと感じていた。それが何かはまだ分からない。
 少し前にもその話を艦長としていた時があったが、少し表情を崩しながら『いずれ分かるときが来るだろう…』と言ってくれた時のことを今でも覚えている。
 だから今は副長として、艦長を全面的に補佐できる様に頑張っているし、艦長もそれを認めてくれていると信じている。
「すいません、副長。調停団から会場警備について話したいと言ってきてますが。」
 そんな事を思い出していたシータに向かって、通信担当のミロク少尉が少し申し訳なさそうに報告してきた。そろそろおしゃべりの時間も終わりにしないといけないようだ。
「ありがとう少尉。ケイト、ブリッジをお願い。それから周回軌道に乗ったら」
 だが、言葉はここで遮られてしまった。ブリッジを離れようと席を立ったアーキーに向かって、タトゥーイがコンソールを見つつ、緊張を含ませた報告で呼び止めた。
「副長、前方から船が四隻接近中!武装した三隻が前方を行く一隻を攻撃しています」
 振り返ったシータは、タトゥーイに向かって言葉を返す。
「メインビューアへ。船は識別出来る?」
 艦長席に戻ったアーキーは次々と指示を出していた。おそらくネイナスに関係している船だろうと直感し、その直感は確かに当たっていた。
「攻撃されている船はネイナス政府の専用船で、後方三隻はネイナス防衛軍の大型攻撃艦と思われます」
 メインビューアに映されたネイナス船はかなりの被害を受けているらしく、小刻みに船体を震わせながら、全速で攻撃から逃れようとしていた。
「副長、ネイナス船より通信です。被弾のためか通信状態がよくありません」
「第二転送室、緊急転送をスタンバイ! ミロク少尉、ネイナス船と通信を開いて」
 メインビューアに映るネイナス船のブリッジも攻撃のかなりの被害を受けているらしく、白煙と激しい振動のせいで最初、映し出された人物がネイナスの大統領だとわからなかった。
「こちら惑星連邦宇宙艦<アクシオン>。副長のシータです。何が起こっているのですか?」
「私は惑星ネイナス大統領のジェリアです。反政府組織に襲撃され、この専用船で逃げて来ました。もう船が保ちません。救助願いま…」
 言葉の途中で大統領との通信が途絶え、映像は船体の一部を爆発させるネイナス船に切り替わっていた。
 既に緊張に包まれたブリッジのクルーは、アーキーが出す命令を予測し、それぞれが準備に入っていた。
「第二転送室、ネイナス船の全乗組員を緊急転送!。ケイト大尉、艦を攻撃艦へインターセプトコースに設定して。それから攻撃艦に通信チャンネルを開いて」
 ミロクはコンソールを叩き、アーキーに目で合図を送る。その間に<アクシオン>はネイナス船へ急接近していた。
「ネイナスの攻撃艦へ。こちら惑星連邦航宙艦<アクシオン>。のシータ中佐です。直ちに攻撃をやめなさい! ネイナス船の乗員はジェリア大統領の要請により当艦が保護します。攻撃をやめない場合は」
 言葉を続けようとしたアーキーは、光子魚雷を発射した攻撃艦をビューアで確認しつつ、既に引けない状況を作り出した攻撃艦の愚かさと自分の甘さを後悔していた。
「防御シールド最大、全速回避!」
「転送室よりブリッジ。今、最後の乗員を転送中ですが、シールドを最大にすると転送シーケンスを中止しなければなりません」
 防御シールドを最大出力にすると、転送は中断しなければならない。助けられる命を自分の命令で見捨てるか、今この瞬間に決断しなければならない。最悪の瞬間だとシータは思いつつも、口にする答えは既に決まっていた。
「タトゥーイ少尉、転送可能域までシールド出力を低下。ケイト、転送終了と同時にシールド最大で全力後退して」
 振り返り、返事をするつもりだったケイトだが、次の瞬間には艦が大きく震え光子魚雷の着弾を感じていた。
 幸いブリッジに直接の被害は出ていない。だが、同時に各コンソールには艦の異常を知らせる報告とレッドアラートがブリッジに響いていた。
「ブリッジより各部署へ、現状を報告せよ。それに艦隊司令部へ状況を連絡して」
 アーキーの張りつめた声が全艦に響く。
「敵、光子魚雷が3発命中。着弾により第一艦体後部に亀裂発生。第二艦体の主機関部とデッキ15〜22が直撃。数名の死傷者が出ている様です」
 タトゥーイの報告がすぐさまアーキーに届く。
『ブリッジ、機関部長のオースチンです。今の攻撃で右舷ワープナセルが破損。こちらはまだ調整出来ますが、コアジェネレーターに亀裂が発生しています。もう一度強い衝撃を受けたらシステムが動力炉の緊急停止を実行しますが、その前にメインエンジンが衝撃に耐えきれないと思われます』
 先制攻撃で艦が致命傷を負ったことを、この時クルー全員が自覚した。
 また、シータはネイナスの攻撃艦を完全に《敵》と認識し、同時に自分の指揮下で初めて仲間を失った事が衝撃として心を埋め始めていた。
 だが、それでもブリッジ全体を見渡しながら、アーキーはそれぞれの報告に対応し、各部署に命令を伝えていく。
 その間にも、ネイナス大統領を狙う攻撃艦はこの艦を攻撃し続けている。もはや応戦しなければ、生き残る事は出来ないのは明らかだ。
 今、連邦宇宙艦の指揮官として何を優先するべきか?。指揮する立場になった時から自然と思うようになっていた事がある。
 いや、宇宙艦隊アカデミーで<コバヤシマル・テスト>を受けた時からかもしれない…。たとえ戦いには負けたとしてもクルーを…、仲間を…。自分の指揮下で死なせてはならない…と言う事を。
 既にその思いを守れなかった自分だが、だからと言って悔やんでいる時間も神は与えてくれない。それに、この瞬間にも自分の命令を待っているクルーがいるのだから…
 アーキーは目を閉じ、艦長席に深く掛け直してから静かに全クルーへ呼びかける。
「ブリッジより全クルーへ。今から3分後に第二艦体の分離シーケンスを実行する。全クルーは第一艦体に移り、所定の位置に移動せよ。時間が無いわ、迅速に行動して」
 その瞬間、ブリッジクルー全員が一斉にシータへ振り向いた。
 そう、艦の分離は非常事態が起こった時しか行われない。アーキー自身も、訓練以外では今回が初めての事だった。
 この<USS.アクシオン>は宇宙艦隊では<ネビュラ級>に分類される、機能的に安定した汎用型の宇宙艦として知られている。第二艦体(エンジニアリングセクション)はほとんどが推進機関部となっており、第一艦体(ソーサーセクション)は<ギャラクシー級>とほぼ同型の楕円形をした指揮・居住部となっている。
 第二艦体の切り離す事は、速度・攻撃力などを低下させてしまうが、爆発の可能性が高い機関部を使い続けるには、あまりにもリスクが大きすぎるとアーキーは判断していた。
 今はクルーの命を守る事を最優先しなければならない…
「副長。まだ防御シールドは破られていません。このまま反撃に移りましょう!」
 武器コンソールを操作するタトゥーイはシータに向かってそう進言した。若い士官の勇気を示す言葉は本当に心強いが、実戦経験のある指揮官としてその言葉を聞き入れられない状況がシータには辛かった。
 確かにこのまま攻撃に移り、敵を完全に撃退できれば少尉の進言は正しかったと言えるだろう…。そう、ダメージをこれ以上受けない自信があれば…だ。
 だが、今のアーキーにはその余裕も自信もない…
「少尉、命令があるまで敵に集中しなさい。それに艦の分離敵艦へ反撃する作戦の一つです。それまで自分の任務に全力を出してちょうだい」
「了、了解です、副長」
 反撃する事を知ったタトゥーイ少尉はシータに従い、敵艦の状況を表示する戦術コンソールに集中する。
 追われている状況で艦の分離と同時に敵に反撃する方法…。以前、艦隊のデータベースで知った実戦記録でシミュレーションもしたことがある作戦だが、まさか実際に使う事になるとは夢にも思って見なかった。
 だが、今はやるしかない。たとえ、第二艦体を失うと分かっていても…
 そしてアーキーは躊躇する事なく、開始の言葉を口にしていた。
「コンピュータ。艦体分離シーケンスを3分後に開始する。カウントダウン開始!」
 

Bパートへ続く・・・


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