
2度目に入ったホテルの職場は、メンバーの顔ぶれが気になった。交換台でタムムちゃんを初めて見た時、「この子がいれば大丈夫」って思った。アホの私は、小学生の頃クラスの中で頭が良くて、おとなしく、上品な女の子が大好きだった。友達にはおこがましくて、なってもらおうなんて思わないが、そんな子は素直で優しいので、話をしていると気が休まる。その子がいるだけで自分もこの場所に安心していられるなんて思ってしまう。タムムちゃんはそんな子に見え、私はすっかり安心した。しかしタムムちゃんは、何か闇を抱えていたのか、何時も暗くドンヨリしていて無愛想で、足にも棒にも引っかからない、面白みのない人間だった。タムムちゃんは交換台に就いていても、ボーット遠くを見ている、夢見る夢子ちゃんだった。そんなタムムちゃんに後ろから「私は此処にはいない・・・」なんて書いた紙を丸めて投げ、タムムちゃんの気を引いていた。タムムちゃんは鼻が大きいのを気にしていたので、私とMIWAは何時もタムムちゃんの鼻を見て「たこ焼き、たこ焼き」と大笑いしていた。ある日タムムちゃんが「明日、美容院に行くねん」と言った。私はまた笑い転げた。「髪型を変えたぐらいで何が変わるのかしら」なんて思った。次の日、ビックリした。タムムちゃんはメチャ可愛くなっていた。ショートカットにしたタムムちゃんは、頭の形の良さがよく出ていて、お洒落っていいものなんだと思った。タムムちゃんは大きな体に小さなお弁当を持って来ていた。「何、無理してるねん」なんて可笑しかったが、中身は私が作れそうもない上品なちらし寿司だった。「やっぱり上品な子やん」と私はタムムちゃんに少し興味を覚えた。ある日タムムちゃんが書いた詩を見せてもらった。「ポケットになんたらかんたら・・・」と言う詩だったが詩人に憧れていた私は、タムムちゃんに惹かれていった。そして完全にタムムちゃんを大好きになった。それは、タムムちゃんがはじめちゃんと仲良くなったからだ。「はじめちゃんの良さを分かるなんて凄いやつかも」とタムムちゃんを認め同居を申し入れた。タムムちゃんは胴長でなで肩で、手足も短いのだけど私はタムムちゃんの体系が大好きだった。何を着せてもよく似合うので、痩せていた時はブティックによく連れて行った。「お金がない」といって買わないタムムちゃんに「貸してあげるから買いなさい」なんて言った。私はカッコよく着飾った、タムムちゃんを見るのが好きだった。少しおデブになったタムムちゃんは市販の洋服が似合わなくなった。そこでタムムちゃんに似合いそうな服を、作ってやることにした。不思議と私の作った洋服は、どれもタムムちゃんにぴったりで、よく似合って私は嬉しくなった。
それを境に、はじめちゃんの服も私の服も作るようになった。
しかし、タムムちゃんはある日、漫画もそっちのけで
布の問屋さんを駆け回り、何十mも服地を買いこみ
夜も寝ないでミシンを踏み続ける私に言った。「もう作らんでいいねん」。
タムムちゃんは多分、そんな私に危機感を感じたのだろう。
私は作っても喜んでくれないと思い込み洋服作りを卒業した。
私とタムムちゃんはよく喧嘩をした。
その原因はタムムちゃんの将来を巡ってだった。
私は会議が大好きで、週1回は、はじめちゃんがどんなに
忙しくても「これからの方針」と言うテーマで話し合いをよくしていた。
しかし、その時決めた事をタムムちゃんは守らなかった。
こうなりたいと言っていても努力をしていなかった。
私はタムムちゃんの作品を、首を長くして待っていた。
そこで私の鬼のような説教が始まる。
何百回もネチネチ説教したが
タムムちゃんは私の言うことに耳を貸さない。
そして私を睨む。腹が立った私は一度タムムちゃんの頬っぺたを
叩いた事がある。「親にも叩かれた事がないのに
何で叩くねん!」とタムムちゃんは食って掛かった。
私は長い間、タムムちゃんは私を認めていないと思っていた。
私は何時も口ばかりで、これと言った発展もなく、寝たい時に寝て
起きたい時に起きて、はじめちゃんにドップリ甘えて
したい放題だった。そんないい加減な私を
人に対して見る目のあるタムムちゃんが認めるわけはないのだ。
私は何時しかそんな自分が情けなくなった。
それから同居に誘って、タムムちゃんの青春を私が奪っていたのかもと
思ったりもした。そのうちタムムちゃんは
はじめちゃんに対しても、よそよそしくなったりしていた。
「ヒョットしてはじめちゃんの事も嫌っているのかしら」
なんて、もうタムムちゃんの気持ちが掴めなかった。
はじめちゃんも「最近タムムちゃん冷たいねん」
と私にポロリと言った。住み始めて23年
タムムちゃんは恋も出来ず、結婚も出来ず、タムムちゃんの
幸せを考えると、私はどうしていいのか分からなくなった。
そんな時はじめちゃんの癌が見つかった。
タムムちゃんは私に言った「うち、はじめちゃんに恋しててん」。
私はメチャメチャ嬉しかった。早速、病院に行ってはじめちゃんに報告した。
はじめちゃんも、とっても嬉しそうに笑っていた。
タムムちゃんは23年間、はじめちゃんに恋をしていた。
さぞかし苦しかっただろう。こんないい加減な私に
嫉妬していたタムムちゃんの気持ちを考えると可哀想になって来る。
恋の一方通行は辛いものだ。
私に打ち明けることも出来ず、タムムちゃんはもがいていたのかも知れない。
何にも努力しない、何にも興味がない、何の関心がない
何にも心が動かないのは、すべての心を
はじめちゃんに向けていたからだと分かった。
はじめちゃんは幸せ者だ。そして私も幸せ者だ。
タムムちゃんが愛した人に愛されていたのだから。
これって自慢じゃないかしら。
私はタムムちゃんによって、人生で初めて自分に、自慢する事が出来た。
タムムちゃんも素敵な人に恋をしたのだから、実らなくても幸せ者だ。
はじめちゃんに恋したなんて
やっぱりタムムちゃんは見る目のある、とってもとっても良い子だった。

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